結局、ダンデはソニアとルリナの気迫に負けてワイルドエリアに到着してしまった。
「な、なあ…やっぱりやめないか?恩はあるが流石に告白を見られながらするのはちょっと…」
「なに弱気になってるのよ!大丈夫よ!あんた顔だけはいいから!」
「そうよ!やっとダンデ君がポケモンとホップ以外に興味を持った人間が現れたんだから失恋して一生ホップ以外に興味持たなくなったら私が困るもんっ!」
「いい、バトルの話題になっても絶対に独り善がりに話さないこと!相手の意見もちゃんと聞いて、それをすぐ否定しないこと!いい、ダンデ!顔よ!あんたは顔で押せば大抵の女はそれで騙されるわ!顔よダンデ!あんたは顔なのよ!!!」
「私達がついてるんだから絶対絶対成功する!一週間のごはんを賭けて断言する!!でも失恋してもそれを糧に次の恋を見つけてね!ダンデ君が彼女作ってくれなきゃ私が彼氏作れないんだから!知ってる!?私とダンデ君付き合ってる説が出てるんだよ!告白しても『ごめん…浮気する人はちょっと…』とか『お互い都合のいい相手でいいよな?俺も彼女いるしお前もダンデが彼氏だし(笑)』とか言われ続けるの私もうやだ!!!!」
ソニアとルリナの言葉は噛み合っていない。
ルリナは顔を全面的に押し、ソニアは必死にダンデに恋人を作らせようとしていた。
ソニアは幼馴染だと知れ渡っており、その仲の良さ(主に迷子の回収のせい)で二人は恋人同士だと誤認されている。
それを否定しても照れ隠しとして捉えられてしまい、否定しすぎると『ダンデ選手のどこが不満なわけ?』と怒られてしまう始末。
ダンデと付き合っているという誤認のせいで彼氏も作れず、寄ってくる男は都合のいい女を求めているクズばかり。
もうダンデに恋人を作ってもらって誤解を正してもらわなくてはならない。
そうしなければ自分は18年間、独身を貫いている未来が見える。
恐ろしすぎて身震いし腕を摩りながら別の話題に移る。
「それで、いつもダンデ君がアキちゃんって子と逢引きしてる場所はどこ?」
「あ、あ、あ、逢引きって…」
まだワイルドエリアの入り口にいるソニアはどちらに進めばいいのかダンデに問う。
肝心のダンデはソニアの『逢引き』という言葉に頬を赤らめていた。
そんな恋に恋をしているダンデの反応を無視しながらソニアはもう一度問う。
「アキと、あ、あ、逢引きしている場所は決まっていないだ」
ソニアの『逢引き』が気に入ったのか、使うものの恥ずかしさが勝って言葉が詰まってしまう。
そんなダンデを揶揄いつつ、逢引きの場所が決まっていないというダンデの言葉にルリナが首をかしげる。
「決まってないの?じゃあ連絡取って待ち合わせする感じ?」
「なんだよ、ダンデ!連絡先交換してるとか結構進んでるんだな!」
なんだかんだ言って連絡先を交換しているらしいダンデに、キバナは『このこの〜』と肘で突っつく。
キバナの揶揄いに、ダンデはキョトンと首をかしげた。
「連絡先は交換していないぞ?アキはすぐに帰ってしまうし…そういえば…連絡の話をしたことなかったぜ…」
頬を赤らめて照れていたダンデだったが、そういえばと連絡先を交換していなかったことにキバナに言われて今気づき、しょんぼりと落ち込んでしまう。
肩を落とし俯くダンデにキバナは『はあ?』とつい声を漏らしてしまう。
「連絡できないのにどうやって逢引きしてんだよ」
「あ、逢引き…その…いつもアキと会う時はポケモン達に案内してもらうんだ…」
「「「ポケモン達??」」」
ポケモン達に案内してもらう、という言葉に全員が首を傾げ声を揃えた。
同じ方向へ首をかしげる4人に釣られてダンデもコテンと小首をかしげてしまう。
意味が分からないという4人を他所に、ダンデは『とりあえずこっちに進んでみよう』と適当に歩き始める。
ダンデは極度の方向音痴であるため、ついて行って大丈夫なのだろうかと不安になる。
しかしずんずんと進んでいくダンデに置いて行かれるのも不安なので(主にダンデ捜索が必須になるため)、ついて行くしかない。
ワイルドエリアの入り口から歩くこと数分。
ソニア達はその光景に驚くことになる。
「「「!」」」
入り口からチラチラと進化前のポケモン達がこちら…正確に言えばダンデを見ていることにはソニア達も気づいていた。
