(5 / 9) 11話 (5)

的場と名乗った男性と、小春は色々な話をした。
流石に見ず知らずの人に影鬼や祖父母の事や身体のことは話さないが、的場と小春は他愛のない会話を交わす。
ふと窓を見ると窓越しの空は暗闇に包まれ、気付けば夜となっていた。


「あ…もう夜…」

「おや、本当ですね…」


人と…それも男性とこんなにも話して楽しいと思ったことは名取以来で、小春は時間を忘れて的場と話していた。
的場も小春と同じく時間を忘れていたようで小春の呟く言葉に釣られるように窓を見上げる。
管太郎は何故か主人以外で的場に誰よりも懐いているようで、2人が話している間でも的場の手に絡んだり頬に頬擦りしたりと甘えていた。
そんな管太郎に小春は慌てて止めさせようとしたが、的場は気にしていないと管太郎の頭を撫でてやる。
本当に気にしていない様子の的場に小春は胸を撫で下ろしていた。


「そろそろ帰らなきゃ…お兄ちゃんと名取さんが探してるかも…」

「名取……名取周一ですか?」


夏目と斑が自分を探し暴走しているかもしれないと小春は慌てて椅子から立ち上がった。
あの夏目と斑の最強コンビが暴走してしまえば名取でも止めることは不可能だろう。
唯一止めれるとしたら妹であり友樹の生き写しである小春だけである。
慌てて立ち上がった小春に的場はある名を耳にし小春を見上げた。
名取の名に反応した的場に小春も的場を見つめ、フルネームで呼ぶ彼に目を見張る。


「そうですけど…名取さんを知っているんですか?」

「知ってるも何も…彼はこの世界でも有名ですからね…表の方が名は知られているようですが……」


『まさかあなたが彼と知り合いだったとは思ってもみませんでしたよ』、と本当に意外と思っているようで的場は小さく驚いて見せる。
小春も的場の『表』という言葉にキラキラ光り輝く彼が脳裏に過ぎり苦笑いを浮べた。


「おや、的場?」


そろそろ本気で兄と用心猫が心配…というか振り回されているであろう名取が心配になり、小春は的場と別れようと口を開きかけた。
しかし今までこの近くを通りもしなかった第三者が現れ、小春と的場は扉を開けたその人物へと顔を向ける。


「七瀬か…」

「まだ帰っていなかったんですねぇ…もうとっくに帰ったかと思いましたよ。」

「そう思っていたんだが…また面白いものを見つけてね……懐かれてしまった。」


七瀬と呼ばれた第三者は着物を着て眼鏡をかけた初老の女性だった。
的場は七瀬の言葉に返しながら指に絡む管狐を見せるよう手を上げる。


「おや、管狐ですか…珍しい……――!、友樹…さん…?」

「え…?」


管狐を見て珍しがる七瀬だったが、ふと的場以外に人がいると気づき小春へ目を向ける。
しかし小春を視界に捉えたその瞬間、目をこれでもかと丸くさせ驚愕させた。
小春は祖父の名を出され同じく目を丸くさせ七瀬を見つめる。


「あの…祖父をご存知なんですか?」

「祖父…?君は…」

「夏目小春…です…」

「夏目…?」


七瀬はどうやら小春達の祖父である友樹を知っているようで、その友樹の生き写しと言われている小春を見つめ驚愕の表情を浮かべた。
小春の祖父という言葉と夏目の性を名乗った事に七瀬は驚きの表情から怪訝そうな表情へと変え、眉間にシワをよせ小春を見つめる。


「夏目、というと…もしかして夏目レイコのお孫さんかい?」

「え…おばあちゃんも知ってるんですか?」


七瀬は広間で夏目と出会いレイコに孫がいるのだと知り、もしかして…と小春に聞いてみた。
すると小春は祖母を知っている七瀬の問いに驚き七瀬は祖母だと口にする小春に『やはり…』と心の中で呟き目を細める。


「七瀬…"友樹"とは?」


小春の顔を凝視し、どこか懐かしそうに目を細める七瀬に今まで黙って見守っていた的場が声をかけてきた。
七瀬は小春から小春の前に座っている的場へと目線を移す。


「そういえば知りませんでしたね、的場は…」

「ああ…話からすると小春さんの祖父のようですが…」


話しを聞いていた的場はチラリと前にいる小春へと目線を配らせる。
的場の目線に気付いた小春はゆっくり座りなおしながら『あ、はい…友樹は私の祖父です…』と怖ず怖ずと頷く。


