(2 / 12) 13話 (2)

その日、小春と夏目は学校も休みのため家でのんびりしていた。
リビングで小春と夏目はゆったりとテレビを見ており、斑は小春の膝の上でいつものように撫でられ浅く眠っていた。


「貴志くん、小春ちゃん、お買い物行ってくるわね」


のんびりと並んでテレビを見ている兄妹に塔子は何だか心が暖かくなった。
不仲とは言わないまでも、これほど仲がいい兄妹は珍しい。
ふふ、と並ぶ二つの背を見ながら塔子は夕食の買い出しに一声掛ける。
声を掛けられた2人は玄関まで見送ってくれた。


「じゃあお留守番お願いね」

「はい」

「気をつけて」


小春も夏目も出掛ける塔子に笑顔で見送った。
その笑みにつられるように塔子も笑みを深め玄関の扉を開ける。


「「―――っ!!」」


玄関を開けた塔子の背後に一つ目の妖がいた。
塔子は妖が見えず気づかないが、妖が見える小春と夏目の目にははっきりと映り、妖の姿に顔を強張らせる。
そんな2人に気づかなかった塔子は扉を閉めようとした。


「…?」


閉める寸前、横に何かが通ったような風が吹き、塔子は玄関へ振り返る。
しかしそこには玄関の扉しかない。
気のせいか、と塔子はそのまま買い物に出掛けた。


夏目はいきなり目の前で土下座する妖に驚き小春を背に隠しながら一歩後ろに下がった。
妖は一つ目と牛の2人。
2人は塔子とすれ違いに家に入り、入った瞬間夏目と小春に玄関の三和土で土下座をした。


「夏目様と小春様でございますね?お邪魔致します。」

「か、勝手に上がり込むな!」


兄の背に守られながら小春は『は、入ってきちゃった』と困ったように呟いた。
幸い塔子は先ほど買い物に出かけ、滋は仕事でいない。
独り言のように喋っても不思議がる人間は誰もいなかった。


「むっ…また名を返すのか?くそう!ますます友人帳が薄くなる!そのうち手に負えぬ程の大物が来てこのナマイキなガキを食ってくれるのを待っているのに!!どうしてこんなチンピラ妖怪ばかり来るんだ!!」

「…おいニャンコ」


『このナマイキなガキを食って小春を嫁に貰う計画が台無しではないか!!レイコはチンピラが好きなのか!?レイコの馬鹿ー!!』と駄々を捏ねるように小春の腕の中でじたばたと手足を動かす斑に夏目は青筋を額に浮かべ、大きな斑の頭をもやしと評する手で鷲掴みにし、小春の腕から抜き取る。
案の定斑からは『いだだだ!!痛いではないかこのもやしめ!!』と声が上がり、夏目からは『はあ?聞こえないなー』といつものように聞こえないふりをして小春から斑を引き離し、いつものように小春が『ま、まあまあ、落ち着こうよお兄ちゃん』と兄を宥めていた。


「違います。」


いつものやりとりを繰り出す夏目達に妖達は蚊帳の外だった。
殆どの人間や妖は三人の、というより夏目と斑の仁義なき戦いに引いているかついていけないかのどちらかだったが、妖はどちらも当てはまらなかったようである。
妖の言葉に仁義なき戦いをしていた2人とそれを宥めていた小春は固まり、まだ平伏していた妖2人へ振り返る。
夏目は『違う』と告げた妖に持っていた自称用心棒を放しながら『違う…?』と怪訝そうに尋ねた。
小首を傾げる夏目と小春を見上げ、妖は『はい』と頷いた。


「強力な妖力をお持ちな夏目様と小春様にお願いがあって参りました…どうかお助けください、夏目様、小春様…」


頷いた妖の言葉に夏目は嫌な予感がよぎる。
小春も兄ほどではないが嫌な予感が過ったのかあまりいい顔はしていない。
一度軽く頭を下げた後、妖はゆっくりと頭を上げ、真っ直ぐに夏目と小春を見上げた。
そして――



「夏目様と小春様に退治して頂きたい人間がいるのです」



2人の予感は的中した瞬間だった。
何故嫌な予感というのはこういう時だけ当たるのだろうか、と小春も夏目も思う。
人間退治をしてくれと頼む妖に何も言えない2人をいい事に妖は続ける。


「最近我々の住む八ツ原に妖怪退治気取りの人間が現れたのでございます…目撃者もおり、どうやらそのものは童子のようで…我々を祓うのを楽しんでおるのか、定期的かと思えばふらりと現れ我々を祓いにやってくるのでございます…しかも厄介な事にその妖力は強力で…どうにも我々では立ち向かえるほどの力はなく夏目様と小春様にお力をお貸しいただきたいと妖代表で我らが参った所存!!」

「…それは気の毒に…だが、自覚なくても退治されるような事してるんじゃないか?」

「夏目様っ!」

「ゔ…知らないだろうが人が人を退治すると色々な面倒が出てくるんだ……無理だ、悪いな…」


誤魔化そうにも2人から縋るような目で見つめられた夏目は気まずそうに目を逸らし頭を掻いた。
まだ妖相手なら何とかなっただろうが、人間が相手なら話しは難しくなる。
人間が人間を退治すると警察沙汰となり、酷いときは裁判となり罰せられることもある。
だから夏目は断ったのだ


「な、夏目様ぁ〜〜!!」


問答無用で言い返す暇なく追い出され、妖達は玄関前で騒ぐ。
まだ力で無理やり入ってこないのは助かるが、泣きつかれても夏目も小春も情に弱いので困りものだった。
夏目は恐怖もあった。
人間にあまりいい思い出がない彼はもしその人間が自分と対立し、藤原夫妻や北本や西村に知られ居場所がまたなくなったりでもしたら…という恐怖があった。


「夏目、なぜやらん。面白そうじゃないか!私は人間を懲らしめるのは得意分野だぞ?」

「…ややこしくなるから先生は黙っててくれ。」


玄関を閉め鍵をするのも忘れない夏目に斑は目を細める。
妖らしい斑の言葉に夏目は呆れたように見下ろし、溜息をついた後リビングに戻ってテレビの続きを見る。
小春も涎を垂らし不吉な笑みを浮かべる可愛い人食い妖怪に苦笑いを浮かべ、重い体を抱き上げ『だーめ』と優しく咎めながら頭を撫でてやり、兄の後を追うように小春もリビングへと向かった。
小春に撫でられれば小春に弱い斑は大人しくなるしかなく、仕方ないと言わんばかりにため息をつき大人しく小春に撫でられていた。

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