(4 / 7) 12話 (4)

小春は、夢を見ていた。
目を開けているはずなのに瞼が閉じているような暗い視界。
しかし雪が降ってきており、瞼は閉じていないのが分かる。


(ここ…どこ……何も見えない…)


真っ黒な視界なのに不思議と雪だけがくっきりと見えていた。
小春は辺りを見渡したくても体が動かない。


(探さなきゃ…)


ぼうっと突っ立っていると突然吹雪いてきて雪が小春に当たる。
小春は寒さで体を震わせた。
寒い、と思っても小春は何かを探さなくては、という思いに駆られた。
それが何なのか小春には分からない。
でも、小春はその何かを探さなければいけないとばかり思う。


(寒い……寒い……――――寒すぎるーーっ!!!」」

「に゙ゃーーー!!?」


寒さも限界が来たのか小春は飛び起きた。
それと同時に兄である夏目も同じく飛び起き、真ん中で寝ていた斑は2人の声に驚いて飛び上がる。
どうやら2人は同じ夢を見ていたようで、寒さで同時に飛び起きた。
しかし夢ばかりだと思っていたのに夢から覚めても冷たい空気は小春達の体を刺し、夏目と小春は寒さから身震いを起こす。
ふと小春と夏目の目に白い何かが映り、何気なく前を向くとそこにはあの時の妖…モコモコがこちらを見下ろしていた。


「「も、もこもこ!!?」」


2人は同時に驚き、同時に驚きの声を上げる。
飛び上がった斑もモコモコの存在に気づきあまりの驚きに小春の腕に引っ付く。


「お前ついて来たのか!?」

「ひい!もっさり!?こいつか!!何なんだ!?この冷気は!!」

「い、いるだけで寒い…っ!」


小春は引っ付いてきた斑を湯たんぽ代わりに腕に抱き、身を縮ませる。
モコモコの冷気で部屋は外の温度より低く、息を吐けば白い。
カタカタ震える夏目達をよそにモコモコは自分の体からある物を取り出した。


「ひょろひょろ、これ返しに来てやったぞ」

「マ、マフラー…」

「しかも…凍ってる…」


取り出したもの、とはマフラーだった。
そのマフラーはモコモコと出会ったときに落とした物で、わざわざモコモコは返して来てくれたらしい。
しかし、モコモコがいるだけで冷気が部屋を覆い、立っているその場は凍り付く。
それと同じく体から取り出したマフラーはカチンコチンに凍っていた。


「問答無用!!でてけー!!」

「ま、待ってくれ先生…せっかく届けにきてくれたんだ…ちょっとだけ話を…」

「〜〜〜ドアホーーーーッ!!!」


寒すぎて小春に抱かれても体は震え、その原因であるモコモコを追い出そうとした。
しかし夏目の世話焼き癖が発揮してしまい、斑は恨みをこれでもかと込め長い間生きた中で一番の大声を張り上げた。
幸い一階で寝ている夫婦に気づかれることはなく、斑の叫びは冷たい空気に消えていく。



****************



夏目は電気をつける。
しかしモコモコの寒さからかすぐに布団の中へと戻っていく。
小春は膝を立て、膝と体の隙間に天然カイロである斑を抱え、掛け布団を被さる。
夏目も同じ格好をしており、2人と一匹は相変わらずの寒さからカタカタと体を震わせていた。


「で…見つけられそうか?」

「うん!!あったかい物見つけたぞ!」

「見つかったの?」

「この家にあったのだ!」


マフラーを返しにきただけではない様子のモコモコに夏目は布団にくるまりながら問いかけた。
小春と夏目の問いにモコモコは嬉しそうに頷く。
小春は探し物が見つかったというモコモコに『よかったね』と笑みを向け、その笑みにモコモコは更に嬉しそうに『この家にはあったかいものが一杯あった!』と零す。


「それは違うだろ?ここの家にある物は君が探している物ではないはずだ」

「?」


この家、と指す家といえば当然小春達がお世話になっている藤原夫妻の持家であるここしかない。
そんな変哲もなく、霊力があるようには見えない藤原夫妻の家に妖の探している物などあるはずもなく、小春は首を傾げ、夏目は何かの間違いではないのかと零す。
2人の反応にモコモコはコテンと小首を傾げながら体から見つかったというあったかい物を取り出し、小春と夏目に見せる。
しかし取り出したものは凍っており、箱だという事以外何も分からなかった。


「あったかぁい………でも…やっぱり違う…」


凍っていてもモコモコはあったかく感じるのか、その凍った物を胸に抱き幸せそうに目を細めるが、次第に違和感を感じたのかやっぱり違うと言い、その氷漬けになっている箱を布団の上に置く。
箱を置いた瞬間、一瞬にして箱の周りが凍った。
凍ったところからも冷気が追加され、あまりの寒さからか斑が小春の腕の中から飛び出し『凍えるわァァ!!』と思いっきり猫キックで箱を蹴り飛ばす。
探したものではないにしろあったかい物を蹴り飛ばされ、モコモコはカチンと来たのか『乱暴にするな!このもさもさ!』と小春の腕の中に戻った斑を睨む。


「いいか?もこもこ…大事な物なんだろ?」


自分の腕の中に戻り睨み合う斑とモコモコに小春は苦笑いを浮かべる。
このままでは猫VSモコモコの争いが勃発すると危惧した夏目がモコモコに話しを逸らすように呟き、その呟きにモコモコは強く頷いた。


「とても…」

「だったらよく思い出してみろ。何を探しているのか、何処にあるのか」

「……分かった、思い出してやる。」


夏目の言葉にモコモコは探している物を思い出そうと目を瞑った。
小春と夏目と斑は律儀にも思い出そうとするモコモコを待つ。
正直早く思い出して帰ってほしいと思う。
妖は睡眠がいらないとは言わないが、人間はきっちり眠らないと次の日寝不足になるのだから。
幸いなのは次の日(もしかしたら今日)は休日なため学校はない事だろうか。
しかしモコモコはこっくりこっくりと船を漕ぎはじ、夏目に『寝るなー!』と突っ込まれていた。
夏目の声でパチリと目を開けたモコモコは『思い出した!』と声を上げるも信じきれない夏目は『本当か?』と訝しむ。


「何か懐かしい物…懐かしくて、真新しい物だ!」


瞑っていた目をぱっと開けたかと思えばまた曖昧な言葉が出てきた。
だが真新しい物、という新たな情報が出てきただけいいだろうと夏目は1つ気になったことを聞いた。


「…どうして…なんのために覚えてもいない物を探してるんだ?」


夏目はなぜモコモコが何も覚えていない物を探しているのかずっと気になっていた。
兄の疑問は妹である小春も気になっていたのか、問う兄を見つめた後小春も兄と同じくモコモコを見上げる。
しかしモコモコは夏目の問いに気づいていないように『見つけなきゃ…』と小さく呟くだけで答えず、そのまま部屋を出て行ってしまう。


「や、やっといなくなったか…」

「寒かった…」


モコモコが消え、三人は同時に安堵の息をつき肩の力を抜く。
斑は寒さが堪えていたのか、モコモコがいなくなり同時に冷気も収まり緊張の糸が切れたように両手足を放り出し小春に体を預けた。
小春はそんな斑に苦笑いを浮かべ、優しく斑の頭を撫でる。

時計を見ればすでに時間は12時を回っていた。

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