「でも、恥ずかしい話し……私はおじいちゃんやおばあちゃんの事よく知らなくて…おじいちゃんの事を知っている人の話だとおじいちゃんは若くして病死したって…」

「病死…やっぱり…」

「え…?」


孫である小春や夏目はレイコと友樹の事をよく知らない。
友樹は病死したと聞き知っていたがレイコの詳細は不明のままだった。
それは夏目も小春も親戚にレイコや友樹の事を聞ける立場ではなかったからなのだが、小春は特に聞けなかったのだろう。
小春は祖父が病死したと聞き七瀬が納得した事に首をかしげ、不思議そうに七瀬を見つめる。
そんな小春に七瀬は悲しげに小さく笑う。


「友樹さんに聞いたんだよ…自分は病弱だとね…」

「そう、だったんですか…」


七瀬は友樹を知っているだけではなく顔見知りでもあるようで、小春は七瀬の『あの人は普通に笑っていたけどね』という言葉に苦笑いを浮かべ、七瀬も言われたときの事を思い出しているのか小春に釣られ苦笑いを浮かべた。


「君は…」


「――妖かしだ!妖かしが現れたぞ…!!」


「…!!」


苦笑いを浮かべている小春に七瀬はふと何か言おうと口を開きかけたその時、外から焦った声が3人の耳に届く。


「あ、妖かし…!?」


小春はまさかこんなところで妖かしが襲ってくるとは思ってもみなかったのか遠くに聞こえる悲鳴や声に驚いたように肩を揺らす。
立ち上がって扉から外を見るもやはりここには誰も寄り付かず人一人いない。
そんな場所に届くほど人々の声は大きく、混乱しているのが聞いていてよく分かった。


「名取と子供が妖かしを追いかけたぞ…!!」

「え…名取さん!お兄ちゃんッ!!」


悲鳴に続いた言葉を耳にした小春は丸くしていた目を更に丸くさせ、名取と子供…兄が妖かしが追いかけたと聞き慌てて的場や七瀬に気にする余裕もなく一心不乱に名取と夏目の元へ駆け寄ろうと走り出す。
そんな小春を止める事なく的場と七瀬は至って冷静で、的場は関心するように声をもらした。


「ほう…妖かしか……よくここに来れたものだ…」

「あの妖かしでしょう…名取が追っていたようです。」

「……ああ、あの…」


この会合の会場には強い結界を張っているのに…と的場は呟き、七瀬は的場に続く。
的場は妖かしの名を言わなかった七瀬のいう妖かしに覚えがあるのか納得したように小さく頷いた。
納得したように頷く的場をよそに七瀬は『さて、名取とあの子供が見事あの妖かしを封印するのを高みの見学と行きますか…』と呟きながら先ほど小春が出て行った扉から部屋を出て行こうとしたが、ふとある事を思い出し的場へ振り返る。


「ところで、あの子はいいんですか?」

「ああ、私の式をつけた…まあ、大丈夫だろう。」


仕事上妖かしの襲撃には慣れているため的場と七瀬は冷静でいられた。
慣れたと言った方がいいだろうが、小春はどう見ても素人である。
名取の知り合いだと先ほど知った的場だが、名取に誘われ妖祓い人に成り立ててというわけでもなさそうで、七瀬も夏目と会っていた為それを十分に知っており追わない的場に問う。
友樹の孫で瓜二つの小春に七瀬も心配になったらしく、七瀬の問いに戸惑う事なく頷き自分の式を密かにつけたと返す的場の言葉に安堵しつつ『珍しい』と目を見張った。


「あなたがそこまでするとは…そんなに気に入ったんですか?」


的場の性格を誰よりも知っている七瀬はたった数時間知り合っただけの人間…それも自分の年齢よりも下の少女に自分の式を付けさせた事に驚きが隠せなかった。
特に名取と知り合い、というのもあり驚きは大きいだろう。
そんな七瀬の驚きの表情など気にもせず的場は小春が消えた扉の先を見つめるだけだった。
その指にはまだ管太郎が絡んでおり的場は主がいないのに気付かず遊ぶのに夢中の管狐を見下ろし、小さく微笑む。

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