(8 / 10) ガンダム (08)

食事を終えて、リアナは格倉庫に戻ろうと廊下を歩いていた。


「あっ!リアナ!」


お腹も満たし、昔慕っていた女性とも再会し、リアナの機嫌は良い。
スキップで歩きだしそうなほど機嫌のいいリアナの後ろから、フラウが声を掛けてきた。
振り向けば、フラウはワゴンを引いて配給している途中だったらしい。
その傍には、お手伝いとして三人の子供とハロが続いていた。
子供達は人見知りしないのか、リアナにそれぞれ元気よく挨拶をしてくれた。
リアナは子供は特に嫌いというわけではないため、屈んで目線を合わせる。


「はじめまして、カツくん、レツくん、キッカちゃん」


ホワイトベースに避難人達は、老人が多く、乳飲み子を抱える女性一人と、カツ達だ。
その中に自分の父親の名も、エドワウとテアボロの名もなかった。
三人とも避難できなかったのかと不安になるが、もしかしたらセイラは仕事や結婚などで二人とは別に暮らしているのかもしれないと不安を無視するようにそう思うようにしている。
子供は三人と赤子しかおらず、元気なカツ達は自分達を子供扱いするリアナに『ちゃん』や『くん』をやめてほしいと訴えた。
リアナは、子供の可愛い背伸びに『ごめんね、カツ、レツ、キッカ』と言い直してあげれば彼らは機嫌よく笑った。
その三人の明るい笑顔に、リアナは釣られたように微笑んだ。
そんなリアナの様子を見て、フラウは彼女の機嫌が直ったと胸を撫でおろした。


「ハヤト君から聞いたけど…ちゃんとご飯食べたの?」

「うん、今ね」

「そう、よかった…ね、今時間大丈夫?」


フラウも落ち込んでいたが時間が経ち立ち直ったのだろう。
いつものフラウに、リアナは安堵した。
ものぐさなリアナがちゃんと食事をしたことに安心したフラウは、リアナに時間が欲しいと聞いてきた。
それを聞いてリアナはふと考える素振りを見せる。


「ガンダムの調整も大体終わってるし…時間なら空いてるよ…どうしたの?」

「ううん、大したことじゃないんだけどね…」


そう言ってフラウは紙袋を開けてリアナに中を見せる。
差し出されたリアナは中を覗き込めば、連邦軍の制服が入っていた。
『これは?』と視線でフラウに問う。


「これ、リアナの軍服よ」

「それってフラウが着てる奴と同じの?」

「そうよ…って言っても私は自分なりにアレンジしてるけど」


紙袋の中にはリアナに配られるはずの軍服が入っていた。
フラウはこの軍艦で雑用係として色々とリアナやセイラ達が手を回せない部分をカバーしている。
その手伝いをカツ達がしていた。
元々早くに軍服は配られていたはずだったのだが、リアナはあれからずっとガンダムのコクピットに缶詰だったため渡しそびれてしまい、リアナと仲の良いフラウが渡す役を任命されていたらしい。
とはいえ、フラウだって忙しいのだ。
ついリアナの制服は後回しになってしまっていた。


「リアナの荷物は無事だから着替えましょう…洗濯もしたいし」


ブライトとリュウとは違い、リアナ達は民間人だ。
ガンダムを乗り回し、ホワイトベースを操縦しているが、彼らは正式に軍人になったわけではない。
その為、リアナ達にはまだ部屋は宛がわれておらず、フラウ達の荷物は一時的に更衣室に仕舞われている。
リアナの荷物はフラウが守ってくれたらしく、リアナの荷物もそこに仕舞われているようで、フラウと子供達とハロと一緒に更衣室に向かう事になった。


『キガエ、キガエ、リアナ、キガエル』

「そうね、着替えましょうね」


ハロが元気よく跳ねながら付いてくるのを子供達が楽しそうに笑い、フラウも釣られて笑う。
リアナはチラリと後ろからついてくるハロを見る。


(お姉ちゃん…ゼロを連れていなかったな……お兄ちゃんかテアボロさんに預けたのかな…)


ハロと、ハロの兄弟機を重ねて見えた。
もう何年もハロの兄弟機であるゼロと名付けたロボットを見ていない。
彼は初期に作られたため、ハロより体は大きく、重い。
ハロのように子供が持てる重さではなかった。
そのゼロはセイラ達と別れる際に、セイラに譲ったのだ。
餞別のつもりだった。
だが、セイラの傍にはゼロの姿がなかった。
何らかの理由でサイド7に移る際に、セイラの兄であるエドワウか、父であるテアボロに渡して移住してきたのだろうか。
とはいえ、ゼロは生まれてから年月が経っている。
どこかしら壊れて置いて行かれてもおかしくはない。
もしそうなら惜しいとは思った。
自分がいたら、きっと直してやれた。
彼は様々なバグがあり、よく我儘を言ってリアナを困らせていた。
そんな我儘も今となっては懐かしく感じる。
昔の記憶を思い出し感傷に浸っていると、更衣室についた。


