(25 / 43) その生命に恋う (25)

ユズキは目の前に広がる光景に唖然としていた。
目の前には、わいわいきゃっきゃダンデ達が何やら忙しそうに準備をしていた。


「ぬめ!」

「シャウ?」


状況がまるで呑み込めないユズキは、座ってぼうっとしているとポケモン達が近寄って来た。
目の前には、ヌメルゴンやタチフサグマだけではなく、ダンデ達の手持ちポケモンがユズキの下に集まっていた。
野生ポケモンの多さに慣れているユズキは、驚くことはないがポケモン達が何かユズキに向かって話をしていた。
しかし、皆が一斉に話しかけるものだから、何を話しているのかは流石に汲み取ることはできない。


「おーい!お前達!そんなに一気に話したらユズキが困るだろー!」


キバナが苦笑いを浮かべながらポケモン達に言うと、ポケモン達からは『はーい』と言わんばかりの返事が返ってきた。
いい子なのは分かるが、ポケモン達の興味はご飯よりもユズキに向けられているらしく、皆ユズキを囲んであれこれ質問しているように話しかけていく。


「ダンデ…いいの、あれ…」


キャンプ中は基本手持ちは出して好きにさせているため、その癖で出してしまった。
ユズキにポケモンを怖がる様子がないのでボールに戻さなくても大丈夫かと思った。
だが、ポケモン達全員がユズキに興味を示して囲むのを見て、引き離した方がいいのだろうかと悩む。
ユズキが心配になりダンデへ尋ねるが、ダンデには笑顔を返された。


「大丈夫だぜ!ユズキはポケモンに好かれるらしく、彼らはユズキの嫌がることはしないからな」

「それって野生のポケモンも?」

「ああ!野生のポケモン達はよくユズキのために木の実などの食料を贈っているぞ」

「ええ!?野生のポケモンが!?」


親に捨てられた人間がポケモンに育てられたという事例は少ないが実在する。
だが、それは捨て子を育てた特定のポケモンのみであり、多数のポケモン…それもほとんどの野生のポケモン達はユズキに好意的だ。
そんなことが、本当にあるのだろうか。
ダンデの話を聞けば聞くほどユズキという少女が不思議に感じる。
チラリとユズキを見れば、ユズキはダンデ達のポケモンに囲まれて楽しそうに笑っているのが見えた。


「あなた、ヌメルゴン」

「ぬめ〜!」

「あなた、ギガイアス」

「ギガァ!」


ポケモン達が一匹ずつ自分を指さす。
そんなポケモンに、ユズキは名前を呼ぶ。
仕草から自己紹介をしているようだった。
名前を呼ばれて嬉しそうにするポケモン達に、ユズキも嬉しそうに笑った。


「めしゃぁ〜」


ユズキの前では最終進化まで成長した大柄なポケモン達も甘える。
その中でドラパルトのまだ幼いドラメシヤがユズキに一番甘えていた。
ユズキの両肩に乗り、母に甘えるように頬擦りをする。
その姿をポケモン達は優しい目で見守っていた。
残念だが、人間はポケモンが壁となって見えなかった。
ダンデも自分のポケモン達がユズキに危害を加えるなど思っていないため、作業を進める。
今回は5人でキャンプなのでカレーの量もそれ相応に多い。
やることも自然と増える。


「わっ!」


だが、ユズキの驚いた声にダンデがいち早く反応した。
人参を切っていた手を止め、慌ててポケモン達の下へと向かう。


「ユズキ!どうした!?」


ユズキのもとへ駆け寄ると、そこにはなんとも愛らしい光景が広がっていた。


「ガメ〜」


カジリガメの背中にユズキが乗っていた。
先程の声は、ネズのカラマネロがユズキをカジリガメの背中に乗せた時に驚いて出てしまった声だった。
ユズキに怪我がない事にダンデはホッと胸を撫でおろす。


「ユズキ、一緒にカレーを作らないか?」

「かりぇ?」

「カ、レ、ー」

「かれー……かれー、なに?」

「ごはんだよ…えっと…なんて説明すればいいのかな…」


ダンデがお昼への誘いをするも、ユズキからは首を傾げられた。
ユズキのいた地域にカレーがあるかは分からないが、言葉が通じない故にダンデも説明が難しい。
煮物…とも違うし、スープというのも違う。
そもそも、ユズキと食事について話したことがなかった。
いつもの癖でユズキにどう説明しようかと悩んでいると、後ろからひょこりとソニアが顔を覗かせた。


「ねえユズキちゃん!一緒にご飯作らない?」


うんうんと悩むダンデを放ってソニアは問いかけながらユズキに手を差しだす。
ユズキはソニアの差し出された手を、ぱちぱちと瞬きをしながら見つめた。
カジリガメはユズキの意図を察したのか、ユズキが降りられるようにしゃがむ。
とはいえ、カジリガメがしゃがんでも少女が降りるには高さがある。
どうしようかと悩んでいるとドラパルトが後ろからユズキを支え、そっと降ろしてくれた。
地面に足をつけるユズキにソニアが駆け寄りギュッと手を握る。


