(41 / 43) その生命に恋う (41)

カブは急いでユズキのいる場所へと向かった。
駆けつけてみれば、脳裏に浮かんでいた最悪な光景ではなく―――ポケモン達に囲われてキバナと楽しくおしゃべりをしている娘の姿があった。
その姿にカブは安堵と共にどっと疲労も訪れた。


「あ、カブさん」


呆然と立ち尽くしていたカブに気づいたのは、ユズキだった。
ユズキがカブに手を振るので、背中を向けていたキバナも気づき振り向く。
手を振る娘に振り返しながら、カブは二人に歩み寄る。


「本当にカブさんだった」


カブの姿に、キバナがそう感想を零すが、それはこちらのセリフでもある。
キバナの言葉にカブは苦笑いを浮かべる。


「それはこっちのセリフだよ……はあ、でも…本当に、キバナ君でよかった…」


カブは電話で娘が答えたキバナ君と、自分が知るキバナ君を同一人物とは結び付かなかった。
ナックルジムリーダーでありインフルエンサーでもあるキバナの名前を使って近づこうとする男は多く、それを心配していた。
だから、自分が来る前に護衛の意味でユズキのポケモンを出して待つよう言ったのだ。
来てみれば本物だったので、カブは心底安堵した。
キバナがナンパするような男ではないと分かっているし、彼がナンパしたとしたら、その辺の男のように引き時を知らないわけではないという信用はしていた。
キバナ本人だと分かって安堵したのはカブだけではなく、カブのポケモン達もである。
ユズキに懐いているカブのポケモン達はユズキをナンパして引き止めていると知り、怒り心頭でボールの中にいても分かるほどの殺気を放っていた。
だが、相手がキバナ本人で、ユズキが楽しそうな姿を見て彼らはボールの中から安心したような気配に変えていた。
お互いが苦笑いを浮かべるなか、当人であるユズキだけは分かっておらず首をかしげていた。


「でもカブさんも人が悪いな〜!娘ができたんならそう言ってくれればいいのに!」


カブはキバナをナンパ男だと勘違いしていたが、キバナも勘違いをしていた。
ユズキと話していてカブという人物は本物だと分かったが(写真も見せて確認した)、カブとユズキが親子関係を結んだのではなく―――ユズキとカブが結婚し、子供までいるのだと勘違いしていた。
キバナの安堵も含まれた言葉にカブは『あー…』と気まずげに笑う。


「引き取ったのは最近だったしね…ユズキも、もう成人しているから、わざわざ公表するほどのことでもないと思ってね」


リーグには申請してあるが、カブはエンジンジムのトレーナーや事務の数人には成人女性を養子に迎えたことを伝えてはいるが、キバナ達ジムリーダーには伝えていない。
理由は特になく、単純にその話題がなかっただけだ。
だが、警戒はしている。
カブが最も警戒しているのはマスコミだ。
彼らは話題になるなら何でもする者たちだ。
それこそ、相手のプライバシーなど無視して。
特に芸能やジム系の記者は、自分達を人と思っていない者が多くいる。
そのような者達ばかりではないのは理解しているが、信用ができない者の方が多い職だ。
カブに娘――それも成人女性の養子を迎えたと知れば彼らは面白おかしく捏造し世間を楽しませるだろう。
娘の過去を探ることも当然するだろう。
ユズキはセレビィによって10年後に飛ばされた被害者だ。
過去を調べても何も出てこない人間を、彼らがどう扱うかなど、考えなくても分かる。
キバナは誰よりもマスコミの厄介さを知っているため、カブの言葉に深く追求することはなかった。


「電話でユズキが君を"友人"と言っていたんだが…今日知り合ったわけではないんだね?」


ある程度の話をした後、カブは本題へと入った。
本題は、ユズキが電話で話していた『友達』のことだ。
ユズキは特殊だ。
本来なら10年前の存在である彼女を知る人物かもしれない。
だが、その日に友達になれるほど、人との距離を縮めるのが上手い者もいる。
その確認だ。
もしも、本当に10年前からの知り合いであれば、ユズキも少しは現在を楽しく安心して暮らせるのではないかと思ったのだ。


「いや…出会ったのは子供の頃…今からだと大体10年くらい前か?」


カブは息を呑む。
お互いの顔を見合わせ、懐かしそうに笑い合う二人を見つめた。
そのさり気ないやり取りを見てカブは安堵した。
カブは他国からガラルに移住してきた。
だからこそ、周囲に知り合いのいない寂しさは誰よりも分かってやれた。
初めて娘のお友達を紹介された父親の気分だった。
『積もる話もあるだろうし、家で夕食でもどうだい?』と父親らしく気を利かせようとした、その時―――グーッとお腹の鳴る音が聞こえた。
その場にいた全員が音のした方へ…―――ロコンとカジッチュへ視線を向ける。
空腹を知らせる可愛い音に、三人は微笑んだ。


「ふふ…お腹、すいたね」


ユズキの言葉に、二匹は『すいたーっ!』と鳴いた。
まだロコンもカジッチュも幼体で、人間の子供と同じく成体よりも消化などで空腹になるのが早い。
恥ずかしがる様子もなく元気な声で鳴く二匹の頭を、ユズキは撫でた。


「キバナ君…今夜は用事あるかい?」

「いや、ないけど…」

「だったら、積もる話もあるだろうし…今夜、家で夕食を一緒にどうかな?ユズキのことも話したいしね」


『え!?』と、キバナは思わず声を上げた。
キバナとしては願ったりかなったりで。
勿論、二つ返事で返した。

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