(6 / 12) 13話 (6)

結局その日は暗くなることもあり次の日に繰り越すことにした。
それに祓い人もすでに気配もなく今日は手がかりが掴めないからだという事もあった。


「小春大丈夫?」

「え…?」


休み時間になり、廊下に出て別のクラスのリンと4人で喋っていたが、小春は上の空だった。
窓の外を見つめ、昨日の事を思い出していた。
祓い屋…それは小春や夏目にとって身近であり、遠い存在だった。
この妖力によって妖達との縁は深く、それと同時に祓い屋との縁もそれなりに深い。
まだ名取しか知らなくても、妖と関わっていると祓い屋の存在は切って切れる存在ではないだろう。
小春はぼうっとしていた。
その小春に気づいた奈々が声をかけ、小春は奈々の声掛けにハッとさせ慌てて窓から顔を戻す。
顔を戻せば奈々が心配そうにこちらを見ており、奈々の声掛けに気づいたリンと薫も小春を見つめていた。


「えっと…なに?」

「あんたさっきから上の空だったけど…どうしたの?体調が悪いとか?」

「え…いや…その…」

「そういえばそうだね…なんか顔色も悪いし…大丈夫?」

「あ、もしかして"あの日"?」


どうやら話しかけても反応しなかった小春を心配しての言葉だったらしく、小春はどう返したらいいか分からず言葉を詰まらせる。
妖を見ている事は奈々以外知らず、リンや薫もいるこの場で昨日の事も伝えることできず、ただ『何でもないよ』と伝え笑顔で誤魔化すことしかできなかった。
しかしリンの言葉に小春は笑顔のまま固まってしまった。
あの日、とは女の子の日である。
固まった小春に確信を得たのかリン達は更に心配そうに『保健室行く?』やら『私痛み止め持ってるからあげようか?』と言ってくれた。
実際には小春は女の子の日ではなく、いたって健康だがそれに乗っかることにした。
と、いうよりは何も言わないままにしていたと言った方が正しいだろう。
薫が薬を取りに一度クラスに戻るのを小春は申し訳なさそうに見送る。
しかし、その時――ある少女が小春達の傍を通り過ぎた。


「――――っ!!」


少女が一人自分の横を通り過ぎた、という所までは普通だった。
至って誰にでもある通りすがりの知らない少女。
しかしその少女が通り過ぎた瞬間、言い表せれない何かが小春の背に走り、小春はゾクリと背筋に何かが走り、少女を見た。

その少女は恐ろしいほど美しかった。

美しく…憎々しい視線を小春に向けていた。
小春は思わず固まってしまう。


「奈々、ちゃん…リンちゃん…」

「ん?」

「どうした?やっぱ保健室行く?」

「今通った子…誰だか分かる?」


呆然と立ち尽くしているままに小春は奈々とリンに少女の事を聞く。
奈々は首を振ったが、リンは『ああ、あの子』と呟き知っているらしく教えてくれた。


「あの子うちのクラスの男子のマドンナ」

「は?マドンナ?」


曲がり角に消えた少女を見てリンは眉間にしわをよせて答えてくれた。
その表情にも疑問を持つが、更には彼女の言葉に疑問を抱かせた。
マドンナ、という単語に小春は首を傾げ、奈々は怪訝そうな…というか嫌そうな顔を作る。
すると丁度タイミングよく薫が戻り、首を傾げる小春と嫌そうな表情を浮かべるリンと奈々の表情にキョトンとさせ『ど、どうしたの?』と聞いた。
そんな薫にリンが教えてあげ、リンの説明に薫は『ああ!あの子!』とポン、と手を合わせる。
どうやら薫も知っているようで、小春と奈々は薫に目をやった。


「え、なに…薫知ってんの?」

「うん!聞いたことあるんだよね!4組のマドンナ!」

「またマドンナ…っていうか、マドンナって…古くない?」

「え?でも小春ちゃんも言われてるよ?3組のマドンナって」

「え゙…わ、私も…マドンナ…?」


マドンナという言葉は少なくとも普通にしていれば聞くことのない単語である。
奈々はこの時『どうして男子って平気な寒い言葉を付けれるんだろう…ガキか…あ、ガキだったか』と心底そう思ったという。
雪が降った時、男子達は小春を『白銀の天使』やら『雪の妖精』やらこちらが凍えるような寒すぎる名前を陰でつけているのを知っているから余計なのだろう。
小春は当然初耳で、恥ずかしいのか顔をほんのりと赤くさせ俯いてしまう。
そんな小春に『小春かーわいー』とリンが携帯で写真に収め、その携帯を奈々が回収しデータを消すのはもはや定着しつつあった。
『先生に見つかっても知らないよ!』と言いながら奈々に小春のデータを消された携帯を返してもらったリンは照れて顔をあげれない小春を見て深いため息をつく。


