ダンデはキバナに呼び出された時、丁度ワイルドエリアにいてアキと別れたばかりだった。
最近ワイルドエリアに入り浸りすぎてワイルドエリアに配置されているスタッフと顔馴染みになってしまった。
そのスタッフ達にもダンデを熱心なチャレンジャーとしか思っていないようで、『頑張れよ』と声をかけてくれたり迷子になりかけたところを助けてくれたりするが、熱心なチャレンジャーに下心があるとは思いもしないだろう。
アキと別れた後にキバナから連絡が入り、来てみればキバナだけではなく幼馴染のソニアとその友人のルリナと、キバナと同じくこの旅で友人関係になったネズがいた。
一つだけ開いている席に腰を下ろし渡されたメニューを受け取りながらダンデはキバナが奢ってくれるというので昼食を選び店員に注文をする。
メニューを畳みあるべき場所に戻した後、ダンデはキバナを見る。
「一体何の用だ?」
用があるから来てほしいとラインに書いてあったが、肝心の要件の事は書かれていなかった。
要件を問えば、その場に居る全員が何故か口を閉ざしダンデを見つめてくる。
4人分の視線を独り占めしたダンデは思わず身を引かせ怪訝とした表情を浮かべた。
「な、なんだ?」
ジッと凝視のように見てくるが、見つめられるような事をした覚えはないダンデは困惑する。
あわあわと視線を泳がせながら4人に問えば、今度3人はキバナを見る。
キバナは腕を組んでうんうんと悩むように考え込んでいた。
そんなキバナをルリナが肘で突っつく。
(ちょっと…あんたが発端なんだから何か言いなさいよ)
(そう言ってもだな…本人を目の前にしたらなんか言い出しにくくなってきてな…)
(お前…人の時間を無駄にしながら今更怖気ずくのやめてもらえません?)
(無駄にしてねえだろうが)
(どう考えても無駄でしょうが…どうせ弟に絵本を送ったっていう落ちだろうしとっとと当たって砕けて奢ってください)
今更ながらにダンデにどういえばいいのか分からなくなったキバナに、ルリナとネズがせっつく。
彼らの中では『ダンデが絵本を送った相手=弟』と決まっており、キバナも否定され続けて自信がなくなっておりどうもしり込みしてしまう。
しかし、ダンデを呼び出してしまった手前、今更なんでもないと言える空気でもないため、しょうがないと自分も言い出したのもありダンデと向き合う。
「お前さ…恋してる?」
ゴン、とテーブルに何かが当たった音がした。
音の方へ視線を向ければルリナとネズがテーブルに突っ伏していた。
何をしてんだコイツ等…と白けた目で見れば、額を赤くさせる二人から批難の視線を送られてしまう。
(ちょっと!なに直球に聞いてるの!?)
(だってそれを聞くために呼んだんだろうが)
(確かにそうだけどさ!順序っていうものがあるでしょうが!)
(なんだよ!じゃあそういうならルリナが聞けよ!)
(いやよ!!言い出したのあんたなんだからあんたが聞きなさいよ!)
(聞いて文句言われたばっかりなんだが!?)
(それにしたって直球に聞くのはどうよ)
こそこそと先ほどから小声で何かを放す三人に、ダンデはコテンと小首を傾げる。
蚊帳の外であるが、『仲が良いんだな』ですませるのは流石である。
「ねえ、そういえばこの間本屋で見かけたんだけど…あの絵本ホップに送ってあげるの?」
もだもだとし過ぎたせいか、痺れを切らしたソニアが助け舟を出してくれた。
しかもキバナから聞いた体ではなく、あくまでも自分が本屋で絵本を選んでいるのを見ていた体を取ってくれた。
そんなソニアの気遣いに、二人から容赦ない突っ込みに身も心もボロボロだったキバナは『ソニア様っ!』と目をキラキラさせながらソニアを崇めた。
崇められたソニアはその目から送られるキラキラとした星を手で払いながらダンデの答えを待つ。
ダンデはソニアを見つめ小首を傾げたが、思い出したのか『ああ、あのときか』と納得させた。
「あれか…勿論送ったぜ」
「……へえ…なんて絵本?」
「『ポチとぼく』っていうポケモンのいない世界を題材にしたものだ」
「ポケモンのいない世界?」
絵本の内容まではキバナは教えなかったので、ポケモンのいない世界、という設定にキバナ以外が驚いたように目を丸くさせる。
やはりポケモンとともに暮らしているため、ポケモンのいない世界、という題材はまず浮かばないため物珍しさがあった。
興味を示したソニアが絵本の内容を聞くと、関心したような声を零すが、それはソニアだけだった。
「ポケモンのいない世界って…つまらないじゃない」
「まあ児童向きの絵本に突っ込むのも野暮ってもんでしょーが…確かにポケモンのいない世界なんて考えられないですよね」
