(4 / 9) 11話 (4)

その扉を開けると、静まり返っていた外とは正反対に中はがやがやと人の話し声が賑やかだった。


「すごい…」

「これ…みんな本当に…」


静かな森の中を4人と2匹で歩いていると突然現れたように一軒の広い館が姿を見せる。
その広さにも呆気に取られていた夏目と小春だったが、中へ入ればもっと開いていた口が開くこととなった。
そこには数多くの人や妖かし達でひしめき合っていた。
会場となる広間を見渡す夏目達に名取はくすりと笑う。


「君たちには殆どの妖かしが見えているからね。」


小春と夏目の妖力は非常に強い。
だから妖かし達を見る視力も強くなり、人間か、そうでないか等の見分けもあまりつけなかった。
夏目達兄妹の妖力が強いのを十分に身に染みて分かっている名取はそう呟きそのまま広間の中へと入っていく。
斑も我先に、と自分好みの酒と食事にありつこうと小春の腕から飛び降りる。
人のざわめきと料理の匂いに管太郎も起きたのか、愛らしい目をパッチリと開き物珍しそうに広間と広間にいる人間と妖かしを見つめていた。
そして管太郎も斑に続き管から出て興味のある方へと走っていく。
小春は管太郎に『あまり遠くに行ったら駄目だよ』と告げながら兄とともに名取に続き広間へ入る。


「人と妖怪の見分けがつかない…見える俺だって信じられないのに見えない人が俺を変な目で見るのも当然だったのかもしれない…」

「お兄ちゃん…」

「人とはそんなものだ。」

「…!」


兄の呟きに小春は止まっていた兄の隣で同じく歩いていた足を止める。
兄にかける言葉も、違うとも言えず小春は黙り込んでしまう。
そんな2人の耳に斑の声が届き、2人はハッとさせ斑がいるテーブルへと顔を向けた。
そこにはもう酒を飲み顔をほんのり赤く染めている斑がいた。
斑は2人に振り返り口に付いた酒を舐め取りながら続ける。


「だからレイコは嫌いだった…人も、妖かしも…」


レイコの妖力は小春と夏目と同じか、それ以上だったという。
だから夏目達と同じく妖かしも見え気味悪がられ居場所すらなかった。
レイコと夏目達との違いは人を好きか嫌いかだろう。


「人も嫌いだったら…おじいちゃんも嫌いだったの?」


人が嫌いだったのなら、夫であり夏目達の祖父である友樹も最初は嫌いだったのだろうか、と小春は斑に問う。
しかし小春の問いに斑は首を振る。


「いいや?友樹を嫌う者などこの世におりはせんだろうな…友樹は特別だったから。」

「特別…?」


斑の言葉に小春は首をかしげる。
そんな仕草に友樹と重ねているのか斑は優しげに目を細めた。


「友樹は全ての妖かしや人の心を穏やかにする。触れても、触れなくても…友樹がいるだけでその場は平和だった……だからこそ、妖かし達は友樹を狙い我が物としようとした。…それと同時に友樹を奪われないようにとレイコも友樹を守ってきた。」


だからこそ荒れていたレイコが友樹を心から愛していたのだろう…、斑はそう呟き注いだ酒を飲み干す。
ぷは〜、と親父臭く息をつき幸せに浸る斑の言葉に小春や夏目はお互いの顔を見合わせた。
話しに聞いてもやはり祖父を妖かしが求める要素が分からなかった。
傷を癒すのは小春を見て本当だと言うのは分かる。
しかし、レイコ同様容姿が美しく愛らしいからと言ってそうまでして狙われる理由が分からない。
特にレイコに似ている夏目と友樹に似ている小春は自分の顔と妹の顔だからこそ分からなかった。


「あれ?管太郎は…?」

「え?あれ…いないぞ?」


うんうん、と2人して祖父のモテモテ度の高さに悩み考えていると、管太郎がいないのに気付く。
今まで斑と同じテーブルで料理をおいしそうに頬張っていたはずが今では料理を残し何処かへ姿を消してしまったのだ。
小春や夏目が辺りを見渡してもいるのは人と妖かしばかり。
人の形をしていないとしても管太郎のような細長くクリーム色のふわふわな毛で覆われ耳がウサギのように長くクリクリの丸い黒い小さなつぶらな瞳を持った生き物はどこを探してもいなかった。


「私管太郎を探しに行ってくる!!」

「え!?お、おい!!小春!」


親代わりとして重光から貰ったのに目を放してしまい迷子にさせてしまったことに小春は焦りを見せる。
『見つけたときミイラになってたらどうしよう…!!』と恐ろしい想像に勝手に顔を青くさせながら小春は探しに行くと告げ、兄の制止も聞かず人込みに消えてしまう。


