次の日、ダンデは再びソニアとルリナに捕まっていた。
その後ろには、二人に連れられてきたらしいキバナとネズが、うんざりしたような顔で立っていた
二人に同情の目を向けた後、ソニアとルリナを見る。
二人曰く、手伝った報酬をもらいたいとのこと。
二人の言葉にダンデは困ったように『うーん』と腕を組む。
「報酬と言っても…今すぐ出せるものといえばお金とかアイテムとか木の実くらいだぞ?」
「そういうのいいの」
「そうそう、私達も持ってるしね」
「じゃあなんだ?」
コテンと小首をかしげるダンデにルリナとソニアはニコッと笑って言った。
「「告白するとこ見せて」」
その瞬間、その場の空気はまるで『ぜったいれいど』のように凍り付いた。
ダンデは口を開けて呆けており、詳しい話を聞いていなかったらしい後ろにいたキバナとネズは、『マジかこいつら』という顔でソニアとルリナの後姿を凝視していた。
「………むり…」
二人の突拍子もない言葉に、ダンデは思わずいつもとは違い小さくつぶやいた。
告白。
それは一世一代の気持ちで行うイベントである。
決して人に見せるようなものではない。
そもそも…
「俺…今日はユズキに告白するつもりはないんだが…」
困ったように頬をかくダンデに、ソニアとルリナどころかカジッチュの捕獲に付き合わされたキバナとネズも、目を丸くしてダンデを見る。
ソニアとルリナは氷漬けから溶けると『はあ!?』と驚きの声を上げてダンデに詰め寄る。
その表情は驚きというよりは怒りのように見え、ダンデは思わずその気迫に仰け反った。
「あんた私達があれほど!!あれっっっ(略)っっっほど!!!あれほど!苦労して!探した!カジッチュを!ゲットしながら!!!告白しないってどういうこと!!??」
「いや、告白しないとは言ってないが…」
「言ったじゃん!今!!さっき!!告白するためにカジッチュを探したんでしょ!?成功するか失敗するかはともかく、私達のあれだけの苦労を水の泡にさせる気!?」
「そこは成功する方に応援してくれないのか!?―――ってそうじゃなくてだな!今日!!今日は告白する気はないって言ったんだ!!!」
「「同じようなもんでしょうが!!!」」
声を揃えて突っ込むソニアとルリナに、ダンデはいつもの調子を殺されてしまう。
あの勢いなら、告白は今日かと思っていたソニアとルリナは呆れたようにため息をつく。
「呆れた…やっぱあんたって大物ね」
「あ、ありがとう…?」
「褒めてないから、それ…じゃあ今日はどこに行くつもりだったの?カジッチュを連れてるから告白するのかと思ったんだけど…」
腰につけているボール(超貴重なマスターボール)を見てソニアは問う。
ソニアが指さすのはマスターボール。
その中にはカジッチュが入っていた。
カジッチュを手に入れた理由が理由だったため、ソニア達はさっそく告白するのだと思っていたのだ。
しかし、本人曰く今日は告白はしないとのこと。
ならばなぜカジッチュを連れていく必要があるのか。
それを問うとダンデは笑顔で答えた。
「これからカジッチュを鍛えようと思って!!」
カジッチュが入っているボールを手に取ってソニア達に見せるダンデに、ソニアとルリナは溜息を返す。
空気と化していたキバナとネズは、もはや苦笑いを浮かべるしかない。
「そのユズキちゃんって、バトルするの?」
溜息をつきながらソニアは問うが、ダンデは首を傾げた。
ダンデの脳裏に三匹と、一匹のポケモンが浮かんだ。
三匹は、ガオガエン達の護衛としてついてくるポケモン。
一匹は常にユズキの傍にいるピカチュウだ。
ピカチュウのレベルは分からないが、自分のリザードンが興味を示さないので恐らく低レベルのペット枠だろう。
