(16 / 26) *10話 (16)

リン、と鈴の音が眠りにつく小春の耳に届いた。


「小春」

「ん……ってひいら…!」


肩を揺らされ小春は目を開ける。
どうやらいつの間にか眠っていたようで、膝の上で眠る重丸の上で顔を埋めるように寝ていた。
目を覚まし声の方を目線を向けるとそこにはここにいないはずの名取に使役されている柊が視界一杯に写っていた。
小春は突然の柊のドアップとその柊が居ることに驚きの声を上げかけたが咄嗟に口を柊の手で塞がれてしまう。
静かに、と小声で言う柊に小春は声が出せず何度も頷き、その頷きを見て柊はようやく手を放す。


「ど、どうしてここに柊が…?」

「…まあ、色々あってな……それより動けるか?」

「無理だよ…この子私の膝の上で眠ってるし…それに長時間正座してたから足痺れちゃって…」

「ひ弱め」

「うぅ…返す言葉もございません…」


ぼそり、と呟いた柊の言葉に小春は返す言葉もないと唸る。


「とにかく、私が近づいても起きないということは眠りが深いのだろう…ならば動かしても起きることはないはずだ。」


そう言って柊は小春の腕を掴む。
立ち上がらせようとはしないものの一方的に告げられ連れ出そうとする柊に小春は戸惑いの声をもらす。
しかし腕を軽く引っ張られ小春は戸惑いながらそっと重丸が起きないように膝から退かして足が痺れて動けないという小春を柊が横抱きで抱き上げそのまま洞窟を出て行く。


「ま、眩しい…」

「吹雪が止んだからな。」


外に出れば柊が言う通り、吹雪が止んでおり燦々と太陽の光りが小春達に注がれていた。
その上、積もっている雪が光りを反射しているのと薄暗い洞窟から出た小春から見たら柊や他の人より数倍眩しく見えるだろう。


「小春ちゃん…!」

「名取さん!」


柊に運ばれて数分…眩しさの余り目を細めて空を見上げていると名取の声が小春の耳に届く。
重丸がいる洞窟が近くはないが遠くもないため名取の声も小声だが、小春は声の方へ顔を向けるとこちらに駆け寄ってくる名取の姿が見えた。
小春は名取の姿に嬉しそうに笑みを零しその笑みを見て名取は安堵の息をつく。


「よかった…無事だったんだね……でもどうして柊に抱かれているんだい?」

「それは…」

「小春はあの妖かしに膝を枕にされていたため足が痺れたんです」

「ひ、柊!」

「へ、へえ…膝枕……」


言いたくないと小春は名取から目を逸らしていたのだが、名取の疑問に答えたのは小春ではなく柊だった。
柊に呆気なくバラされた小春は慌てて『しー!!』と口元に人差し指を持っていく。
しかし肝心の柊はそんな小春をただ見下ろすだけで反省の色が見えない。
涼しい顔(をしているかは面で見えないが)をしている柊を小春が拗ねたような表情で睨むように見上げている。
そんな小春に名取は苦笑いを浮かべ見つめながら『膝枕のことは夏目とニャンコには黙っててあげるよ』と心優しい言葉を掛けたのだが、名取の言葉に小春は『はい…』と苦笑いを返しながら正直その優しさが痛い…となんだか分からない恥ずかしさで一杯となる。
妖かしとは言え、小春は同じ女性に横抱き…云わばお姫様抱っこをしてもらっている今の姿を奈々や兄に情けなくて見せられないと心の中で呟き溜息をつく。
しかし、自業自得と言えば自業自得である。


「柊、小春ちゃんを連れてホテルに帰れ」

「え…」

「しかし主様…」


足も次第に治り、降ろされながら苦笑いを浮かべる小春の頭を名取は目を細めながら優しく頭を撫でてやる。
名取の撫でてくれるこの暖かな手を小春は何日も触れられていなかったような気がして、重丸に癒されながらもどこかで緊張していたのか気が抜けたような気がした。
黙って頭を撫でる自分の手に身を委ねる小春に名取は微笑を深めながら柊へと顔を上げ指示を出す。
自分を残し柊と小春だけがホテルへ帰れと言う名取の命令に柊は戸惑いが隠せない声をもらし、小春も名取が1人残るような言い方に顔を上げた。


