すでに2人の中で週末は友人達と街に出かける予定で埋まっていた。
2人であの店はこの店はと話す事が楽しくて会話が弾む。
「おーい!キャロル!ハヅキ!!」
「ジミー!おはよう!」
「おはよう、ジミー」
結局アメリカにいる父が不在の今、長兄であるライアンの言葉に従うしかないが、あれよこれよと話すのが楽しい。
すると、後ろから1人の男子生徒が2人に駆け寄る。
ハヅキ曰く、キャロルと良い感じのジミーだ。
ジミーの声にキャロルは嬉しそうな声を隠せないでいた。
「楽しそうに何を話してたんだ?」
「今週末にどこか遊びに行きたいねって話をしていたのよ」
「驚いた!あの2人を溺愛してるライアンさんがよく許したね!」
「残念ながら兄さんにはまだ話してないの…今は行けたらいいねの段階よ」
キャロルとハヅキはお互いの顔を見合わせ『ねー』と声を重ねた。
血は繋がらなくても双子のような2人にジミーは目を細め微笑む。
「もしライアンさんから許可が下りたらさ、僕も一緒に行っていいかな?」
「勿論よ!」
ジミーはキャロルと出掛けられると思い供に立候補する。
断れるかもしれないと緊張していたが、キャロルに二つ返事で答えてもらい安堵する。
キャロルはジミーと出掛けることができるとまだ兄から許可は貰っていないのに頬を染めて嬉しそうにしていた。
「残念ながらジミーだけじゃ許してくれないだろうから他の人も誘わなきゃいけないけどね」
傍から見たら両想いなのに、2人はなぜその想いにお互い気づいていない。
可愛くももどかしい恋についハヅキは揶揄ってしまう。
『残念』という部分には、『キャロルと2人きりじゃない』という意味が含まれており、それはジミーには通じていた。
ジミーはハヅキの言いたいことを理解し顔がまるで茹蛸のように真っ赤に染まった。
「ざ、残念なわけないだろ?みんなで遊んだ方が楽しいし!」
「ふふ、そうね」
揶揄われていると気づくジミーは慌てて言い訳を並べたが、それさえも可愛く感じてしまう。
楽しそうに笑うハヅキに、ジミーも釣られたように笑顔が浮かび、想い人のジミーと双子のようなハヅキが仲良くしているのを見てキャロルも嬉しそうに笑った。
―――3人は授業もあって教室へ向かい、今日の授業を受ける。
その中でもキャロルとハヅキが一番楽しみにしている考古学の授業が始まろうとしていた。
ジミーの祖父であるブラウン教授が遺跡などを生徒に直接見せながら解説する授業である。
「楽しみね、ハヅキ!」
「そうね!楽しみ!」
最初はキャロルが興味を持ち、それに釣られるようにハヅキも考古学に興味を示した。
今では2人はブラウン教授に愛弟子だと公言されるほどに優秀な生徒となったほど2人は歴史にのめり込んでいる。
バスに乗り込んで向かうと、現場では相変わらずな教授の語りが始まった。
また始まった、とハヅキを含めた生徒たちが苦笑いを浮かべながら話に耳を傾けていると、下から聞き慣れた声が聞こえ2人は覗き込む。
「キャロル!ハヅキ!!」
「あらロディ兄さん!どうしたの、血相変えて!」
下には次兄のロディが慌てた様子で妹達に駆け寄っているのが見えた。
珍しい兄の様子にハヅキもキャロルもお互い顔を見合わせる。
「2人とも大事件だ!迎えにきたんだよ!早くテーベの丘の王家の谷に行くんだ!」
「どうしたの、ロディ兄さん!」
「父が出資して発掘している現場から新しい王の墓を見つけたんだ!!」
ロディの言葉に2人は目を丸くさせる。
エジプトといえば、ピラミットと王の墓だろう。
しかし人が発見できる場所はすでに先人達が見つけているため、王の墓はそう簡単に見つかるわけではない。
見つかったら奇跡だと思うくらいだ。
その王の墓が見つかったと聞き、ハヅキやキャロルだけではなくみんな急いでロディの案内の元、現場へと向かった。
「わっ!すごい人!」
「王族の墓が見つかったんだもの、大騒ぎになるのは当然よね」