「同じマドンナでも、あの子と小春じゃ全然違うんだねぇ…ほんと…交換してほしいわ」

「は?どういう事?」


リンが溜息つくのは珍しく、奈々は怪訝さを強めリンに聞き、リンは奈々の問いに心底疲れた顔を浮かべ答えてくれた。


「それが…あの子すっっっっっごく!性格が悪いんだよね」

「はあ?性格が悪い?なのにマドンナ?なんで!」

「いや、なんでって言われても…うちの男子達が馬鹿なのか、ドM連中なのか…」


リンの顔は本当に、心から、嫌そうな顔をしていた。
大人びているリンにここまで嫌そうな顔をさせるあの少女に奈々も小春も思わずお互いの顔を見合わせた。


「あの子、転校生なんだよ。」

「え、そうなんだ…」

「そう…だからみんな最初はあの子の整った顔に騙されて声を掛けるわけよ。女も男も顔が整ってる子と仲良くなりたいって言うの変わらないらしくてさ…でもいざ蓋を開けてみればその子すっごく高飛車だったんだよ。しかもそれだけじゃなくて友達いないから声を掛ければ上からだし、すぐ機嫌悪くなって場の空気を悪くするから女子には嫌われてるし、男子達もそれを見てるはずなのにその子をちやほやちやほや!!あの子が何かするたんびに『俺手伝うよ!』『いいや!俺が!!』とか言い争っててバッカみたい!!お前らはガキか!!あ、ガキだったな!とか毎日思うわけよ!!なんか先生達までその子と仲良くしようって魂胆が見え見えで贔屓してさ!!お前ら教師だろ!ちゃんと仕事しろ!!とか毎日思うわけよ!男子の時と同じく!!だから今だに女の友達いないんだっつーの!!お昼時はいつもどっかいってて教室にいないんだっつーの!!あれ絶対トイレで食べてるよ!今噂の便所飯食ってんだよあれもー!!思い出しただけで腹立たしいいいい!!」

「な、なんか…」

「あんた…色々溜まってんね…」


男子にガキか!と罵る少し前まで自分と同じ事を思い口にし、更にはストレスをためている社会人のように愚痴をこぼすリンに奈々は同情めいた目線を送った。
小春は少女の話しを聞き、鵜呑みにはできなかった。


「でも…私も最初の頃…その子と似たような感じだったし…その子も本当は緊張してて恥ずかしくてそんな風に見えるのかも」

「あんたねぇ…確かに小春も無表情無感情冷徹女風だったけど…あの子は絶対性格悪いんだって!」

「そ、そうかな…」

「そう!そりゃ小春も話しかけても最初の頃は全然無表情だったけど慣れればちゃんと笑顔見せてくれるし、何よりあの子のような高飛車な態度もしてないじゃない!絶対小春とあの子は正反対!小春にも私達にも相容れない存在だよ!っつーかあの子と仲良くできる人がいたら拝み倒したいわ!」


リンは相当ストレスをためているらしい。
小春はその子の事を知らないからかもしれないが、自分も緊張で似たような過去もあり、リンの言葉を全部鵜呑みにすることはできなかったのだ。
だがそれを言えば猛反発を受け、その少女の事を知っているらしい薫もしっかりとリンの言葉に頷いていた。


「でも結構波乱万丈な人生らしいよ、あの子」


頷いていた薫だったが、あ、と何かを思い出したように呟いた。
リンの変貌に若干引いていた奈々と小春だったが、薫へ視線を送り、ムキ―!とストレスを爆発させていたリンも薫を見る。
マイペースな薫は三人の目線をもろともせず続ける。


「どういう事?」

「なんか、両親いないんだって。」

「え、じゃあ親戚の人と暮らしてるの?」

「ううん。それも違うってさ…何でも一人暮らしだとか…」

「一人暮らし〜!?家って高校生でも借りれるっけ?」

「あと彼氏の家に住まわせてもらってるとか、実は家出娘で老夫婦を騙して住まわしてもらってるとか、家出してヒッチハイクして引っかかった男の家に上がり込んでいるとか…」

「…なにそれただの噂じゃん」

「うん、そうだね」

「そうだねって…あんたね…」


薫の口ぶりから何か少女に関しての情報があると思ったのだが、どうやら噂を知っているだけのようで小春は張りつめた空気が柔らいだ気がした。


(あの子も妖が見えるのかな…)


その少女を小春ははっきりと確認したわけではない。
妖が見えると小春や夏目が勝手に思っているだけで実際は分からない。
兄の友人である田沼のようにただ気配を感じて気にあたりやすいから腹が立って祓い屋の真似事をしているのかもしれない。


「でも珍しいのね」

「何が?」

「小春が他の子気にするの」


少女が消えた方向を見つめていると奈々の声が届く。
奈々の言葉に小春は『そ、うかな?』と少し動揺を隠しきれず返した。
動揺していると気づいていない奈々は『そうそう』と頷く。


「同じ美少女だから何かの縁でも繋がってるとか?」

「ちょ、やめてよ!小春とあの子と一緒にしないでよ!!小春に失礼極まりないでしょうが!」

「いや、リンの方が失礼極まりないと思うけど…それほど嫌いか…」


繋がりと言えば美少女という点と、転校生という点、そして――妖関係という点。
結構繋がりも縁もありそうだが、リンは奈々の言葉にぞっとさせ寒気が襲ったのか腕を擦る。
小春はよっぽどその少女が嫌いらしいリンの反応にただ苦笑いしか返せなかった。


「あ、でも…」


リンに苦笑いを浮かべていた小春だったが、ふと隣にいる奈々が思い出したように声を零し、その奈々の声に小春はリンから奈々へと目線を戻した。


「今思い出したけど…あの子だよ」

「何がよ」

「この前小春を尋ねに来た子。あの子だよ。」


奈々は今まで忘れていたが少女の話題となり記憶が蘇ったらしい。
視線を上に向け思い出して言う奈々に小春は目を見張った。
そして確信に変わったのだ。


祓ったのは、あの子だと。


その理由は多分小春にも分からない。
勘、または直観と言った方が正しいのかもしれない。
理由は分からないが、小春は奈々の言葉を聞き祓ったのはその子だと思った。

もう一度その子が消えた方を見てもやはり…その少女の姿はなかった。

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