ユズキはラプラスの背に乗って遊んでいた。
遊んでいると言ってもまだ自我が戻りきっていないユズキの反応は薄いが、ポケモンにはユズキも楽しんでいるというのは分かる。
そんなユズキを数匹の最終進化のポケモン達が温かく見守っている。
その間にも、ユズキのために魚が次々と運ばれてくる。
「…………」
まだはっきりとした自我は取り戻していないが、少しずつ自分を取り戻しつつある。
それはきっとダンデという少年のおかげだろう。
誰かと会話をし、こちらの言葉を教えてもらい『考える』『覚える』という行為を重ねることで、自分という意識を保つことができる。
まだ霧の晴れない意識でも、いつも傍にいてくれるガオガエンとミュウの姿がないことに気づく。
周りを見渡しても彼の姿はなく、ユズキはラプラスに降ろしてもらい彼らを探す旅に出ようとした。
だが、それを周りにいたポケモン達に止められてしまう。
彼らはガオガエンからユズキを任されているため、ガオガエン達を心配するユズキに『すぐ戻ってくる』と言って引き止める。
だが、待てども彼らが戻ってはこずユズキは数体のポケモンを連れて探しに向かった。
ついてきたポケモン達も、止めても無駄だと分かっていたのと、ユズキのしたいことを拒むことができるポケモンは、この場にはいなかったためだ。
危険なら本気で止めるが、ガオガエンとミュウを探すだけなら危険と思わなかったのだろう。
とはいえ、ガオガエン達の場所は大体把握しており、野生のポケモン達に案内されてユズキはガオガエンとミュウの所へと向かった。
しかし、ユズキは体力がない。
それは"こちらに連れてこられて"からずっと眠らされ薬を投与されベッドに縛り付けられていたからだ。
そのためすぐに息が切れるほど体力が落ちてしまった。
最初は自分の足で歩いていたのだが、少しずつ足が遅くなり息も荒れてきたので、途中ポケモンに乗って移動する。
ポケモンに連れられてやっとガオガエンとミュウの姿が見え、ユズキはホッと安堵した。
しかし―――
「…!!」
ユズキは悲鳴を上げた。
その悲鳴に5人の視線が向けられたが、ユズキは構っていられない。
ポケモンから降りてユズキは慌ててガオガエンの下へと駆けつけた。
―――ガオガエンとリザードンが"喧嘩"をしていたのだ。
「――――!!――!」
「ユズキ!?――リ、リザードン!タイム!『だいもんじ』ちょっとタイムーーッ!!」
「ばぎゃっ!?」
ユズキはガオガエンとリザードンの間に入った。
リザードンは『だいもんじ』を放とうとしていたが、ユズキが間に入ったのを見て、ダンデの指示もあり慌ててガオガエンから空へと逸らす。
そのおかげでガオガエンに抱きしめられる形で庇われたユズキに怪我はなかった。
「ユズキ!!大丈夫か!?」
「ちょっと、大丈夫!?」
リザードンもユズキに怪我がないことに安堵の息をつく。
ダンデが真っ先にガオガエンに庇われているユズキに駆け寄り、唖然としていたソニア達もユズキに駆け寄る。
ガオガエンの腕の中にいるユズキを見れば、怪我がないことに安堵した。
だが、バトル中のポケモンとの間に入り込んだユズキにふつふつと心配故の怒りが込み上げてしまう。
「ユズキ!駄目じゃないか!技を出す前だったから良かったものの…!怪我をしたらどうするんだ!!」
心配だから、怒鳴ってしまう。
まだ今のダンデの言葉を全てユズキが理解できないのは焦って忘れていた。
ダンデが怒るのは珍しく、驚いたがダンデと一緒に頭ごなしに叱るのも可哀想な気がして(初対面だし)、キバナ達は少し離れたところで傍観することにした。
自分達が言いたいことは、だいたいダンデが言ってくれたのもあった。
しかし、皆が想像していた反応とは異なり、ユズキはキッとダンデを睨む。
ユズキに初めて睨まれたのもあるが、何より、ユズキの目に涙が浮かんでいるのを見て、ダンデは言葉を飲み込んだ。
「―――!!―!――!」
何を言っているのか全く分からない。
だが、その表情や声色からしてダンデに対して怒っているのだというのは分かった。
ポロポロと涙が零れるユズキにダンデだけではなく、見守っていたキバナ達も困惑した。
「ユズキ?一体どうしたんだ?もしかして…怪我をしたとか…」
「―――!―――………、…ダンデ、いや…―――…どうして、喧嘩、する?…ガオガエン、悪いこと、する?」
困惑気味にダンデが話しかけて少し落ち着いたのか、ユズキはやっとダンデとの言語の違いに気づき、ダンデから教えてもらった言語を繋ぎ合わせる。
ダンデが言葉を教えていると聞いていたため、ソニア達はカタコトなのに驚きはなかったが、慣れていないせいか全く理解ができない。
しかし、短いとはいえ交流してきたダンデは、ユズキの言葉から何が言いたいのか考える。
「…えっと…『ダンデ駄目だよ、どうしてバトルするの?この子が悪い事でもしたの?』と言いたいんだと思うんだが…」
「すげぇな…あれで分かるのか」
