次の日の朝、夏目は小春の代わりに妖の探し人の事を聞きだしていた。
「顔を見れば分かるのですが詳しくは分からないのです…分かっていることと言えば二葉村に住んでいた『谷尾崎』という名の男だったことくらいです。」
「二葉村ってお前が住んでるダム底に沈んでいた村のことか?」
「はい…」
小春はまだ寝足りないのかしかし一緒に寝ていた夏目が布団から出たことで目が覚めてしまい、ぼうっとしながら布団に座っていた。
夏目は着替えをしながら妖の話しを聞いているが妖といえどやはり年頃なため夏目は自分の部屋で着替え、妖は小春の部屋にいてもらっている。
「じゃあ二葉村から引っ越した谷尾崎って人を探せばいいのか……ん?村が沈んだのは何年前だ?」
「20年前です。当時20代だった人なので今は40代でしょう。」
「に…20年前か……これは長期戦覚悟だな…俺のクラスの奴等にも聞いてみるからお前は小春を頼めるか?」
「小春様を?あ、はい…取り憑かせていただいておりますのでそれは勿論構いません」
「ありがとう、小春も寂しくなくなって助かるよ」
夏目は着替えも終わり、襖を開け妖に笑いかける。
にこりと笑う夏目を見上げ、妖はゆっくりと上げていた顔を下げ目を擦っている小春に目を移す。
静かな妖に夏目は首をかしげながら、朝は時間もないためあまり深入りはせず呆けてる小春を起こしパジャマのまま横に抱き上げ部屋を出て朝食を取る為に階段を降りていった。
「あら、貴志くん、小春ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
リビングへ入るとすでに朝食の準備も出来ており、割烹着を着けている塔子が降りてきた夏目と小春に振り返る。
夏目も小さく笑みを浮かべながら挨拶を返し、小春を座らせると塔子は小春のもとに向かい手の平にもう一度挨拶を書く。
小春も塔子の挨拶に顔をあげにこりと笑った。
その愛らしい笑みに塔子も夏目も微笑ましく目を細める。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
「…………」
登校の時間となり夏目は塔子と小春に見送られながら学校へと向かった。
兄を見送る小春の膝の上には斑がおり、その背後には妖がいた。
兄が学校に行っている間、小春はよくリビングか部屋に篭もり兄の帰りを待ている事が多い。
年齢の半分以上が病院で寝たきりだったため家でのんびりするというのもなく、どうしたらいいかわからなかった。
しかし部屋は2階にあり、夏目も滋も居ないためリビングの選択しかない。
最初塔子も滋も夏目も1階の空き部屋を使うことを薦めたが、小春が兄である夏目の傍がいいと言って聞かなかった為、小春の部屋は2階となった。
小春は車椅子のまま塔子にリビングに移動させてもらい、車椅子からソファへ移してもらった。
塔子からお茶とお菓子を貰いそれを斑と妖と一緒に食べるが、喋るのは斑の妖だけで小春はもぐもぐとただお菓子を食べていただけだった。
それでも小春にとって楽しいひと時である。
夕方。
夏目が学校が終わり帰宅する時間。
普段でも余り道草を食わない夏目は普通の子とは違い明るいうちに帰ってくることが多い。
小春も泊まりに来ており、尚且つ妖問題もあるので早く帰らざるを得なかった。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい!丁度よかった!」
「?」
「今からお買い物行こうと思ってたんだけど小春ちゃん1人には出来なくってどうしようって思ってたの!貴志君、小春ちゃんとこれからお散歩に行くのよね?一緒に出ましょう」
「あ、はい…じゃあちょっと待っててください」
「ええ、急がなくてもゆっくりでいいわよ?」
学校から帰った夏目の日課と言えば小春との散歩である。
それを知っているから塔子は一緒に家を出るのを提案し、夏目はカバンを部屋に置きに行き小春を外に連れ出す。
小春に帽子を被らせペットボトルにお茶を入れ、そのペットボトルとタオル等を小春の車椅子の後ろにあるポケットに入れて塔子が待つ外へと出た。
「鍵は持った?」
「はい」
「それじゃぁ、あまり遅くならないようにね?ちゃんと小春ちゃんだけじゃなくって貴志君も水分補給しなきゃだめよ?あ、ニャンキチ君もよ!」
「は、はい…」
塔子は子供が出来なかった分夏目と小春を自分の子供以上に可愛がっている。
男の子と女の子が同時にできるなんて夢見たいだわ、と夏目と小春が来た当初彼女は嬉しそうにそう言った。
当時はまだぎこちなくて藤原夫婦の愛情に戸惑いもあったが、小春と共に今ではすっかり藤原家の息子娘として馴染んでいる気がしてちょっと気恥ずかしい気がするも悪い気はしない。
今夜は暑いから素麺ね、と言って別れた塔子とは反対側に夏目は足を運ぶ。
車椅子に乗る小春は夕方となり少し涼しくなった風を受け気持ち良さそうに笑い、その膝の上に斑が乗り、車椅子押す夏目の少し後ろに妖が歩いていた。
「今日、学校で聞いた。」
「はい…」
「クラスの奴の父親が二葉村の出身らしくて…一応父親に聞いてくれるって言っていたよ」
「!、本当ですか!?」
「ああ、二葉村の人達の殆どはこの辺に越してきているらしいから確率は高くなったな。」
「はい!ありがとうございます!!」
北本と西村に何気なく聞いたら北本の父親が二葉村の出身らしく今夜聞いてくれるという。
『偶然とは恐ろしいものだな』、と話を聞いていた斑が小春の膝の上で丸くなりながらそう呟き、夏目はそれに頷いた。
お礼を口にし頭を下げる妖に夏目は『まだお礼を言うの早くないか?』と笑う。
「あ、夏目様…雨が来ます」
「雨?」
「はい、解るんです。」
「…雨を予言する鳥……そうか、お前元は燕だったんじゃないのか?」
燕が低く飛ぶと雨が近いと聞いた事がある夏目は妖…燕に振り返る。
夏目の言葉に燕は『はい』、と笑みを浮かべて頷いた。
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