「そうかな?面白そうだと思ったけどなぁ」
ソニアは祖母が博士というのもあり、考え方は柔軟な方だった。
ポケモンがいて当たり前の世界だから、余計にポケモンがいない世界がどんな感じに広がるのかが興味があった。
キバナもどちらかと言えば否定的な意見だったため、ソニアの賛同にダンデは嬉しそうに笑う。
「ソニアなら面白そうだと言ってくれると信じてたぜ!よかったらどんな本か教えるぞ!」
「ん、ありがとう…ま、興味あるし一冊読んでみようかな」
「ポケモンがいないんでしょ?面白いの、それ」
「贈る前に同じ作者のを俺も読んでみたけど結構面白かったぜ?ポケモンはいないけどポケモンに変わる生物がいたりさ…ポケモンほどじゃないけどその生き物も俺達人間とポケモンと似た関係性だから無理なく読めると思う」
ポケモンがいる世界、という文字にも違和感を覚えるネズとルリナは、ダンデの嬉々として答える様子にお互い顔を見合う。
キバナは本を見た事があるため『あれを弟君に贈ったのか〜』と頭で手を組んでぼやく。
友人が弟に何を贈るかは友人の自由だが、幼い子供にポケモンのいない世界観の絵本を送るのはどうも釈然としなかった。
絵本の多くは幼い子供に大切なものを教えるのが目的なことが多い。
だから、ポケモンのいない世界観の本がベストセラー扱いなのもちょっと納得いかない。
まあ、これがジェネレーションギャップ…自分の幼い頃との時代の違いなのだろうと無理矢理納得させた。
ソニアが同意してくれたのがよほど嬉しかったのか、ニコニコと笑みが絶えない幼馴染をソニアはジッと見つめた。
「贈った相手はどんな反応だった?やっぱりつまらないって言ってた?」
「いや…あの子は面白いとは言ってなかったが反応はしてくれたな…元々感情が乏しいタイプなのかちょっとの差だったけど…でも、いつもより反応してくれたのは確かだ」
「あの子、ねぇ…」
「え?―――――あ…」
ソニアの罠に嵌ったのだと気づいた瞬間だった。
自分の失言に気づいたダンデは思わず手を口で塞ぐが、すでに遅い。
ソニアは女の勘、そして幼馴染の勘で、相手が弟であるホップではないと気づく。
だからあえて『ホップ』ではなく『相手』と聞いたのだ。
それに、このタイミングを狙ったのはテンションが上がっているダンデは昔からポロっと本音を落とすことが多いため、ソニアは鎌をかけた。
その戦法にはまってしまったというわけではある。
「やっぱり嘘だったか」
「ず、ずるいぞソニア!俺をはめたのか!!」
「いやぁ、ごめんね…まさか鎌をかけたら本当にホップじゃないとはねぇ…ねえ、誰?バトル馬鹿でポケモン馬鹿のダンデくんの心を掴んだ人って誰なの?私たちの知ってる人?」
勘と言え、半信半疑だった。
ホップだったら面倒くさいことになるなと思っていたが、半分予想外に本当にキバナの言う通り春が来たのかと驚いた。
ダンデの母が思春期になっても恋の一つもない事を心配してたのを知っていたソニアは『これでおば様も安心ね』とニコッと笑うが、ダンデは『そうじゃない!』と答える。
しかし、照れ隠しにしか見えない。
「アキは友人なんだ!!彼女をそんな目で見るのやめてくれ!」
「へえ!アキっていうんだその子!知らない子だなぁ」
「あ゙あ゙ーー!しまった!!名前を言うつもりは…!!」
ボロがどんどんと剥がれ落ちていくダンデは、アキの名前をソニア達に言うつもりはなかったからか自分の失態に頭を抱える。
頭を抱えて机に突っ伏するダンデを、ソニア達はニヤニヤと見つめた。
「な!?な!?俺様の言った通りだろ!?ダンデに春が来たってさ!!ここの勘定は個別ってことでいよな!?」
「そうだけどそのドヤ顔がうぜぇから奢れ」
「なにそれ理不尽じゃね!?」
男二人のコントを聞きながらソニアとルリナは『アキ』という名前に考え込む。
「名前からして別の地方の子かしら?」
「今の時期だからジムチャレを見るために来たとか?」
「あら、なら早く告白しておいた方がいいかもしれないわね」
「ダンデくん、その子の番号知っているの?遠距離になっちゃうけど尻込みしてたら連絡先を知らないまま別れちゃったらもう一生その子と会えなくなっちゃうよ」
「…だから…アキとは友人だと何度言えば分かるんだ…」
女性陣二人にはすでに『アキ=ダンデの片思いの相手』と思われているようで、アドバイスという名の有難迷惑な言葉にダンデは頭を抱えっぱなしである。
ダンデのぼやきなど二人はスルーである。
「っていうかお前…好きな子に絵本を贈ってるのか…」
「えっ…まって…じゃあ…本当にその子幼女なの…?えっ…まって……え…??ロリコン…??」
