(31 / 43) その生命に恋う (31)

アルシオンに見つかったユズキはウォーグルに乗ってアルシオンの手から逃げ回っていた。


「キュィィ!!」

「黙れギラティナ!!お前も私の邪魔をするのか!!お前とてどちらがツバキを守れるのか分かるであろう!!なぜそのポケモン達に許す!!!」


飛んで逃げ回るユズキを追いかけ、捕まえようとするも、それをギラティナが間に入り邪魔をする。
ミュウ達を庇い、そして匿ったギラティナに怒りを露わにした。


「ミュ!!」


ギラティナと共にミュウも二匹の間に入るも、アルシオンの怒りは収まらない。
『あやしいひかり』を放ち、防ぐことができなかったギラティナが混乱してしまう。


『――っ』


混乱したギラティナは敵味方が分からなくなり、その場で暴れはじめる。
アルセウスと同じ巨体を持つギラティナが暴れてしまうと、ユズキ達を気遣っていてもどうしても危険は避けられない。
ギラティナがあちこち飛び回ると、身体がかすっただけでも突風でウォーグルの軌道が歪む。
更に追い打ちをかけるように、通り過ぎる際ギラティナの尾がユズキとウォーグルに向けられる。
羽を動かしなんとか落下を免れたウォーグルだったが、ギラティナの尾がユズキへ直撃すると気づき、咄嗟に庇う。


『ウォーグル!!』


ユズキの悲鳴にも似た声にミュウがいち早く気づく。
ミュウはギラティナを混乱させユズキを奪おうとするアルシオンの相手をしていた。
だが、ユズキの声に気づき視線をそちらへ向ける。
ユズキを庇ったウォーグルがその強い衝撃に気を失い落下しているのが見えた。
彼の背には落ちないようウォーグルにしがみつきながらも彼の名を呼ぶユズキの姿があった。


―――ユズキ!!


ミュウは、目の前の敵よりもユズキを優先した。
小柄さを生かして、アルシオンに追いつけない速さでユズキの下へ急ごうとした。
その隙をアルシオンは狙った。
背を向け、あっという間に小さくなっていくミュウへ向かって、アルシオンは『ギガドレイン』を発動させた。


「ミ"…っ!」


『ギガドレイン』は相手にダメージを与えながら自身も回復する技だ。
アルシオンも、ミュウ相手にその技だけで優位に立てるとは思っていないが、散々削られたアルシオンに癒しを与えた。
そして、一瞬の隙を生んだ。
アルシオンはミュウの生命力が吸われた、その一瞬を狙う。
黒、紫のプレートを表へと顕現させ、ミュウを囲むように操る。
するとプレートがミュウを囲み、共鳴と同時に電撃が弾けた。
バチバチと火花がミュウを襲う。
プレートは色によってタイプが異なる。
黒色のプレートは、『あくタイプ』
紫色のプレートは、『ゴーストタイプ』
どちらもミュウの弱点だ。
そのため、相手は一体であるにもかかわらず、ミュウは複数の存在から同時に攻撃を受けているように感じていた。
アルシオンの所有するプレートは全部で10枚。
そのすべては創造主からの贈り物だ。


「フン…裏切り者どもめ…そこで指を咥えて見ているがいい」


苦しむミュウを横目にアルシオンは落下しているユズキの下へと向かおうとした。
だが―――体が動かなかった。
その場に冷気が漂う。
アルシオンの巨体がカチコチに凍りつく。
しかし、すぐに氷を砕きミュウを睨む。
ミュウが捕らわれながらも、『ふぶき』で体を凍らせてアルシオンの動きを止めたのだ。


「き、さま…!」

―――行かせないよ!!ユズキには指一本触れさせない!!


