(32 / 43) その生命に恋う (32)

傷の手当も済みウォーグルが落ち着くまで撫でていると、瓦礫の落ちる音がした。
そちらに視線を向けるとギルティナがいた。
突っこんだのは良いが、貫通することはなく倒れてしまったギラティナが意識を取り戻したらしい。
混乱の影響もあって疲れたのか、弱弱しく鳴くギラティナに近づく。


『大丈夫?ギラティナ…』

―――わからない…つらい…いたい…いたいよ…アキ…


ギラティナのつらく泣きそうな声にアキも泣きそうになる。
少しは落ち着いたのかアキの姿が認識できる程度に回復したが、あちこちぶつかったりと暴れた際に負った傷に痛い痛いと泣いた。
キュィキュィと泣くギラティナに撫ると落ち着いてきているのが分かる。
チャチャと爪が地面に当たる特徴のある足音に振り返ると、ウォーグルが立ち上がって歩み寄ってきているのが見えた。


『ウォーグル!傷が広がっちゃうから安静にしてて!』

―――アキが薬を塗ってくれたから大丈夫だ…ギラティナ、落ち込む必要はない…俺だって『こんらん』することもある…俺もアキも気にしていない


まだ塞がりきれていないのか動くと訪れる痛みに顔をしかめるも、本人が言う通り血の量が多いわりには怪我はそれほど深くはないようでアキは安堵した。
羽を広げてみせるウォーグルの言葉に、ギラティナは『ありがとう…ごめんね』と鳴いた。


―――アキ…ぼくが表に帰すから…逃げて…


混乱はアキのおかげで解除された。
はっきりとした意識でギラティナは出口を作るからそこから逃げろと言った。


『でも…ギラティナは?』


頷きかけたアキだったが、ふと疑問に思う。
逃げるのは賛成だ。
だが、ギラティナはこの空間から抜け出すことはできない。
それがギラティナへアルセウスが科した罰だからだ。


―――ぼくは兄さんを足止めするよ…だから…外に出たらできるだけ遠くへ逃げるんだ…

『そんな…ギラティナを置いていけないわ…』


ギラティナには世話になった恩がある。
危険を覚悟してアキ達を匿ってくれた。
何よりもギラティナは家族だ。
そんなギラティナを置いて行くなんてアキには無理だと思った。


―――アキ…ギラティナを思うのなら…ギラティナの願いを叶えるべきだ…

『ウォーグル…』


ウォーグルの言葉にアキは唇を噛む。
今はミュウが抑えてくれているが、実力からしたらアルシオンの方が強い。
ミュウがここまでアルシオン相手に時間を作ることができるのは、プレートの1つがないからだ。
でなければ今頃ギラティナが助けてくれる前にポケモン達はアキをアルシオンに奪われている。
だからこそ、ギラティナの願いを叶えてやるのも恩返しの1つになる。
それはアキも分かった。
だが、簡単に頷くにはアキはポケモン達に心を許しすぎている。
頷く事できないがその代わりにギラティナを撫でる。
その手にギラティナはすり寄る。


―――ぼく達の可愛い子…ぼく達はいつだって君達の味方だよ…離れていてもそれを忘れないで…


キュゥキュゥとギラティナは甘えるように鳴いた。
その声は切なそうであり、悲し気で、それでも愛おしそうだった。
その声がアキの心を締め付ける。
しかし、こうしている今もミュウが頑張ってくれているのだ。
アキは足止めをしてくれるギラティナに謝罪とお礼を込めてキスを送った。
愛し子からの愛をギラティナは嬉しそうに目を細め、そして、アルシオンとミュウの下へと飛んでいく。


―――乗れ、アキ


ギラティナを見送っていると、ウォーグルが屈んで待っていた。
ウォーグルの怪我も治ってはいないが、今更それを言ったって意味はないのをアキは知っている。
みんな自分を守るために傷ついている。
この年で悲劇のヒロインぶるつもりはないが、やはり自分のせいで彼らが傷ついていると思うと心苦しい。
傷には触れないよう気を付けながらウォーグルの上に乗ると、ウォーグルはアキが落ちないようしがみ付いたのを確認し羽ばたかせ飛ぶ。


―――ミュウ!来い!!


アキの声ではアルシオンにすぐに気づかれる。
今のアルシオンはアキと兄弟以外に興味を持っていないため、アキの代わりにウォーグルがミュウを呼んだ。
ギラティナと共に戦っていたミュウはウォーグルの声にすぐにアキ達の下へと向かおうとした。
背中を向けるミュウにアルシオンは『あくのはどう』を放った。
間に入ろうとするギラティナだったが、間に合わず、ミュウの小さな身体に『あくのはどう』が当たり、最悪な事に確率20%を引いてしまい怯んでしまう。
追い打ちに『ナイトヘッド』で自分がミュウに与えられた威力をそのまま返す。
そして、止めに入ろうとしたギラティナを軽く交わしながらアルシオンは厄介なミュウを確実に落とすため『メガホーン』を放つ。
虫技で最も威力のあるその技を怯んでいるミュウが交わせるわけがなく、無情にも当たってしまった。


『ミュウ!!』


血を散らしながら落ちるミュウにアキは手を伸ばし、受け止めた。
傷を負ったミュウの血がアキの服に広がる。
ミュウは気を失ってはいないが大ダメージに動けなかった。


―――出る!!捕まっていろアキ!


ミュウのボールはあるが、ミュウをボールに戻す暇はなかった。
仕方なくウォーグルと自分の間に挟むことでミュウを落とさないようにし、ウォーグルの身体にしがみつく。


「ツバキ!!」


後ろからアルシオンの声がするが、アキは聞かなかったフリをした。
振り返ったら駄目だと思った。
目をぎゅっとつぶり、アキはウォーグルと共に反転世界から外へと出た。

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