小春は必死で兄と名取を探した。
人々が逃げていく反対方向へ行けばつくと考える前に身体が勝手に動き早足で走る。
「お兄ちゃん!!名取さ…」
「!――危ない!!小春…ッ!!」
「――――ッ!!」
進んでいくとある部屋に大きな音が響く。
その物音がする部屋へと向かった小春は兄と名取の姿を視界に納め安堵したその瞬間、目の前に顔の大きいあの鳥の妖かしを食べた妖かしが小春の前に現れ、小春は目を丸くする。
妖かしは目の前の小春を、妖力の強い人間を食べようと大きな口を更に大きく開け小春に襲い掛かろうとした。
兄の声は他の人間の悲鳴に混じり聞こえないはずなのに小春の耳にはその兄の焦った声がはっきりと聞こえた。
「きゃあ…!!」
「小春!!」
「小春ちゃん…!!」
妖かしは目の前に立っていた小春に口を大きく開け食べようと口を閉じる。
小春は口の中に納まっていた。
しかし…
「え……」
小春は来るであろう痛みに耐えようと目を瞑っていたが、中々痛みがない事に疑問に思い目を開ける。
すると目の前には妖かしがいた。
そう、顔の大きい妖かしが。
しかし、その顔の大きい妖かしと自分の間に新たな妖かしがいたのだ。
黒い肌を持ち、表情も何もない白い面を付け、白い着物を着た人ではない妖かしが。
小春は自分を守るように妖かしの歯を手で支える妖かしに唖然とし、腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。
だが…
「ぁ…!」
力では顔の大きい妖かしの方が強かったのか、白い面の妖かしは支えきれず顔の大きい妖かしにそのまま食べられてしまう。
小春は目の前で助けてくれた妖かしが無残にも食べられていく姿を見て絶句した。
「小春!!」
「…っ!」
聞くに堪えない何かが砕ける音を耳にしながら小春は呆然としかし泣きそうな表情でその口を動かす顔の大きい妖かしを見つめその場から動けずにいた。
すると聞き覚えの低い声が小春の耳に届き、小春はその瞬間金縛りが解けたようにハッと我に返る。
我に返った瞬間小春を守るように白いものが囲んだ。
「にゃ、にゃんこ、先生…」
「怪我はないか!小春!!」
「な、い…ないけど…妖怪が…」
「ああ!私の側から離れるなよ…!」
白いものは本来の姿へと戻った斑だった。
斑はいつの間にか本来の姿へと戻っており、小春はそれに疑問に思う余裕もなく涙で溜まった瞳で巨体な斑を見上げる。
自分を見上げる小春に斑は怪我がないか確認するように体中を目配せするが、怪我1つなく安堵の息をつく。
小春も心配する斑に戸惑いながらも頷く。
しかし助けてくれた妖かしが食べられてしまったと言いたいのに口が上手く動いてくれなかった。
斑は小春を助けた妖かしに気付いていないのか小春が口にした妖怪を目の前の顔の大きい妖かしだと思い、警戒を高める。
小春は違うのだと言いたいがやはりまだ目の前で助けてくれた妖かしが食べられたことがショックなのか上手く伝えられなかった。
すると口に含んでいた妖かしを飲み込んだのか顔の大きい妖かしは斑に守られている小春へと標的を変え、再び小春に襲い掛かろうとした。
しかし斑が襲い掛かろうとする妖かしから小春を守り、2体は争いながら外へと出て行った。
「小春!!」
「お、おにいちゃ…っ」
壁を壊し外へと出て行く2体を見送っていると夏目に名を呼ばれ小春はゆっくりと声のする方へ顔を向けた。
顔を向けると名取と夏目が顔色を青くし慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるのが分かる。
小春は兄と名取の姿に安心したのか一気に身体中の力が抜かれるのが分かる。
「小春ちゃん!!大丈夫だったかい!?」
「怪我は!?あの妖怪に食べられたところあるか!?」
「う、うん…怪我も…食べられたところもないけど…妖怪が……」
