朝、夏目と小春は目を覚まし布団を片づける。
朝食を食べ、支度をし、2人で学校へ行くため玄関へ向かう。
靴を履きながら夏目は昨日の妖怪の事を思いだす。
少し可哀想だったかな、と思いながらも人間相手ではつい尻込みをしてしまう。
やっと周りと溶け込めるようになったのに、またたらい回しにされたくはなかった。
特に妹の小春が回復し、一緒にいられるようになったのだから余計に。
小春には自分のような思いをさせたくはない。
「お待たせ」
小春が靴を履き終え、立ち上がってニッコリと兄に笑いかける。
妹の存在は兄という贔屓目で見れば見るほど可愛くて仕方がなく、沈みかけていた心がその小春という存在だけで上がっていくのを感じる。
釣られたように夏目が笑えば、その幸せそうな笑みに『シスコンめ』と斑が小さく愚痴ったが、今とてつもなく気分のいい夏目は聞こえないふりをしてやった。
「じゃあ行くか」
「うん」
靴を履いた妹を見て夏目は玄関の扉を開けようとした。
ガラリと開ければいつもの風景が広がるはずだった。
そう、そのはずであった。
「おはようござ…」
しかし目の前はいつもの玄関先の風景ではなく…一つ目と牛の妖が並んで立っている風景だった。
夏目は妖2人を見た瞬間、即、扉を閉めた。
ついでに鍵も閉めた。
「まだいるぞ!先生!!」
「いるな、夏目。」
何故か夏目は斑に振り返りそう叫んだ。
小春は驚きすぎて言葉も出なかったのだろう…しゃがんでいる兄とは反対に立ったままで目を瞬いていた。
****************
小春は俯いて歩いていた。
「そこのけーそこのけー!」
「夏目様と小春様のお通りだー!」
「下にー下に―」
小春と夏目の前と後ろには昨日の妖がおり、前には太鼓を抱えて鳴らす一つ目、後ろには大きな番傘を夏目と小春に差す牛の妖がいた。
まるで大名行列のように大げさにする妖に夏目は少し鬱陶しそうに、小春は恥ずかしそうに歩く。
夏目は前を向いて歩いていたが、恥ずかしいためか小春は俯き肩を竦ませ肩身狭そうに歩いていた。
一緒に歩く斑はやはり自称高貴な妖だからか平然と、しかし少し気分のよい表情で歩いていた。
自分の足元にいる斑の機嫌のいい表情を見つめ『私も猫になりたい…』と現実逃避をしていた。
「お前達…」
「そこのけーそこのけー!」
「こら聞け!」
「いえいえ〜!せめて我らの誠意を示すため〜送り迎えを〜させていただきます〜!」
見えない人間には見えないからいいが、見える人間である夏目兄妹にとって、大名行列もどきは少し痛い。
一般市民な彼らにとって恥ずかしいことこの上ないのだ。
咎めようとしてもリズムに乗って一つ目の妖が効く耳持ってくれず、夏目は公衆の面前というのも忘れ『よせ!迷惑だーっ!!』と思わず叫んでしまった。
「夏目?」
「あ!?――って田沼!?」
夏目が叫んでも引くことのない妖達に夏目は溜息を零す。
疲れたような、諦めのような溜息を零す夏目と小春の耳に聞き慣れた声が届く。
思わず柄が悪くなりながらも振り返れば自分達が妖を見ることができると知っている数少ない友人である田沼が立っていた。
田沼は夏目と小春が見え声を掛けようと手を伸ばしたが、何故か夏目に凄まれてしまい、手を差し出したまま固まった。
夏目の性格をよく知っている田沼はすぐに復活し、心配そうに『どうした?』と問う田沼に夏目は気まずげに目線を逸らし『あー…その…ちょっとな』と呟く。
その反応に田沼は妖関係だと察してくれたのかそれ以上聞かなかった。
それに微かだが、妖の気配と影も見えたからだろう。
「おはよう、夏目、小春ちゃん」
「おはよう、田沼」
「おはようございます、田沼さん」
鬱陶しそうにしているが表情も青白くなく、夏目が一番大切にしている小春を庇う事もしていないという事、そしてこの先は分からないが気にあたりやすい自分も平気でいられるという事はあまり害のない妖だと思ったのか、田沼はとりあえず朝のあいさつはした。
そこは流石天然、と言うところだろうか。
天然と言えば天然な夏目と小春も挨拶を返す。
三人とも辛い少年少女時代を送っていたからか、何気ないこの挨拶がとても幸せに感じた。
そんな三人の背を見送る少女が一人…
「夏目貴志…夏目小春………許せない…」
少女の声は2人にとどかず消えていく。
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