恐る恐るMS、ガンダムのコクピットに乗り込み、マニュアルを膝の上に置き開いて操作方法を調べる。
それに従って操作盤を弄ると、ガンダムが正常に作動していく。
「やってみよう」
連邦軍のMSのガンタンクはほぼ壊されて動かない。
あとは人間対ロボットの戦いとなる。
人間に向ければ致命傷となる武器でも、特殊素材でできているガンダムには効かない。
父がこのMSを運ぼうとしており、このマニュアルの内容通りなら、活路は開けるはずだ。
リアナは覚悟を決めた。
「モニターは…これ、かな…」
コクピットを閉めると光は操作盤からの点滅しかないため薄暗い。
手探りでボタンを押したり調整をしてやっと準備を整えることができた。
ゆっくりと真っ黒だったモニターが外を写し、リアナは一度深呼吸をしようとした。
その時、敵の攻撃がリアナの近くに当たり、その衝撃で傾いてしまう。
「きゃあ!」
台車から滑り落ちそうになるリアナは、体が斜めになり倒れそうになるのを足に力を入れてグッと我慢する。
動いたことで敵に見つかったのか、こちらに振り向いた敵のザクとモニター越しで目が合う。
赤いモノアイと目が合ったリアナは感じるはずのない殺気を感じた気がした。
それは危機感からくるものなのか、それとも。
「な、何か武器は…!」
その日にマニュアルを手にし、その日にMSに乗ったド素人がすぐに操作しろというのは無理がある。
マニュアルを開いて急いで武器のページまで進めようとするが、動かないガンダムはいい的となり、ザクが銃口をこちらに向けたのが見えた。
「こ、来ないで!!」
一歩、近づこうとするザクにリアナは咄嗟に操縦桿を握りしめた。
すると頭部に備え付けられているバルカンが発射された。
無意識にバルカン砲のスイッチを押したのだろう。
指を離すと弾は止まった。
リアナはこのままではガンダムごと殺されると思い、立ち上がろうと操作をする。
それに合わせてガンダムが動きはじめるが、それを危惧したザクが撃ってきた。
今度は偶然近くに当たったのと違い、直撃だった。
その強い衝撃に肩に力を入れて耐えていたが、外装は不明だが内部には一切故障は見られなかった。
「立って!立ってってば!」
仰向けに置かれたまま動かないガンダムでは本当に殺されかねない。
リアナは必死に操作をしてガンダムを立たせようとする。
少しずつどこを操作すればいいのか分かってきたのか、ガンダムの操作にも少し慣れたのか…リアナの乗るガンダムが完全に立ち上がる。
立たせる事に集中していたせいか、銃撃が仲間のザクによって止められたことに今気づいた。
「スコープは…これだ」
銃撃が止んだのなら好都合だ。
リアナは周りを見渡してスコープを探す。
横に備え付けられているのを見つけ、目元まで動かす。
スコープには二体のザクが映っており、二つの円状のマークが動いているのが見えた。
説明がなくともそれが標準を合わせるものだと分かり、リアナは先ほどから好き勝手攻撃していたザクへと標準を合わせた。
そして、今度は自分の意志でボタンを押す。
「当たらない!遠いから!?」
バルカンを撃つことは出来たが、ザク二体に避けられ当たらない。
もっと近くに寄れば当たるのだろうかと思い一歩、また一歩と足を踏み出し歩き出す。
「あっ…!弾切れ!?こんな時に!!」
バルカンを撃ち続けていたリアナだったが、ついに弾が切れてしまった。
ボタンを何度も押すが、カチカチという音がなるだけで発砲している様子はない。
弾切れだとアチラにも気づかれてしまい、ザクはゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
映画によく見るシーンだが、自分がその立場になると緊張感と恐怖しか感じない。
リアナは恐怖を感じていた。
(撃たれる…っ)
ザクは後ろへ身を引かせるリアナに怯えていると思い、強気になりリアナに向けて銃を構えた。
それを見てリアナは咄嗟にガンダムの手で塞いで自分から銃口を反らし、ザクの口にあるパイプを掴んで一度引き寄せてから放り投げた。
その際、パイプが千切れ、放り投げられたザクは施設の建物に当たり倒れた。
「これが連邦軍が開発した…お父さんが作ったモビルスーツ…?すごい…!」
性能の違いを、コックピットに乗って体感したリアナは敵と対峙している恐怖の他にも、技術者の娘としての驚きと感激があった。
唖然としていると倒れたザクを仲間が助け起こし逃げようとしているのが見えた。
「逃げる気!?」
逃げようとするザクに気づき、リアナは弾が切れたバルカンの他に武器はないのかと探していると、ビーム・サーベルを発見する。
即座にサーベルを背中から取り出し、刀身を形成させれば赤い刀身が現れた。
「逃がさないんだから!!」
モノアイが出ないということはメインカメラは壊したと思っていいだろう。
だが、補助カメラがあるらしく、助け起こされたザクは飛んで逃げようとしていた。
それを見てリアナは頭に血が上る。
これほどまで被害を出しておいて…フラウの母や祖父も死んで…ここで逃したら後悔するとリアナはビームを刀身に出したサーベルをぐっと握りしめ切りかかろうとジャンプする。
(届け!!!)
