次の日の朝。
小春と夏目は塔子に見送られ家を出る。
「帰りは明日の昼になりますけど…名取さんと一緒なので心配しないでください。」
「どんな映画なのか後で教えてね?」
「はい」
昨日の夜、夕食の時に塔子と滋に明日名取と映画を見に行くと約束したと告げた。
突然の事で驚いた2人だったが夏目と小春の説得により許可が下り、とりあえず夏目と小春は不安がらせることはないと安堵する。
因みに、名取の事を説明する際に夏目は必死に悪い人じゃないんです!悪い人じゃ…!と説明していた。
お兄ちゃんも大概一言多いよね、と小春は後に斑に告げる。
そして、当日。
夏目は適当な服を、そして小春は女の子らしくしかしあまり目立つことのない服を着ている。
夏目や小春は正直ファッションや服には興味がなく、タンスの中にある服の殆どが塔子が買ってきた物である。
男性向けも最近ではおしゃれな物が増えてきているとは言え、ファッションは女性が中心と言っても過言ではなく、そして夏目の趣味に合わせるとどうしても小春の方が色鮮やかになってしまう。
控えめな夏目からしたら地味な方が落ち着くと言うが、小春の場合殆どの服が塔子プラス夏目のコーディネートである。
しかも名取のロリコン発言により、駄目出しなどしない夏目が今日はとことん容赦なく小春に駄目出しを繰り出したのだ。
露出がある服などないに等しいのに、である。
ここで夏目のシスコンぶりが垣間見れるであろう。
****************
「たしかこの辺のはず…」
小春と夏目は寒い中森の中を歩いていた。
紙に書かれている地図を見ながら進んでいるのだが、建物は見当たらず2人は内心不安に思ってしまう。
「飲み会会場はもうすぐか?」
「会合な?」
「ふふ、ニャンコ先生もう飲む気満々?」
「ようこそおいでだ、客人。」
「「…!」」
小春の腕の中でのんびりとゆったりとしていた斑が早く飲みたいとダダを捏ね始めたその時、夏目達以外の声が辺りに響く。
しかし辺りを見渡しても人などおらず、妖かしもいない。
首をかしげているとふと葉っぱの上に赤いものが2人の視界に映り、2人は同時に顔を下へと下げる。
「入り口はこちら…」
2人の視線の先には人ではありえないほど小さな妖かしがいた。
赤いものは番傘で、そこには北口と書かれている。
案内人らしいその妖かしは唖然としている夏目達などよそに一本しかない足を器用に使い飛び跳ねて夏目達を誘導していく。
飛はねる妖かしに我に返った2人は逸れないように慌ててその小さな妖かしを追いかけた。
「成る程…妖怪に案内させれば見えない人は辿りつけないって訳か…」
「考えた人、頭いいね…」
妖かしならば見えない人が間違えて会合へ来る事はない。
感じるだけならその妖かしの気配を辿っていけばいい。
小春は夏目に続き感心したように呟き、その妹の呟きに夏目は『ああ』と頷いた。
「しかし、この辺りも変ったなぁ…昔は大物の妖かしどもが収めていたのに殆ど人間に狩られてしまったらしい。」
「狩られた…?」
斑はふむ、と声を零しながら小春の腕の中で森を見渡しそう呟く。
その呟きを拾った小春は斑を見下ろし、夏目は斑へ目を移し怪訝そうに見つめ首をかしげる。
「おや、少年に少女…こんな森で何を?」
「え…」
小さな妖かしについていく2人にふと誰かが声をかけてきた。
小さな妖かしから顔を上げて声のする方へ目線を向けると、草むらから天狗のような面とおかめのような面を被った男女が姿を現す。
「ひょっとしたら会合へ?私達もなのだよ!さあさあこっちだ!一緒においで!!」
「え…あ、あの…」
さあ、さあ、と天狗のような面を被った男が夏目達へと手を伸ばす。
夏目は咄嗟に小春を背に隠し、斑は小春の腕から目の前にいる夏目の肩へと飛び移り天狗の面を被る男を見上げる。
小春も自分達へと手を伸ばし引っ張ろうとする男女に戸惑いの色が隠せず、兄の背中に引っ付く。
しかし…
「それに触るな。」
「…!」
聞き覚えのある声がその場に響く。
四人ともその声の方へ目線を送ればそこには名取が立っていた。
「喰おうというつもりなら…その肩の猫が黙っていないぞ。」
