ブリッジにはすでに人が集まっていた。
カイやハヤト達はもとより、動ける避難した人達がちらほらと集まっていた。
どうやら、集めたのはみんなの意見を聞くためらしい。
この艦は軍艦ではあるが、艦長は重傷を負い、艦長代理は新兵。
艦に乗っているのもほとんどが民間人だ。
どうやら敵は補給部隊と合流しているという事で、このまま逃げることもできれば、補給している隙をつくことも出来る。
どちらかをみんなで選ぶことにしたらしい。
「まず、できるできないは五分五分だがともかくルナツー前進基地に逃げ込むのに賛成な者は手を挙げてください」
ブライトの言葉に手を上げたのは5人。
殆どが民間人だった。
ハヤトやカイやセイラ達は上げていない。
リアナはまだ首に違和感があるのか直しているが、手を上げる素振りを見せていない。
フラウはチラリとリアナを見て手を降ろしている。
「ではこれも五分五分かもしれんが…我々が打って出る方に賛成の者は?」
「戦うべきです!」
「そうよ!戦うべきよ!」
その言葉に残りの全員が手を上げる。
特に子供達は元気に手を上げた。
この中で…このホワイトベースの中で一番闘争心があるのはこの三人の子供達だろう。
やる気満々な子供達に、ブライトはふと表情が和らぐ。
しかしすぐに艦長としての表情を被り、手を上げる面々を見渡した。
手を上げたのは、カイ、ハヤト、セイラ、ミライなど軍服を着ている物が多い。
そして、ブライトはリアナへと視線を向ける。
「…………」
リアナはまだブライトに対して対抗心を持っているのかムスッとさせており、その手はまだ首元の襟を直していた。
ブライトはじっとリアナを見つめ、リアナもブライトを見つめる。
そして、リアナは静かに手を上げ、それを見たフラウもおずおずと手を上げた。
それを見てブライトは多数決によって出撃を決めた。
「よし!決まった!出撃する!リアナはガンダム、リュウはコアファイター、場合によってはガンタンクの出撃もありうる!!―――ビーム砲スタンバイ急げ!ホワイトベース180度回頭!」
少数派になったルナツーに逃げ込むことを選んだ人達からは落胆の息が聞こえた。
しかし、多数決をして出撃の票の方が多かったのならそれに従わなければならない。
逃げ出すにも宇宙空間で逃げ出すことは出来ず、民間人はそれぞれあてがわれた部屋に戻り、軍服を着た人達は持ち場に戻っていく。
リアナもガンダムに乗り込むため、リュウと共にブリッチを出た。
「気を付けてね、リアナ!」
「うん、フラウ達もね」
途中、別れる際にフラウに声を掛けられ見送られる。
フラウは不安がる民間人達や子供達の世話やらでブリッジにいることはできない。
見送ってあげれない分、今ここでリアナ達パイロットを見送る。
手を振るフラウにリアナも手を振り返し、パイロットのスーツを着るためにパイロット用の更衣室に向かう。
「スーツを着る前は服を脱ぐこと!下着だけじゃだめだぞ!インナーも一緒に着ろ!あとスーツを着たら声を掛けてくれ!ヘルメットの被り方も説明しなきゃならんからな!」
女性用の更衣室に入るリアナにリュウが声を掛ける。
戦艦の、それもMSを乗るためのノーマルスーツと、一般のノーマルスーツでは作り方も役割も違う。
カイとハヤトは事前にガンタンクに乗る事を前提として説明はしていたが、リアナはガンダムの調整や整備でそれどころではなかった。
本当ならカイ達と同じく落ち着いた時にした方がいいのだろうが、今回の出撃で無事に帰れる保証はない。
重要な部分だけでも説明してやらなければ、宇宙に放り出された時に困るのはリアナだ。
ホワイトベースでは女性パイロットはリアナしかいないため、着替えながらリアナに説明してやれる軍人がいないのだ。
リアナは頷いて更衣室に入りノーマルスーツに着替える。
(静かだ…)
もう一人ここにいたのなら慌ただしくなるのだろうが、更衣室にはリアナしかいない。
慌てないわけではないが、襲撃するため慌ただしくしている人達を余所にリアナは一人静かな場所で心を穏やかにする。
リュウに言われた通り、ノーマルスーツを着たリアナは隣の男性用更衣室を訪ねる。
一応声を掛けるとリュウから入れと言われ、リアナは男性の更衣室に入る。
中にはすでに着替えを終えたリュウと、ハヤトとカイがいた。