リアナは無我夢中だった。
目の前で友人の母親と祖父だけではなく多くの人達が亡くなった。
それをまだ15歳の少女が目の当たりにしたのだ。
目の前の敵を恨むのは当たり前だった。
リアナはザクのエンジンに狙いを定め切りかかった。
ザクは空中で爆発し、その衝撃は強くコロニーの壁に近かったというのもあるのかコロニーに穴が開いた。
その穴から空気が抜けていき、近くにいた人二人が宇宙空間へと投げ出されてしまう。
リアナは気づかなかったが、その二人の内一つは父親だった。
「モビルスーツのエンジンをやればサイド7もやられるかもしれない…!どうしたら…っ!」
まさか自分の父親が…人が自分が開けた穴から放り出されたと気づいていないリアナは、向かってくるザクに慌てた。
エンジンを狙えば敵は倒せる。
しかし、あれほどの衝撃の爆発をまた起こし、また穴が開けば残っている空気が更に薄くなってしまう。
酸素は人間には必要不可欠なものだ。
今のリアナは敵への恐怖よりも、コロニーを壊すことで父親や避難をしている人達…フラウやハヤト達が死んでしまうかもしれない恐怖に慄いた。
(どうしよう…!エンジンだけを壊しても爆発させちゃうし…!こうなればコクピットだけを狙うしか方法は…でも出来るかな…)
リアナはエンジン以外で敵を無力化できるのはどこかを考える。
考えた結果、コクピット自体を狙えばいいという結論が出た。
機械弄りが好きなリアナは相手のコクピットがどこか大体の見当はついていた。
ただ、向かってくる敵を前にそこだけをピンポイントで狙って討てるかが問題だった。
(出来るかじゃない!やるんだ!!)
リアナはグッと操縦桿を強く握りしめる。
深呼吸して落ち着く暇はない。
こうしている今でも敵はこちらに向かってきているのだ。
(今だ!!)
飛びあがり襲い掛かろうとしたザクのコクピットに向けてリアナはサーベルを一直線に向けた。
赤く光るサーベルは硬い装甲を貫き、コクピットを串刺した。
バチバチと電流が流れる音が聞こえる。
ザクの震える手が抵抗するようにこちらに向かって伸ばされる。
しかし、その手は力を失くしたように下がっていった。
それは、コクピットにいる敵が息絶えた意味でもあった。
「やったの…?」
動かなくなったザクを、手で押して自分から離す。
ザクは身動き一つせず地面に倒れた。
一歩、また一歩とリアナは後ずさるようにザクから離れ、動かないのを見て倒せたのだと確信を持った。
その安堵からか深い息を吐き出し背もたれに力なく持たれた。
(疲れた…)
背もたれにもたれても手は操縦桿から離さなかった。
いや、離せなかったと言った方が正しいのだろうか。
手を見てみればギュッと力強く操縦桿を握りしめていた。
体が追いつかないのだろう。
頭では終わったと理解できても体は緊張感からか、体から力が抜くことができなかった。
深呼吸を何度か繰り返せば落ち着くことができ、手が離れる。
両手を見れば震えていた。
そして、リアナはやっと現状を理解することができた。
(私…殺したんだ…人を…二人も……)
ザクというMSを倒したが、それを操縦する人間がいるはずなのだ。
人間が宇宙に出ても、まだMSの完全な自動操縦は開発されていないはず。
なら、爆発したザクも、コクピットをサーベルを串刺したザクも、リアナが倒した。
それは、二人の人間をこの手で殺したという意味だ。
(落ち着け落ち着け落ち着け…大丈夫…大丈夫…)
両手を握りしめ、背もたれにもたれていた背を丸くして小さくなる。
心の中で何度も何度も落ち着かせようと暗示のように呟いてリアナは心を穏やかにしようと必死だった。
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