小春は放課後、兄に少女の事を話した。
廊下ですれ違った時の事、妖が多分見えるだろうという事、祓い人ではないかという事…小春は兄に自分の考えを打ち明けた。
ただリンの性格が悪いという情報はいらないと思い伏せてあるが…
実際性格が悪くても会った事ないため軽々しく言えなかった。
と、いうか…今は性格云々よりも会ってみたいと言うのもあった。
もし見えるのなら…名取に続く同じ仲間なのだから。
「確か昨日はこの辺だったよな…」
「うん…中級達いないね」
「大方残った妖達にお前達の噂を流しているのだろう…『夏目様と小春様が我らの為に人間退治をしてくださるぞ!!』とかな。」
「「え…それ、困るんだけど…」」
別に待ち合わせをしているわけではない。
何時にくるかも決めていなかったため中級妖怪の2人がいない事に驚きはしないが、一応明日また来ると言ってあるため待っているかもしれないと思ってもいた。
周りを見渡してもやはり昨日の清めの一波が効いたのか妖の気配すら見えなかった。
祠の横で座る斑の言葉に兄妹で突っ込んでいたその瞬間――小春と夏目の前に二つの何かが茂みから飛んできた。
「!―――ちゅ、中級!?」
それは体中傷だらけの中級の2人だった。
2人は小春と夏目の姿を見て力尽きたように倒れた。
ただまだ意識はあるのかうめき声を零しており、小春はそっと中級の1人である一つ目に触れる。
その瞬間小春の手から小春の妖力を吸っているのか、はたまた無意識に小春が手を通して送っているかは不明だが、一つ目はしばらくして意識をはっきりさせる。
「小春、様…な、つめ…様…」
「大丈夫か!?どうして急に…しかもそんな傷だらけで…!!」
「お、おに、げください…」
「逃げるって……もしかして祓い屋が…」
斑もボロボロの中級達を見てただ事ではないと思ったのか中級達の…夏目と小春の傍に駆け寄った。
小春の妖力で意識を回復させた一つ目からは何故か逃げろと言われ小春と夏目は首を傾げた。
ボロボロな姿を見て決して冗談でもからかいでもないという事は見て取れる。
夏目も小春もずっと妖に苦しめられてきたといは言え流石に怪我だらけの妖を放っておくことはできなかった。
意識が回復した一つ目を見て小春は己の手を見つめていた。
そしてそっと牛にも手を伸ばそうとしたその時――
「お前、人の子か」
聞いたことのない声がその場に響く。
牛に手を伸ばそうとした小春はその声にビクリと身体を震わせ手を引っ込め、夏目と斑は背後からの声にハッとさせ後ろを振り返った。
そこには――1人の妖が立っていた。
「…誰だ」
夏目も流石に突然現れた妖に驚いた。
しかし修羅場を潜り抜けてきたためかすぐにハッと我に返り傷だらけの中級と妖を目を見張って見上げている小春を背に守るように前に立つ。
妖はそんな夏目に目を細める。
――その妖は、羽が生えていた。
黒く大きな羽が背にあり、カラスの顔を持ち山伏装束を身にまといその手にはギラリと鈍く光る剣がおさめられていた。
血がついているところを見て、そして冷たく見下ろす妖の目を見て夏目は咄嗟に中級達を傷つけたのはこの妖なのだと察し、警戒を強める。
低い夏目の唸りに妖はフン、と鼻で笑い、倒れている中級に剣を向けた。
剣を向けられ小春はビクリと肩を揺らし、怪我している中級達に剣を向け小春を怯えさせる妖に夏目はキッと睨んだ。
それでもやはり妖は鼻で笑い夏目を嘲る。
「人の子よ、その妖達を引き渡してもらおうか」
「断る!どういう理由でこいつらを襲ったかは知らないが、もう2人は抵抗も出来ないほど弱っているじゃないか!これ以上傷つけてどうする!!」
「どうもせん…ただ私はこいつらを殺すだけだ」
「な…ッ!?――なら尚の事引き渡せない!!」
弱めただけでは飽き足らない妖の言葉に夏目は息を呑んだ。
小春は『殺す』という殺気立った言葉と空気に体を恐怖で震わせる。
妖は夏目の睨みをもろともせず、夏目の言葉と行動に疑念を抱いているのか首を傾げていた。
「お前、人の子であろう?」
