(27 / 43) その生命に恋う (27)

ポケモンのおかげで今日は食べ物を探しに行かなくてもよく、今日は一日テントに籠っていた。


「みゅ…」


今日の様な日、アキはテントにいる女の傍を離れない。
あれ以来、女の容態は更に悪化し傷は塞がらず血があふれ、更には膿んだのか嫌な臭いまでテントに漂う。
女はもう食事が喉を通らず、ポケモン達が採ってきてくれた木の実を絞って何とか生きながらえている状態だった。
傷から来る熱でぬるくなった布を水で冷やしもう一度額に乗せる。
つらそうに顔を顰め冷や汗を流すその汗を一生懸命拭きとってやる。
そんなアキの傍にミュウがいた。
ピカチュウや他のポケモンに変化せず、女を心配するアキを心配していた。
女も勿論心配だ。
アキを助けてくれたし、守ろうとしてくれている。
だが、ミュウにとって最優先は女や他の人間ではなくアキただ1人。
引き継がれたあの子の忘れ形見を守らなければならない。
表情に乏しさはまだあるが、連れ出した時に比べれば大分薬が抜けたようだった。
心配そうに女を見つめるアキを見てられず、ミュウはアキの傍から離れ姿をピカチュウへと変えてからテントを出る。
自分が幻のポケモンである事と人間にとってそれが希少価値になることを知っているからだ。


「ピカァ!」


外に出るとガオガエン達がいた。
ここ最近女の不調からガオガエン達は自分達のボールに帰るのを控えていた。
ボールに入ってしまうと人間の手でなければ出られないからだ。
テントには流石に身体の大きいガオガエン達は入れず外で警戒をしていた。
ガオガエンの下にミュウが駆け寄り、ピカチュウの声で訴える。


「グルル!」


その声にガオガエンは唸り声で返す。
勿論、その意味は否定的なものだ。
それでもピカチュウは退かず、ヌオーとウォーグルも二匹に歩み寄り彼らのやり取りを見守る。


「ピカピカ!ピッカ!ピカ!」


ピカチュウはもう潮時だと言った。
女の体調はポケモンでも分かるほど日に日に悪化している。
逃亡中というのもあって病院で治療も受けることも出来ず、食事も木の実の汁だけ。
最初こそポケモン達が捕ってくれた焼き魚を口にしても食べる事が出来ていたのに、最近は固形物を受け入れなくなった。
常に血が流れているため顔色も悪く、膿で更に傷口は悪化していく。
すでに女が買った医療品は底をついており、包帯を洗って回しながら使っているが、それも衛生的に良いわけではない。
ピカチュウは…ミュウははっきりと言った。


- あの人間は近いうちに死ぬ -


その言葉にガオガエンは更に低く唸り口角を上げて牙を露わにする。
主人をはっきりと死ぬと言ったミュウにヌオーもウォーグルもいい顔はしなかった。
だが、誰も反論はしない。
そんな分かりきったこと、言われなくてもガオガエン達だって分かっていた。
だが、ミュウと違いガオガエン達にとって女は幼い頃から共に過ごしたパートナーだ。
分かっていても認めたくないと思うのは当然だろう。
ミュウにとって女はただの人間で、手助けしてくれた存在であっても、ガオガエン達にとっては大切な家族だ。


「ぬ…ぬぅ…」


ヌオーの声がガオガエンの耳に届く。
彼女の方へと視線を向ければ、彼女の真ん丸な目から涙があふれていた。
傍にいるウォーグルが彼女を慰めるためにすり寄るが、そんな彼の表情も悲しげだった。
種族柄感情を表すのが苦手な彼女の涙に、ガオガエンは何も言えず彼女の涙から顔を逸らした。


「………」


ミュウが何を言いたいのか、分かっている。
いい加減に腹を括らなければならない。
女はもう進むことは無理だ。
ガオガエン達が運ぶのも傷から無理だろう。
運べたとしても、ここからどうやってアキを守り続けるのか。
遥か昔なら森でアキを他のポケモン達と守り続けることも可能だろう。
だが、現代では無理だとガオガエンも分かっている。
現代はポケモンと共存しすぎている。
だが、ミュウの提案にガオガエンは言った。


- 幼いアレに何ができる -


ミュウの提案は人間を頼る事。
そこに異論はない。
ポケモン達だけでアキを守ることができないのなら、人間の手を借りるしかないのは分かる。
だが、頼る先が問題だ。
幼いアレ、とはダンデの事を指す。
これまでダンデとの対話で彼がアキを傷つける人間ではないとガオガエンだって分かっている。
しかし、ミュウの提案に乗るにもダンデは幼すぎている。
ポケモンの育成やバトルの腕はいいかもしれないが、人間の世界ではダンデはまだ親の庇護下にいるべき人間だ。
ダンデを頼っても結局は引き離されるのは目に見えている。
もしも教団の人間がアキを見つけたら。
そして―――アレがアキを見つけたら。
ただでさえ教団相手だけでも厄介だというのに、アレにも見つかったのなら、もうポケモン達には手が出せない。
アレは創造神以外に敵う者はいないのだ。
それを指摘されミュウは口を噤んだ。
正論だからだ。


「ピ、ピカピカ…」

「ガルル…」


『彼のような人間なら大人たちも良い人間だ』、とミュウは言うが、『その証拠はどこにある』とまた正論を言われた。
ダンデが良い人間なのはガオガエンだって認めてはいる。
そのダンデの友人達だって良い人間だが、彼らの周りまでが良い人間とは限らない。


- でも、誰かを信じなきゃあの子は救えない…他の子達と同じ運命を辿ることになってしまう… -


ウォーグルが鳴く。
ヌオーの傍に寄り添うウォーグルの言葉に2匹は口を噤む。
ウォーグル達は誰も信用ができないまま今に至っている。
アキと仲のいいあの子供達は良い人間とは思っているが、それでも本当に信じていいのか分からない。
そもそも、人間に言っても誰も信じてはくれないだろう。
彼らからしたらアキは戸籍のないただの人間だ。
守ってくれと言って、何からと問われて答えたとして…戯言だと思われて放り出されるだけだ。
それに証拠もない。
ポケモン達だけがアキが引き継がれた忘れ形見である事に気づく事が出来るのだ。
だが、ウォーグルの言葉通り、誰かを信じなければ今の状況を脱することは不可能。


- ………分かった…次、アイツに挑まれたら認めるよう努力する -


ぐぐぐ、とガオガエンが本当にほんっっっとーーに、渋々頷いた。
アキのためだと思えば、嫌だが認めざるを得ない。
元々、ダンデの事は認めていないわけではなかった。
ただ、簡単に認めるのはアキを守る者としてガオガエン自身が許せなかった。
ミュウ達は頷いたガオガエンに安堵した。

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