(3 / 12) 14話 (3)

―――夜。

小春と夏目はそれぞれ布団を並べて眠っていた。
寝相が悪いが朝には元の位置に戻っている兄に対し、小春は普通に横を向いたりうつ伏せになったりをするも兄ほどの寝相の悪さは見せない。
だから小春が病院に入院している間夏目の布団にもぐりこんでいた斑は小春が回復し、小春が夏目ほど寝相が悪くない事に気づいてからは小春の布団に入る事にしているのだ。

そして散々動き元通りの位置に戻った夏目は朝になり自然に目を覚ます。


「な、なんだ…こりゃ…花?」


目を覚まし起き上がろうとした夏目だったが、頭からパラパラと何かが落ちたのに気付き目線を落とす。
そこには摘まれた花や花びらが散りばめられてた。
ふと隣でまだ眠っている妹の方を見れば仰向けで眠っており、やはり小春にも花びらが散りばめられていた。
シスコンよろしく『あ、天使がいる…』と思った事は嘘ではないが、昨日の夜は花びらなどなかったのにと首を傾げる反応しかできなかった。


「どこからか舞い込んできたのか…?でも舞い込んだとしても量がなぁ…」


首を傾げ夏目は散りばめられている花や花びらが窓から舞い込んできたのかと思ったが、まだ寒さが残る季節で窓など開けておらず、開けていても自分達の布団と窓は少し距離があり、量が風で飛んできたとは言えないほど多かった。
結局考えても分からず、夏目は目を覚ました小春の声に考えるのをとりあえず止めた。
身体を起こしても頭に落ち損ねた花びらが髪飾りのように散りばめられている小春を見て『俺の妹マジ天使』と柄にもなく思った。
もう嘘ではないけれど、と誤魔化すのをやめたらしい。
兄より目覚めが遅いのか目を擦りながらの『おはよう…おにいちゃん』という眠そうな妹の呟きに夏目とついでに斑はハートを奪われた。
2人は心の中で『絶対嫁にはやらん!』と同時に思い、固く誓ったという。


そんな小春の愛らしさに奇妙な現象の事は頭の端においていた夏目だったのだが…


「うわっ!また!?」


次の日の朝、また夏目と小春の上に花が散っていた。
しかもそれはその日だけではなく次の日もまた次の日も…小春と夏目は花びらだらけの目覚めが続く。


「酔ってどこからか毟ってきてるんじゃないだろうな、ニャンコ先生」

「失礼な!花なんぞに興味はない!」


これだけ続いていれば流石におかしいと思うしかなく、しかし花を散らして帰っていく人物も検討もつかない夏目はよく酔っぱらっては何か変なものをお土産に持って帰る斑をつい疑ってしまう。
夏目に疑われた斑はカチーンと来たらしく『ぷいだ!ぷい!ぷーい!』と機嫌を損ねた仰向けに眠っていた体を反転させ夏目に背を向ける。
そんな斑に小春は苦笑いを浮かべ、自分の頭から花びらと一緒に落ちてた花を摘まんで斑上から覆い被さる。


「そんなに怒らないで…ね?」

「……………」


ちょんちょんと鼻先を摘まんでいる花で触れながらムッとさせている斑の機嫌を取る。
自分の機嫌取りをする小春はとても愛らしく、それだけで斑の機嫌は直っていたのだが、なんとなく納得いかず夏目からの謝罪がない限りは機嫌も直らん!と決意しぷいっとそっぽを向く。
そっぽを向く斑に小春は花を斑の耳にかけ、斑の重い体を持ち上げて無理矢理腕の中に収めた。
それには流石に驚き目を見張って見上げる斑に小春は微笑みを浮かべ『可愛い』と小春に花でおめかしした斑に頬ずりをする。
なけなしの決意が粉々に砕け散った瞬間だった。


(これを飾った日からだな…もし妖怪か何かの仕業なら早めに手を打たなければ…この家に訪れる災いは…俺が退けるんだ…)


夏目は斑を抱きしめる妹を見ながら、そう決心した。
やっと守りたいと思った居場所が出来たのだから…
やっと、小春と暮らせて周りが好きでいられるようになったのだから…
その大事な場所を守りたいと思った。




――そして、その夜。
夕飯とお風呂を済ませ寝る時間となった2人は布団を敷いて原因を調べるため床に就いていた。
小春と夏目は二枚重ねた布団に頭まですっぽり入っていたが、もぞもぞと小春は足元から冷たい空気が入ってきたのに気づきそろりと足元を見る。


「うわっ!」

「ニャンコ先生?」


足元を見れば薄暗いためよく分からなかったが、小春の足元から入り小春の下を通る形で入ってきたのは斑だった。
入ってきたのが斑だと分かった小春は、覆うように斑を抱え、夏目から見たら突然にょきっと生えたように現れた斑に驚きの声を零す。
すぐに口を自分の手で塞いだお蔭か、下で眠っている滋や塔子達には気づかれずにすみホッと安堵の息をつく。


(勝手に入ってくるなよ!先生!)

