「小春…!!」
「小春ちゃん!!」
小春は藤原夫妻に抱きしめられていた。
(く、くるしい…)
2人に隙間がないほど抱きしめられている小春は息苦しくて酸素を求め顔を上げた。
しかし苦しいが3人が心配して駆けつけてくれた事が嬉しくて小春は苦にも思ってもいない。
自分の為に滋は仕事を休み、夏目も学校を休み、塔子と共に駆けつけてくれたのだ。
周りを見れば生徒全員が保護者に抱きしめられていたり、声を掛けられたりと皆、子供達を心配していたのが窺える。
「小春が無事でよかった…!」
「ええ!とても心配したわ!!」
「ご、ごめんなさい…」
小春が悪いわけではないが、つい謝ってしまう。
しかしそれでも小春は嬉しそうに笑っており、抱きしめる塔子の肩に顔を埋めた。
それを自分も駆けつけて思いっきり抱きしめたいが今は我慢だと微笑ましく滋と塔子に抱きしめられている妹を見つめている夏目の足元で斑が細長い身体と尻尾にクリーム色の毛を生やし長い耳を持ちつぶらな黒い瞳の狐を頭に乗せながら小春を目を細めて見つめる。
「全く…騒がしいことこの上ないな。」
「きゅー。」
「なんだよ…先生だって小春が行方不明だって聞いた時一番に駆けつけようとしたじゃないか。」
「小春だから当たり前だ。…これがもしお前だったら今更お祭り騒ぎだニ゙ャ…ッ!!」
「きゅ?」
ゴン、と鈍い音がその場に響く。
小春は憎まれ口を叩く斑やそんな斑に拳を食らわす兄を見てこの2人のやり取りが何だか何ヶ月も見ていないんじゃないかと思うほど懐かしく思う。
小春は…小春達学校の生徒達は行方不明としてニュースになっていた。
北海道へ修学旅行に行くため夏目達は駅まで見送った。
しかし小春達が泊まるはずのホテルに一向に姿を見せないとホテル側が教師に連絡した後連絡が取れないため警察に電話し騒動になったのだ。
だからか、保護者達と再会している姿をカメラやテレビ関係の記者達が囲んでいた。
しかし肝心の生徒や教師達は首をかしげているばかりだった。
行方不明と言われても自分達は全く覚えていなかった。
ホテルに泊まり食事も取っていた覚えは微かだがあるが肝心のホテルの場所や名前、従業員等の顔も覚えていなかったのである。
警察や記者達に問われても何も答えられず、自分達の知らないところで騒ぎとなっており教師と生徒達はまるで狐につままれたようだと記者達の質問に声を揃えた。
それを聞きながら全て覚えている小春は誰にも言えず、苦笑いを浮かべるしかなかった。
「やあ、夏目」
「あ、こんにち……―――ハアアア!?」
夏目は斑にお仕置きをした後小春を抱きしめている塔子と滋をほのぼのとした瞳で見つめていた。
しかし、後ろから聞き覚えのある声で挨拶され、反射条件に夏目も誰なのか確認する前に振り返りながら挨拶を返す。
振り返りその声を掛けられた人物を視界に納めた夏目だったが、その人物…名取に目を丸くさせ声を上げた。
テレビカメラがあるため変装しているが、隠しきれない芸能人オーラをこれでもかとかもし出すその姿に夏目は見間違うわけもなかった。
夏目が声を上げたことで他の生徒達にインタビューや、カメラの前で原稿を読んでいた記者達の目線が夏目に集中する。
「た、貴志くん?」
「どうした?」
「あっ!いや!!な、なんでもないです!!ちょっと昔の友人と出会って驚いてしまっただけで…あ!なんだか懐かしすぎて話したくなっちゃったなー!……と、いうことで小春をお願いしますね!!」
「え!?貴志くん!?」
アハハ、と変装していても丸分かりの名取の腕を取り夏目は慌ててカメラも人もいないであろう場所へと引っ張っていく。
そんな夏目らしくないその行動に塔子と滋は首を傾げていたが、名取だと知っている小春は夏目の行動に苦笑いを浮かべていた。
「大根役者だな…あれではゲイノーカイとやらには出れんぞ」
「あれ…ニャンコ先生も行っちゃうの?」
「ああ。私も事情を知りたいからな。」
「事情なら私が教えてあげるのに…」
夏目がその場に居たら『いつ芸能界に出たいって言ったんだ!!』と怒るだろうが幸いにもここには夏目はいない。
斑は狐を頭に乗せたまま溜息をつき夏目の後を追うように足を向ける。
そんな斑に小春は塔子達がいるため小声で首をかしげながら行ってしまうのかと問えば斑も行方不明になった経由を知りたいと夏目と共に名取に問い詰める気満々だった。
事情なら自分も知っていると小春が言えば斑は立ち止まり小春に振り返り顔を上げて『お前は塔子達に付き合ってやれ』と言ってそのまま夏目が去っていった方向へと姿を消した。
小春は斑の言葉に斑から塔子達へ目線を戻す。
塔子達は本当に自分を心配してくれたようで、『本当によかった』と何度も何度も呟いて小春が無事な事を喜ぶ。
そんな塔子達に小春も心配されるという事が…心配してくれる人がいるという事が嬉しくて笑みを浮かべ、涙ながらに抱きつく塔子の背中に腕を回す。
****************
「どういうことですか!!名取さん!!!」
人を避けていけば必然的に隅の行き当たりになってしまう。
小春達とは離れてしまったが、夏目はそれよりも事情を知っているであろう名取に問い詰めるように声をあげ、睨みつける。
そんな夏目に名取は相変わらずの爽やかな笑みを浮かべていた。
「まあまあ…そう怒らない、怒らない。」
「ふざけてないでちゃんと教えてください!!どうしてあなたがここにいて!一緒に行方不明になっていたんですか!!それに――」
「ここにおったか、夏目。」
「――この狐っぽいのはなんなんですか…!!!」
『最近の若者は本当にキレやすいねぇ』と冗談めいた事を呟く名取に夏目は本気でイラッと来たのか更に声を上げる。
幸いにもここは端の端。
監視カメラもあるものの夏目達は監視カメラに映らない場所に居たので多分ニュースになることはないだろう。
因みに騒ぎになれば雑誌のタイトルは『俳優名取周一高校生に喝上げされていた!?』とデカデカと書かれるだろう。
夏目は小春に聞きたくても塔子や滋も居たため聞けず、多少の苛立ちを名取に当てるように睨み付ける。
しかし夏目の睨みなど慣れてように名取は怖がる様子もなく平然としていた。
修学旅行に来ていた小春を含む生徒達が行方不明というのもデカデカとニュースになっていたが、実は名取周一を初めとする来年春にやるという映画の撮影のため北海道に来ていた撮影グループも行方不明になっていると話題になっていた。
そして夏目はのそのそとこちらに近寄ってきた斑の頭に載っている狐に振り返ることなく指差し、更に睨みを濃くさせる。
「ああ、この子は―――…」
夏目の迫力など常日頃から見てきている妖かし達の凄みにしたら可愛いと思いながら名取はこれらの経由を夏目に話した。
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