しかし低レベルだったし、好奇心が強いポケモンがこちらを気にしている様子はよく見る光景だったため、気に留めることはなかった。
とはいえ、いつも見る数と比べて多いため気にはなったが、こちらの方がレベルが高いというのもあり見て見ぬフリをしていたのだ。
しかし、ダンデが奥へ進むとポケモンが草むらから現れた。
その数に驚きが隠せなかった。
「ち、ちょっと!ダンデ君!」
いつの間にか囲まれたソニアは慌てて進むダンデの腕を掴んで止める。
引き留められたダンデは首をかしげてソニアを見つめ、そんな彼の仕草に慣れを感じたが、それどころではない。
周囲には進化していない低レベルのポケモンだけではなく、第二進化や最終進化しているポケモンも多くいる。
その中にじゃれるだけでも致命傷を与えるポケモンもおり、ダンデがボールから自分のポケモンを出す気配すらせずそのままポケモン達の元へ向かうためソニアは慌てて止めた。
そばにいるルリナ達はすでに自分のポケモンのボールに触れていつでも動けるよう警戒していた。
「どうした?」
「どうしたって…ポケモンに囲まれてるんだよ?低レベルのポケモンだけじゃなくて最終進化している子も多いし…危ないよ!」
「大丈夫だぜ、ソニア…彼らがアキの場所に案内してくれるんだ」
「ポケモンが!?」
ダンデの言葉に、ソニアだけではなくボールから手を放さずルリナ達も驚いた表情でダンデを見ていた。
ダンデ以外に理解ができない状況であるのは仕方ないだろう。
ダンデはポケモンにアキの居場所を聞いていたため、彼らが案内役になってくれる状況を最初から受け入れていた。
その為、ソニア達がなぜ驚くのか分からず首をかしげていた。
そんなダンデの元に、バチュルを連れたデンチュラがゆっくり歩み寄ってくる。
デンチュラ程度なら戦えば勝てるが、周りにはオンバーンやキテルグマなどの好戦的なポケモンも多くいる。
『なんでこんなところにオンバーンやオーロンゲがいるの!?生息地違うじゃん!!』とソニアは泣きそうになりながら心の中で叫ぶ。
5人もいるのだから負ける気はしないが、数が数だし、幼いポケモンもいるため倒すのは良心が痛む。
後ろにいるキバナ達も同じことを思っているのか誰もが自分のポケモンを出すことはなく、しかし、その手からボールを放すこともなかった。
そんな4人を気にも留めず、デンチュラがダンデに向かってひと鳴きした。
「今日は君が案内役か!よろしくな!」
ダンデは子供にするようにデンチュラとバチュルに屈んで話しかける。
その親し気な声色にソニアどころかルリナもキバナもネズもぎょっとしてしまう。
ダンデの言葉に返事をするようにデンチュラやバチュルが鳴いたが、チラリとソニア達4人を見た。
デンチュラと目が合った彼らは思わずボールを触れる手の力を入れる。
どこか自分たちがここにいることを彼が視線で咎めているように感じたのだ。
それをダンデは感じたのか、デンチュラの視線に気づいたダンデはソニア達を振り返った後『ああ、彼らは大丈夫だぜ』とデンチュラに向き直す。
「彼らは俺の友人なんだ!気がよくて優しい友人達だから絶対にアキを傷つけることはしないから安心してくれ!」
デンチュラに説得するように告げるダンデの言葉に、ソニア達は思わず照れてしまう。
照れる彼らを見たデンチュラは、ダンデを見上げ、後ろを見る。
正確には周りのポケモン達だろう。
彼らは一瞬ざわついたが、まるで話し合いがまとまったように静かになる。
それと同時に、デンチュラが後ろを向き前に進み始めた。
それをソニア達はダンデ以外とお互い顔を見合うが、そんな彼らを他所にダンデがソニア達に振り向いて笑顔を浮かべていた。
「よかったな!デンチュラ達に認められたぞ!」
「え、あ、うん…ありがとう…」
ニコッと笑うダンデの背景は本当にポケモンに友人達が認められた事が嬉しいと言わんばかりに輝いて見えた。
その満面すぎる笑みに、ソニアだけではなくリアナ達全員何も聞けなかったし何も言えなかった。
とりあえず相槌は打てたので返したら、さらにダンデは嬉しそうに笑みを深めた。
「彼らがこうしてアキの所に案内してくれるんだ、ついて行こう!」