(私も捕まえるのを手伝ってやろうではないか!)

(それはありがたいけど…なんで網なんか持ってるの?)

(妖精の仕業かもしれんだろう?捕まえるのだ〜!)

(……いないぞ、そんな非科学的なもん…)

(ふーん!言いきれるか!?ほれほれ!どの口が言い切れるか!?ほれ!どの口だ!)

(もう!しーっ!ニャンコ先生しーっ!大声出しちゃ駄目だよ!)

(むぅ…)


夜という事もあり、昼間よりは物音が少ない。
音があるのは風の音と風に揺られる木々の音のみ。
たまに人が通る音もあるだけだが、夜は太陽が昇っている時よりも静かな物だった。
口に小さな網を咥え現れた斑に小春が問えば、斑はフェアリーを捕るのだと言い切った。
妖は見えても妖精を信じていない夏目の突っ込みを食らった斑だったが、妖もどちらかと言えば非科学的であり、毎日妖である斑を見ているその口が言うのかと夏目は斑から珍しくも反撃を食らっていた。
夏目がぐうの音も出ないのを見て勝ち誇った顔を浮かべていた斑だったが、小春が注意すれば斑も夏目も大人しくなる。
小春に甘い2人が口を閉じれば、小声でも騒がしかった部屋が静まりかえる。
するとカタリと音が聞こえ、三人は思わずお互いを見合った。
夏目がそっと顔を少し覗かせ音を探っていけば音がしているのは天井からで、小春も斑も上を見上げる夏目に続く。


(天井裏に…誰かが…)


天井の一部が外された。
それは天井裏に誰かがいるとしか思えず、小春は泥棒かと思ったが、はらりと花びらが小春達の前に落ちてくる。
小春は落ちてくる花びらを目で追い布団の上に落ちたのを見た後また天井へと視線をやる。
小春が天井裏へと目をやった瞬間…白い手がゆっくりと現れ、そして―――仮面を被った女の妖が天井裏から覗いていた。


「うわ…っ!!」

「〜〜〜〜っっ!!」


妖関係に慣れているとはいえ、流石に真夜中の天井裏からの訪問には驚いた夏目は声を上げ、小春は驚き過ぎて声すらでなかった。


「とう!」

「ぎゃっ!」


驚く兄妹を余所に斑が小春の腕から飛び上がり妖の女の顔面に体当たりした。
石頭の斑の攻撃に妖も悲鳴を零しぼとりと天井裏から落ちてくる。
落ちてきた妖にも驚き、夏目は反射的に小春の手を掴み立ち上がって壁まで引き下がった。


「私の縄張りに入るとは…不愉快な奴め!」


妖に体当たりした斑は華麗に着地し、倒れている妖を睨む。
妖は痛みから暫く体を震わせていたがゆっくりと起き上がり、起き上がった妖に小春を庇いながら夏目は戸惑いながらも声をかける。


「…お前…この花は一体…」

「花はあの人へ捧げたのだ…お前達になど関係のないことだ…この盗人どもとめ!」

「盗人?俺達が何を盗んだって言うんだ?」

「それは――」

「生意気だな!食っちまうぞ!!」

「ぎゃっ!!」


起き上がった妖に声を駆ければ何故か盗人呼ばわりされ、夏目と小春は首を傾げた。
盗人と言っても小春も夏目も今まで盗んだ事などなく、妖の話しと食い違い疑問符ばかりが浮かぶ。
夏目の問いに答えようとした妖だったが、斑の噛みつきにあい痛みに悲鳴をあげた。


「やめろ!先生!!」

「はうっ!?」


がぶりと勢いよく噛みついた斑は珍しくも用心棒らしき働きをしたはずである。
侵入を許したのは確かに用心棒の失態だが、それを帳消しにする働きを斑はした。
しかし夏目からは鉄槌を貰い、斑は沈む。