「はい、着替えはここに入れてね」


フラウは洗濯用の籠をリアナの近くに置く。
それにリアナは短く『ん』とだけ返事をし、フラウと子供達の前で着替え始める。
カツとレツの性別は男だが、まだ子供なのでリアナもフラウも追い出すことはしなかった。
パンツを穿き、上着に手をかけたその時、扉が開けられ全員がそちらに振り向いた。
現れたのはセイラだった。


「あら、リアナ…お着替え?」


セイラは忘れ物を取りに更衣室に来たらしい。
更衣室には誰もいないと思っていたため、5人も中にいたことに驚いたようだったがすぐにリアナの姿を見つけ、驚きの表情を微笑みへと変える。
フラウはセイラがリアナの名前を呼んだことに違和感を感じた。
リアナの名前はホワイトベースを動かす人間には通知されており、知っているのは当たり前だろう。
しかし、それにしては親し気だった。
疑問を視線で問うようなフラウの視線など気づかず、セイラはニコニコと笑みをそのままにリアナに歩み寄る。


「うん…ガンダムの整備してて渡せなかったみたい」


リアナの言葉にセイラは『そう』と返し、自分のロッカーではなくリアナに歩み寄る。
上着の袖に手を通したリアナにセイラは世話を焼く様にファスナーを上げてやる。


「自分で出来るってば」

「いいの、やらせてちょうだい…昔もこうして着替えを手伝った仲じゃない」

「その時まだ子供だったじゃん、私もう15歳だよ」

「ふふ、私の中ではあなたはいくつになっても子供のままよ」


リアナとセイラの会話を聞き、フラウの疑問はますます深くなる。
確かセイラとリアナは初対面なはずで、フラウが知らない間に知り合ったとしてもリアナが短時間しか顔を合わせていない人に対してここまで親し気に接するだろうか。


「セイラさんとリアナって知り合いなんですか?」


どう見ても元々知り合いだったようにしか見えないやり取りに、フラウは二人に聞く。
その答えはリアナの衿を直すセイラから貰った。


「ええ、そうよ…幼い頃に地球で出会ってね…私には兄がいたのだけれど、兄さんと私とリアナでよく遊んでいたわ…リアナのお父様は転勤が多い方だったからリアナもすぐ引っ越してしまって別れたのだけどね」


『ね、リアナ』とリアナに問えば、リアナは頷いて返す。
セイラもリアナも、その時の記憶を思い出しているのか、懐かしそうに笑い合う。


「へえ…初めて聞いた」

「そりゃ、今言ったわけだし」

「セイラさんの事なんで言わなかったの?」

「だって聞かなかったじゃん」

「……そりゃぁまあ…そうだけどさ…」


面白くない。
フラウはどこかそう思ってしまう。
確かに引っ越す前の事をフラウは聞かなかったし、フラウとセイラが共通の接点がないのならわざわざリアナから話題を出すこともないだろう。
いきなり会ったことのないセイラの事を話されたって困る。
しかし、何だかモヤモヤして気分が晴れない。
その理由が全く思い浮かばず、余計にモヤモヤが晴れない。


「リアナ姉ちゃんとセイラ姉ちゃんって幼馴染ってやつなのか?」

「じゃあフラウお姉ちゃんもセイラお姉ちゃんと幼馴染なの?」

「わぁ!いいなぁ!フラウお姉ちゃん、幼馴染が三人もいるなんて!」


あまり分かっていない子供達から楽し気な声が聞こえた。
三人、というのはハヤトも入っているのだろう。
楽し気な声にいつもならフラウも子供達に笑顔の一つや二つ返せていたのに、どうしてもそういう気分にはなれない。
肝心のリアナはセイラと笑って会話を広げており、この場にフラウがいることも忘れているように見える。
それがまたモヤモヤがし、更に苛立ち始める。
『苦しくないかしら?』と聞くセイラに、『うーん…ちょっと苦しいかな』と自分で調整せずセイラに任せるリアナ。
当然のようにセイラに甘えるリアナにフラウは我慢の限界が来た。


「あっ!待ってよ〜!」


フラウはこの場にいたくなくて何も言わず更衣室から出て行ってしまった。
突然出て行ったフラウに、懐いていた子供達が慌てて追いかける。
子供達の声でやっとフラウが出て行ったのだと気づいたリアナは首を傾げ、誰も通らなくなり閉められた扉を見つめていた。


「フラウ…どうしたんだろう…まだ怒ってるのかな…」

「あら…やだ私ったら大人気ないことをして…ごめんなさいね、リアナ…きっと私のせいだわ」


喧嘩(というよりリアナの八つ当たり)していたが、お互い頭も冷えて仲直りしたばかりだった。
だからリアナはまだ八つ当たりしてしまった事を怒っているのだと思ったものの、セイラの言葉に首を傾げた。
セイラはフラウに何も悪いことをしていない。
悪口を言ってもいないし、態度だって悪くはなかった。
性格に難がある自分と違い、セイラもフラウも協調性があり優しい人達だ。
そんな二人が喧嘩しているところは想像できず、セイラの言葉の意味をリアナは気づかなかった。
首を傾げるリアナにセイラは苦笑いを浮かべ、リアナの頭を撫でる。


