(28 / 43) その生命に恋う (28)

いつものようにアキとダンデは会って過ごしていた。
今日はキバナ達はおらず、アキを独り占めできるとダンデは喜んでいた。


「グルル…」


ダンデはいつものように、ガオガエンと対峙していた。
その前にはリザードンがおり、足元にはカジッチュが2匹のバトルを見ようと意気込んでいる。
アキはピカチュウを膝に抱き、1人取り残されていることには気づいていない。


「ガオガエン!今日こそ負けないからな!」

「ガルル!」


やれるものならやってみろ、と言わんばかりに挑発めいて笑うガオガエンに、リザードンもダンデもやる気が増す。
最近、アキは用事があるのか以前よりも一緒にいられる時間が短くなっており、ダンデも焦っていた。


(もしかしたらもう帰国するのかもしれない…!早くガオガエンに勝ってカジッチュを渡さなきゃ!)


長く短い付き合いとなったが、今日までアキという人間の事は分からなかった。
どこに住んでいて、なぜガラルに来たのか、家族構成ですら分からずじまい。
それどころか、旅行で来たのか、親の転勤で来たのか、チャレンジを見学するために来たのかも分からない。
焦るのも無理はなかった。
リザードンはガオガエンと戦えて満足そうにしているが、主人であるダンデはその真逆である。
アキという人間が分からない以上、最近帰りが早いのは帰国への準備をしているのかもしれないという焦りがあった。
ソニアとルリナにカジッチュのジンクスを教えてもらったが、ダンデは無理に告白する気はなかった。
アキにカジッチュを渡したいだけである。
ダンデ自身、ジンクスを信じているわけではなく、ルリナ達が言った『好きな子の手持ちの中に自分が贈ったポケモンがいる』という構図にグッと来ただけである。
それもアキはバトルに興味がないため、入れ替えることは早々ないだろう。
自分が贈ったカジッチュがアキの傍にいる。
そう思うと、例え離れていても繋がっていられる気がした。


「リザードン!『エアスラッシュ』だ!!」


バトルはこちらに勝ち星が傾いている。
そもそも、いくら強くてもトレーナーがいるいないかで戦い方が全く異なる。
とはいえ、アキはバトルに興味がなく、ガオガエンも単体での勝負に拘ってアキをトレーナーとして立たせることはしなかった。
何度かキバナ達が遊びの延長でバトルをアキに教えようとするも、アキはバトルが下手だと分かった。
バトルは何もポケモン達が戦い、技を叫ぶだけではない。
野生であれトレーナーであれ、相手の出方を読みピンチを勝利に変える力量が必要だ。
勿論、そんな難しいバトルばかりがポケモンバトルではないが、アキは子供達が練習として行うバトルでさえもポケモン達に上手く指示を出せなかった。
どのタイミングで指示を出せばいいのか分からないのだ。
それにアキはバトル後に傷薬などで傷が癒えるとはいえ、わざわざ怪我をしてまでバトルする意味を感じなかった。
当然バトルが苦手な人や嫌いな人がいるのは理解しているし、そんな人に無理矢理バトルに誘うなんてダンデ達もしない。
人には得手不得手があるのだ。
ただ、バトルをするのは苦手ではあるが、ポケモン達がバトルするのには否定的ではないらしく、こうしてガオガエン達がダンデ達とバトルするのには何も言わない。


「『フレアドライブ』が来るぞ!交わせ!」

「バギャ!」


同じタイプのポケモンだが、複合は異なる。
だが、残念ながら飛行を持つリザードンも、悪を持つガオガエンも、どちらも弱点にはならない。
だが、いまいち効果がないわけでもない。
同じ炎タイプなため泥沼ではあるが、決して勝敗がつかないわけではない。
強力な技を放ったガオガエンにリザードンは避けようとするがタイミングが合わず受けてしまう。
受けてしまったリザードンは吹き飛ばされたが、根性によって立て直す。
『フレアドライブ』は威力はあるが、その代わり反動が襲ってくる。


