(7 / 19) Novel (07)

――ハヅキ…

誰かが呼んでいる…

――ハヅキ…!目を開けてくれ…ハヅキっ!

誰だろう…気になる…けど…
けど…目が開けられない…
全身が重くて指一本も動かせない…


―――そなたまで私から離れてくれるな!頼むっ!


声がこもって聞こえていたが、その声は次第にはっきりとさせた。
それに気づくと同時にハヅキは意識を浮上させる。
だが、目を開け呼吸をした瞬間、咳き込んでしまう。


「おお!!姫様が…!メンフィス様!!姫様が目を覚まされましたぞっ!!!」


ハヅキは息を吸うごとに何故か水が入り込み咽てしまう。
傍にいた女性が背中をさすってくれたおかげで少し落ち着いたが、苦しみが治まることはなかった。
意識は相変わらず薄っすらとしているが、男の人の声にそちらに視線をやれば一人の少年の影が浮かんで見えた。


「ハヅキ!!私だ!!分かるか!?」

「けほ……ぃ…さ、ま…」

「そうだ!そうだ!!私だ!!ああ!ハヅキ!!良かったっ!!良く戻ってきてくれた!!!」


何が良かったのか、どこから戻ってきたのか、など疑問に思うことは多々あるが、今はそれを問う気力すらない。
少年の声に何故か安堵を覚え、ハヅキはついに意識を失ってしまう。
倒れる瞬間、少年が咄嗟に抱き留めてくれたおかげで地面に倒れることはなかった。
少年は意識を失ったハヅキを優しく気遣うように横抱きにして抱き上げ、少年の腕に収まるハヅキの体に傍にいた女性が布のようなものを掛けてあげた。


「メンフィス様…姫様を寝室へ…」

「ああ、分かっている………安心しろハヅキ…そなたを池に突き落とした者は私が殺しておいた…だからもう何も怯えることはないぞ…そなたは私が守ってやる…」


傍に控えていた美女に声を掛けられ少年はハヅキを寝室へ寝かせるために歩き出す。
傍にいた女性も後ろに続き、周りにいた他の女性達も慌てて続いた。
少女の寝室に向かうと、無理矢理連れられて荒れていたシーツなどはすでに整えられており、そのベッドに少女を寝かせる。
欲目なく少女の寝顔は愛らしいが、やはり明るく元気な笑顔が少年は一番好きだった。


「ハヅキ…ゆっくり休め…」


美しい濡れ羽色の髪を整えるように撫でながら眠るハヅキ…妹にそう愛し気に零した。
眠って意識がないのに、その声に安心感を覚えるようにハヅキのは安らかな表情へと変わった。

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