「きっと嫉妬してしまったのね」

「嫉妬?誰が?誰に?」

「フラウが、私に」


セイラの言葉がますます理解ができなかった。
嫉妬という言葉は理解できるが、フラウがセイラに嫉妬する理由が分からない。
ハヤトが自分に嫉妬するなら分かるが、セイラもフラウもどちらも女で同性だ。
リアナは嫉妬とは男女の間で起きる事柄だと思っていた。
怪訝とさせるリアナに、セイラはリアナの髪を愛でながら続ける。


「あなた達は仲の良いお友達で、幼馴染なのでしょう?」

「うん」

「一番仲が良いって思ってた子が別の人と仲良くしていたからフラウは私に嫉妬していたのよ」


やはり、リアナはピンとこなかった。
リアナにとってセイラは大切な姉であるし、フラウは大切な友人だ。
どちらも大切で、どちらの方が好意的だというわけではない。
確かに二人を平等に接する事は無理だが、だからと言ってフラウを蔑ろにはしていない。


(でも…まあ、確かに…私もフラウがお姉ちゃんと仲良くしてたらちょっと嫉妬するかも…)


しかし、自分に置き換えて考えてみた。
フラウを自分に置き換えて考えてみると、確かになんだか心が晴れない。
これが嫉妬というものだろう。


「…フラウに話てみる…お姉ちゃんの事、話してもいい?」

「ええ、勿論よ…私もフラウにリアナを取られちゃうのは嫉妬してしまうけれど…でも、フラウと仲違いをしたいわけでも争いたいわけでもないですもの」


セイラも嫉妬くらいする。
もしもリアナが引っ越さなかったら、自分がスペインを発たなかったら、きっとフラウの場所にはセイラがいたのだ。
リアナの幼馴染の席は、セイラではなくフラウに取られてしまった。
再会して、自分の事を覚えていてくれて、まだ姉と慕ってくれることがどれだけ奇跡なことなのか分かっているつもりではあるが、それでもセイラだってフラウに嫉妬している。
だけど、だからと言って、フラウと不仲になりたいわけでも、フラウの嫉妬心を利用してフラウからリアナを奪い返そうなんて思っていない。
『私のフォローもお願いね』、とお茶目にウィンクをし、忘れ物を手に取って更衣室を出て行った。
きっとセイラがいるとフラウも素直になれないと思ったのだろう。
『あれが大人の余裕ってやつかぁ…』と笑顔で去っていくセイラに、リアナはしみじみと思う。
記憶にある彼女は、一緒に楽し気に笑い合いはしゃぐ年相応の少女だった。
お姉さんぶっていたから多少は大人ぶっていたが、それでもリアナと一緒に遊ぶ姿は年相応であった。
リアナは自分ももっと成長すればあんな余裕を持てるだろうかと思いながら、洗濯物を入れた籠を持って更衣室を出る。


(どこに持っていけばいいんだろう…聞く前にフラウ出て行っちゃったしな…)


あの時はフラウが洗濯物を出すつもりだったから、どこに洗濯物を出せばいいのかリアナには分からなかった。
フラウ達はある程度ホワイトベースの案内をしてもらったようだが、リアナはガンダムの調整をしていたためそれどころではなかった。
だからどこに持っていくか悩みながら、とりあえず進む方向を決めようと辺りを見渡す。
すると、先ほど出て行ったフラウと目が合った。
お互い『あ』と声を零し、フラウはおずおずとリアナの前から出てくる。
フラウの後ろには二人の空気を察してか心配そうな子供達が二人を見つめていた。


「その…リアナ…ごめんね…」


リアナは謝ろうと思った時、フラウに先を越されてしまう。
フラウもすぐに頭を冷やして自分がくだらない嫉妬をしたのだと反省した。
しかし、引き返したものの、出て行った理由が理由なため恥ずかしくて入れず物陰に隠れてチャンスを伺っていた。
途中、出てきたセイラと目が合い慌てたが、彼女はフラウにウィンクをし笑顔を向けた事で冷静さを取り戻せた。
フラウもセイラの大人の余裕に当てられ、自分の子供っぽさに頬を赤らめる。
謝るフラウにリアナは首を振る。


「ううん…私もごめん……あのね、フラウ…私―――」


フラウが感じた嫉妬心は、いわばフラウがリアナを友人として思ってくれているからだ。
それを言葉にして伝えるのは難しい。
リアナの性格もあって、どう伝えたらフラウは分かってくれるだろうかと考えていると…


≪緊急警報、緊急警報。戦闘可能な方はブリッジに集合。年齢は問いません。機関区以外の者はすべてブリッジに集合≫


ミライの声が艦内に響く。
戦闘可能な、という言葉に、リアナもフラウも敵が来たのだと緊張が走った。
話は後だと二人と子供達はブリッジに向かう。


****************


なんか最初はアムロと同じ捻くれた性格にするつもりが…
だんだんいい子になっていく…
どこかで修正するか、このまま我が道を貫こうと思います。
まあ、多分我が道を貫くと思いますが。^^;
でもそうなると、原作でのセリフや描写に矛盾が…
うーん…難しい…





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