「…ああ。」
「なら何故こやつらを庇う?我々妖が見える人の子はあまり我らにいい感情を持っておらぬだろう」
「情が移ったからだ」
「情…なるほど………情、か…」
怪訝そうにしていた妖は夏目の言葉に目を見張った。
そして『ふむ』と顎を指で擦り納得したように呟いた。
それを見て夏目も、そして小春も納得してくれたとホッと安堵したのだが…
「なんとも面白き人の子だ…本来ならばお主に免じてそやつらを見逃してやってもよいのだが……しかしこちらもこちらの事情というものがある…申し訳ないがそこを退いていただこう。いくら情が湧いたとてお主も怪我をしたくはなかろう?」
「…っ!!」
「夏目!!」
小春と夏目は納得して剣をおさめて消えてくれると思った。
決してその妖は『諦めよう』と言ったわけでも、剣をおさめる動きをしたわけでもない。
ただ、妖は人間が妖に情が湧いたという事に納得しただけである。
だから小春と夏目のその考えは甘いと言われるのだ。
深く妖に関わっていながらも小春も夏目も妖と人間を同列に考えている、証拠だった。
妖は申し訳ないと零しながらも表情一つ零さず降ろしかけていた剣を妖ではなく、夏目に向けた。
自分に向けられている剣から鈍い音を夏目は聞く。
妖の言葉と行動に夏目は息を呑む。
妖の目は決して偽りを言ってはおらず本気だった。
だから妖の殺気に斑が反応したのだろう。
斑は煙と共に本来の姿へ戻り小春と夏目を守るように前に出て妖と対峙する。
猫が妖に変わり妖は目を見張った。
最初から妖と気配で分かっていたがどうやらまさか本来の姿があるとは思ってもみなかったようで、斑はその隙を見逃さなかった。
「小春!夏目!!俺がこいつを引き止めている間に逃げろ!!」
「わ、分かった…!」
斑が間に入った事で張りつめていた空気が崩れ、夏目は体の力を少し抜いた。
小春は逃げる、という言葉に考えるよりも体が動き、走る力もないであろう中級達に触れる。
小春が触れた事で小春の力によって多少回復した妖達は、痛みを抑えながらも立ち上がる。
それを見た妖は目を見張り、夏目の影で見落としていた小春に意識を移した。
「あの力…あの容姿……八ツ原の姫か…」
小春を見て妖は驚いた表情を浮かべた。
そして何かをポツリと呟いた。
その呟きは夏目達には届かなかったが妖に意識を集中させ警戒をしていた斑には届いていた。
斑は妖の言葉に嫌な予感が過り背をゾクリとさせる。
妖の目線が自分と夏目ばかりに向いていたのに今では立ち上がりよろけながらも逃げ出そうとする中級達を連れ走ろうとする小春に向けられていた。
『まずい』、と斑が直観的にそう思った瞬間妖の足は小春に向けられた。
「させるか!!」
「…!」
警戒を強めていたからこそ反射条件だった。
妖が動いたから斑も動いたにすぎなかった。
身体が動きようやく頭が追いつき斑は逃げ出す夏目達と妖の間に素早く入る。
妖はすでに小春にばかり気が取られていたからか、斑の登場に驚愕の表情を浮かべ、立ち止まる。
「ニャンコ先生…!」
「早く行け!止まるな!」
「あ、ああ!」
庇ってくれた斑に夏目は振り返る。
しかし振り返らず斑は夏目達を急かせ、一触即発の空気に夏目も小春も中級を連れて森の中へと消えた。
妖は小春の背をジッと見つめたまま動かず、斑は小春を隠すように妖の前に出た。
視界の中に入った斑に妖は溜息1つこぼす。
「貴様、友樹を知っているようだが……友樹はもういないぞ」
「トモキ…ああ、八ツ原の姫の名か……いない、となると死んだか」
妖は八ツ原の姫――友樹を知っているようだった。
だが、友樹自体を知っているわけではなくただ噂と名前だけを知っているだけのようで、友樹がいないという言葉にすぐに死を直結させた。
残念がるそぶりを見せないところから斑は小春を狙っているのは捕食のためだと考えた。
ならば、余計引き下がるわけにはいかなかった。
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