夏目は走っていた。
妖が追いかけてこないように。
小春は兄に手を引っ張られているため転げないように気を付けながら走る。
「!――わっ!」
「きゃっ!」
後ろばかり気にしていたからか、曲がり角から歩いてきた人に気づかず夏目はその人とぶつかってしまった。
反動で後ろに下がり、後ろで走っていた小春も転がってしまいそうなのを何とか踏ん張り、2人は倒れるのを逃れる。
「す、すみません!――って、滋さん!」
「貴志と小春か…どうした?何かあったのか?」
滋は慌てていた様子の夏目と小春に首を傾げていた。
夏目と小春はお互い見合い、夏目は何とか固い表情だが笑って誤魔化そうとする。
「いえ!あの…雪がすごくてはしゃいじゃって…」
「それでちょっと遊んでいたんです」
「へえ、それでそんなに走ってたのか?」
小春も兄に続き何とか笑みを作って誤魔化す。
妖が見えていると知らない滋は小春達の誤魔化しを信じ子供のような夏目と小春に、そして片手ずつにはめられた同じ手袋と手を繋いでいる2人に思わず笑みがこぼれる。
チラリと夏目は来た道を横目で見れば、そこには妖の影すらない。
それにホッとしながら鉢合わしたのだからと滋と夏目と小春の三人で帰ることにした。
「確かにこの辺りじゃあんまり雪が降らないからね…子供の頃、こんな風に降ってワクワクしてたな…積もった雪に足跡を付けて遊んだよ…まだ誰も踏んでないところに一番最初に足跡を付けたくて…あちこち駆け回った」
昔を思い出しているのだろうか、滋は懐かしそうに話し始めた。
小春は小さい頃から病院のベット暮らしだったため、滋の話を聞き更に雪が積もってほしいと心の中で願う。
夏目も滋の言葉に相槌を打ち、小春ほどではないが少し積もる事を期待する。
他愛ない会話をしながら三人は塔子と斑が待つ家へと帰宅する。
出迎えてくれた塔子は三人一緒に帰ってきたことに笑みを深め、夏目達の声に気づいた斑が降りてきて早速小春の腕の中に納まり、小春と夏目は夕食が出来るまで二階に上がり着替えをして時間を潰していた。
1階にある物置部屋からは大量の荷物が出され少し驚いたが、滋が大荷物を指差しどうしたのかと聞くと塔子は風呂場の前に置くストーブを出そうとしたと答えた。
結構奥に入っていたようで、片づけようにも時間も時間だからと片づけは明日にするらしい。
****************
夕食は鍋だった。
熱い鍋を食べて小春と夏目は冷たくなった体を温める。
「まったぁ〜お前らは…下らん奴に引っかかりおって!そいつも友人帳目当てじゃないだろうな?」
風呂も入り後は寝るだけだというまったりとした時間、小春と夏目は部屋のストーブの前で暖まりながら今日会った妖の事を斑に伝えた。
塔子が出してくれたストーブのお蔭で寒いお風呂場もあったかかった。
やはり返ってきたのは呆れた声だったが、友人帳目当てじゃないかと問われ夏目は首を小さく振る。
「いや…俺と小春の事レイコさんと友樹さんと間違ったりしなかったし…友人帳に名があるわけじゃなさそうだった…」
「ん〜?探してたと言ったか?雪の中で。」
「何か聞いたことあるか?先生…」
「あるような、ないような…思い出せな〜い!」
「…飲みすぎだからだろ?また酒飲んで…」
「雪見酒だ!」
「雪見てないじゃないか」
呆れながらも斑のその顔は赤くなっており、手には器用に酒のビンが抱えられていた。
お酒を飲まない小春の鼻にほのかに酒の匂いがかすめる。
匂いだけで酔ってしまいそうだと小春は寒いのを覚悟に少しだけ窓を開けた。
酒を一気飲みしながら斑が『それはそれは美しい女の妖者がいると〜』と酔いながら零す斑に夏目は斑のいい方もそうだが見た妖と斑が言う妖との違いに笑い声を漏らし、小春もクスリと笑いながらノートを取り出して何かを描き斑に見せる。
「こんなのだったよ?」
「なんだこのもっさりしたのは」
「このもこもこがそれだよ。――さ、もう寝るぞ」
「やだー!まだ飲むーーっ!!」
空になったビンを抱え小春に差し出されたノートを横目で見れば描かれたその絵に首を傾げる。
そのノートにはあの妖を描いているのか、もっさりとした二頭身が掛かれていた。
もう時間も時間だとストーブの火を消し、夏目は布団を敷こうと立ち上がる。
小春もそれに頷き夏目がストーブを片づける傍らに襖から2人分の布団を取り出して並べて敷く。
小春と夏目は今時珍しくも兄妹並んで寝ていた。
駄々を捏ねる斑に小春が『もう駄目』と優しく叱り、ビンを取り上げ抱き上げる。
元々友樹に瓜二つの小春に甘々な斑は小春の腕の中に入ってしまえば大人しくなり、布団の中に入ればさらに大人しくなり眠りにつこうと目を瞑る。
寒いため開けていた窓を閉めた後夏目は電気を消した後自分も妹の隣に並んである布団に入る。
やっぱり冬だからか、布団はとても冷たく冷えていた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
まだ雪は降っているのか、カチ、カチ、と時計の針が鳴る音がいつもより大きく耳に届く。
酒の力もあり斑はのび太よろしくすぐに寝息をたてはじめ、時計の音と斑の寝息だけが小春と夏目の部屋に響いていた。
夏目は何となく目を瞑っているだけで眠っておらず、小春に声をかけられ静かに瞼を開けて小春を見た。
小春はまっすぐに天井を見つめている。
「あのもこもこの子、まだ探してるのかな…思い出せない探し物…1人で…」
「そうかもな…」
「ちょっと探してあげればよかったかな?」
「そうだな…でも探してやりたいとは思っても…もこもこ本人が探してるモノが何なのか分からなきゃ探しようがないし…どうしようもないよ」
「……そうだね…」
小春は帰り際に見た妖の事を思い出していた。
兄をひょろひょろと名付け、自分をくねくねと名付けた妖。
兄はもやしみたいだと評判の体付きからだろう。
そして自分は髪の毛がうねっているからだろう。
考えればちょっとムッと来ることは来るが、名前を教えていないため仕方ないと諦めるしかないのかもしれない。
天然とは言え小春は自分でもこのうねり具合を気に入っているのだ。
兄のような綺麗なストレートも憧れでもあるけど!、と小春は布団の中でぐっと拳を握る。
夏目の言葉に小春は『確かに…』と納得し、頷き『おやすみ』ともう一度声をかけ瞼を閉じる。
妹の声掛けに返した夏目も瞼を閉じ、小春とは少し遅れて夏目も夢の中へと入っていった。
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