アキがカブに保護されて数か月。
ガオガエン達の申請は無事に通り、ボールから出して連れ歩いても問題なくなった。
アキの身元もカブが保護者として保証してもらえることで、アキも自由にこの国で暮らすことができるようになった。
アキは考えた結果、カブの家に世話になることにした。
ピカチュウ達がカブに懐いたのもあるが、ガオガエン達がカブの傍にいた方がいいと判断したからだ。
ガオガエン達も自分達だけではアキを守れないと判断し、もしもの時にアキを守れる『人間』を探していたところだった。
ガオガエン達の心配や気持ちも分かるし、意志を取り戻したアキはカブに申し訳なく思うものの、カブを隠れ蓑にさせてもらうことにした。
「はい、お弁当です」
勝手に隠れ蓑にしているのと、同居させてもらっているという罪悪感、そして良くしてもらい気にかけてくれている恩返しの1つとして、アキは家事を買って出た。
「ありがとう、アキ君…今日も楽しみにしているよ」
カブも気晴らしになるならと任させてくれて、お弁当もいつも完食してくれる。
こういう時、一人暮らしだからと料理を避けなくてよかったと思う。
気を使っているのかもしれないが、それでも毎回美味しいと言ってくれるのは案外嬉しいのだとカブと暮らして気づく。
(もっとお母さんにお礼を言うべきだったなぁ…)
失って気づいてしまうが、もう遅い。
もう帰ることも出来ず、今更母や父への感謝を思ってもすでに遅い。
カブの言う通りなら、10年…こちらに"連れて来られた"年月を含めると、14年も行方不明となっており、あちらでは既に失踪宣告として片づけられてしまっているだろう。
親子仲は良かったので、失踪宣告されても両親はまだ探してくれているのかもしれない。
そこもアキは罪悪感が積もる。
(帰れなくてもせめて一度でもいいからお父さん達に連絡できたらいいのにな…)
せめて一度でも、一方的でもいいから、両親に手紙を送りたい。
自分は生きていることや、帰ることができないことへの謝罪と、今まで育てて愛してくれたお礼を、伝えたい。
カブと暮らしていてその思いは強くなるばかりだった。
(これがホームシックかぁ…)
はあ、と溜息をつきながら玄関を離れる。
カブを見送り、2人で食べた朝食を片づけ、洗濯しようと2人の洗濯物と洗剤を洗濯機に入れてスイッチを入れる。
音を立てて2人の洗濯物を洗う機械を見ながら両親の顔を思い出す。
『いつか顔も思い出さなくなるのかな…』
人間がまず忘れるのは『声』だということを、今、思い出した。
それは、家族のことを思い出しても、『声』が思い出せなかったからだ。
アキは次の家事をしようと立ち上がったまま固まった。
『…思い出せない…声…』
今まで家族の事を思い出すことはあった。
だが、こうして1人になってみて気づいた。
『思い出せない…いつか…顔も姿も思い出せなく、なるのかな…』
声にして出してしまうと更に寂しさが心に響く。
このまま声だけではなく家族の全てを忘れてしまうのだろうと恐怖した。
きっと、そう思うようになったのは、アキに心の余裕が出来たからだろう。
だから、今まで家族の事を思い出しても、忘れてしまう恐怖まではいたらなかった。
「みぃ」
アキはハッとさせ、その声の方へ視線を向けるとミュウが心配そうにアキを見つめていた。
心配そうな様子に、アキはミュウを安心させるように微笑みを向けた。
両手を差し出せば、ミュウは飛んだままアキの腕の中に納まる。
ゆっくりミュウを撫でると、腕の中にいるミュウの重さが増す。
それが、愛おしい。
『心配かけちゃったね…不安も怖さもないって言ったら嘘になるけど…"ここ"にはあなた達が傍にいてくれるもの…カブさんだって、いる…大丈夫…いつか吹っ切れるから…』
吹っ切れるだろうか、と自分で入っておいて不安になる。
きっとミュウにはこの不安もお見通しなのだろう。
『みぃ』と甘えた声でアキにすり寄ってくれた。
――みんなが待ってるよ、いこう
ミュウの声に、アキは『そうね』と洗濯が終わった音が鳴るまで少し休憩しようと、ガオガエン達や、今日はお留守番を任されたカブのポケモン達の下へと足を向けた。
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