しかし、ガオガエン達は違う。
動物の中では鈍い生き物になるであろう人間であるダンデでも彼らのレベルが高いことくらい感じ取っていた。
しかし、どうもユズキの手持ちと言うには違和感があった。
ユズキの事を守るように接してはいるが、ダンデとリザードン達のような関係とは違うように感じた。
首を傾げるダンデに、ソニア達は怪訝とした表情を浮かべた。
『さぁってなに?』と視線で続きを促すソニアにダンデは首を傾げたまま続けた。
「ユズキはこちらの言葉を少しやっと覚えて言えるようになったからバトルの話題をしたことなかったし…それになんか…ユズキとバトルって結びつかなくて…」
「えっ!?ダンデくんがバトルの話をしてないの!?」
「あ、ああ…なんでそんなに驚くんだ?」
「驚くだろ!お前だぞ?頭の中がバトルばっかりのお前だぞ!?」
「私達ともバトルの話題ばかりだしね」
「あとホップもね」
ソニア達の驚く声に、ダンデはムッと口を尖らせる。
失礼な奴らだと思っていた。
ダンデ自身もバトル中毒なのは否定しない。
でなければここまで来られていないし、彼らだって自分達がバトル中毒者だと言われても否定はしないだろう。
チャンピオンカップにまで昇りつめる選手なんてみんなそんなものだし、そんな彼らを迎え撃つリーグ選手なんて自分達以上にバトル中毒者だ。
しかし、認めているのと言われるのは別である。
素直な少年に育ったとはいえ、全員に言われては口も尖らせるというものだ。
きっとここに家族がいたら(特に弟)苦笑いや軽く否定はするだろう。
ダンデは実家にいた頃とは違い素の自分を出せる友人ができた事にくすぐったく感じる。
「ユズキって子、ポケモン持っていないのか?」
今度はキバナの問いにダンデは首を振って答える。
ただ、それでも首を傾げるのは止められない。
「一応は持っているようだ…でも、それがユズキのポケモンなのかは分からない」
「どういうこと?」
続いたルリナの問いにダンデは説明する。
ユズキの傍には必ずピカチュウと、日替わりで傍にいるポケモンが三体いる事。
ピカチュウは傍から見たらペット枠で、日替わりにいるポケモン三体のレベルは恐らくリザードンと同等か、それ以上のどちらかだということ。
それを聞いてソニア達はお互い顔を見合わせる。
驚いたのだ。
ダンデはこの旅で元々あったバトルの才能を更に開花させた。
その彼が彼自慢のリザードン以上かもしれないと言い切ったのが彼らに驚きをもたらした。
「ダンデがそこまで言うんなら俺様も戦ってみたいなぁ」
ポツリと呟いたのはキバナだった。
ソニア達はその呟きにキバナを見ると、彼は三体のポケモンを想像しているのか空を見つめていた。
キバナは同じドラゴンタイプを使う女性に憧れている。
彼女が祖国に帰る際に約束を交わしたのだ。
その約束を糧にここまで来た。
今のところダンデに敗れ続けているが、彼は彼女との約束を守るために諦めていない。
だから負け続けているダンデが強いというポケモンにキバナが興味を持たないわけがない。
そして、それはソニア達も同じだろう。
『私も戦ってみたいかも』『そうね』『まあ、一戦交えてみたい気持ちはあります』などソニア達もキバナに同調する。
「駄目だ!」
しかし、それをダンデが拒んだ。
突然の大声にキバナだけではなくソニア達も目を丸くしてダンデを見る。
ダンデはバトルでも見せないような鋭い視線をキバナ達に向け、ダンデの鋭い眼光にキバナ達は体を強張らせる。
「まだユズキがバトルするなんて分からないじゃないか!もしもユズキがバトルが出来なかったら困らせてしまう!彼女に迷惑がかかるから駄目だ!」
ダンデの言っていることに一理あると、キバナ達も理解していた。