「ああ…今から封印しようと思う……小春ちゃんは危ないからここで待っててくれ…」
「ちが…そうじゃなくて…」
「小春、こればっかりは我が儘は聞けない。あの妖かしは本当に危ないんだ。」
「……お兄ちゃん…」
小春の無事を確認すると名取と夏目はあからさまに安堵の息をつき顔色も元に戻る。
そしていつもなら一緒に行くと言うだろう小春に名取も夏目も有無を言わせず小春の言葉を遮る。
小春は本来なら『行くったら行くからね!!』と行きたがり無理矢理付いていくだろうが、食べられた妖かしの事もあり、違うと首を振った。
しかしそれも夏目と名取には行くんだとしか見れなかったのか再度『駄目だ』と釘を刺されてしまった。
そして時間もないと小春は夏目と名取の後姿を見送ることしか出来なかった。
****************
名取に『柊を頼む』と言われ、小春は何度か深呼吸し自分自身を落ち着かせた後抜かしていた腰を上げゆっくりと部屋へと入っていく。
そこには逃げ遅れた人が座り込み夏目と斑の話しで持ちきりになっていた。
しかし小春はそんな人達の話など耳にする余裕もなく、倒れている柊へ歩み寄り側にゆっくりと座る。
「柊…」
あの顔の大きい妖かしにやられたのだと近くの人に聞き、小春は心配そうに柊に声をかけた。
しかし気を失っているのか柊からの返答はなく、小春はそっと膝の上に柊の頭を乗せ、優しく柊の頭を撫でる。
小春が柊の頭を撫でれば、それに合わせたかのように柊の痛みで浅かった呼吸も元に戻りつつあった。
自分の妖力で傷を癒し、痛みに耐えるような声を零すこともなくなった柊に小春はホッと安堵の息をつき、今頃外で大慌てで封印の準備をしているであろう兄と名取へ小春は目を移した。
と、言ってもこの場からも窓からも2人の様子は見えないため2人がいるであろう方向をただ小春は見るしか出来ずにいた。
「ぅ…」
「柊…?」
「小春…か……」
「大丈夫?痛いところとかない?」
小春の妖力で怪我を治療された柊は失っていた意識を回復させる。
声をもらす柊に気付いた小春は顔を柊に戻し、どこか痛いところはないかと問いかける。
『大丈夫だ…』、と柊は回復した体を起き上がらせながら答え、小春はそれでも心配そうに柊の背を見つめた。
「主様と夏目は…」
「名取さんとお兄ちゃんは外に…ニャンコ先生が引きとめている間に封印の用意をしてるんだと思う…」
「…そう、か……」
柊は主と夏目の姿がないことに疑問に思った。
小春の言葉に納得しているのかは不明だがとりあえず頷き小春へ振り返る。
小春は柊が自分を見つめる事に首をかしげ、柊はそんな小春に面の奥で目を細めた。
(ここからは2人に任せた方がいいな…)
自分の側に小春を置いたのは多分名取と夏目の2人だろう。
その意味を柊は察し、面の奥で小さく笑った。
「柊…?」
「いや、なんでもない…小春、ここからは…」
「ねえ、柊…2人のところに行こう。」
「…は?」
『ここから動かず2人を待とう。』と言いたかった柊だったが、小春の言葉に呆気に取られてしまう。
そんな柊をよそに小春は立ち上がり、再度2人の元へ行こうと告げる。
「ま、待て」
「待っていられない!だってあんな強い妖怪なんだよ!?柊は心配じゃないの!?」
「いや、心配だが…だが…」
「よし!じゃあ、行こう!」
「
人の話は最後まで聞け…!!」
この兄妹本当に似ているな…!、と柊は自分の腕を掴んで2人の元へと走る小春の背を見つめながらそう心の中で叫んだ。
結局、自分の腕を掴む小春の手を振り払わない柊も小春に甘いということだろう。
しかし、小春は気付かなかった。
小春がこの場に駆けつけた少し後に七瀬もいたことを。
そして、その七瀬の姿が見えなかったことを。
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