リアナはあれから指示通りガンダム関係以外の部品の処分をするためにあちこち走り回っていた。
パイロットがほぼ全滅のせいで一人でやる羽目となり忙しく動き回るリアナは今のところ敵にも逃げ遅れた人にも会っていなかった。
ジオンにガンタンクを渡さないために処分しつつ、ガンダムに使えそうな部品を脇に抱えながら坂を下り次に向かっている途中、リアナは初めて敵と出会った。
「あれはジオンの…!」
リアナはモニターに映るジオンのノーマルスーツに反応してスコープを目元に持ってくる。
だが、相手はMSではなく体一つの生身の人間。
動きはあちらの方が軽く早い。
リアナがまだ慣れないスコープで標的を定めた時にはすでに物陰に隠れ逃げられてしまった。
「あれ…あの人…逃げ遅れた人を探してる人かな…」
敵と対峙して、リアナはその敵兵にしか意識を向けていなかった。
そのせいで敵と対峙していた女性に気づかなかった。
敵に逃げられたことで意識を他に向けることができたリアナは初めてその女性を認識する。
二人の民間人が逃げ遅れた人を探しに向かったとホワイトベースから情報を貰っていたため、彼女がそうなのだと気づく。
近くには処分しなければならないガンタンクが転がっていたので、処分するためにはこの女性を遠ざけなければならない。
手の平に乗せれば処分できるので、手の平に移ってもらうよう近づいた。
だが、モニターにその女性の容姿が分かるほど近づけるとリアナは動きを止め目を見張った。
「お姉ちゃん…?」
ガンダムを見上げる女性を見て、リアナは息を呑んだ。
その容姿には見覚えがあった。
昔、まだ地球で母と父と三人で暮らしていた頃。
リアナは彼女に似た少女と出会った。
「なんでお姉ちゃんがここに?」
少女とはまるで姉妹のように仲が良く、よく遊んでいた。
少女には兄がおり、兄にも遊んでもらっていた。
人間だけではなく、リアナが初めて作ったゼロという初代ハロ型と、少女の愛猫もまるで友人のように仲が良かった。
父がまた転勤するため泣く泣く別れた記憶がまだ鮮明に思い出すほど、リアナにとって二人の兄妹は大切な存在でもあった。
≪あの…≫
女性の声にリアナはハッとさせ我に返った。
声の方へと視線をやれば、突然立ち止まり棒立ちとなったガンダムに戸惑う女性の姿があり、リアナは頭を振って記憶をしまい込む。
「今は考えないようにしよう…生き残るのが先だ…」
ガンダムからの音声はオフになっていたので、あちらの声は聞こえてもリアナの声は聞こえない。
戸惑いを隠せず見上げる彼女に、リアナは彼女が姉と慕う少女本人かどうかの確認は後にしようと操縦桿を握り直し動かす。
「この辺りのモビルスーツを処分するためスーパーナパームを使います…危険ですので手に乗ってください」
音声をオンにして話しながら手を差し出す。
女性は一瞬何かに気づいたようにガンダムを見上げたが、すぐ何でもないようにガンダムの手に乗り込んだ。
女性を落とさないよう慎重に立ち上がりながら、リアナは先ほどジオンの敵と遭遇したことをホワイトベースにいる士官候補生であるブライトに報告する。
「手の中に寝そべってください」
『確かにジオンの兵隊なんだな』というブライトからの確認に『はい』と返しながら女性を手の平の上にうつ伏せにさせ腕を上げる。
(やっぱり…お姉ちゃんに似てる…もしこの人がお姉ちゃんならお兄ちゃんやテアボロさん達もいるってこと?もしいるなら二人とも無事避難できたかな…)
腕を上げれば女性の顔がもっとはっきりと見えた。
やはり、手の中にいる女性は知り合いの少女に瓜二つだ。
姉と慕っていた少女も美しい金髪を肩まで伸ばし、整った容姿に、空のような青い綺麗な瞳をしていた。
あれからもう数年経とうとしている。
もしも、この女性が少女なら、兄と慕っていた少年と、その父親もこのコロニーにいるはず。
どういう理由で地球から離れこのコロニーに越してきたかは分からないが、もし女性が少女なら、二人も心配だった。
「スーパーナパームを使います…出来るだけ体を丸めてください」
≪分かったわ≫
声は、少女とは少し違うように聞こえる。
しかし、女性だって子供から大人になるまで声も変わるだろう。
声で他人かどうかまで判断しきれず、女性がガンダムの手の中で体を丸めたのを見てリアナは敵に機密を渡さないよう転がっているガンタンクや部品に向けてナパームで処分する。
「もう大丈夫ですよ…怪我はありませんか?」
≪ええ、大丈夫よ…ありがとう≫
リフトで生身の体でもナパームの熱風に影響のない距離まで離れると、女性に安全になった事を知らせる。
体を丸めていた女性はその言葉に、丸めていた体を楽にした。
聞けば逃げ遅れた人はいないとのことなので、このまま手の平に乗せて戻ることにした。
部品やMSが燃えて消えていくのを見ながらリフトでゆっくりと港に向かうと、自動で開けられた扉から一人の人間が中に入っていくのが見えた。
「ブライトさん!!ジオンの兵士が港に入って行きました!!」
ブライトに報告すると、彼らはすぐに動いた。
残念ながら軍人のほとんどは怪我人か死亡したので、民間人軍人関係なく銃を持たなければならい。
艦長の指示もあり、ブライト達は敵を迎撃するために動く。
「このままあなたをホワイトベースに避難させます!急ぎますから少し揺れます!掴まっててください!」
≪分かったわ!≫
敵を入れてしまったため、急いで女性をホワイトベースに避難させリアナも敵を迎撃しなければならない。
急ぐため手の中にいる女性に安全のためにどこかに掴まってほしいと声をかければ、女性は頷きそれに従った。
リアナがホワイトベースに着いた頃には敵兵は逃げ出した後だったため、銃弾から女性を守らなくてもよかった。
すぐにホワイトベースに女性を避難させ、リアナは港の入口を開ける。
目の前は宇宙が広がっていた。
宇宙では無音だが、人の生活を宇宙に広げてすでに眩暈がするほどの時が経っている今、音の問題は解決されている。
それでも、今のリアナは自分の息しか聞こえなかった。
「撃つぞ!撃つぞ!撃つぞッ!!」
リアナは極度の緊張状態となっていた。
MSでも人を殺したと心が揺らいだというのに、目の前の標的は生身の人間だ。
それも、外で待機していた他のジオン兵が多数。
リアナは相手の息の音も聞こえそうなほど、集中していた。
誰にも言うでもなく、リアナは叫ぶ。
そして、勢いのまま指でボタンを押すとビーム・ライフルからメガ粒子を放つ。
何度も何度も。
相手を殺そうと撃ち続けた。
しかしリアナの揺らぎからか、それとも標的が小さすぎるからか、一発も当たらない。
≪ガンダムのリアナ君へ!ホワイトベースから遠すぎるようだ!本艦の右10キロに位置してくれたまえ!≫
「り、了解!」
スコープでも米粒ほどしかなくなった標的に、撃つのをやめた。
するとタイミングを見計らったようにブライトから通信が来た。
どうやら集中しすぎてホワイトベースから離れすぎたようだった。
その通信でリアナは自分とホワイトベースの距離に気づく。
そして、安堵するように息をついた。
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