(20 / 43) その生命に恋う (20)

カジッチュのためにダンデはソニアとルリナに引きずられて5番道路にいた。
木で揺らしたりワイルドエリアにもいるが、一番安全で確実にいるのは5番道路であった。
木は一度揺らしてポケモンが落ちると他のポケモンが警戒してその日はその木にポケモンはいなくなり、ワイルドエリアはそもそも天候で出てくるポケモンが限られるのでだ。


「いた?」

「全然…カジッチュってこんなに出ないものだったっけ?」


とはいえ、あれから探せどカジッチュの姿は一向に見えない。
元々確率は高くない方だが、ここまで探して見つからないのは可笑しい。
すでにあれから数時間も経っており、空は赤く染まっている。
なのに、カジッチュの姿どころか影や気配すらない。


「ダンデくんのアキちゃんへの愛が強すぎだから出てこないんじゃないの?」

「え!?お、俺か!?」


探すために5番道路のカジッチュの出る草むらを探し回っていたため、三人の疲労はピークとなっていた。
ここまで疲れたのは、旅を出たばかり頃以来である。
今では旅をしていくうちに体力もついて慣れたが、ここまで疲れるのは久々だった。
バトル後でもここまで疲労はしないぞ、とソニアとルリナは思いつつダンデを見ると、ダンデは平気そうに未だ姿を見せないカジッチュを探している。
自分達がダンデを引きずってきたとはいえ、自分達がこれほどまでに疲労しているのにダンデが平気な顔をしているのが何だか腹が立ってきたソニアは思わず八つ当たり半分本音半分をぶつける。
八つ当たりされたダンデは手を止めてソニアを振りかえるが、目の座った幼馴染からそっと視線を反らすしか抵抗の余地はない。


「きっとそうよ!ちょっとダンデ、あんた少しくらい欲望を抑えないさいよ」

「よ、欲望!?いや、まてルリナ!俺はアキにそんな邪な思いは向けていないぞ!?」

「その子に惚れてる時点で邪よ…ほら、ちょっとの間だけでいいから無になりなさい、無に」

「無理だ!アキへの想いを今更なかったことにさせてなるものか!!俺はアキの事が好きなんだ!」

「だからその暑苦しい気持ちを抑えろって言ってんのよ」

「ダンデくん…散々鈍かったくせに自覚したらこれって……自覚させた方がよかったのか…無自覚のままの方がよかったのか…」


無理難題を押し付けられ、ダンデは抵抗する。
あれほど無自覚で自覚させるのに苦労したソニアは、自覚した途端に面倒臭い男になった幼馴染に遠い目をし現実逃避していた。
するとガサッと草むらが揺れる音がし、ソニアは言い合うダンデとルリナを余所にそちらに目を向ける。
すると、草むらの隙間からカジッチュがひょこりとこちらに顔を出しているのが見えた。


「い、い、い、いいいいいたああああ!!!」


あまりにも出ない獲物が姿を現し、ソニアは思わず声を上げて叫んだ。
その声に言い合いをしていた二人の気がソニアに向けられたが、叫んだせいでカジッチュをはじめとした近くにいた野生のポケモンが逃げてしまった。


「あああああ!!!しまった!!!」

「もー!!ソニア何してるの!!」


ぴゃっ、と怯えて逃げようとするカジッチュに、ソニアは『まって!いかないで!!』と縋るように手を伸ばすが、野生のポケモンの方が足が速く完全に逃げられてしまった。
ルリナのお叱りに『ごめん!!』と自分の罪深き所業に頭を抱えて謝る。


「うう…つい大声あげちゃった…」

「元気をだせソニア…仕方ないことだと思うぜ」

「そ、そうね…これだけ探して見つからなかったカジッチュを見つけたら多分私も叫んでたわね…ごめんね、怒っちゃって…」


カジッチュを逃がしたことに怒ってしまったルリナだったが、冷静になってみれば、ソニアが叫んだのは仕方ないことだと怒ってしまったことを反省する。
数時間ここでカジッチュを粘っているのだ。
本来ならそこまで時間がかかるポケモンではないはずなのに出てきてくれないため、ソニアが見つけた瞬間叫び声を上げてしまうのは仕方ないだろう。
『きっとダンデくんの邪な想いがカジッチュに伝わっているんだわ』とダンデに全ての罪を被せながら疲労と罪の重さにその場にしゃがみこんでしまったソニアの背中を慰めるように擦ってあげる。