「小春…!!変態には気をつけるんだぞーー!声を掛けられたらいい人だろうが何だろうが急所を蹴って逃げろよーー!!」


人の話し声で夏目のその言葉は小春に届くことはなかった。

――が、側にいた人達には十分に聞こえており変な目で夏目は見られる事になったがシスコンを極めるんじゃないかと思うほど妹思いな夏目は気付くことはなかった。

そして、その目線の中に斑の目線も混じっていたことは秘密にしておこう。



****************



「管太郎?管太郎や〜」


がやがやと騒がしかった広間を出れば外と同じく静かだった。
森の中ほどではないが人もまだらで、小春は管太郎を探せば探すほど人の数が減っていくのに気付かない。


「きゅ〜」

「管太郎…?」


どうしようか、と立ち止まり悩んでいたその時廊下の角から捜し求めていた管太郎の声が聞こえ、小春は立ち止まっていたが小走りでその声の方へと向かう。
しかし角を曲がっても誰もおらず、小春は再び立ち止まり首をかしげていると再び管太郎の声が小春の耳に届いた。
その声はどうやら小春が立ち止まっていた横にある扉の奥から聞こえているようで、小春は戸惑いもなく扉を開け放つ。


「おや」

「あ…」


扉を開けるとそこは少し大きめの部屋だった。
真ん中にはテーブルが置かれ、端には棚やソファが置かれている。
その真ん中のテーブルに1人の男性が座っていた。
男性は長く伸ばしている黒い髪を後ろで1つに結び、右目にはお札のような眼帯を付けている。
小春は男性と目と目が合ってしまい『ご…ごめんなさい!』と一度扉を閉めたのだが、その際にちらりと男性の手元を見てはっと我に返ったようにバン、と音を立てながら扉を勢いよく開けた。


「――って管太郎!?」

「きゅー!」


男性の手元を確認するように再度目に写せばそこにはここまでやって来た原因の管太郎がいた。
いた、というよりかは男性の指に絡んで遊んでいたと言うべきだろうか。
とにかく管太郎はご機嫌に男性の指に絡み、主人を見上げ嬉しそうな声を上げる。
管太郎の嬉しそうな声に小春はどっと探し続けた疲れが襲い、肩をガクッと落とす。


「管太郎…?この管狐の名前ですか?」

「え…あ…はい…」


探していたのに、肝心の管太郎は見ず知らずの男性の手で遊び呑気な声を出していたのを見て小春は溜息1つ零す。
すると今まで黙っていた男性が小春から己の指に絡んでくる管狐を見下ろし主人らしい彼女に尋ね、小春は尋ねられ下げていた顔を上げて頷く。
そんな小春に男性は再び小春へと目線を戻し細めて笑う。


「管狐を作れるほどあなたの妖力は強いんですね」

「あ、いいえ…その…この子は貰ったんです」

「貰った…?」


男性は小春の言葉に微かに目を見張る。
小春は目を見張る男性をよそに頷く。
頷く小春に男性は『それは…珍しい…』と感心したように呟いたが、男性の呟きに小春は首をかしげる。
首をかしげる小春に男性は何故か自分の前の席を指し『どうぞ』と座るよう勧め、小春は言われるまま男性の前へと座った。


「珍しいって何がですか?」

「元々管狐は野生にいるわけではなく人が作り上げるしかないのです。それ故に管狐は主の…創造主の命令しか聞かず懐かないはずなんですが…」


男性はそう小春に説明しながら目線を自分の手元へと移す。
そこには相変わらず何が面白いのか不明だが自分の指を潜ったり身体を絡めたり1人遊びする管太郎がいた。
人に懐かないという管狐なのに関わらず管太郎は楽しそうに男性の指で遊んでおり、男性の説明の管狐と、兄や名取、自分にも懐きに懐く管太郎との違いに小春は苦笑いを浮かべるしかなかった。
きゅうきゅう鳴きながらまるでアスレチックで遊んでいる子供のように楽しげに指で遊ぶ管太郎に、男性はそっと驚かさないように空いている手を管太郎に伸ばし優しく頭を撫でてやる。
最初は行き成り撫でられキョトン、とさせていた管太郎だったが撫でて貰うのが嬉しいのか自分からも男性の指に擦り寄っていく。


「この管狐はまだ生まれてまもないんですね…」

「見ただけで分かるんですか?すごい…」


見ただけで生まれたてだと分かる男性に小春は素直に驚きの声を零す。
そんな小春に男性は『大抵の者なら分かりますよ』と呟き小さく笑った。
管太郎は約1000年前に生まれたと小春は思っていたが、どうやら管の中では1000年という長い時間は過ぎていないようである。
子供のような仕草や性格に何となく疑問に思っていた小春は男性の言葉を聞きようやく納得したようで、男性に撫でられ嬉しそうに目を瞑る管太郎へ目を移し『君はまだ子供だったんだね』と優しく微笑み男性が頭を撫でているため小春は顎へ手を伸ばし撫でてやる。


「…………」


男性は小春をただ見つめていた。
管太郎をまるで我が子を見るように見つめる小春に男性は見つめ、そして管太郎の顎を撫でる小春の手にそっと触れる。


「あなたのお名前は?」

「名前…?」


小春は管太郎を見つめていたため男性に手を握られ、目を丸くさせて男性を見上げた。
そんな小春に男性は目を細め小さく微笑み名を聞きだす。
行き成り何故名前を聞くのだろう、と小春は不思議に思い無意識なのか小首を傾げる。
小首をかしげる小春に男性は何かに気付いたように『ああ、すみません』と謝る。
しかしその謝罪は小春の手を握っているからではなかった。


「先にこちらが名乗るのが礼儀でしたね……私は的場です…的場静司といいます。」


的場はキョトンとさせる小春に目を細め微笑んだ。

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