(5 / 12) 13話 (5)

帰り…夏目と小春は友達の誘いも断り2人で帰っていた。
今妖に取り憑かれていると言っても過言ではなく、悪気がないが騒がしい妖2人を引きつれて友達と一緒に帰る度胸はまだ2人にはなかった。


「夏目様〜!小春様〜!お待ちしておりました〜!」

「さ!帰りましょー!」

「……………」


いつの間にか姿を消していた妖達に諦めたかとホッと安堵していた2人だったが…どうやら妖は待ち伏せしていたらしい。
橋の入り口で朝のようにのぼりを背負い太鼓を鳴らし傘を差して待っていた。


「…分かった…とにかく話だけは聞こうか…」

「ありがとうございます!!夏目様〜!!」

「受けてはいないぞ!?聞くだけだ!!」


しつこく諦めの悪い妖2人に夏目はついに折れた。
ここで折れなきゃ多分この2人はずっと付きまとうと思ったらしい。
話しだけは聞いてやろうと思い、それを述べれば妖は思った以上に喜び夏目はもう一度釘を打つ。
『分かっております〜!!』と涙目で頷く妖に夏目は溜息をつき、妹へ振り返る。


「小春、ごめん…」


押しに弱い自分がとても情けなく思う。
まだ自分1人だったら溜息一つで終えれるが、今や小春もいるのだ。
妹を守らねばという兄の心もあってか小春を申し訳なさそうに見つめる。
そんな兄に小春は小さく笑い『大丈夫』と首を振ってくれた。
妹の許可も得て、夏目達は場所を移し森の中へと入っていく。


「で、どんな奴だ?目撃者がいるんだろう?」


場所を移し森の入り口へ入れば木々が影となっているためか日の当たる場所に比べれば涼しくて過ごしやすい。
周りを見渡すも辺りは静かで騒ぎとは程遠いとも思える。
夏目は昨日の"目撃者がいる"という言葉を思い出し、夏目の言葉に一つ目の妖は頷いた。


「はい…目撃者と言ってもはっきりとした姿は見ていないらしく…何分その者達もすぐに追いやられたとお聞きしますもので…童子だという事以外…」

「…そうか…」


目撃者と言ってもすぐに祓われたようで、はっきりとした姿は見ていないようだった。
祓い屋、という筋も捨てきれないが、どうやらその人物は童子…子供のようである。
同じ祓い屋の名取と共に行ったことのある祓い屋が集まる会合には子供の姿は自分と妹しか見ておらず、夏目は子供≠祓い屋だと考える。


(その子供も妖が見えるのか…?妖怪に気を散らされて周りに馴染めないでいる子、とか…だから恨みがあってこいつらを祓っているのだろうか…)


だから夏目はただの八つ当たりだと思う。
周りに馴染めない原因に妖に当たっているのだと…


(分からなくもないな…むしろ妖怪よりそっちと話しがしたい)


祓うのはやりすぎだと思うが、その行動は理解できる。
夏目も妖関係で苦労してきたし、何より妖によって一度大切な妹を失いかけた。
妖で苦労するその人物の気持ちは誰よりも理解できていた。


「ん?」


物思いに耽っているとふと足首に何かが触れる感覚がし、夏目は下を見た。
そこには両足の足首を長く白い手が掴んでいた。
『あ』と思った瞬間、その手によって夏目は引っ張り込まれてしまう。


「!――お兄ちゃん!?」


小春は兄の驚きの声と兄が転がった鈍い音に気づき振り返る。
振り返れば兄が茂みに引きずり込まれるところで、完全に茂みに消えた兄に慌てて茂みに入り追いかけた。
そこには多くの妖が兄の上に覆いかぶさっていた。


「やめ…」

「まあ、待て、小春。」

「!、ニャンコ先生…!でも…!!」


兄に襲い掛かる妖達に小春は駆け寄り振り払おうとした。
しかし祠の隣にいる斑に止められてしまう。


「小物ばかりだ。そろそろ自分で祓えるようになれ…それくらいなら吹き飛ばせる。でも早くしないと鼻の穴や耳から脳を吸われるぞ。」

「わーー!やめろ!!セクハラ妖怪ども〜〜っ!!!」


どうやら祓い屋と間違えているようで、『おのれ人間め!』と恨みをこもった声が小春の耳に入る。
兄にわらわらと群がって助けようにも斑が止める以前に数が多くてさばききれない。
しかし斑の言葉を聞き、小春は兄が脳を吸われるのを想像し血の気を引かせた。
自称用心棒に助けを求めても知らぬ存ぜぬを貫き通し冷たく突き放される。
英語のNOと脳をかけて『オーノー』とダジャレを零し、夏目の言うセクハラが分からない妖2人に『セクシーな腹踊りの略だ』と嘘を教える斑を余所に小春は兄が脳を吸われると助け出そうと一歩足を踏み出した。
その瞬間――