「なッ…名取の若様!?こ、これは別に…!食べようとしたわけではありませんよ…!!」
小春は名取の姿を視界に納め、嬉しそうに笑みを浮かべるもその反対に男女は面の奥で血の気を引かせそそくさとどこかへ姿を消してしまった。
「下っ端の連中はすぐに悪さをしようとするから困る…」
「名取さん」
「夏目、小春ちゃん、迷わず来られたようだね。」
名取は男女へ呆れたような表情を浮かべながら夏目と小春へと歩み寄り、溜息交じりに呟いた。
しかし夏目と小春へと目線を移し、微笑を浮べる。
夏目は名取の言葉に『はい』と頷き、男女の気配が完全に消えたのを確認した斑は再び小春の腕の中へと戻っていく。
肩が軽くなったのを感じながら夏目は名取からその後ろにいる柊へと目線を向けた。
「やあ、柊…君も会合へ?」
「あの2人はいないの?」
「……
お前達、脱げ。」
「「へ…?」」
「
さっさと脱げ!」
小春も柊へと目をやり、瓜姫と笹後がいないのかと聞く。
しかしそんな2人をよそに柊は脱げと言い出し小春達はきょとんとさせる。
柊は一向に脱ごうとしない2人に歩み寄り、側にいた小春へと手を伸ばし服を脱がそうとする。
「きゃー!ちょ、柊!!やめて…っ!!」
「いいから脱げ!!」
「ばっ…!ひ、柊!!小春に何しようとしてるんだ!!!」
「――ぐッ!」
遠慮なく柊は力任せに小春の服を掴み脱がそうとし、小春は肩が丸出しとなってしまう。
必死に斑を抱きしめながら服を押さえ抵抗するのだが、妖かしと人間の力の差は歴然としているため無駄な抵抗となってしまう。
もうすぐ胸まで脱がされそうになったその時、夏目の拳が柊の顔面へと向けられ柊は一発KOとなり地に倒れてしまった。
脱がされそうになった小春は露出している肩をそのままに呆気なくKOされる柊に目を丸くさせ、黙って見ていた名取は『だから言ったろ?』と呟く。
夏目も夏目で妹が脱がされそうになり咄嗟に拳が出たようで、『分かってたんなら止めてください!!』と名取に突っ込む暇もない。
太刀を杖のように使い立ち上がる柊はまるで激闘を終えたようにフラフラだった。
「で…では…腕を出せ…」
「「腕?」」
柊の言葉に夏目と小春はお互いを見合い、同時に首をかしげる。
再度柊の『腕を出せ』という言葉に2人はなんだか分からないまま腕を出し、小春は服を整え袖を捲る。
「魔除けの文字だ…本来は心臓の上に書く。」
「魔除け…」
「これで襲われても左腕だけは残るだろう…」
柊は2人の腕に魔除けだという文字を書く。
2人はそれぞれ自分の腕に書かれている魔除けの文字を見つめながら感心したような声を零し、柊にお礼を言うが柊からは無言が返ってきた。
「耳なし芳一は耳を喰われたようだが…お前は身体を喰われるんだなぁ」
「喰われないよなぁ〜?先生がいるんだから。…それにそれだったら小春も喰われる事になるしな。」
「馬鹿を言うな!!何があっても小春だけは死守するに決まっておろう!」
友樹馬鹿な斑は必然的に友樹に似ている小春馬鹿でもある。
小春だけを守り自分は見殺しにすると堂々と宣言する斑に夏目は目を細めガシッと斑の大きな頭を鷲掴みした。
『いっだだ…!痛いわ!阿呆!!』と喚く斑に夏目はレイコ似の美しい笑みを浮かべ『へぇ、ほぉ』と聞いていないふりをし斑の頭を掴んだまま持ち上げ小春の腕から抜き取る。
斑と言う名のカイロを抜き取られた小春はぽっかりと空いている腕と輝かしい笑みを浮かべる兄と頭を鷲掴みされ痛がる斑を交互に見つめていた。
「じゃあ…名取さん、行きましょうか。」
「え…あ、ああ…」
「痛いと言っておろうが!!このもやしがああ!!」
「あーあー、聞こえなーい」
その笑みを浮かべたまま夏目は名取へと振り返り、立ち止まりこちらへ振り返っていた小さな妖かしへと歩み寄り誰よりも前へと進む。
名取は触らぬ神に祟りなし、と眼鏡を掛け直し何事もなかったように夏目の後に続く。
柊も無言のまま斑を助けず主人の後に続き、小春は『今日はニャンコ先生が悪い。』と助けず柊と共に2人の後に続いた。
この場に、斑を助けるものは皆無である。
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