(9 / 12) 13話 (9)

鈴の音に夏目も中級も小春も女妖怪もその場で立ち止まった。
小春達は上を見上げ、それを見た女妖怪も釣られるように上を見上げる。
上には当然木の枝があり、その更に上には空がある。
赤い空が広がっているはずだったのだが…


「ぐ、――っ!」


女妖怪が突然何かに吹き飛ばされ、背中を木で打ち倒れてしまう。
動かないところを見ると気を失っているようだった。


「お久しぶりで、夏目殿、小春」


あっという間の出来事に小春も夏目も目が点となった。
呆然と立ち尽くしている4人の頭上から聞き慣れた低い声が降り、4人全員上へと顔を上げる。


「み、三篠!?」


シャンシャンと鈴を鳴らしながら現れたのは三篠だった。
三篠は夏目達の背後に4人を覆うように現れ、駆けつけたのと同時に女妖怪を手で吹き飛ばしたらしい。
あっという間の出来事と、それをやったのが三篠だという事に夏目は驚きが隠せなかった。
三篠は夏目に名を呼ばれ女妖怪を見つめていた目を夏目と小春に向ける。
2人が怪我がないのを見て三篠は目を細めた。


「何やら不穏な空気に参ったのですが……ふむ、どうやらお取込みだったようで……余計なお世話でしたかな?」

「いや、ありがとう…助かったよ」


分かってて三篠は言っているというのは分かっているが、安堵させられたという意味で夏目は三篠に礼を告げた。
兄に習い小春も三篠に礼を告げ、三篠は2人からの言葉にクツクツと笑いを零す。


「しかし…女天狗に狙われるとは…相も変わらず不憫なお方だ」

「女天狗?あの妖怪、天狗なのか…?」


三篠は気を失い倒れている女妖怪を見つめ、更に愉快そうに笑った。
女妖怪を三篠は『女天狗』と言った。
確かに天狗の羽は見た事あり、それと同時に最初に現れた男妖怪を思い出す。
女妖怪と同じく羽を持ち、天狗のように山伏装束を身にまとっていたため、男妖怪も天狗なのだろうと考える。
夏目は名前の通りの妖怪の名に目を瞬かせ、小春と顔を見合わせる。
小春も夏目と同じ反応で、2人とも似た表情を浮かべていた。


「今羽を仕舞われているようだが、あの匂いは間違いなく女天狗…仮面の下はそれはそれは美しいと聞いたことがあります」

「へえ…」

「仮面を取りましょうか」

「い、いい!全然いい!!大丈夫!俺全然興味ないから!!全くこれっぽっりも!」

「お兄ちゃん、それもどうかと思う…」


女妖怪が気を失っているからか、それとも三篠が来てくれたからか、夏目は逃げ出そうとした足を止める。
しかしそれでも小春の手は離さなかった。
夏目は三篠の男らしい言葉に慌てて首を振る。
追いはぎのような事をしようとしているのを止めようとしているのは知っているが、小春は男としてそれってどうなの?と思い思わず突っ込んでしまう。


「おお!三篠ほどの者を使役なさっているとは流石夏目様!」

「恐るべし友人帳〜!」

「一々ヨイショしなくていい!っていうか元気だなお前ら!」

「そりゃあまあ!小春様のお蔭です!」


大怪我を負っていた割には元気な中級達に夏目は思わず二度見してしまう。
小春は他人事のように傍観側に腰を下ろしていたのにまさか話しを振られるとは思っても見なく、小春は『えっ!?』と驚きの声を零した。


「最近妖達が騒いでいるようですが…で、その騒動はこの者の仕業で?」

「それは…」

「三篠さまー!最近の騒動は祓い屋の仕業なのです!夏目様と小春様の敵であるその祓い屋が森に潜んでおります!御成敗を!!」


三篠の登場は思ってもみなかったが、まだカラス顔の天狗と戦っているらしい斑がいない今、三篠の存在は頼もしい。
斑に聞かれたら怒り散らすが、正直なところ三篠の方が用心棒っぽいのはどうしてだろうか…と誰かに問えば十中八九、威厳の問題だと思うよ、あと見た目。――と返ってくること間違いなしである。
そんな三篠はやはり見た目通り頼もしいらしく、中級も三篠の事を知っていた。
知っているだけならまだしも小春の妖力のお蔭で傷が治った中級達はどこから取り出したのか、日の丸の紙扇子を持ちパタパタと振る。
夏目は中級達の言葉に血の気が引き、三篠が頷くよりも前に止めようとした。
しかし…


「承知。」

「!――待て!!」


三篠は夏目の声など聞かず、風のように姿を消した。


「お、お兄ちゃん…っ!!」

「小春はここにいろ!!危なくなったらどこでもいい!逃げて隠れろ!!」


三篠が人間を追い払うために姿を一瞬にして消し飛んでいったため夏目は小春の手を放し走った。
小春も続こうとするも今は一秒でも惜しいため夏目は小春に隠れるように言いながら走り、夏目の姿はあっという間に消える。


「わ、私達も追いかけよう!」

「ええ!?しかし夏目様には隠れていろと…」

「危ないから隠れるー!」

「でも放っておけない!」

「あっ!小春様〜!」


兄の姿も、三篠の姿も、あっという間に消えた。
小春はしばらくぼうっと突っ立っていたが、すぐにハッと我に返り走る。
隠れていろと言われても隠れる気ゼロな小春に中級達は流石に放置も出来ず小春の後を追うように更に森の奥へと姿を消す。

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