「踏ん張れリザードン!!『エアスラッシュ』!!」


羽で空気の刃を生み出す。
エアスラッシュは反動で動けないガオガエンに当たり、更に運はダンデに向けられた。


「グ…っ」

「いいぞ!怯んだ!」


エアスラッシュは30%の確率で怯ませることができる。
その30%を引き当てた。
そして、ダンデは畳みかける。
リザードンは周囲に化石を浮かせ―――


「今だ!『げんしのちから』!!」


その全てをガオガエンにぶつけた。
炎ポケモンにとって岩タイプの技の効果は抜群となり、残り少なくなっていた体力は一気に減る。


「ピカ!ピカピー!」


キバナ達がいないため、審判はピカチュウに任せた。
バトルが苦手なアキは審判も出来なかったためだ。
ピカチュウは勝利を示す手をリザードンに向け、リザードンは勝利の雄たけびを上げ、口から炎を吐き出す。


「ガオガエン!バトルしてくれてありがとう!」


前回はガオガエンに負けた。
そして、今日はガオガエンに勝った。
負けた悔しさも、勝った嬉しさも、ダンデは嫌いではない。
負けたら悔しいが、次は勝ってやると更にポケモン達と切磋琢磨し磨く事が出来る。
負けはそこで終わりではなく、前に進む道となるのだ。
傷を負って倒れるガオガエンに駆け寄り、ダンデは傷薬を塗った。
その後、リザードンにも傷薬を塗ると2匹は元気になった。
空になった傷薬の容器をカバンに仕舞うとダンデはまっすぐアキの下へと向かう。
ガオガエンに勝利すると、彼からアキとの対話を許されるのである。


「アキ!見てたか!勝っ――――」


ガオガエンに勝ったのは初めてではないが、勝利は何度味わっても嬉しさの感情は変わらない。
相手はその駆け寄るアキのポケモンだが、アキは気にしていないのか、いつも自分のポケモンを負かせて嬉しそうにするダンデに『おめでとう』と覚えたての言葉を贈ってくれる。
世界一のファンである弟ホップの声が届かなくて寂しかったが、アキの声で何とかダンデの心は安定した。
アキと出会ってから更にバドルの調子が良く、最近は負けなしとなっていた。
せっかくアキと話せると嬉しくて駆け寄ろうとするも、首根っこを掴まれ引き留められた。
後ろを見れば、先ほど負かしたガオガエンだった。


「ど、どうしたんだ?今日は俺達が勝ったからアキと話してもいいだろ?」


引き止められた理由が分からない。
あるとしたら、アキに近づかせないためのガードマン。
だが、今日はリザードンが勝利を収めたので、許されるはず。


「ガルル…ガル」


首根っこを掴んだ後、ガオガエンは指を足元にいるカジッチュに向けた。
その意味が分からなかったダンデはカジッチュからガオガエンへ向ける。
首を傾げるダンデに、ガオガエンはもう一度カジッチュへ指さした後、ダンデを指さし、そして最後にアキに指さした。
その意味をやっと理解したダンデはギョッとした顔でガオガエンを見上げた。


「い、いやいやいや!!!えっ!!?いや……ええ…?でも…俺…今アキに告白するつもりは…」

「ガウ!!グルル…!」

「わ、分かった!渡すだけ!な!渡すだけ!!」

「ガウ!ガル!」

「えっ!駄目なのか!?こ、告白するまで離さない!?アキと離れないのは好都合だけど……でも…その…ま、まだ告白は早いかなぁって…」

「…………」

「アッッ!!します!告白しますから頭潰そうとしないでくれ!!!」


うじうじとしているとダンデの頭にもっふもふのプニプニの手が覆った。
ガオガエンの手だ。
もふもふは毛、プニプニは肉球である。
ガオガエンはピカチュウから教えてもらったのか、ダンデの足元にいるカジッチュの意味を知っている。
今まで潔癖なまでにアキとの間に入って邪魔をしていたというのに、何故か急にダンデの背中を押してきた。
怪しむ暇なく、ダンデは脅されアキの前に出される。


「ピカピカァ」


あれだけ認めてくれとバトルを仕向けていたというのに、直前となると腰が引いて告白したくてもしようとしない。
自分はそんな男に負けたわけじゃないぞ、とダンデの背中を押すと、足元からピカチュウの呆れた声が聞こえた。
『それはやりすぎだよ』と言うピカチュウに扮しているミュウにガオガエンは鼻を鳴らした。
『こいつがいつまでもうじうじとしているからだ』というガオガエンに、本来ならダンデの味方であるはずのリザードンも頷いていた。
容赦のない2匹に、ミュウは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「アキ!!」