「もうこなれば自棄よ!!いい!?二人とも!カジェッチュが出るまで帰れないと思いなさい!!」

「おーー!!やってやるぞーーー!!」

「お、おう…」


出ないのは仕方ない。
相手は生き物だし、何よりも野生だ。
それを差し引いてもこのエンカウント率は異常だった。
ルリナは少しずつ日が落ちていく空を見上げながら覚悟を決めた。
徹夜どころか何日か通う覚悟を、ルリナは決めた。
そしてそれはソニアも同じらしく、男一人のダンデだけが置いてけぼりを食らっていた。(当事者なのに)

――それから数時間。
予想通り、あれからカジッチュに会うことはなかった。
結局その日は徹夜は流石にやめ、シュートシティに戻ってそれぞれのホテルの部屋に戻り、明日の朝から作業を再開することにした。


「おはよう!今日も頑張るわよ!!」


準備を終え、時間の数分前にソニアが迎えに来て(迷子対策)ダンデはソニアと共にエレベーターを降りてロビーに向かった。
そこにはすでにルリナがおり、その傍にはキバナもいた。
ダンデはキバナの姿に目を丸くさせ驚く。


「キバナ?どうしたんだ?」

「あー…いや…捕まっちまって…」

「ああ…なるほど…」


てっきり今日もソニアとルリナの三人でカジッチュ探しに行くのかとばかり思っていたのだが、どうやらキバナは外に出た際に運悪くルリナに捕まったらしい。
『大体あんたが発端でしょ!』と言われてしまうと無下にできず、キバナは仕方ないと諦めてダンデ達に付き合ってくれるらしい。


「そういえば昨日はごめんな…いくらだった?」

「ん?別にいいよ」

「そうはいかないぜ…連れられたとはいえお金を置いていかなかった俺が悪いんだ」


昨日、ルリナとソニアに連れられて店を出ていってしまったので、三人の勘定はキバナが払ってくれたらしい。
ルリナとソニアにも言われたが、キバナはお金は受け取る気はなかった。


「じゃあ、前祝ってことでいい…俺様が手伝うんだ…絶対に告白を成功させろよ」


奢られる理由がない以上、このまま支払わないわけにはいかず食い下がれば意外な言葉が出てきた。
キバナだって気前が良いわけでも人が良いわけではないが、ルリナ達は巻き込んでしまったし、ダンデに至ってはポケモン馬鹿である彼が初めて(かは知らないが)恋をしたのだ…その応援として奢ることにした。


「それは…責任重大だな…」


キバナの言葉に目を見張ったが、ダンデは照れたように笑った。
その笑みに、キバナも釣られたように笑い『振られたら奢れよ』と茶化す。
振られたらと言われ、ダンデは胸をえぐられたような感覚に陥るが、せっかくキバナが背中を押してくれるのだから後ろ向きではいられない。


「じゃあ、朝食を終えたら早速5番道路に行きましょう!」

「キバナくん、長期戦を覚悟してね」


朝食を一緒に取った後に5番道路に行く予定だったので、ホテル内にあるレストランで食事をすることにした。
チャレンジャーは色々と優遇されている。
まずは移動手段。
そのほとんどはリーグ持ちで、ジムチャレンジャーはタダで何度も乗車可能。
そしてホテルもリーグが全て支払って持っており、指定のホテル内のレストランなら無料で食べることができる。
チャンピオンカップまで来ているチャレンジャーとなればお金に不自由はないが、それでも無料なら利用しない理由はない。
外出していたり、食べたい物がレストラン内にない限りは、殆どのチャレンジャーはホテル内にあるレストランで食事をすましていた。
少し早い朝食の為、レストランはまだ席が空いていた。
案内された席でメニューをそれぞれ見ていると、ソニアの忠告にキバナは首を傾げる。


「長期戦?でもカジッチュだろ?確かにカジッチュは珍しい種類だけど…そこまでか?」


カジッチュは確率が低いだけであってレアではない。
根気よく探せば一日で探せるポケモンだ。
そんなポケモンに長期戦を覚悟しろと言われたキバナは不思議そうな表情を浮かべる。
キバナの言葉にソニアとルリナは『チッチッチッ』と人差し指を立てて振って見せた。


