(14 / 26) *10話 (14)

「待ってください!!」


奈々が向かった先はホテルのロビーだった。
名取を追いかけてきた奈々は慌ててエレベーターに乗り込み名取が向かったであろう1階にあるロビーへ向かう。
そこには予想通り名取がおりその隣には柊もいるのだが、見えない普通の人間である奈々には柊の姿は見えず名取だけしか視界に捉えられない。
奈々の声に名取は振り返り奈々の姿に目を丸くさせる。


「奈々ちゃん!?なんで…」

「私も行きます!!」

「な…!それは駄目だ!!」


名取は自分に駆け寄ってきた奈々の言葉に丸くしていた目を更に丸くさせ驚愕させる。
奈々の言葉に名取はまさか一緒に行くと言いだすとは思っていなかったのか、驚きが隠せなかった。
そんな名取などよそに奈々はムッとさせ自分よりも背の高い名取を上目遣いで睨み付けた。


「なんで駄目なんですか!!」

「妖かしが見えない君には無理だ!」

「勝手に決め付けないで下さい!!大体小春は私の友人です!!友達が命の危機かもしれないって時に私だけ安全な場所にいてもいいと思いますか!!いけないですよね!!なので私も行きます!!」

「人の話し聞いてたかい!?」


人に質問しておいて自分で勝手に結論付ける奈々に名取はつい突っ込んでしまう。
しかしそれでも奈々は止まらず、名取も一歩も引かず、お互い行くだの駄目だだの口論が激しくなっていく。
名取と奈々の口論はロビー、いや…一階のホテル全体に広がっていた。
知名度もない普通の人間ならばただの喧嘩かと気にも留めない者も多いだろうが、口論の1人が俳優の名取というのもあり、2人は野次馬に囲まれてしまう。
名取も小春を攫われ切羽詰っているようで、普段しないような口論を人前でしても気付いていない。


「いい加減にしなさい!!君の言っている事はただの我が儘だ!!」

「だから何よ!!あんたのもただの我が儘じゃない!!!」

「私は大人として子供を事件に巻き込まないようにだな…」

「私はもう高校生だっつーの!!」


もう敬語も何もなくなっている奈々に名取は『ああ言えばこう言う…!』と苛立つように呟いたあと、その苛立ちを抑えるように溜息をひとつ零す。
溜息を零した事で少し冷静さを取り戻したのか名取は『とりあえず落ち着こう。』と提案し、名取のその提案に奈々は我に返ったのか頷いて名取同様溜息を零した。


「とにかく…君は妖かしは見えるのかい?」

「……いいえ…」

「だったら尚のこと連れて行けない。」

「なんで!!見えるか見えないかなんて関係…」

「あるんだ!」

「…!」


奈々が見えるか見えないかなど名取には聞かずとも分かっていた。
しかし確認するように改めて奈々に見えるのかと聞くも奈々はやはり見えないと答える。
名取はその答えを聞きやはり連れて行けないと首を振った。
その名取の返答に奈々は逆上し声を上げるが、それを遮るように更に声を上げる名取の言葉にビクッと肩を揺らし口を閉じてしまう。
名取は口を閉じた奈々の肩に手を置き、真っ直ぐ奈々の瞳を見据える。


「奈々ちゃん、いいかい?これは人と人との戦いじゃないんだ……この戦いで君のように見えない人間を連れて行けばあの妖かしの餌になるだけだ…」

「だから諦めろっていうんですか…」

「ああ。」

「そんな…!ただ小春が助かるのを祈って待ってろって言うんですか!?」

「そうだ。」

「…ッ」


はっきりと名取は奈々の言葉に頷く。
その名取の頷きに奈々は何も言い返せず下唇を噛むしかなく、そんな奈々に名取は優しく声をかける。


「奈々ちゃん…君を亡くしてしまえば小春ちゃんだけが悲しむんじゃない…君の帰りを待っている家族だって悲しむことになる…」

「………」

「君の気持ちは分からなくはないが…見えない者がいてもただの足手纏いになるだけなんだ…」


キツイ言い方だというのは名取も十分に分かっていた。
しかしそれしか言いようがなく、奈々は家族を出されてしまい本当に言い返せず俯いてしまう。
奈々は『だから待っててくれないか?』という名取の言葉に言い返せずただ小さく頷くしかなかった。
名取は頷いた奈々を見て安堵の息をつく。


