(2 / 12) 14話 (2)

音羽と青之丞が去った後は何だか嵐が去ったような静けさだった。
女性達は青之丞がいなくなり熱も下がったのかそれぞれ買い物を済ませ、小春と夏目はどっと疲れが襲う。
何故か2人は音羽と関わるといつも疲れるような気がしてならない。
決して悪い人ではないのだけれど…。


「ま、まあ…グラタン皿買いに行くか…」

「う、うん…」


とりあえず気を取り直して夏目と小春はグラタン皿を買おうと歩き出した。


「今夜はグラタンかな?」

「だといいな」

「うん」


歩きながらグラタン皿を探す。
塔子からは小さな、とも言われていたため見つけても大きさで断念する事もあった。
グラタン皿を買うという事は今夜、または近いうちにグラタンを作るという事であり、小春はいつか出るであろうグラタンを楽しみにし、夏目も妹の上機嫌が移ったのかニコニコと笑みを浮かべ、周りは何故か小春と夏目の周りだけ花が咲いているように見えたという。


「おい、夏目、小春」


慣れていないのもあってか夏目達は目的の皿をまだ見つけることができなかった。
フリーマーケットなのでグラタン皿は売ってないんじゃないかと思ってしまうほど小さなお皿はなかなか見つからなかった。
するとどこからか聞き慣れた声が2人の耳に届き、2人は立ち止まる。
周りを見渡すと誰も知り合いがいない。
気のせいかと思った夏目と小春だったが、探している2人にまた誰かが『ここだ』と伝え小春と夏目はその声のする方へ振り返る。
そこには売られているタンスの上に300円と書かれた値札付きの招き猫がおかれおり首を傾げたが隣がもぞりと動いたのを見て夏目と小春は視線をずらし隣の同じ招き猫を見た。


「――うわっ!ニャンコ先生!」


同じ招き猫だと思ったそれは飼い猫もとい、自称用心棒の斑だった。
ひょい、と体重を思わせない軽やかさでタンスの上から降り小春と夏目のもとに歩み寄る。


「お前達こんなところでどうしたのだ?」

「グラタン皿を買いに来たんだ」

「塔子さんと滋さんと私とお兄ちゃんの4つ分」

「ふーん……――って、私の分も買わんかっ!!」

「うぐっ!」


短い足で夏目と小春の傍に歩み寄った斑だったが、兄の言葉に続いた小春の言葉に一度は頷いて見せた…が、間を置いたその時ノリ突っ込みが夏目の顎を襲う。
ゴン、といい音をたてて斑の石頭が顎に直撃した夏目は幸い舌は噛まなかったが顎の痛みに涙目を溜め座り込み、小春はおろおろとさせる。


「もう一個皿を買わせてくれる!!さあ!立て!立つんだ夏目!!」

「せ〜ん〜せ〜い〜〜ッ!!」


斑は自分の分の皿がないと怒っており、タシタシと短い手で地面を叩き抗議していた。
痛みは少しずつ減っていったがまだ痛むのか顎を擦りながら夏目は斑に睨む。
正直涙目なためいつもより怖さは緩和されていた。


「ま、待って!駄目!喧嘩絶対駄目っ!!」


涙目で睨みつけてくる夏目に斑は『おっ!やるか!?』とファンティングポーズを取り始めた。
ジリジリとお互い少しずつ間を縮めていく2人を見て小春は周りが割れ物ばかりだと気づき2人の間に入った。
斑を抱き上げた小春の制止の声に流石の斑と夏目も我に返らざるを得ず、斑は小春の腕に静かに収まり、夏目はバツの悪そうな表情を浮かべる。


「もう…喧嘩しないでよ」

「ご、ごめん…」


ムッとさせる妹に夏目は眉を下げて謝り、斑は小春に止められてしまい不発のままだったためかふて腐れていた。
そんな斑に小春は『ちゃんとニャンコ先生の分も買うから機嫌直してよ』と微笑みを向け頭を撫でる。
小春に頭を撫でられてしまえば斑に残されている道は絆されるしかなく、あんなにも機嫌が悪かった斑の表情がみるみるうちに柔らくなってく。
それを見た夏目が逆に機嫌が悪くなるがここで斑に嫉妬して斑をいつものように頭を掴んで離れさせると喧嘩が勃発すると分かっているからか、ぐっと抑えた。
例え『夏目ざまぁww』とドヤ顔をしてきても、夏目は我慢した。


「あ、お兄ちゃんこれなんかどう?」


斑を抱いて歩いていた小春はふとグラタン皿が目に映った。
大きさは自分では判断できないが、大きくはないだろうと斑を抱えて小走りにその店の前に駆け寄る。
膝の上に斑を乗せ空いた手で皿を一枚持って兄に見せる。
まだ苛立ちもあった夏目だったが、妹の笑みにつられたように頬を緩ませ苛立ちも収まっていくのが分かる。
妹の笑み一つでもやっとしたものを消す自分に夏目は内心苦笑いを零す。


「いいんじゃないか?丁度いい大きさだし、丁度5つあるしな」


小春の隣にしゃがみ、出店の人に『お願いします』と5枚の皿を差し出す。
出店の人は笑顔で皿を受け取り、欠けないように一枚一枚新聞紙に包み、その間夏目はサイフをカバンから取り出す。