誰でもないガオガエンに背中を押されてしまえば、告白しない選択は取れない。
告白がどうこうではなく認められてバトルを続けていたのだ。
最近はガオガエンとバトルするのが楽しかったというのもあるが。
ダンデ達が楽しく何かやってるなぁ、としか考えていなかったアキは、ダンデに呼ばれ『なぁに』と小首をかしげた。
その仕草が可愛くてダンデは告白するという緊張も相まって『うぐっ』と言葉を詰まらせてしまう。
しかしリザードンがトンと背中を爪で軽く叩いて更に追い込む。
逃げ場のないダンデは足元にいるカジッチュを抱いてそのままアキに差し出す。


「す、好きです!!付き合ってくださいっ!!」


両手で抱いてカジッチュを差しだすダンデにアキは目を瞬かせた。
アキから返事がない限りは頭を上げる気はないダンデは気づいていない。
ポケモン達は固唾を呑んで人間の2人を見守っていた。
そして、アキは―――


「しゅき…ちゅきかう…なに?」


その言葉に全員がずっこけた。
ダンデはアキの返答に『そりゃそうだ』と恥ずかしそうに笑って頬をかく。
最初よりも言葉を覚えたとはいえ、日常会話のみでの限定だ。
まだ『好き』と『付き合う』という意味を教えてもらえていないアキは意味すら知らない。


「あー…うーん……その…あげるって、意味…かな…」


あはは、と乾いた笑いを浮かべて説明するが、ダンデは勢いを殺されて本当の意味を教える気はなかった。
やる気が削がれたのもあるが、何より告白を説明するのは流石に恥ずかしい。


「バキャ!!」

「ガルル!!」


二匹から抗議が来た。
しかしダンデは知らん顔である。
抱っこされているカジッチュはまだ幼いのもあって首を傾げていた。
両脇から強面のオスが二匹、子供のダンデに何か言っているが、ダンデは耳を塞いで聞こえていないフリをする。
ダンデはもう告白する気はないようだ。


「ピカ!ピカピカ!ピカ!ピカピ!」

「好きは『――』…付き合うは『――――』」


しかし、裏切り者がいた。
ピカチュウに扮しているミュウである。
ミュウはアキに人間の言う『好き』と『付き合う』とはどういう意味を持つのかを説明する。
ポケモンの言葉は分からないが、アキの呟きに何を説明したのか分かった。


「ピ、ピカチュウ!!」


思わず怒鳴ると、その声に反応してアキがダンデを見た。
アキの視線とダンデの視線が重なり、ダンデは意味を知ってしまったアキに何も言えなくなってしまった。
顔が熱くなっているのが分かり、自分の顔は真っ赤になっているのだけは分かった。


「ダン…」

「い、いいいい今のは!き、きき、聞かなかったことにしてくれ!!!」


顔を真っ赤にさせながらダンデはアキとは真逆に走り出した。
後ろからポケモン達の驚いた声と相棒の『ばぎゃ!?』という声が聞こえたが今はそれどころではない。


「ぴ、ぴかぴかぁ…」


パートナーは迷子の申し子であると常日頃から仲間達と言っているリザードンは、パートナーの突然の行動に唖然としていたが慌ててダンデを追いかけた。
その場は困惑したピカチュウの声と、呆れたガオガエンの声だけが響いていた。


「カジ〜」


アキの腕にはダンデが無意識に押し付けたカジッチュが抱かれていた。
すでに彼や彼の相棒の姿は見えず、追おうにも女が気になって今以上に離れたくはなかった。
どうしようかと腕の中にいるカジッチュを見ると、カジッチュは嬉しそうにアキにすり寄った。
甘えるカジッチュにアキも微笑む。


『大丈夫…近いうちにダンデ君のところに帰してあげるからね』


ダンデに贈られたと気づかず、アキはまたダンデと会えた時に帰してあげればいいかと甘えるカジッチュを優しく撫でる。
しかし、ダンデも、アキも…ポケモン達も知らない。

―――これが、彼らのお別れだということを。

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