現場に到着すると、すでに情報が流れているのかテレビ関係者や新聞記者やカイロの博物館の館長や大学の博士など大勢で賑わっていた。
普段は人の来ない静かな場所が嘘のように人で溢れていた。
人の多さに驚くハヅキはキャロルの言葉に『そうね』と頷きながら発見された入り口から入っていく。
――そこは暗く、明かりがなければ真っ暗だっただろう。
作りも他の墓とは違っていて、珍しさにみんな目を奪われてしまう。
入り口から階段が続き、すでに地下100メートルほど長い階段をハヅキ達は下りていた。
「大丈夫かい、ハヅキ」
薄暗い場所で長い階段を下る中、ロディはハヅキを心配して声をかける。
キャロルも心配だが、キャロルにはジミーがついているため彼に任せることにした。
ロディは勿論妹達は可愛いが、兄のように溺愛しているわけではないのでジミーとキャロルの可愛い恋模様に反対していない。
ロディの声掛けにハヅキは『うん、大丈夫』と頷きながら皆に続いて階段を降りる。
―――すると行き止まりに到着した。
しかし、四方壁に囲まれた場所に迷い込んでしまう。
「行き止まりだわ!」
「隣に空洞がないか調べよう!」
王の墓だと期待していた分、がっかりしてしまう。
キャロルもハヅキも『なーんだ』と肩を落としながら、皆と何か仕掛けでもないかと調べ始めた。
その時――床が傾き、ハヅキ達は全員下へと落ちてしまう。
「いやー!真っ暗!怖い!!いやー!!」
「キャロル!離してくれっ!」
「なんて声を出すんだい!キャロル!」
落ちた先は暗闇に包まれていた。
キャロルは突然床が傾いて落下し、その先が暗闇に包まれていたため驚きと怯えに傍にいたジミーに抱きつき悲鳴を上げた。
妹の悲鳴に思わずロディは耳を塞いでしまうが、ハヅキはそんなキャロルの悲鳴に構っている余裕はなかった。
「ハヅキ?ハヅキいるかい!?」
「に、兄さん!ロディ兄さん!ここよ!」
キャロルの悲鳴に耳を塞ぎながら、目も暗闇に慣れたため声を一切上げないもう一人の妹の姿を探す。
声のする方へと向かえば座り込むハヅキの姿があった。
足首を庇いながら座り込んでいるハヅキを見てロディは慌てて駆け寄る。
「ハヅキ!?怪我をしたのか!?」
「足…くじいたみたいで…歩けなくて…」
落下するまではよかったが、着地した時に暗闇だったのもあり足を挫いてしまった。
ロディに気づいてもらい、ハヅキは安堵したのか痛みながらも笑みが浮かぶ。
「おおー!!発掘したぞ!これぞ王の玄室だ!!」
「王のミイラを納めた黄金の人型棺が安置されてるわ!」
ロディに抱き起されていると、同じく暗闇に目が慣れた教授達が王の玄室を発見した。
教授達の嬉しそうな声が反響して響いて聞こえるが、皆嬉しさに気にも留めない。
同じ考古学を目指す身としてハヅキもそちらに向かいたかったが、足を挫いてしまったためロディに背負って貰ってキャロルたちとは一足遅く向かう。
「わぁ…すごい…」
王の墓は観光客に公開されている場所しか見た事がなく、こうして調べが入る前の玄室は初めて見た。
圧倒される光景に、ロディの背中からハヅキは感嘆の声が漏れてしまう。
王の玄室なだけあって全てに黄金があしらわれ、暗闇に包まれていた先ほどと違いキラキラと眩しいくらい輝いていた。
(なんか…懐かしい気がする…)
みんなと同じく豪華な部屋に口を開けて呆けながら王の玄室を見渡していたハヅキだが、なぜか懐かしさを感じた。
しかしその中で、なぜか悲しみも感じてしまう。
血筋も生まれも純日本、育ちはアメリカなハヅキがエジプトの王族の墓を見て懐かしさと悲しみを感じる理由が分からない。
ロディの背中で首を傾げていると、今回はここまでにし、一度地上に戻り改めて調査することになった。
地上へ戻ることに気を取られているハヅキは―――
―――…わが妹……ハヅキよ…
自分に向けられる愛し気な声に気づかなかった。
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