「やめ…っや…!!―――やめさせろってんだ!!このエセニャンコ!!」


もやしの鉄槌が下った。


小春は足を一歩踏み出したまま固まった。
祠の傍にはもやしパンツを貰いぐったりとうつ伏せで倒れ動かない斑がおり、拳をぐっと握って見せる兄の『次はどいつだ』と低い声にびくつく妖がいた。
妖にもみくちゃにされ肩で息をする兄に小春は鬼を見た…気がした。


「まったく…―――!」


汚れを払いグチグチと文句を垂れていた夏目と斑を交互に見つめる小春だったが、2人の耳に何かが聞こえた。
それははっきりしたもので、説明しろと言われても夏目も小春も首を傾げる微かな音だった。
それと同時に空気が変わったのを感じた。


「夏目!小春!!掴まれ!!」


小春は背中にゾクリと何かを感じ、振り返ろうとしたのだが、その瞬間には本来の姿に変わった斑によって空へと浮き上がる。
同時に目も開けられないほどの強い光が辺りを照らし、光で目を瞑っている小春の耳には妖の悲鳴が届いていた。
首根っこを咥えられ斑の背に乗せられた小春は落ちそうになりながらも斑の白い毛をギュッと握り、掴むことに必死な妹の上を夏目が覆いかぶさる。


「一体何が…」

「高い霊力を持つ者は清めの一波を放つことができるという…どっからか原っぱに向けて霊波が放たれたのだ。」


それは一瞬の出来事だった。
一瞬にして辺りは静まり返り、あれほどいた妖も一匹もいない。
『降りるぞ』、と斑は一声を掛け小春と夏目を背負ったまま地面に降り立った。
夏目は辺りを見渡しながら斑から降り、妹を降ろしながらも静まり返る辺りに目を配っていた。
妖の影すらなく、声も夏目の耳に届いていない。


「みんな…消されてしまったのか?」

「ビビッて逃げただけだ」

「そ、そうか…」


清めの一波というのを初めて見て、初めて体験した夏目と小春はまだ心臓が激しく動いていた。
驚きながらもやはり気になるのは妖達で、祓われたという事は消滅した、という事にも繋がる。
一般的に悪いイメージしかない妖達だが、夏目達は人間が色々なタイプがいるように妖も悪ばかりではないのを誰よりも知っている。
だから心配だった。
斑の返しに夏目も小春も胸を撫で下ろす。


「しかしここは清められ下等連中はしばらく帰って来れんのさ。」

「それって…居場所を追われたって事、だよね…」

「…いきなりの攻撃…随分一方的だな…一体どんな奴が…」

「お?やる気になったか?」


ただ夏目は気になっただけである。
何度も祓いに来ているということはその人物はよほど妖を憎んでいるという事である。
しかしだからと言って一方的なやり方に夏目は疑念を抱いた。
ただ疑念を抱いただけの呟きを斑が拾い上げ、やる気になったかと問われた夏目は『いや、とりあえず顔は拝んでみたい』と返そうとしたその時、妖二匹が祠の影から現れた。


「やってくださいますか!夏目様!!」

「わっ!お、お前達!しばらくここに帰れないんじゃ…ッ!!」

「わしら2人は中級なんですー!」

「だったら自分らで何とかできんのかー!」


どうやら誰もいなくなったと思ったが、妖2人は中級らしく隠れて直撃を免れたらしい。
まだやるとは言っていないのに2人の中ではすでに人間退治してくれると大喜びし、あっという間に夏目を胴上げし、小春はあわあわとさせていた。
斑は仮の姿へ戻るため祠の後ろに回り招き猫の姿へと戻っていく。


(あれは…)


招き猫に戻りやはり厄介ごとに首を突っ込む夏目をからかってやろうとした斑だったが、気配を感じ後ろへ振り返った。
そこには影があった。
人影が。
斑が振り返るとすぐに消え気配も遠のき、残ったのは人の匂いのみ。
確かにあれは人の気配だった。
一瞬だったため人という認識しかできずはっきりとは見えなかったが。


だが、人の匂いと共に妖の匂いも混ざっていた。

斑は面白そうに目を細める。

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