「な、なぜだ…珍しく用心棒っぽいことやったのに…」

「――で?なんで俺達が盗人だって?」

「……………」


もやしパンチを貰った斑は倒れてしまった。
人間には全く聞かない夏目のパンチだが、妖力が強いため妖相手にはほぼ最強だった。
この拳でどれだけ危機を乗り越えたか数知ぬ…そんなパンチを斑は今まで何度も受けてきた。
今日もまた斑にとって理不尽なパンチを食らい沈む斑に小春は苦笑いを浮かべいつものように回収し、ついでに機嫌も取る。
頭を撫でられれば機嫌など数秒で治る現金な斑はもうすっかり痛みなど吹き飛んでいた。
小春に撫でられごろごろにゃん的になっている斑を無視し、夏目はドン引きしている妖に問う。


「そもそもここには俺と小春と先生しかいないぞ?『あの人』って?」

「…何を言う…ちゃんといるではないか――そこに…お前達の、後ろに。」

「「へ…」」


夏目の問いにドン引きしている妖は少し間をあけたが、喋らないと次は自分と思ったのか渋々だが口を開く。
小春は斑を腕に抱き妖に近づいていた兄の隣に座り、そんな小春と夏目の背後を妖は指す。
2人は妖が指差した後ろへ振り返る。
そこには小春が飾った絵があり、ジッと2人はその絵を見つめていると―――木々の間に小さな人影が突然浮かび上がった。


「「!!――うわぁ!!?」」

「でかい声を出すな!八坂様が驚くだろ!!」

「「あっ…ご、ごめん…」」


先ほどまでいなかった人影が浮かび上がるように現れ、小春も夏目も夜中だというのに驚きのあまり大声を上げてしまった。
大声で驚きの声を上げる小春と夏目に妖も声を上げて咎める。
妖の声は基本見えない人には聞こえないため藤原夫妻には聞こえないだろうが、人間である小春と夏目の声は誰でも聞こえる。
小春達は驚いたからと言って大声を出したことにハッとさせ2人は同時に口を手で塞ぐ。


「ヤサカさまって…この人影か?」

「そうだ…この絵に住んでいるのだ。返してもらうぞ…これは私の物だ。落としたところを人に拾われ売られこんなみすぼらしい家に……こんな、みすぼらしい…家、に……は、はずれんぞ!?」

「何!?」

「ええ!?」


大声を出した後しばらく2人は黙っていた。
もしかしたら静まり返っている夜だから一階で眠っている藤原夫妻に聞かれ起きたかもしれないと思ったのだ。
しばらく耳を立てていたが、誰の話し声も聞こえず階段を上がる音もないため聞こえていなかったのだとホッと胸を撫で下ろし、夏目は今度は気を使い小声で妖に聞いた。
その問いに妖は頷き小春の手に収まった経由を短く話した後返してもらおうと額縁に手を伸ばす。
しかし何故かその絵は壁から外れず、それどころかどんなに力を入れてもビクともしなかった。
外れないという妖の言葉に夏目も外そうとしたがやはり外れなかった。


「なんで外れないんだ!?」

「貴様!まさか釘を打ちつけたのか!?」

「お前こそ妙な事したんじゃないのか!?」

「何!?」

「ち、ちょっと2人とも…そんなに力入れたら絵も壁も傷ついちゃう…」

「放っておけ、小春。もはやあの2人には聞こえていないだろう。それに夏目のひょろひょろな腕で外れるわけがない」

「……ニャンコ先生…それ、絶対お兄ちゃんに言わない方がいいと思う…」


2人の力を合わせても絵は外れず、2人は外れない腹立たしさから口論をしていた。
口論しつつも外そうとしている兄と妖を見て小春は斑を抱きながら絵と壁が壊れないかハラハラと後ろで見守るしかない。
夏目に怒られ傍観側についたらしい斑は手を貸すこともなく小春の上の中でまた鉄拳が落ちそうな事をはっきりと告げ、反省の色どころか反省のは文字も見当たらない学習しない猫に小春は苦笑いを浮かべ柔らかく咎める。


「ちっ…仕方ない…外れるまで通うか…」

「「「え〜〜〜〜!!?」」」

「私は巳弥。明日また来る。」


どんなに力を入れても梃子でも動かない絵に今日は諦めたのか、妖は舌打ちを打ち手を話す。
妖が手を放したため夏目も放すと妖は夏目と小春と斑からしたら迷惑極まりない事を呟く。
案の定小春、夏目、斑から不満の声が上がったが、仮面の下で知らん顔を浮かべ己の名を告げた後姿を消していく。


「ま、待て!!不気味なもん置いていくなーーっ!!」


勝手に来て勝手に帰っていった妖に夏目が何度目かの声を張り上げた。
しかしその声は空しいことに本人に届かず暗闇へと消えていったという。

3 / 12
| back |

しおりを挟む