「甘いわね、キバナ!カジッチュを甘く見てると痛い目見るわよ!」

「そうだよ!私たちそれで昨日散々な目にあったんだもんね」

「ねー!あれは心をえぐられたわ…」

「だ、大丈夫!今日こそ捕まえるぜ!」


よほどのことがあったのだろうか、と三人の様子を見てキバナはまた首を傾げた。
経験していないからこそ、そこまでゲンナリとさせる様子が理解できないのだろう。
しかし、後にキバナも体験することになる。
そう…――――カジッチュの出現率が可笑しいことに。


「なんで出ねえんだよおおおお!!!」


ルリナとソニアの宣言通り、キバナは心をえぐられた。
見事に昨日に続きカジッチュが出ないのだ。
まるでカブが敗北したように膝をつき天を仰ぐキバナの叫び声で、木にとまっていた鳥ポケモンが散るように飛んでいく。


「可笑しいだろ!もう夕方だぞ!?なんでこんなに出ねえんだよ!!」


確率は10%と言われているカジッチュだが、もう10%どころではない。
探せど探せどカジッチュ以外のポケモンしか遭遇しない現状に、キバナは叫んだ。
叫ぶキバナに三人は『分かる、その気持ち』と強く頷く。


「これはあれだ…ダンデの欲がカジッチュを怯えさせてるんじゃないか?」

「ま、また俺か!?俺は確かにアキを彼女にしたいという欲はあるが野生のポケモンが怯えるほどじゃないと思うぞ!?」


ルリナ同様、ダンデはキバナに疑いをかけられてしまう。
欲は確かにかいているだろう。
アキと友達から恋人になりたいという欲は認める。
確かに、真剣だし本気だ。
しかし、野生のポケモンが怯えて姿を見せないほどではないと断言したい。
ぐっと拳を握るダンデにキバナは『いーや!』と首を振り、ダンデを指さす。


「彼女にしたいだけが欲なのか!?お前の欲はそんなもんなのかよ!!」

「そんなものと言われてもそれ以外に何があるんだ!?」

「お前はその子と手は繋ぎたくないのかよ!!」

「繋ぎたいに決まってるだろ!」

「抱きしめたくは!?」

「抱きしめたい!!」

「キスは!!!」

「キ、スは………………したい…」

「ほらぁ!!!その欲が駄目なんだって!!無になれ!無に!!」


『お前ならできる!!』と力説するように拳を握るキバナに、ダンデは口を閉ざした。
正直『確かに』と思ったのは内緒である。
だって好きだと自覚してしまったのだ。
そうなれば彼女に触れたいと思うのは当然だし、傍にいたいと思うのも当然だ。
ましてや恋人ならばキスの一つや二つくらいしたいと思うのが人間であり、男だ。


(無か…無……無ってなんだ?どうしたら無になるんだ…?)


段々と一概に違うと否定できなくなったダンデは、無とはなんだろうかと考える。
齢10歳にして無の境地を見つけようとするダンデを余所に、ダンデ弄りを終えたキバナ達は再びカジッチュを探しに草むらの中に入る。
散々弄ってはいたが『うーんうーん』と悩むように無という意味を探す友人には幸せを掴んでほしいので、真面目に探す。
友人想いが三人集まってもカジッチュはなかなか現れることはなかった。
今日は諦めてまた明日探そう、とカジッチュ探しに夢中でもう少しで空が沈んでいくのに気づいたキバナが友人たちにそう提案しようとしたその時―――ガサリと草むらから音がし、カジッチュかと思いそちらに目をやる。


(なんだ…違った…)


そこにはシュシュプが顔を覗かせており、カジッチュではなかったことに落胆した。
興味深そうにこちらに顔を覗かせるシュシュプに『こんにちは』と笑いかけると、シュシュプは照れたようにぴゃっと慌てた様子で身をひそめてしまう。
可愛い反応につい頬が緩みかけた時…――そこに、獲物がいた。


(お、おい!!ダンデ!!ダンデ!!いたぞ!!!)