ガジッチュをゲットするために数日アキとの逢引きができなかったため、久々にアキに会えると思うと彼の足は速くなっていく。
ダンデはルンルンとして嬉しそうな表情を浮かべており、彼は自身の心情を全く隠す気はないようだった。
その姿を見ていると、周りのポケモン達の視線や緊迫感などソニア達の警戒心が削がれてしまう。
いつの間にかソニア達もポケモン達に案内され和気あいあいと話しながら歩いていた。
「ピカ!」
「ピカチュウ!」
しばらく進むと愛らしい鳴き声が聞こえ、全員そちらに視線を向ける。
声は前方から聞こえ、前を向くと黄色い小さなポケモン…誰もが知り誰もが愛してしまうピカチュウが駆け寄ってきていた。
ダンデはピカチュウの姿を見て嬉しそうに破顔させた。
タタタと軽い足取りで駆け寄ってくるピカチュウと合流するとダンデは周りを気にするように当たりを見渡す。
「今日は一人なのか?アキはどうした?」
「ピカピカァ〜!ピカ!ピカピ!」
何を言っているのか全く分からない。
だが恐ろしいことに10歳にてすでにバトルジャンキーである彼には通じたのか『ふむふむ』と聞き入っていた。
その姿を見て『本当に分かってて頷いてんの?』やら『え、ダンデ、ポケモン語分かるの?やばくない?』やら『ついに人間を捨てましたか』やら『やべえ…ただただやべえ』やら友人達が思っていることなどダンデは知らない。
友人達が自分を心配しているとは知らず、ダンデはピカチュウを腕に抱きソニア達に振り返る。
「みんな俺の大切な友人達なんだ…みんな優しい人たちだからポケモン達を無暗に危害を加えないし、絶対にアキを傷つけないぜ」
「ぴかぴか?」
「ああ、絶対にだ…俺が嘘を言ったことあったか?」
「ぴぃ………ピカピ!」
うーん、とダンデの腕の中で考えるそぶりを見せるピカチュウだったが、すぐに首を振った。
ダンデを見上げて笑うピカチュウに、ダンデも『だろ?』と二カッと笑って返した。
4人はその姿を見て、デンチュラとのやり取りを思い出す。
どうやら鳥ポケモンがダンデが知らない人間を連れてきたことをピカチュウに知らせ、ピカチュウは彼らの査定に来たらしい。
そして、ソニア達は合格したのだと読み取っていいのだろう。
それも、ダンデの人柄合格だ。
なんとも複雑な気持ちではあるが、ポケモントレーナーとして嬉しさもある。
ピカチュウがダンデと合流したのを確認した野生のポケモン達は解散していくように各々自身の縄張りに戻っていった。
感じていた視線が散っていき、ソニア達は無意識に入れていた肩の力を抜く。
そんなソニア達にピカチュウが『ピッカ!』と手を挙げて挨拶してくれたので、その愛らしい姿に思わず笑みをこぼしながらそれぞれ手を挙げて挨拶をする。
「それでな、ピカチュウ…俺…今日はピカチュウ達に大切な話があって来たんだ」
「ピカピ?」
「そう、大切な話だ…特にガオガエンにはちゃんと話がしたい…だから…その…できればアキにはまだ内緒にしてほしいんだが…いいか?」
ピカチュウはピーンと来た。
伊達にこの世界を生んだポケモンから生まれて何世紀も生きていない。
無邪気で純粋なポケモンではあるが、数少ないミュウの中ではこの個体は大人の都合も理解できたおませな子だった。
ダンデの様子からしてアキへの恋心を自覚したのだと気づいた。
「ぴかぁ…」
そして迷う。
腕を組んでピカチュウに変身しているミュウは考える。
ミュウはこの少年に対して好印象を持っている。
早くもミュウはダンデがアキに恋心を向けているというのに気づき、密かに応援していた。
アキはまだ自分の意思という感情が曖昧な状況で、はっきりした意思を取り戻している最中だ。
アキは孤独である。
助けてくれる親もいなければ家族も親友もいない。
無条件で助けてくれる存在がいるとしたらポケモン達だけだ。
しかし、ポケモン達だけでこの時代を生きていけるかと問われれば…きっと無理だ。
理由は、アキの種族。
ミュウが生まれた時代や、人間のいない森深い場所ならまだしも、アキがいる場所は人が繁栄し栄えた場所だ。
ワイルドエリアという隠れ家のおかげで問題にはなっていないが、それも時間の問題だろう。
アキが人間に見つかるリスクはできるだけ避けたいが、アキは人間だ。
ミュウとしては以前のように自分たちと共に生活をしてほしいと思っているが、アキの種族的にも難しいことがあるのも知っている。
