(6 / 19) Novel (06)

ハッとハヅキは目を覚ました。
仰向けに寝ていたのか、見えるのは古代エジプトの寝室ではなく、現代のエジプトにある自室の天井だった。
まるで悪夢を見たように体中汗だくで、呼吸が浅い。
浅い息を繰り返すと落ち着いていく。
ゆっくりと起き上がり、カーテンへ視線を向けると隙間から光が零れているのが見えた。


「朝…」


眠れるか不安だったが、痛みで眠れなくならないよう処方された睡眠薬が効いたのだろう。
時計を見れば既に学校や仕事へ向かって少し経った時間だった。
気づかなかったのは睡眠薬が効いていたのと、足を挫いて学校をしばらく休むことになったハヅキをみんな気遣って起こさないようにしてくれたからだろう。
ハヅキは足を挫いた以外は至って健康体なので、お腹は減ってしまう。


「足を使わなきゃいいのよね!」


ハヅキはキャロルと双子だと言われた女の子である。
命令されたからと黙っていられるほど大人しい性格はしていない。
夢の中でもハヅキは兄王を困らせるほど病弱であるのにワンパクなお姫様だった。
安静とは、挫いた足を使わなければいいと考えつき、ベッドからゆっくり降りる。
ばあやのいるリビングへ向かおうと壁伝いで挫いた足を庇い、小さく跳ねながら歩く。


「―――!」


部屋を出てリビングに向かうとばあやはおらず古代エジプトのような貴族の衣装を身に纏う1人の女性がソファに座っていた。
その女性を見た瞬間、ハヅキは息が止まった。
それは女性も同じだった。
ソファに座っていた女性はハヅキの姿を見た瞬間、その整った顔を驚愕に変える。


「ハヅキ…なぜ…ここに…」


女性もハヅキを見て唖然としながらゆっくりと立ち上がる。
お互い見つめ合ったまま動かず…いや、動けずハヅキは何故か冷や汗が溢れ出し恐怖に体を震わせた。


「なぜそなたがおるのだ…!」

「お、お姉様…」

「なぜ…ッ!」


一歩、女性が歩み寄ると、ハヅキは女性から逃げるように一歩下がる。
一歩下がった際、ハヅキは挫いた足が床につく。
だが、あれほどジクジクした痛みが消えたように感じない。
相手への恐怖が痛みに勝ったのだろう。
しかし、すぐに壁にぶつかりハヅキは追い詰められてしまう。
追い詰められたハヅキを女性は目を吊り上げ睨みつける。


「そなたなど要らぬと申したはず!!なぜ私の前に現れる!!なぜだ!!」

「い、いやっ!お兄様っ!」


怒りに任せ、ハヅキを捕まえようと女性は手を伸ばす。
その手から逃げるためハヅキは庭へと向かって走り出した。
しかし、恐怖が痛みに勝っていても違和感はあるらしく、ぎこちない走り方だった。
女性はハヅキの小さな背中を睨みながら傍にいた黒い犬に命じる。


「アヌビス!ハヅキの喉元を噛み千切れ!!!」


その命令にハヅキは恐ろしくて振り返ることはできなかった。
犬の鳴き声と足音が大きくハヅキの耳に届く。
それが更に恐怖を煽り、ハヅキは必死に逃げる。
人間…それも捻挫した少女の足が犬に勝てるわけがない。
だが、ハヅキは犬と女性に気を取られ庭にある人工的に作られた池に落ち、難を逃れた。
逃れた…はずだった。


「きゃあっ!ふ、深い…!!」


普通ならその池は膝まであるかないかの深さしかないはずなのだ。
しかし何故か池は足がつかないほど深く、ハヅキは泳げないため溺れてしまう。
必死に手足を動かし水面に上がろうとするハヅキを見て、女性は高笑いを上げた。


「ハヅキよ!!自ら死を選ぶとはのう!!やはり神はそなたを必要としないのだ!!そしてメンフィスも……我が弟はそなたになど渡さぬ!!私とメンフィスのために死にや!!」

「―――ッ!!」


溺れているハヅキに留めと言わんばかりに女性はハヅキの頭を押さえ溺死させようとした。
ごぼごぼと水音と共にハヅキの口からは水が入り込み、このままでは本当に溺れて死んでしまうだろう。
それでも必死に酸素を求めるも、女性がそれを阻止するため頭を押さえているため息が吸えず、ハヅキの意識はだんだんと遠のいていく。


(お兄様っ!!お兄様助けてっ!!お兄様ッ!!!)


ハヅキは兄に助けを求めた。
ハヅキの頭には黒髪の男性が浮かんだが、それは果たしてライアンなのか…それとも―――。
だが、この場にいるのはハヅキと女性だけ。
ハヅキは誰にも助けられず……――完全に意識を失った。

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