傷の手当も済み、ウォーグルが落ち着くまで撫でていると、瓦礫の落ちる音がした。
そちらに視線を向けるとギラティナがいた。
突っ込んだのは良いが、貫通することはなく倒れてしまったギラティナが意識を取り戻したらしい。
混乱の影響もあって疲れたのか、弱々しく鳴くギラティナに近づく。
『大丈夫?ギラティナ…』
―――わからない…つらい…いたい…いたいよ…ユズキ…
ギラティナのつらく泣きそうな声にユズキも泣きそうになる。
少しは落ち着いたのかユズキの姿が認識できる程度に回復したが、あちこちぶつかったりと暴れた際に負った傷に痛い痛いと泣いた。
キュィキュィと泣くギラティナに撫でると落ち着いてきているのが分かる。
チャチャ、と爪が地面を叩く特徴的な足音に振り返ると、ウォーグルが立ち上がって歩み寄ってきているのが見えた。
『ウォーグル!傷が広がっちゃうから安静にしてて!』
―――ユズキが薬を塗ってくれたから大丈夫だ…ギラティナ、落ち込む必要はない…俺だって『こんらん』することもある…俺もユズキも気にしていない
まだ塞がりきれていないのか動くと訪れる痛みに顔をしかめるも、ウォーグルの言う通り、血の量が多いわりに怪我はそれほど深くはないようでユズキは安堵した。
羽を広げてみせるウォーグルの言葉に、ギラティナは『ありがとう…ごめんね』と鳴いた。
―――ユズキ…ぼくが表に帰すから…逃げて…
ユズキのおかげで混乱も解けた。
はっきりとした意識でギラティナは出口を開くから、そこから逃げろと言った。
『でも…ギラティナは?』
頷きかけたユズキだったが、ふと疑問に思う。
逃げるのは賛成だ。
だが、ギラティナはこの空間から抜け出すことはできない。
それがギラティナへアルセウスが科した罰だからだ。
―――ぼくは兄さんを足止めするよ…だから…外に出たらできるだけ遠くへ逃げるんだ…
『そんな…ギラティナを置いていけないわ…』
ギラティナには世話になった恩がある。
危険を覚悟してユズキ達を匿ってくれた。
何よりもギラティナは家族だ。
そんなギラティナを置いていくなんてユズキには無理だと思った。
―――ユズキ…ギラティナを思うのなら…ギラティナの願いを叶えるべきだ…
『ウォーグル…』
ウォーグルの言葉にユズキは唇を噛む。
今はミュウが抑えてくれているが、実力からしたらアルシオンの方が強い。
ミュウがここまでアルシオン相手に時間を作ることができるのは、強者といえど抜け穴が存在するからだ。
創造神とは異なり、アルシオンはプレートを10枚しか所持していない。
10枚といえど脅威ではあるが、所持していないタイプの技を放てば対抗は可能である。
もし創造神と同等の力を持っていたのなら、今ごろギラティナが助けに入る前に、ポケモンたちはユズキをアルシオンに奪われていただろう。
だからこそ、ギラティナの願いを叶えてやるのも恩返しの1つになる。
それはユズキも分かった。
だが、簡単に頷くにはユズキはポケモン達に心を許しすぎている。
頷くことができないが、その代わりにギラティナを撫でる。
その手にギラティナはすり寄る。
―――ぼく達の可愛い子…ぼく達はいつだって君達の味方だよ…離れていてもそれを忘れないで…
キュゥキュゥ、とギラティナは甘えるように鳴いた。
その声は切なそうであり、悲しげで、それでも愛おしそうだった。
その声がユズキの心を締め付ける。
しかし、こうしている今もミュウが頑張ってくれているのだ。
ユズキは足止めをしてくれるギラティナに、謝罪とお礼を込めて口づけを送った。
愛し子からの愛をギラティナは嬉しそうに目を細め、そして、アルシオンとミュウの下へと飛んでいく。
―――乗れ、ユズキ
ギラティナを見送っていると、ウォーグルが屈んで待っていた。
ウォーグルの怪我もまだ治っていないが、今更それを言ったって意味はないのをユズキは知っている。
みんな自分を守るために傷ついている。
今さら悲劇のヒロインぶるつもりはないが、やはり自分のせいで彼らが傷ついていると思うと心苦しい。
傷へ触れないよう気を付けながら、ウォーグルの上に乗ると、ウォーグルはユズキが落ちないようしがみついたのを確認すると、羽ばたいて飛び立った。
―――ミュウ!来い!!
ユズキの声ではアルシオンにすぐに気づかれる。
今のアルシオンは、ユズキと兄弟以外へ意識を向けていないため、ユズキの代わりにウォーグルがミュウを呼んだ。
ギラティナと共に戦っていたミュウはウォーグルの声にすぐにユズキ達の下へと向かおうとした。
背中を向けるミュウにアルシオンは『あくのはどう』を放った。
間に入ろうとするギラティナだったが、間に合わず、ミュウの小さな身体に『あくのはどう』が当たり、最悪なことに確率20%を引いてしまい怯んでしまう。
追い打ちに『ナイトヘッド』で自分がミュウに与えられた威力をそのまま返す。
そして、止めに入ろうとしたギラティナを軽く交わしながらアルシオンは厄介なミュウを確実に落とすため『メガホーン』を放つ。
虫タイプ最強クラスの威力を持つその技を、怯んでいるミュウが躱せるわけがなく、無情にも当たってしまった。
『ミュウ!!』
血を散らしながら落ちるミュウにユズキは手を伸ばし、受け止めた。
傷を負ったミュウの血がユズキの服に広がる。
ミュウは気を失ってはいないが、大ダメージで動けなかった。
―――出る!!捕まっていろユズキ!
ミュウのボールはあるが、ミュウをボールに戻す暇はなかった。
仕方なく、ウォーグルと自分の間へミュウを挟み込み、ウォーグルの身体にしがみつく。
「ツバキ!!」
後ろからアルシオンの声がするが、ユズキは聞かなかったフリをした。
振り返ったら駄目だと思った。
目をぎゅっと瞑り、ユズキはウォーグルと共に反転世界から外へと出た。
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