「ここからは1人で大丈夫だ」

「ですが…今、主様をお守りできるのは私しか…他の2人は置いてきてしまったではありませんか」


渋る柊に名取は有無を言わせない瞳でもう一度『帰るんだ。』と命ずる。
有無を言わせないその名取の瞳に柊はグッといいたい言葉も呑み込み渋々その命令に頷いた。
小春は1人で残るという名取の言葉に心配そうに名取を見上げる。


「名取さん…もしかして…重丸くんを倒すんですか…?」

「いや…封印をしようと思う…」

「封印…?」

「ああ…」


名取の言葉に小春はあからさまにホッと息をつく。
しかし封印という言葉に小春は複雑そうな表情を浮かべる。


「あの…」


名取は重丸を封印しようとしている。
しかし重丸もそう素直に封印させてはくれないだろう。
小春は妖気など分からないが重丸がそれなりに力があるのは感じ取ることは出来る。
それに重丸に絆された、と言っても過言ではなく、小春はどうにかして名取と重丸を説得させようかと口を開きかけたその瞬間…獣の雄たけびが森の中に響く。


「!――気付かれたか…!」

「あの…っ」

「柊!小春ちゃんを連れて―――ぁ、ぐ…ッ!」

「主様!」

「名取さん!?」


声からしてそう近くにはいないようだと名取は焦りながらも柊に小春を連れてホテルに帰るよう命令を下そうとしたその瞬間、背中に酷い鈍い痛みが走り名取は顔を歪め肩に手をやり痛みに耐え切れずしゃがみ込む。
しゃがみ込んだ名取の背中には傷があり、着ていた服は血で真っ赤に染まっていた。
それを見て小春は顔を青くさせ柊に続き名取に駆け寄る。


「貴様ら…!!」

「…!」


痛みに声を零す名取に小春は今にも泣きそうな表情を浮かべ心配そうに名取を見る。
するとドシン、と重たい何かが地面を叩くような音が3人の耳に届き、小春は顔を上げ、名取は痛みで横で見ることしか出来ず、柊は名取と小春を守るように前に出た。


「重丸くん…」


小春達の前には重丸がいた。
あれから小春が居ないことに気付いた重丸がここまで走り、名取の背中に一瞬にして傷を負わせたのだ。
その名取の背中に傷を負わせた重丸の尻尾の先は名取の血で微かに赤く染まっている。
それを見た小春は恐怖と悲しみに苦しげな表情で尻尾から重丸へと目線を戻す。
だが重丸は小春の目線など気にする余裕もなく、小春を奪われた怒りで我を忘れ小春を攫った本人である名取と柊を見つめるその表情は憤怒のごとく怒りに満ちていた。
怒りに満ちる重丸の表情を見て小春はつい1歩後ろへ下がってしまう。
それを見た名取が背中の傷を庇いながらも小春の前に庇うように立った。


「名取…さん…」

「しかし主様…!」

「柊!行け!!」

「…ッ」


戸惑いの声で名を呼ぶ小春に振り返る暇もなく名取は柊に声を上げて命ずる。
その命令に柊は少しうろたえながらも頷き小春の腕を引っ張り名取から離れようとした。
柊に引っ張られ振り払う事が出来ない小春は引っ張られながら名取の名を声を上げて呼ぶが名取は背を向けたままで振り返ることもしなかった。


「主…!!」

「すまないがここから先は行かせるわけにはいかない!」

「貴様…ッ!我が主をどこへ連れて行くつもりだ!!」


柊に腕を引っ張られ連れている小春を連れ戻そうと重丸は1歩足を踏み出す。
しかしそんな重丸の前に名取が立ち塞がり、重丸は更に憤怒の色を強くする。
名取は重丸に受けた傷の痛みに耐えながら繋がっている紙人形を取り出し、表情を険しくさせた。


「…君の主人は小春ちゃんじゃない…もう君の主人は1000年前に亡くなっているんだ…」


そう名取が呟いたその瞬間、重丸の尻尾が再び名取へ振り下ろされる。

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