だが、キバナ達は目を瞬かせながらお互いを見合った後、キッと睨むダンデにニタリと笑って見せた。
その笑いにダンデは先ほどの勢いも消え、『な、なんだ?』と怪訝な表情を浮かべた。
「いやぁ〜まさかあのダンデがなぁ」
「そうねぇ、あのダンデがねぇ」
「お、俺がなんなんだ?」
ニタニタと笑うキバナとルリナの言葉に、ダンデはさらに困惑する。
首を傾げ頭に?マークをポンポン出すダンデは助けを求めてソニアを見る。
しかしいつもは頼れる幼馴染のソニアまでもが『あのダンデ君が…!!あのカーラ(近所に住む、同い年でココガラを連れた少女)に好きって言われても『俺もココガラが好きだぜ!』と返してたあのダンデ君が!!』と涙を流し感激していた。
ちなみに、ネズもニタニタとダンデを見つめており、この場で分かっていないのはダンデだけだった。
「じゃあ、尚更カジッチュはレベル上げない方がいいかもね」
続けられたルリナの言葉に、ダンデは更に首を傾げる。
もう首を傾げすぎてそろそろ首が取れるのではないかと自分でも思った。
「なんでだ?レベルを上げておけば、もしもの時にユズキを守れるぜ?」
ダンデはレベルを出来るだけ高くしてカジッチュをユズキに贈るつもりだった。
バトルとユズキが繋がらないダンデにとっては、そちらの方が育成の負担も少ないだろうと思ったのと、レベルを上げておけば、もしもの事態の際に戦力の一つになるからだ。
それに、ユズキの手持ちの中に自分と繋がりのある存在が欲しかったのと、ガオガエン達に対抗したかった下心もあった。
進化させないのはソニア達の言うジンクスがカジッチュが限定されているからなのと、カジッチュの進化は二通りあるため、ユズキに好きな方を選ばせたかったからだ。
しかし、ダンデの言葉に『全く分かってないな、ダンデ君は』とソニアは溜息をつき首を振り、そしてビシッとダンデを指さした。
「考えてみて!バトルに縁がない子がカジッチュをちゃんと育てられると思う!?」
「育てられるんじゃないか?ソニアだって最初はバトルに興味なかったのにここまで勝ち進んできたじゃないか…それに普通にバトルをしていれば自然とレベルが上がっていくだろ?」
「ゔ…そ、それはそうだけど……ってそうじゃなくて!!私が言いたいのはね!これを機にダンデ君がその子にバトルを教えたりアドバイスをしてあげたりすればその子との距離がもっと近づくんじゃないのって言いたいの!!」
一瞬で正論を言われソニアの勢いは萎んでいく。
推薦を貰うまでソニアは友人達とお遊びなバトルしかしてこなかった。
幼馴染のダンデとは勝てないのも勿論あるのだが、何よりダンデのバトルへの才能は幼い頃から開花しかけていたためバトルはしても遊びでは済まなくなるので、基本的には断っていた。
推薦だって、祖母が博士だから貰えただけで、正直ルリナ達のように意気揚々とジムチャレンジに身を投じたわけではない。
博士である祖母を持つ孫に与えられるプレッシャーに耐えられなくて、当初は、適当なところで負けて帰ろうとさえ思っていたのだ。
しかし、旅をしていくうちに手持ちのポケモン達とのバトルや旅が楽しくて夢中になっていき、わざと負けて帰るのは自分の手持ちとなって共に頑張ってきたポケモン達に悪いとここまで頑張ってきた。
ここまでくれば、もう帰りたいなどとは考えておらず、いけるところまで全力で駆け抜けようとソニアは覚悟を決めた。
幸いにも博士の孫というレッテルを気にしなくなるほどの友人を得たソニアは、ダンデの言葉に口を噤みかけてしまうがすぐに切り替える。
ソニアの言葉を聞いたダンデはまさに青天の霹靂と言わんばかりに驚いた顔をしていた。
漫画ならば、その背景に雷が落ちていただろう。