「行こ!」

「お、おい!ソニア!ユズキはまだ言葉が分からなくて…」

「大丈夫大丈夫!料理は万国共通だもの!言葉がなくたって出来るよ!」


ユズキが返事をするより先に、手を取ってルリナ達の方へと走って向かってしまう。
心配性なダンデは慌てて止めるが、ソニアの方が一枚上手だった。
止めようとした手がユズキを引き留めるより早くユズキを奪われてしまった。
ユズキに触れることさえできなかった手が虚しい。


「じゃ、ダンデ…お前はこっちな?」

「あ、はい…」


心配でユズキを追いかけようとしたダンデの肩をキバナの手が置かれ、ユズキとは別の作業場へと連れて行く。
ユズキはソニアに手を引かれ、ネズとルリナの下に連れて行かれた。


「なんだ…連れてきたんですか」

「だって仲間外れで可哀想だったもん!」

「確かに…あの子達の相手をしてくれてたけど仲間外れみたいになっていたものね」


ポケモンの相手…というよりは、ポケモンがユズキに構ってほしくて集まっていたが、なんだか仲間外れのようにも見えた。
だからソニアはこちらに連れてきたのだが、あえてダンデとは別行動させることにした。


「ダンデ君、言葉を上手く話せないユズキちゃんが困ると思って無理に輪の中へ入れないようにしてるんだと思うんだけど…こういうのってさ、言葉とか重要じゃないと思うんだよね」

「言葉は勿論大事だけど、言葉が通じない外国では大切なのは伝えようとする気持ちとコミュニケーションだってカブさんも言ってましたよ」

「まあ、そこには嫉妬とか独占欲とかあるんだろうけど」


ガラル地方はこの時期は特に外国人が多い。
その中で、ガラルで有名な外国人と言えばホウエン地方出身のカブ。
ほのおポケモンを使うジムトレーナーとして活躍しており、最初はカブも片言だったり通訳を通してインタビューを受けていた。
その際に言葉が通じなくても伝えたい気持ちがあれば手ぶりでも通じると話していた。
勿論、ポケモントレーナーを目指すならカブ達トレーナーの記事は全員チェック済みである。


「意外…ダンデって過保護なのね」


ソニア以外のこのチャレンジャーでダンデと知り合ったルリナ達はダンデは天然で我が道を突っ走る男と思っていた。
それが恋をすれば、年相応の嫉妬深い少年だと分かり、ルリナは驚く。
ただ、ホップに対するダンデのブラコンぶりを知っているソニアからしたらそれほど驚くことはない。
ただ、弟だけではなく片想いの子にも向けられると思っていなかったという驚きはあった。
今だってユズキが気になるのか、チラチラとこちらを見てはキバナに注意されている。


「じゃあ、お腹も空いたしこっちもちゃっちゃと作っちゃおう!」

「ユズキちゃん、カレー知らない感じかな…それとも言葉が通じてないって感じ?」

「カレーってどう説明すればいいのかな?」

「いやぁ…説明するより作業させた方が速くないですか?」

「そりゃそっか」

「じゃあ、ユズキちゃんは人参担当ね!」


カレーと言えば、野菜もお肉もとれて様々な栄養も取れる意外と優秀な料理だ。
それに、野菜嫌いな子供でもカレーなら好きな子も多く、お母さん達にとって助かる料理の一つである。
因みに、稀だがカレーが嫌いな人間もいる。
料理ができるか分からないが、とりあえず共同作業をすることで心を開かせようという魂胆でとりあえず包丁を握らせてみる。


「にんじぇんね?」


人参と包丁を握らされユズキは両手にある物を見た後、ソニアを見てコテンと首を傾げる。
それを見たダンデがこちらへ駆け寄ろうとしているのをキバナが止めているのをユズキ越しに見ながら、意味を理解していないユズキに言葉を教える。
多分…いや、確実に後ろで暴れている男は自分がユズキに言葉を教えたがっていたのだろう。


「えっと…にんじん」

「にんりん」

「違う違う!に、ん、じ、ん」

「に、ん、じ、ん」

「そうそう!上手い上手い!」


褒められたのは分かるのか、ニコッと微笑んだ。
ユズキの容姿は彼女の出身地ではどう評価されるのかは分からないが、ここガラルでは幼く愛らしく見える。
そんな少女が嬉しそうに笑えば、そりゃソニアだってお姉ちゃんになる。


「切り方はね―――」


ダンデの弟、ホップを可愛がっているのもあり、率先してユズキに教えていく。
ユズキは教えられた通りの切り方をしていき、ダンデ達も順調にカレーを作って行く。
ユズキは何を作っているのか全く分からないまま言われる通りの仕事だけを進める。