自分の直観を信じてよかったとキバナは思いながらも、ふと、ダンデが片思いしていると気づいたきっかけが絵本だと気づく。
本当に弟ではなく好きな相手に絵本を贈ったのかと信じられなかったキバナと、ロリコンだとドン引きしているルリナ、『ロリコンは死んでください』と軽蔑の眼差しを送るネズの勘違いに、ダンデは放っておけなくて即否定した。
「違う!!アキは俺と同じ年齢だ!!………多分…」
否定はしたものの、否定しきれない部分があった。
絵本を読む年齢ではないのは完全に否定できる部分だが、ダンデと同い年又は近い年齢かというのは分からない。
それを言った後に、ダンデはアキの事をあまり知らない事に気づいた。
「多分ってなんだ」
「やっぱおめーロリコンか」
「いや、待てネズ…俺はロリコンじゃない…アキは幼女じゃないから通報するのはやめてくれ」
「じゃあ多分ってなんだ?」
妹を持つ身として、ロリコンは決して許しておける相手ではない。
10歳であろうとなんだろうと幼女(特に妹と同い年)に恋する輩は絶対にぶっ殺すマンになったネズは素早くスマホロトムを取り出し警察の番号を打つ。
友人の情けで制止を聞くネズにホッと安堵していると、キバナの問いにぐっと言葉を飲み込んだ。
「その…アキの事をあまり知らないんだ…」
「はあ?知らないぃ?」
ダンデはアキの事を少しだけ教える。
あまりアキの事を教えたくないため、必要な情報だけだ。
年齢を聞くタイミングがなかったことや、絵本を贈る理由も察し、キバナ達はお互いを見合った。
「じゃあなおの事連絡先を知らないと縁切れちゃわない?」
「そうよダンデくん!ポケモンとホップ馬鹿なダンデくんと付き合ってくれるかもしれない子なんてもう金輪際出会えないかもしれないんだよ!!ここでモノにしないでどうするの!!」
「ホップは馬鹿じゃないぞソニア!ホップは賢い子だ!俺がチャンピオンになろうと思った理由は―――」
「だからぁ!そういうところだっていってんの!!!」
珍しく強気なソニアに押され、ホップ語りをしかけたダンデは『うぐっ』と乗り出しかけたその身を引かせる。
ソニアがダンデのブラコンタイムをキャンセルさせた間に注文した食事が運ばれ、一時休戦とする。
このカフェは奥まったところにあり、観光客は少ない。
教えてくれたのはこの旅で知り合った人だが、食事も美味しく煩すぎず静かすぎず…若い子はあまりいないが、居心地のいいカフェである。
カフェというよりは昔ながらの喫茶店といった方が正しいかもしれない。
「で、その子ってどういう子なわけ?」
運ばれていた食事に舌鼓を打っていると、先ほどの話をぶり返すキバナの言葉に、ダンデはゲンナリした表情を浮かべ手を止めた。
「どういうも何も普通の子だが」
「それじゃ分かんねえだろ…どんな見た目をしてるんだ?」
「……………」
カチャ、と皿とフォークが触れた音がやけに大きく聞こえる。
どんな見た目をしているか、などなぜキバナに聞かれるのかダンデには理解できない。
友人だと散々言っているし、彼らと彼女は自分という人間以外に共通点はない。
自分が彼らにどう思われているのかは分からないが、彼らの知らない友人関係を結ぼうとしているのをなぜこうも物珍しく思われるのか分からなかった。
ダンデは考える素振りをしながら少しむすっとさせる。
「どんなもなにも…ガラルには見ない顔をしているとしか…」
「だったら色々あるだろ…目は何色だとか、髪はどのくらいの長さで何色だとか癖とか色々」
「………」
しつこいキバナに無意識に眉を顰める。
恐らくそれは彼らには気づかれているだろう。
しかし、寄せられた眉を直す気はないダンデは黙って食事を口に運ぶ。
明らかに不機嫌な様子に、キバナ達は意外そうな表情を浮かべた。
しかし、ソニアはホップの事で慣れているのか『へえ』と感心したようにダンデを見つめ、その声が零れてしまったのか、ソニアの声にダンデが幼馴染を見た。
「なんだ?」
「いやぁ…恋なんて知らないようなダンデくんがねぇ…やっぱ月日には意味があるのね〜」
「…言っている意味が分からないんだが……何度も言うがアキは友人だ…恋だのなんだのと勘ぐりするのは彼女に失礼だからやめてくれ」
「…………え…本気で言ってる???」
「本気だが?」
「……………」
「…ソニア?」
ソニアは唖然とさせたままダンデを見つめた。
口をポカーンと開けて呆気に取られているソニアに、ダンデは首を傾げながらソニアの前で手を振る。
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