だからアキをこのまま人間の世界から遠ざけてずっとテント暮らしにさせるのも無理だし何よりも可哀想だとミュウは思った。
だから、少年にはアキの手を取ってほしいと思った。
これは純粋な応援ではなく、下心のある応援だ。
少年はまだ子供だが、アキを愛した少年ならアキを守ってくれる。
そして、隠れ家になってくれる。
そう思った。
しかし…しかし、だ。
(ぴかぴかぁ…)
問題はあの女のポケモン達だ。
特にガオガエン。
彼は自分たちしかアキを守れる存在がいないことで警戒心を強くしている。
ヌオーもミュウと同じくダンデを認めているし、ウォーグルも警戒しつつもダンデのアキへの恋心も実力も認めてはいる。
しかし、ガオガエンはダンデを決して認めてはいなかった。
だが、彼を責めてはいけない。
彼は彼なりにアキだけではなく主人や仲間やミュウさえも守ろうとしているのだ。
彼は不器用なだけで、心優しいポケモンの一匹だ。
アキと結ばれるのならば、避けては通れない壁がガオガエンだった。
「安心してくれ!絶対ガオガエンには負けない!」
ダンデはミュウの言葉は分からない。
ポケモンの言葉も人間にはわからないが、トレーナーとしての経験や天性のものだろう。
自分の気持ちを自覚した今、分かったことだが、ミュウやヌオーはダンデの気持ちに気づき応援してくれるらしい。
だから、ミュウが何を懸念を抱いているのかも分かってしまう。
断言するダンデにミュウは驚いた目で見つめた。
ミュウからの視線に、ダンデはボールを一つ持ってミュウに見せる。
中を覗くと一匹のポケモンが入っていた。
「こいつ、ガジッチュっていうんだけど…俺、こいつを鍛えてガオガエンに勝って認めてもらおうと思ってるんだ…ガオガエンに認めてもらった後…俺、アキに告白するよ…」
ガジッチュは草とドラゴンのタイプを持っており、ガオガエンは炎と悪のタイプを持っている。
どちらのタイプも弱点ではなく、良くも悪くもない相性だ。
だからこそ、勝ち目もゼロではない。
今、ダンデはチャンピオンカップの参加者なため、寄り道をしている暇はないはずだ。
ダンデも自分に絶対的な自信があるわけではないが、アキがどこから来て誰なのかも分からない今、いつダンデの前から姿を消すのか分からないこの現状を放ってはおけなかった。
下手をすれば最悪連絡先を交換する前に別れてそのまま人生終了である。
初恋というのもあり、それだけは嫌だった。
せめて連絡先を交換したい。
今時と思われるが、この際文通でもいい。
アキとの繋がりを糸一本でもいいから繋ぎ止めていたい。
ミュウ達には自分の気持ちはとっくの昔にお見通しだったから隠すこともしなくていいだろう。
それでも照れながら決意を告げれば、ミュウはその決意を受け取り『頑張れよ少年』という顔つきで頷いた。
その意思をダンデは勿論勘違いすることなく受け取り、彼に受け入れられて応援されていると嬉しそうに笑みを浮かべた。
二人の友情は深まった瞬間だった。
だがしかし…
「「は?聞いてないんだけど」」
二人の友情に水を差すように二人の少女の声が落ちる。
その声は非情で冷たく、まるで氷技を受けたようにその場は凍えるように冷たくなっていく。
ダンデはギギギと振り向く。
そこにはもちろん友人であるソニアとルリナがいた。
その後ろにいるはずのキバナとネズはちゃっかり少し離れた場所に避難していた。
ルリナとソニアは凍るような冷たい眼差しでダンデを睨むように見つめ、鈍いと散々言われてきたダンデも流石に二人が怒っているのだと分かり冷や汗をかく。
「えーっと…なにを…その…そんなに…怒っているんだ?」
腕の中にいるミュウはダンデ同様、なぜか怒っている少女二人を首をかしげて見つめていた。
キョトンとさせるその表情は愛らしくて、二人も絆されかけたが今絆されるわけにはいかない。
「ダンデ君…私達の話聞いてた?今日、告白するって、言ったよね?」
「言ってないが!?今日告白するって言ったのソニアとルリナだろ!?」
「告白には新鮮さが大事なのよ!思い立った時に告白しないでどうするの!?」