「うん!上手!」


幼い仕草のせいか、つい構ってしまう。
褒められたのは分かったのか、ユズキは反応するようにニコッと笑う。
ホップもよく笑顔を見せてくれる子だったため、余計に姉心が擽られてしまう。
微笑ましく感じながらも、ふとチラリとユズキのある部分を見る。


(……胸でっか…)


そこはユズキの胸だった。
ユズキはおしゃれに興味はないのかどこにでも売られているシャツを身に包んでいる。
サイズが合っていないのか少し大きいが、それが身体の線を隠していた。
それでも胸の大きさは隠しきれなかった。
斜めかけのカバンが更に胸を強調させてもいた。
ユズキの胸は同じ年頃とは思えないくらい大きかった。
子供でも人によって大人っぽい子はいるが、ユズキの身体は大人っぽい子供というよりは…大人にも見える。


(やめよう…虚しくなるだけだし…)


自分の身体が幼稚だというわけではない。
ルリナだってソニアと大して体格も身体つきも変わらないし、他の同年代の子だってそうだ。
ただ、ユズキの成長が自分達より早いだけなのだろう。
比べると虚しくなるので、ソニアは料理に集中する。
そのおかげか、カレーは予定よりも早く作ることが出来た。



「できた!ユズキちゃん!これがカレーだよ!」

「かれー」

「そう!カレー!」


ソニアが完成したと拍手すれば、ユズキも真似をして拍手をする。
ユズキの肩にはまだドラメシヤ2匹おり、彼女が拍手するのに釣られるように嬉しそうに鳴く。
その頭にはピカチュウを模したミュウもいた。


「ユズキちゃん!ハイタッチしよー!」


ルリナとネズも釣られて拍手し、カレー担当はほんわかな空気が流れていた。
言葉が通じなくとも共同作業で4人の心は1つとなったらしい。
だが、それに割って入る者がいた。
ダンデである。
ソニアとルリナとハイタッチし、流れでネズともハイタッチしようとするところへ割って入り、ユズキはダンデとハイタッチした。
友人とはいえ、自分以外の男がユズキと触れ合うのは嫉妬の対象らしい。
嬉しそうに破顔するダンデの後ろには恨めしそうな呆れたようなネズがいた。


「よし!!食べようぜ!!」

「ダンデ…次のバトルには覚えておけですよ…」


別にユズキとハイタッチしたいとか、そういうノリの性格だとかではないが…邪魔されたのは納得できない。
とりあえずこの恨めしい気持ちは、次のダンデとのバトルで晴らしてやろうと誓った。
ダンデはユズキの手を取って用意したキャンプ用のテーブルとイスに案内する。


「ユズキ!これがカレーだ!食べた事あるか?」


目の前に出されたのは、皆で作ったカレー。
ユズキは目の前に置かれたカレーを目を瞬かせて見た後、首を傾げた。
その様子から、カレーは初めてらしい。
興味深そうに見つめるユズキに、ダンデ達もテーブルを囲みながら微笑ましそうに見つめていた。
そして、実食。


「…!」

「どう、美味しい?」

「ん…おいしい…これ、かれー?」

「そう、カレー」

「…かれー……――――」

「ユズキ?」


やはり、カレーは人種関係ないらしい。
一口食べたユズキの表情から、嫌いではないとダンデ達は安堵した。
しかし、カレーを見つめユズキはダンデ達には聞き慣れない言葉を呟いた。
その言葉がユズキの国の言葉なのだろう。
何を言ったのかダンデが声をかけると、ユズキはダンデへ顔を向け首を傾げる。
『なに?何か言った?』と言わんばかりのユズキに、何を言ったのかと聞く空気ではなくダンデは『美味しいな』と言えばユズキも頷いて同意した。


「あっ…ね、ダンデ…――――?」

「ん?ごめん、分からないからゆっくり話してくれないか?」


食べている途中、ユズキは何かに気づいたようにダンデに何かを聞く。
しかし聞き取れずもう一度ゆっくり話してほしいと聞くも…


「ガル!!」


ぬっとダンデとユズキの間にガオガエンの手が割って入り、ユズキの両腕を掴むように触れる。
突然のガオガエンの手に、ユズキの肩にいた2匹のドラメシヤが驚いてピャッと飛んでドラパルトの下に戻っていった。


「ガ、ガオガエン?どうした?」


ダンデの言葉や、驚いたソニア達の視線など気にも留めず、ガオガエンはユズキをジッと見下ろして何かを訴えるように鳴き、首を振った。
それにユズキが何か言いかけたが、それを遮る様にまたガオガエンが鳴く。


「…………」


ガオガエンが何を言っているのか分かる様に、ユズキはしょんぼりとさせる。
それにガオガエンはユズキが理解してくれたと判断したのか離れた。


「…ユズキ?どうした?」

「…ちがう、なんでもない…」


ほのぼのとした空気があっという間に静まり返る。
戸惑いながらダンデが問うもユズキからは『何でもない』と首を振った。
それ以降、ユズキは何も喋ることはなかった。

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