「…?」


5枚もあるため少し時間がかかっているらしく、小春は斑を撫でて待っていた。
しかし、ふと何かの気配を感じ振り返る。


「絵?」


振り返った先には絵が置かれていた。
出店されているタンスや家具と同じく売られている絵。
その絵は枯れている木の絵で物寂しく見える絵だった。
ただそれだけなのに小春はその絵から目が離せなかった。


「その絵気に入ったの?」

「え?」


ジッと後ろの店を見つめている小春に斑が名を呼ぼうとしたその時、その店の人が先に声をかけ斑は口を閉じた。
小春はそこでようやく我に返り微かに目を見張り顔を上げる。
店の人が店を閉めるがその絵は売れ残ったからと譲ってくれると言う。
タダで譲るという店の人に小春は戸惑い断ろうとしたが店の人は小春の返事を聞かず勝手に包みはじめ勝手に小春に譲る。
条件反射で受け取ってしまった小春は呆けてしまい、お店の人は店を閉め始めてしまう。


「どうしよう…貰っちゃった…」

「まあいいではないか?貰える物は貰っておけ」

「え…でも、この前"タダほど怖いものはない"ってテレビでやってたんだけど…」

「…お前普段どんなテレビ見てるんだ」


小春は困ったように眉を下げ斑に助けを求める。
店の人の様子を見れば返すと言っても受け取らないだろう事は分かり、斑は目を細める。
斑の言葉に小春は更に困ったような声で呟き、今時言わない言葉に斑は呆れたような目を小春に向けた。


「よし、帰ろうか……ってそれどうしたんだ?」

「お、お兄ちゃん…」


5枚のグラタン皿を受け取り夏目は何故か後ろの店を見ていた小春に声を掛ける。
声を掛ければ小春は困り顔を浮かべており夏目は少し驚く。
事情を聞いた夏目は苦笑いを浮かべ貰っちゃったものは仕方ないとまだ納得いっていない小春の頭を撫でてやる。



****************



目的の物を買った夏目と小春は家に帰り塔子のグラタン皿が入っている袋を渡す。


「この大きさのが欲しかったのよ!ありがとう、貴志くん、小春ちゃん」


袋から一枚の皿を取り出し新聞紙を取ると白い可愛らしいグラタン皿が見え、塔子は笑みを浮かべた。
塔子の言葉とお礼に小春と夏目はお互い見合い笑顔を浮かべ、その笑みに塔子も釣られたように笑みを浮かべた。




「なんだ…その絵、結局飾るのか?」


絵を持って夏目と小春は二階へ上がる。
絵のことを塔子に言えば塔子は笑みを浮かべ『良かったわね小春ちゃん!』と言うだけで返してこいとは言わなかった。
まあ、返してこいと言われてももう出店の人はいないし探しきれないのだろうが…
小春は怒られなかったとホッと胸を撫で下ろし、塔子からお菓子とお茶を手が空いている夏目が受け取り部屋に戻っていった。
部屋に戻ると上着を脱いだ小春が部屋の壁に絵を飾りはじめ、それを見た斑が小春に歩み寄りながら問い、その問いに小春は頷いて見せた。


「うん…貰ったものだけど飾ってあげないと可哀想だし…」

「ふむ……しかし、枝ばかりでつまらん絵だな。」

「そうか?結構綺麗だと思うが…」


壁に飾ると益々殺風景な絵に見え、飾る小春に思わず聞いてしまった。
壁にくっつけている勉強机に一時的にお菓子を置き、机を取り出していた夏目は斑のつまらない絵という言葉に小首を傾げる。
確かに殺風景で色がない枝だらけの絵だが、それはそれで味があるのではないか、と夏目は思う。
何だかんだ言って小春はこの絵がそれなりに気に入っていた。


「でも、お遣いだけであんなに喜んでもらえるなら…あの髪飾り、買っておけばよかったかな…」

「髪飾りって?」


机を出し終え2人分のコップを自分と小春の前に置き、1つの皿に入れられている多くのお菓子を机の中央に置きながら夏目はぽつりとつぶやき、夏目の呟きを小春が拾う。
小首を傾げる小春の夏目は小さく苦笑いを浮かべ小春の空のコップにお茶を注いでやる。


「いや、小春がその絵を見ている時に俺も隣のアクセサリーを売ってるお店に目を奪われててさ…塔子さんと小春に似合う髪飾りを見つけたんだ…でも恥ずかしくなってやめたんだけどな」

「へぇ…どんな髪飾り?」

「そうだな…桜の髪留めだったかな…薄い色と濃い色の色違いでさ…なんかそれを見てたら塔子さんと小春に似合うかなって思ったんだ」


小春が絵を貰っていた時に夏目もふと見た髪留めに目を奪われていた。
それは可愛い桜型の飾りがつけられていた手作りのダッカール型のピンで、濃いピンク色と淡いピンク色の二つが売られていた。
手作りだから微かに違うところがあるが、売り物としては悪くはなかった。
だが妹へのプレゼントなら平気で渡せるが、まだ塔子や滋には照れが邪魔して結局購入出来ず終いだった。


「そんなに可愛かったんだ」


兄の話しを聞き、小春は少し興味津々に聞き、小春の問いに夏目は『ああ』と笑みを浮かべた後小春がもらった絵を見つめる。


「この絵もあの髪留めのような花が咲いていたら良かったのに」


綺麗だと思っているが、やはり花がないのは寂しいと夏目は絵を見つめた。
あの髪留めのように愛らしい花が描かれていたらきっと綺麗だったんだろうな、と呟く兄に小春も『そうだね』と頷き微笑んだ。

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