「あの…」


名取が胸を撫で下ろしていると、ある人物が声を掛けてきた。
名取はハッとさせその人物へ顔を上げるとそこにはここのホテルの支配人だという男が立っていた。
野次馬はもう口論が終わったこと興味も失せたのか、はたまた某掲示板や某呟きサイトに投稿するのに忙しいのかもう二人の方を見てはいない。
名取はそんな野次馬など気付かず声を掛けてきた支配人の男に首をかしげ怪訝そうに見つめる。
支配人の表情はどこか困惑している様子で一度見かけた温和な印象とはかけ離れていた。


「今の話し…」

「あ…い、いや…今のは…芝居で…」

「……重丸…のことでしょうか…」

「…!」


話を聞かされたのだと名取と奈々はヒヤッとさせた。
慌てて名取が言い訳をしようとしたのだが、その言葉を遮り支配人の男が意外な名前を口にし、名取は目を丸くさせる。
そんな名取に支配人は何も言わず、ただ名取からの返答を待っていた。


「………」

「…やはり…そうなのですね…」


名取はゆっくりと頷く。
口は固く閉じられ険しい表情で頷いた名取を見て支配人は悲しげに眉を下げ目を伏せて悲しげな声色で呟く。


「あの…」

「…お話したい事があります…こちらへ…」


何か知っているのか、と名取が問いかけようとしたその時、支配人が名取と奈々に話したい事があると言って背を向けた。
再び言葉を遮られた名取は隣にいた奈々と柊の顔を見つめた後支配人の背に目を向ける。


「主様」

「…なんだ」

「あの人間、私が見えているようでした」

「なに…?」

「変な気は感じられませんでしたが……一応気をつけた方がいいかもしれません…」

「………」


柊は奈々と主人が口論している時からずっと黙ったまま名取の隣にいた。
あまり口煩い方ではない柊だったが、口論に口出ししてはいけない空気が2人から漂っていたので口出しが出来なかった。
それはどうでもいい事だが、柊は支配人がこちらを一瞬見たことを名取に報告する。
名取達を立ち止まり振り返り待っている支配人に聞かれないように小声だったが、名取にはちゃんと聞こえていた。
名取は妖かしである柊が見え、そして重丸の事を知っている口ぶりの支配人を警戒の色を濃くした瞳で見据える。
それでも、支配人は悲しげな表情を崩さず名取達を待っていた。
そんな支配人に名取は立ち尽くしているままにもいかず不審に思いながらも何か手がかりがあるんじゃないかと思い支配人の案内のままにある部屋へと向かう。


「さて…どこから話しましょうか…」


案内された部屋は客室ではないものの誰も居ない部屋だった。
何故か奈々も付いてきてしまい、部屋へ帰るよう言っても『一緒に連れて行ってくれないならこれくらい構わないですよね!!というかむしろこっちは被害者なんだから聞く権利あるんですけど!?』とキレられてしまった。
どうやら言い返せなかったのが悔しかったようである。
全くの八つ当たりだが名取は溜息を1つ大袈裟に零しただけで何も言わず、確かに被害者で聞く権利はあるのだろう、と思ったのか何か言いかけたが口を閉じ黙った。
支配人は奈々が居ても何も言わず、思い出を語るような口ぶりで語り出した。


「あれは約1000年前でしょうか…」


支配人の語った話しを聞き、名取は表情を更に険しくさせた。

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