「ヘルメットは持ってきたか?」
リュウに言われて頷いて持ってきたヘルメットを見せる。
ヘルメットの説明の前に、スーツを正しく着用されているかのチェックが入るが、リアナは正しく着用できたようでリュウはそのまま説明に入る。
白兵戦も可能性としてあるらしく銃の説明や、怪我をした時の治療用テープや、スーツが破損した際の補修用のテープなどの説明を受ける。
いくら組織で戦っている軍人といえど、宇宙に出ると一人だ。
頭に叩き来なければ放り出された際にその知識があるかないかでその人物の生死を分かつ。
ヘルメットの説明も終え、リュウとリアナは格倉庫に向かい、リアナはガンダムに乗り込む。
「ビーム・ライフルのチャージできてます!?」
「ああ!100%だよ!」
格倉庫には重力は設定されておらず、そのまま飛んでコクピットに乗り込む。
ガンダムの傍にいた整備士に、ライフルの充電を頼んだので充電ができているか聞けば良い返事が返ってきた。
『ありがとう!』とお礼を言いながらコクピットにある操作盤に触れ、コクピットを閉じる。
「やっぱりノーマルスーツの方がしっくりくる」
リアナはコクピットに乗り込んですぐに異変に気付いた。
初めてガンダムに乗った際には感じられなかったフィット感にリアナは驚く。
初めてガンダムに乗った時は私服だったため、ノーマルスーツで着るとここまで乗り心地が違うのかと驚く。
やはり、私服で乗るよりも、ノーマルスーツで乗った方がしっくりくる。
操縦桿を握る手も、座る体勢も、変に力を入れなくていいのだ。
≪リアナ、ガンダムカタパルト用意…わかるわね?≫
そうこうしている間に出撃は迫っており、セイラの問いにリアナは頷いて返す。
こうしてホワイトベースに乗って出撃は初めてだ。
射出するための機械であるカタパルトに足を嵌め込み、リアナはリュウが先に出撃するのを見送った。
「カタパルト、装備チェック、ガンダム出力異常なし…――行きます!」
自分の番となり、声に出してチェックを終える。
全てとはいいがたいが、ほとんど頭に叩き込んだ手順で行えば、当然ガンダムは正常に作動する。
戦いになる前という緊張感で震えそうになる手の震えを止めるように、力を入れて操縦桿を握りしめリアナはカタパルトから射出し出撃する。
≪10キロ前進後、敵に対して稜線から侵入の為降下…よろし?≫
「了解!」
セイラの指示に、リアナとリュウが声を揃えて返す。
その指示通りリアナは10キロ進む。
(あの赤いザク…シャアって人出てくるのかなぁ…いや、まあ…そりゃ出てくるんだろうけどさ…でもまたシャアと戦う事になるのか…やだなぁ…)
初陣で赤いザクを相手に散々な結果になったため、リアナは赤いザクが苦手となった。
フラウから聞いたが、あのザクの乗り手は有名らしい。
ホワイトベースの艦長にも名を知られているような人をリアナはこれから相手にしなければならないというプレッシャーに押し潰されそうだった。
まだ戦闘をしていないというのに、味方や敵からのプレッシャーに胃がやられそうだ。
敵にも名前が轟いている実力のある相手と戦わなくてはならないリアナは溜め息をついていたが、ふとモニターを見ればリュウの乗るコアファイターが上がろうとしているのが見えた。
「リュウさん!上がっちゃダメ!回り込まないと!」
敵は目の前にいるため上がろうとしているのは分かるが、それでは逆光線で戦う事になる。
まだ敵は気づいていないのなら、太陽を利用する手はないだろう。
それを伝えようとしてもリュウと連絡がつかない。
「リュウさんもしかして無線切ってる?」
上に上がるなという指示は何とか伝わったが、細かな戦略を伝えようともリュウは無線を切っているようで通じない。
困ったことになったとは思うものの、リュウが反発せず付いてきてくれるためその場になったら気づくだろうとリアナは気にも留めず進む。
「もうそろそろ見えてもいい頃だと思うんだけど…」
岩陰を利用して身を隠しながら進むのは意外と息苦しさを感じる。
見つからないようにしなければならないという緊張感からなるものだろう。
集中しているから少しの事でも気づくリアナの視界に、やっと敵の姿が見えた。
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