「俺がユズキに言葉を教えたからな!」
「そこ自慢するところか?…まあ、ダンデの翻訳が正しいとして…言葉からしてあのポケモンのパートナーなのでしょうし…パートナーからしたら勝手にバトルさせられていい気分ではないでは?」
「疑問にも思わなかったけど…確かに、そうよね…パートナーの許可なくバトルしたらそりゃ怒るわよ」
「ごめんね!私達も止めなかったから…」
「…?」
話しかけられるが、ユズキは所々は分かるものの全てを理解しきれないため、小首をかしげた。
若く見られる人種というのもあるが、その仕草が余計に幼く見せていた。
妹のいるネズと、懐いてくれるダンデの弟を可愛がっているソニアは、その幼い仕草につい注意する気も削がれてしまった。
「がる」
「―――?」
「ぴかぴかぁ!」
ソニア達の言葉を伝えるように、ガオガエンと、ガオガエンの肩に上ったピカチュウの姿を借りているミュウが鳴く。
普通ならポケモンの言葉は通じないが、トレーナーの中には心を通じて何となく何を伝えたいのか分かる人間もいる。
ユズキもその種類の人間なのか、ふむふむとガオガエンの鳴き声に合わせるように反応を返す。
パートナーだからか、威圧感のあるガオガエンの声は甘く優しかった。
ユズキはガオガエンの腕の中から申し訳なさそうな表情でダンデを見る。
「………ダンデ、私、間違い、した…ごめんなさい…」
どうやらユズキは喧嘩をしていないと分かってくれたらしい。
しょんぼりとするユズキにダンデは慌てた。
「あ、謝らないでくれ!ユズキ!!大丈夫だから!分かってくれたし…それに、俺こそユズキのポケモンなのに勝手にバトルを挑んでしまったし…俺の方こそごめん!」
近づくとガオガエンが鼻に皺を寄せるので、それ以上近づくのを止めた。
そんな男同士の静かなやり取りなど気づかないユズキは『自分こそごめんね』と言いかけたが、これでは堂々巡りだと気づき、コクリと頷いた。
こんな時、言葉が通じないのはもどかしい。
もう大丈夫と抱きしめて(ダンデから)守るガオガエンをとんとん優しく叩けば、渋々(ほんとーに渋々)ユズキを放してくれた。
ユズキも許してくれたことで、ダンデの顔に笑顔が戻る。
こうなってはユズキを巡るバトルは中止となり、ダンデは友人達を紹介するためユズキの手を取ってソニア達の下へと向かう。
「ユズキ!俺の友達を紹介するぜ!!」
ガオガエンの肩からユズキの肩へ移ったピカチュウと共に、ダンデは傍観していたソニア達をユズキに紹介する。
ソニア、キバナ、ルリナ、ネズを紹介し、ソニアの傍を定位置にしているワンパチまで紹介した。
「こん、にち、は…ユズキ、です」
ペコリと頭を下げ、ダンデに教えてもらった言葉で挨拶をする。
まだ子供の方が上手く喋れるくらい片言で拙かったが、ポケモンバトルがメディア化されていることに有名なこの国で片言の観光客は多い。
そのため、誰も笑わなかった。
ユズキはチラリとダンデを見る。
その目は『私上手くできた?』と言っているようだった。
『可愛い』としか感想が出てこない。
頭を下げられ、ソニア達は釣られたように頭を下げた。
「ダンデ」
「ん?なんだ?」
「どうして、ガオガエンと喧嘩した?」
挨拶を済ませ、ユズキはダンデの名を呼ぶ。
名前を呼ばれたダンデはニコニコと笑みを浮かべながら首を傾げるが、続いた問いにその笑みが凍りついた。
まだバトルという言葉を教えていないユズキは、バトルを喧嘩として認識するしかない。
どうしてバトルをしたのかと問われても『俺はユズキが好きで、ガオガエンに認めてもらおうとしました』とは流石に天然ボーイであるダンデでも言えなかった。
『えーっと…そのぉ…』と目を泳がせるダンデを、ユズキは答えてくれるまで待つ気らしくジッとダンデを見つめる。
「ね、ねえ!ユズキちゃん!お、お腹すかない!?」
「おなか…?」
「あーっ!お、俺様もお腹すいたな〜!もうお昼だもんなー!」
「そ、そうね!お昼の時間だものね!お腹空いたよね!!」
「こ、ここまで来るの初めてだから結構歩いたしそろそろお昼にしてもいいかもしれませんね!」
冷や汗だらだらなダンデが見てられず、ソニアがユズキに声をかけた。
ユズキは『おなか?』と分かっていない様子で首を傾げるが、今は説明している余裕がない。
ソニアの意図を察したキバナ達も話を合わせ、ユズキはソニア達にわちゃわちゃと囲まれ、軽く揉みくちゃにされる。
『はわ…はわ…』と次から次へと通じない言葉を聞かれたユズキは目を回すも、ダンデから意識を逸らすことには成功した。
これがダンデだけだったら、ガオガエンという壁で阻まれるが、ガオガエンはソニア達を認めたのか、それともユズキに危害を加えないと判断したのか…後方保護者面していた。
助け舟は出されたものの、その勢いについていけなかったダンデだけが取り残された。
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