「おっ、いいなそれ!」
ソニアの言葉に一番に反応をしたのはキバナだった。
キバナの声に驚いていたダンデは彼を見る。
ダンデと目が合ったキバナは二カッと人好きのする笑みを浮かべて返して続ける。
「バトルに慣れた子だったらさ、一緒にバトルして腕を磨きあうっていうのもいいんじゃないか?まあ、お前ほどの実力者はそうそういないからちゃんと手加減してやれよ?」
「もしその子がバトルするような子じゃなくても興味が少しでもあれば教えてあげるっていう名目ができるし…興味がなくてもそういう子ってあまりポケモンの入れ替えはしないだろうし自分があげたポケモンが手元にあるの、いいよねぇ」
「どっちに転んでも美味しいとこどりですね」
みんなの言葉にダンデは想像し、頬を赤らめる。
ダンデのユズキのイメージはバトルとは程遠く、どちらかといえばポケモンをペットとして飼っている子の印象が強い。
とはいえ、ピカチュウは確実にペット枠だが、到底ペット枠にあてはめられないレベルであろうガオガエンやヌオーやウォーグル達を持っているのだからバトルに興味のない子という可能性も拭い切れない。
ただ、保護者のポケモンという可能性もあるし、むしろそちらの方が有力だろう。
「「ということで、今からカジッチュを贈りに行こう!!」」
「なんで!?」
友人たちの言葉に『そうかなぁ…そうかも…』と受け入れかけたダンデの両肩にソニアとルリナが手を置き笑顔で言った。
本当に今日は告白する気がなかったダンデは驚いた声を出すが、後ろにいるキバナとネズは目で『お前らそれが目的だっただろ』と語っていた。
「俺、今日は告白しないって言ったじゃん!」
「こういうのってさ、時間が経てば経つほど決意が揺らぐものなんだよね」
「そうそう!それにダンデ君が告白する日に私達の予定が空いているっていうわけでもないし」
「なんでソニア達の予定に合わせなきゃならないんだ!?」
「はあ!?あれだけ付き合ったのに結果を聞くだけで済むと思ってるわけ!?」
ズイッとルリナに迫られ、ダンデは言葉を飲み込んだ。
確かにルリナ達には付き合わせてしまったことへの感謝と罪悪感があり、ダンデの告白の行方を見届ける権利は彼らにある。
あるにはあるが…できればその権利は放棄してほしいというのが本音だ。
どう断ろうか悩んでいたダンデが黙り込んだのを見て、ソニアとルリナはその隙をつく。
二人はダンデの腕を掴み、そのまま歩き出した。
「それじゃあ行くわよ!ダンデ君!」
「は!?」
「善は急げっていうじゃない!」
「これは急かしすぎじゃないのか!?できればもう少し時間をくれ!!!!俺は告白初心者なんだぞ!!?心の準備を!!心の準備をさせてくれ!!!!」
「そんな暇はないわよ!!」
「ないのか!?」
「ないわよ!その子、もしかしたら旅行の人かもしれないんでしょう!?だったら帰国する前に告白して繋ぎ止めなきゃダメよ!!」
「た、確かにユズキはこちらの言葉を話せなかったしガラルに住んでるなんて言っていなかったが…」
「ほら!ダンデ君に任せてたら連絡先を交換する前に帰っちゃうわ!!」
正論を出されダンデは『ゔ…っ』と言葉を詰まらせる。
正論は正論ではあるが、突然告白することにされつつあるダンデは『いや、しかし』と抵抗する。
抵抗するダンデを引きずるようにして、二人はいつもダンデとユズキが会うというワイルドエリアへ向かった。
「…俺、絶対あいつらに恋愛相談なんてしねえ」
うう、と唸りながらも女子二人に引きずられていく友人を見つめながらキバナはポツリとつぶやいた。
その呟きに、ネズは頷いて同意する。
22 / 43
← | top | list | →
しおりを挟む