キバナは言った。
「ダンデに春が来た」
―――と。
その言葉にある少年は言った。
「くっだらねぇ」
――と。
キバナは一言で蹴り落された己の報告に、バンと机を叩きながら立ち上がり、一言で片づけた少年をギロリと睨む。
「くだらなくねえよ!!ダンデに春が来たんだぞ!?あのバトルジャンキーのダンデにだぞ!?これはおもしr…友人として応援するのが筋ってもんだろ!!」
「お前今面白いとか言いかけなかったか?」
白と黒の特徴のある髪をしている少年、ネズは『緊急事態!〇〇時に〇〇カフェに集合!!』とラインが来たため、急いで来てみればくっっっっそどうでもいいことだったため、『緊急事態』という言葉に騙されて来てしまった事に後悔した。
ネズの突っ込みにキバナは座り直しながら『言ってねえけど???』と惚ける。
そこまで突っ込む気はないネズは面倒くさそうに溜息をつきながら目の前に出された飲み物を飲む。
炭酸のそれは口に含まれた瞬間バチバチと炭酸がはじけ、ネズを楽しませる。
くっそどうでもいい緊急事態に、ネズは早々帰りたくなった。
そんな中、キバナの言葉に反応したのは、ネズの隣に座る少女であった。
「ええ!?キバナくんそれ本当なの!?」
驚いた反応を見せたのは、オレンジ色の髪を可愛らしく上げているソニアだった。
ソニアはダンデと幼馴染で、この旅でもよく二人でいるところを見かけることが多かった。
ソニアは幼馴染に春が来た…それは即ち恋をしていると聞いてこれでもかと驚く。
ネズよりも反応が遅かったのは、驚きすぎて飲んでいた飲み物が器官に入って咽ていたからだ。
胸をトントンとさせながら落ち着かせたソニアはお手本の様な反応を見せてくれる。
それに対してネズ、そしてソニア経由で知り合ったルリナはほぼ無反応。
ルリナなど議題を聞いた瞬間に興味を失せたように目の前にある飲み物に夢中になっている。
そんな無反応な二人に対していい反応を見せてくれるソニアに、キバナは嬉しかったのか笑みを浮かべ頷く。
「ああ!そうなんだよ!!」
やっと相手をしてくれる人が現れ(予想通りだが)キバナは嬉しそうに今日あった出来事を報告する。
その報告に、ルリナは怪訝とした表情を浮かべキバナを見た。
「それ本当に春が来たの?弟がいるっていうの本当らしいし…弟のために買ったんじゃないの?」
「手に持ってたのは絵本だったんですよね…絵本を喜ぶ異性って…春が来たのが確かなら相手は幼女じゃねーですか……それだとダンデはロリコンになりますが??」
「いや!あれはロリコンの顔じゃねえ!あれは恋する男の顔だった!」
どうもキバナの言葉を二人は信じられなかった。
春が来たのは別に信じないわけではないが、その手に持っていた物が絵本なのだ。
ダンデ曰く相手は絵本を渡したら喜んでいたと言っていたが、絵本を渡して喜ぶ相手など幼女以外ないだろう。
と、なると。
と、なるとだ。
ダンデはロリコンになってしまう。
自分達はまだ10歳なのだから幼女に恋をしても犯罪にはならないし、恋に年齢は関係ないと思うものの、友人として、知り合いとして、本音はドン引きである。
特に幼い妹を持つネズのドン引きの度合いはルリナよりも深かった。
「うーん…でもダンデくん、ホップ…あ、弟ね…ホップのことすごい溺愛してるからなぁ……ホップが喜ぶからチャンピオン目指してるくらいだし…」
「え゙…マジで?あいつそんなくだらねえことでチャンピオン目指してんの???そんなブラコンに一勝も出来てないオレ様どうすりゃいいのよ…」
「くだらねえとは聞き捨てならねえな…兄弟愛のいい話でしょうが」
「そりゃお前もシスコンだからだろうが!」
ダンデはあまり弟の事は話さない。
ソニア曰く、あまりにも溺愛しすぎて話したくないのだろうとのこと。