どうやらシュシュプの影に隠れていたらしく、シュシュプが逃げたおかげで後ろに隠れていたカジッチュを発見することができた。
思わず叫びそうになる口を手で押さえて音を立てて驚かせないようダンデに近づき肩を叩いた。
余所を向いていたダンデはダンダンと痛いほど叩くキバナに痛さで顔をしかめながら『なんだ』と振り返る。
無言でどこかを指さすキバナに、指を指している方を視線で追えば…息を呑んだ。
ダンデも叫びそうになるのを手で防ぎ、そっと体をカジッチュの方へと向ける。
彼らのやり取りでソニアとルリナも気づいたようで、彼女達はその場にしゃがみ音を立てないよう気を使ってくれている。
ソニアは昨日の失態から、口を両手で覆っていた。
ダンデはこちらを見つめるカジッチュに腰にかけてあるボールの一つを投げる。


「頼むぞ!」


赤い光に包まれて出てきたのは―――バリコオルだった。
その瞬間、躍るようにその場でタップする彼の足音のみがその場に響く。


「っておい!!ダンデおま…!お前…!!なんでそこでバリコオルなんだよ!!滅茶苦茶弱点じゃねえか!!」

「し、仕方ないだろ!?俺の手持ちはほとんどドラゴンか鋼か飛行なんだ…!」

「っていうかあんたのバリコオルのレベルと野生のカジッチュのレベル差がエグイことになってるんだけど!?あんたカジッチュを捕まえに来たのよね!?完全に殺しにかかってるじゃない!!」

「ゔ…それが…カジッチュを探す事しか頭になくてだな…」

「レベル差を考慮してなかったってことね…まあそこに気づかなかった私たちにも非があるけど…」


バリコオルはエスパーと氷タイプであるため、ドラゴンタイプが入っているカジッチュには有利。
しかし、捕獲には向かないポケモンである。
とはいえ、ダンデの手持ちは炎タイプと飛行タイプのリザードン、ドラゴンタイプ、ゴーストタイプ、鋼タイプと、誰がどう見てもカジッチュを完全に殺すパーティー構成だった。
タイプだけではなく、レベルも大きく差があり例えカジッチュが有利のポケモンだとしても一発で倒されるだろう。
ダンデは、あまりにもカジッチュが出なかったせいで、まずはカジッチュを見つけることしか頭になかった。
その為、レベルやタイプに考慮するのを忘れていた。
ダンデ達が言い合いをしている内に、カジッチュは興味を失せたように草むらに消えてしまった。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!逃げたああああ!!!」

「あああもおおお!!またぁ!?」


カジッチュに逃げられ、その場に居る全員が崩れたように膝をついた。
人間が膝をつき叫ぶその光景に、野生のポケモン達が一斉に逃げ出し、ダンデの手持ちであるバリコオルは主人たちの奇行に首を傾げて生暖かく見守っていた。


「なんでレベルの低いポケモンか『みねうち』を覚えてるポケモンを連れてこなかったんだよ!!」

「ならそれならキバナ達のポケモンを貸してくれよ!!」

「ゔ…」


責めるようなキバナの言葉に、温厚なダンデでも流石に言い返す。
キバナは言い返された言葉にぐっと言葉を詰まらせ、視線を反らす。


「………俺もいつものメンバーしかいない…」


キバナもまさかダンデがパーティーメンバーに配慮していなかったなど思ってもいなかったため、いつものメンバーを腰に下げて連れていた。
痛いところを突かれたと視線を反らし小声で零すキバナから、ダンデはルリナとソニアへ視線を向ける。
捕まえると言ったのは二人なのだ。
ならば、勿論捕獲に有利なポケモンの一匹くらいは連れてきてくれているのだろう…そうダンデは無言で言うが、彼女達もキバナ同様ダンデから視線を反らす。


「…私もいつもの子達しかいないわ…」

「…私も……」


全員カジッチュを倒すメンバーしか連れてこず(しかもチャンピオンカップまで生き残ったポケモン)、その場はまるで葬式の様に静まり返り気まずい空気が流れた。


「……ごめん…俺がもっと冷静だったら今頃…」

「いや…俺も言いすぎた…ごめん…」


バリコオルをボールに戻しながらダンデはポツリと謝る。
少し冷静になった彼らは、お互い言いすぎたとお互いがお互い謝る。
その光景は、傍を通るトレーナーが変な目で見てきていたほどであった。

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