「告白は生き物か何かが!?告白するにも俺のタイミングっていうものがあるって言ったじゃないか!それに俺はアキのポケモンに認められてから告白したいんだ!邪魔しないでくれ!!」
強引にここまで連れてきてしまった(連行させられた)のだが、ダンデの決意は固い。
二人に詰められてタジタジながらもしっかりと反論し、自分の意見を伝えるダンデに避難していたキバナとネズは『あいつやるなぁ』『これが恋の力なんでしょう』と他人事のように会話していた。(実際他人事である)
「ガルル…」
三人の攻防戦を呑気に傍観していたキバナとネズの耳に、聞き慣れないポケモンの鳴き声が聞こえた。
その鳴き声に二人は思わず腰にある自身のボールに触れる。
聞こえたその鳴き声から怒りに近い何かを感じ取ったのだ。
それはダンデ達も感じたのか、言い合いをしていた三人は口論を止め鳴き声の方へと視線を向ける。
全員の視線が向けられたその先にいたのは―――ガラル地方では決して見かけることのない、ガオガエンだった。
ガオガエンの姿に、ダンデは目を輝かせ、ミュウことピカチュウは『げっ』と顔をしかめ、ダンデ以外は見慣れないポケモンに驚きと興味の視線を向ける。
ガオガエンはゆっくりとダンデに歩み寄り、ダンデをまるで見下すように見下ろしていた。
その目は怒りというよりは闘志の炎を宿しており、しかし、不機嫌そうに鼻筋にしわを寄せていた。
ミュウは全てを察した。
ガオガエンはダンデが何をしようと知っている、と。
だから不機嫌なのだろう。
「えっ…な、なにこのポケモン!見たことない!!」
「ダンデこいつが例のポケモンか?」
突然現れた見慣れないポケモンに、ダンデ以外が驚愕した。
見慣れない人間が騒いでもガオガエンは気にも留めずずっとダンデを睨みつけている。
ミュウがダンデを庇おうととしたとき、ダンデは己のボールを手に取りガオガエンに差し出すように向ける。
「勝負してくれ!!」
「ガルル…!」
「回復なしの一対一の勝負!俺が勝ったら俺を認めてくれ!!」
ガオガエンはアローラ地方のポケモンなため、ガラル地方仕様である図鑑にはまだ登録されていない。
そのため、名前は知らない。
だが、それでもちゃんと意思疎通はできている(と思う)ので、ダンデには関係なかった。
勝負に勝って自分を認めろというが、ガオガエンは認める気は元々ない。
ダンデが気に入らないのは確かにあるが、アキと主人を守らなければならないという使命感があった。
だが――
「勿論!相手はリザードンだぜ!!」
その一言で決まった。
リザードンとは初対面の時から戦ってみたいと思っていたポケモンだ。
アキの手前、挑発をされても我慢していた。
それが、アキを賭けて勝負という戦える理由が出来た。
当然、受けない理由はない。
「ガウ」
ガオガエンは顎をくいっと上げるとダンデに背を向けてどこかに向かって歩き出した。
それをダンデとミュウはお互いの顔を見合わせ、ソニア達と共にガオガエンの後について行く。
――ついた先は広々とした高原だった。
そこはワイルドエリアを利用するダンデ達もあまり寄り付かない奥の奥にある広々とした場所で、人間たちダンデは『ワイルドエリアにまだこんな場所があったんだ』と周りを見渡す。
「人が寄り付かないからか珍しいポケモンが多いな」
キバナの呟きは誰もが思った感想だった。
周りを見渡すと、草むらにはひょこりと多くのポケモンの顔触れは普段見かけることのない珍しいポケモンが多い。
あちらも人間が珍しいのか敵意は感じられず興味津々にキバナ達を見ていた。
いや…敵意がないのは、ダンデやあの見たことのないポケモンのおかげかもしれない。
ダンデはボールからリザードンと、なぜかカジッチュを出す。
リザードンはダンデの前に、カジッチュはダンデの隣に出した。
「カジッチュ!この戦いをしっかりと見て勉強だ!」
「カジーツ!」
流石ダンデが根性あると認めたカジッチュ。
『分かった!』と強く頷いてリザードンとガオガエンが睨み合うのを強い瞳で見つめた。
「キバナ!合図頼む!」
「お、おう…じゃあ、いくぞー」
蚊帳の外である外野はもう何が何だか分からないまま進む。
とりあえず指名されたキバナは合図することにした。
そして―――一対一の勝負は始まった。
23 / 43
← | top | list | →
しおりを挟む