ユズキの下へ向かおうとしたアルシオンの前に立ち塞がり、氷のつららを周囲に作り出し先をアルシオンに向けるようエスパータイプの力で動かす。
ユズキに一歩でも近づけば氷のつららを撃つ、という脅しである。
辺りへ撒き散らされるような冷気に、アルシオンは悔し気に顔を顰めた。
アルシオンの足止めを成功させたミュウはユズキとウォーグルの落下位置を確認し、ユズキ達が落ちる場所にピンク色のシャボン玉を作る。
何とか間に合いシャボン玉に受け止められるも、ユズキとウォーグルは跳ね返った衝撃に飛び上がって地面に倒れてしまう。


『ウォーグル!ウォーグル!!』


軽く地面に落ちたユズキは自分の身体を気にするよりも傍に倒れているウォーグルへ駆け寄る。
呼びかけるとやっとウォーグルの目が開いた。
しかし、動けないのか弱々しい声で鳴きながら視線をユズキへ向けることしかできなかったが、彼が目を覚ました事にユズキは安堵する。


『ウォーグル…大丈夫?』


そう問えば、また弱々しい鳴いた。
それがまた可哀想で見てられないほど弱っており、ユズキは何もしてやれない自分が腹立たしい。
しかし、カバンに薬を入れていたのを思い出す。


『そうだ…拾っておいた傷薬…まだ残ってた気が…』


最初こそ、バトルを終えたガオガエン達をダンデ達に傷薬を分けてもらっていた。
だが、最近は『あの薬、どこで買うんだろう』という呟きを聞いたポケモン達が薬をユズキに贈ってくれるようになった。
お金を持っていないポケモン達がどうやってアイテムを持ってくるのかと心配していると、彼らからアイテムは落ちている物を拾っていると聞き安心した。
ポケモン達からのプレゼントのアイテムをいくつかカバンに入れて持ち歩いている。
その中には傷薬も入っていた。


『でも…これ…えっと…「き、ず、ぐ、す、り」…傷薬だもんね…ウォーグル…怪我しているようには見えないけど……ごめんね、ちょっと、身体見せてね』

『うぉぐ…』


パッケージを見ればユズキには見慣れないが、傷薬と書かれていた。
『傷薬』という言葉は、ダンデから教えて貰って読めたが、裏に書かれている注意書きや説明書きが読めない。
なんとなく目を凝らしても読めないものは読めない。
だが、傷薬と言うくらいだから外傷に使う薬なのだろう。
しかし、そう思ってウォーグルを見るも、彼の身体は羽毛に包まれて傷が分からない。
あまり傷に響く行為はしたくないが、怪我を放っておけない。
ウォーグルもそれを理解して大人しくユズキに触れさせた。


「キュィィ!!」


傷を探しているとまだ混乱が切れていないギラティナが真っ直ぐユズキ達の方へと突っ込んできた。


『やめて!ギラティナ!!』


突っ込んできたギラティナだったが、ユズキの声に軌道をずらした。
混乱していても無意識にユズキの存在に気づいているのか、何とか身体を捻ってユズキに突撃することはなかったが、地面に激突は避けられなかった。
破片が飛んでくるとユズキは咄嗟に動けないウォーグルを庇おうとした。
だが、気づいたらユズキは仰向けに倒れていた。


『ウォ、グル…?』


ウォーグルを庇っていたユズキだったが、逆に怪我を負っていたウォーグルに庇われてしまった。
ユズキ達が落ちたこの場所は、どこにでもある街の歩道。
巨体を持つギラティナが勢いよくぶつかれば、砕けた破片があちこちに飛び散るのは当然だった。
ぶつかるのは避けられたがコンクリートやレンガの破片がユズキとウォーグルに飛んでしまう。
このままでは自分を庇うユズキに大怪我を負わせてしまう。
ポケモン達は、ユズキを守らなければならない。
あの子の血を、ここで絶やしてはいけないと。
あの子が父のために絶やさないよう紡いできた糸。
ミュウのように長命な個体ではない自分でさえ遺伝子に刻まれた絆。
自分の命でユズキを守れるのなら、ポケモン達は喜んでその命を捧げる。
だが。


『ウォーグル…っ』


だが、きっと、ユズキも、あの子もそんなことは望んでいない。
だけど、庇わずにはいられない。
あの子もこの子も、愛しているから。
ユズキへ覆い被さるウォーグルへ触れると、ユズキの手が濡れた。
水とは違う感触に、手の平を見ると真っ赤に染まっていた。
それが血だと頭では理解しても、体が動かなかった。
ウォーグルが自分を庇って怪我をしてしまったことがショックだった。


『ウォーグル…!待ってて!今…傷薬で治してあげるからね…!』


傷薬を吹きかけると、ウォーグルは痛そうに顔を顰め声を漏らすが、大人しくしていた。

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