ソニアはダンデの幼馴染としてすでにホップと関りがあるから仕方ないが、ダンデはホップを溺愛しすぎて同郷にいる友人達にもあまり会わせたがらない。
可愛い弟を知らせるのが嫌、というよりは、勿体ないと思うのだろう。
ブラコンの思考を全く理解できないキバナは『勿体ないってなに???』と思うものの突っ込むのは面倒くさいのでやめた。
「じゃあダンデに春が来たのではなく、ただのブラコンだったってことでお終いでいいよね…丁度お昼だしこのままここでお昼にしよっか」
「まあ、予定もないですし…くっだらない事で来てやったんだからキバナの奢りという事なら」
一息つくために飲み物を呑むキバナのその隙に、ルリナは議題を終わらせる。
正直ルリナもネズ同様どうでもいいと最初から興味を失っていたので、早々このどうでもいい議題を終わらせたかった。
これが本当にダンデが恋をしているのなら面白…ではなく、友人として話くらいは聞きたいと思ったが、どう考えても弟の土産を探している兄にしか見えず、メニューをテーブルに開いて置く。
ネズとソニアもブラコンの線で片づけるつもりなのか、テーブルに開かれたメニューを覗き込む。
「じゃあ、真相を確かめるためにダンデ呼ぶか」
しかし、コップにあった飲み物を全て飲み干したキバナの一言にその場の空気は固まった。
『は??』とキバナを見る三人だったが、キバナは既にスマホロトムでダンデにこちらに来るようラインをし終えた後だった。
「やめときなよキバナくん…ダンデくんのホップ語りすごい長いんだよ…私せっかくのランチタイムをブラコンタイムに潰されたくないんだけど」
「うそでしょ…あんたこんなくだらないことで私たちだけじゃなくダンデを呼び出すなんて…あんた相当暇なのね…」
「そんなんだからダンデに一勝もできねえんですよ…そんなくだらねえことしてる暇あるならダンデ対策の一つくらい練ったらどうです?」
「うーん…なんであいつ呼び出しただけでオレ様が非難されるのかな??」
『でも残念でしたーもう呼び出しましたー』とダンデとのラインの画面を見せるキバナに、一同は呆れた表情を見せる。
ダンデのホップ愛の一番の被害者であるソニアは『じゃあ私帰るわ』とダンデが来る前に席を立ち帰ろうとし、それに便乗してネズとルリナも帰ろうとした。
それをキバナは必死に止める。
「待て待て待て!!お前らも気にならねえのか!?あのダンデだぞ!?バトルにしか頭にないあのダンデが恋をしてるんだぞ!?気になるだろ!!」
「でも絵本だったら弟って線が濃厚でしょ?弟君は絵本を見る年齢でもあるみたいだし…そもそもあんたもなんで絵本をうっとりと見てただけで恋してるって思うのよ…それこそ本当ならネズの言う通りロリコンじゃない」
「ロリコン…許すまじ…」
「ほら、ネズくんがシスコンモードになってるから無理に藪をつっつくのやめようよ…もし本当にロリコンでもさ、私たちだけは受け入れて暖かく見守ってあげよ?」
「いーや!!あれは絶対に恋してるやつの顔だったね!!断言できる!!なんだったら外れたら奢ってやったっていい!!」
キバナは『お前らあの顔見てないから言えるんだよ!』と言うものの、キバナも三人に否定され続け、段々と自信がなくなってきた。
それが人間の心理ではあるものの、もはや意地にも近い。
キバナの『奢る』という言葉に、立ちかけた三人はスッと椅子に座り直す。
「全く…しょうがない奴ですね…まあ丁度暇ですし付き合ってやらんこともないですよ」
「私もダンデの相手が気になるし…付き合ってあげてもいいわよ」
「おばさまにいいお土産話もできるし…まあ、いいかな」
「……お前らってほんっっと、現金な奴らだな…」
欲に忠実な友人三人に、キバナは呆れたように呟きそして…財布の中を心配した。
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