巳弥はあれからも毎日八坂の為に花を持って夏目や小春のもとに訪れていた。
斑は鬱陶しそうにしていたが、巳弥と八坂の出会いを聞いた夏目と小春は受け入れる。
夏目は花を散らす巳弥に片づけるのが大変だと言っているが持ってくるなとも来るなとも言わない。
小春は色々な色の花が散りばめられている部屋を女の子らしく嬉しそうに笑っていた。
****************
「あんた、変な匂いがする」
昼時、塔子お手製のお弁当を広げ奈々・リン・薫と一緒に中庭の植えられている木の下で食べていた。
すると前方からの言葉に小春は弾かれたように顔を上げる。
「お、小野寺さん!?」
顔を上げたその先には最近知り合った音羽がいた。
音羽は弁当を片手に相変わらず堂々たる態度で小春を見下ろしていた。
音羽の登場にこの間あまりいい噂を聞いていなかった奈々は若干眉間にしわをよせ、薫はキョトンとしており、リンは『げっ!小野寺音羽!!』とものすっごく嫌そうな顔を露わにさせる。
そんな三人の反応(特にリン)など無視し音羽は不機嫌そうに小春を見下ろしているだけだった。
そんな態度も含めて腹がたったらしいリンは立ち上がる。
「ちょっと!いきなり来て変な匂いとか失礼な事言わないでくれない?」
「あんたなんか飼ってるでしょ」
「無視かよ!」
普段から目の敵というかライバル視してるというか…とにかく、普段から音羽に対しあまりいい印象のないリンは友人を変な匂いとはっきりと言った音羽に対し怒り爆発に声を上げた。
小春と自分の間に入り睨むリンに音羽はしばらく睨み合いが続いたが、結局音羽に無視されてしまう。
それもまたリンを腹立たせていた。
小春は間に入っているリンから覗き込むように顔を出す音羽の問いに『何か飼う&何か匂う=動物』と結び付け頷いて見せた。
「猫、飼ってるけど…ニャンコ先生を一応…」
「あれを猫と言い張るあんたって何?――ってそうじゃなくて…他に飼ってない?」
「え?飼ってないよ…?」
音羽は小春が断言したあの用心棒の猫発言に呆れに近い表情で小春を見た。
しかし獣臭ではないと首を振るも『飼っている=動物』な小春は斑以外の動物は飼っておらず、飼っていたといえば的場に預けた(?)ままの管狐こと管太郎のみ。
首を振る小春を怪訝そうに見下ろしていたが、ふと何かを思い出したように『ああ、なるほど』と呟き、1人納得する。
「あんた、気を付けなよ」
「え?」
「そのまま行くと、あんた、死ぬから」
「え……」
1人納得していた音羽を小春は首を傾げて見つめ、奈々達は怪訝そうな目で見つめていたが、音羽の言葉に小春を除く全員が目を丸くさせる。
小春は自分に向けられた言葉をまだ理解していないようだった。
鈍い小春のキョトンとした表情を音羽は面白いと言わんばかりに目を細め笑った。
しかし…
「ちょっと…あんたいい加減にして!!」
音羽の言葉に何故か奈々が反応を見せた。
小春が慌てふためくか奈々のように怒鳴るのかと音羽は思った。
だが実際音羽の思う反応をしてくれたのは奈々で、音羽は自分にとって部外者当然の奈々の登場に眉間の皺を更に深める。
どうやら話しに入られるのは好きではないようである。
しかし不機嫌MAX的な表情を浮かべ殺人的な睨みを向けられても奈々は引かなかった。
奈々は大切な友人の1人に世間話をするかのように『死ぬ』と断言した音羽に頭に来ていたのだ。
「あんた一体何なわけ!?いきなり小春に変な匂いするって言ったり死ぬとか言ったり!!小春は変な匂いしないわよ!小春はいつも花のいい匂いよ!!それに死ぬって言葉軽々しく言わないでよ!!」
奈々は小春と音羽の間にいたリンを押しのけ音羽に迫る。
ずいずいと近づく奈々を音羽は嫌そうに顔をゆがませ一歩二歩と後ろへ下がっていった。
奈々は『死』という経験を小さい頃体験した。
母が病気で亡くなったのだ。
今の母は父の再婚相手である。
義母との仲はそれなりにいいと言えるほどで仲は悪くはないだろう。
しかし実の母の死に目にあっていたから人一倍『死』という言葉に敏感だった。
それに比べ、音羽は『死』という概念があまりない。
それは育った環境のせいでもあり、音羽の血筋のせいでもある。
死を軽く感じている音羽はたかが死ぬと言っただけで怒りを覚える奈々を馬鹿馬鹿しく見えた。
何を熱くなっているのだ、と。
「……何、こいつ」
「えっと…友達の井上奈々ちゃん、です…」
「そうじゃなくて…」
まだ自分を親の敵のように睨んでくる奈々を音羽はジト目で見る。
ジト目をそのまま小春に向ける音羽の問いに小春はおどおどとさせながら答えたが、音羽の求める答えではないようでジト目がキツくなっていく。
というよりは呆れていると言ってもいいだろう。
自分を通り越して小春に話しかける音羽に奈々はムッとさせ何か言おうと口を開くがタイミングを狙ったかのように音羽が奈々の言葉を遮った。
「まあ、いいわ…これ以上遅くなったら要といる時間少なくなるし……忠告はしといたから」
「あ、うん…ありがとう…」
「せいぜいあのもやし兄と足掻いて生き延びなさいよ?あんたら兄妹が死んでも私は別にどうでもいいけど要が悲しむから」
「が…がんばります…」
睨む奈々の目線など気にもせず音羽は溜息をついて自己完結した。
どうやらここを通ったのは田沼に行く途中だったらしく、今日は色々と用事が重なり田沼のクラスに行ったが田沼はすでに友人達に誘われどこかで食べているようだったらしい。
式を駆使して田沼の居場所を見つけ移動中だった、ということである。
昼休みの時間は限られているため小春にもその友人達にも構ってる時間が惜しいのだ。
ただ話しかけたのは小春から微かな匂いの変化があったからである。
音羽はもやし兄とその妹が死んでも特別悲しいとは思わない。
田沼一筋なため田沼以外の人間へ向けられる感情は薄かった。
だがもやし兄こと夏目は田沼の友人。
しかも秘密を知っているほどの親しさがある。
だからもやし兄妹が死んで悲しむ田沼を見たくないから音羽は柄にもなく忠告したのだ。
嫌味を込める音羽の忠告にも負けず、小春は上からの音羽にお礼を言う。
お礼を言われた音羽は鼻を鳴らした後田沼のところへと向かった。
「「なぁぁにぃぃあぁぁいぃぃつぅぅぅぅ!!!」」
高飛車な態度を保ったまま姿を消した音羽を小春は見送っていると低い声にビクリと肩を揺らす。
そろりとその声の方へ目をやれば、散々無視され続けた奈々とリンがいた。
「なによあいつー!!腹が立つーー!!」
「でしょ!?ムカツクでしょ!?私が嫌うのも分かるでしょ!?」
「人に向かって変な匂いするとか言うし!死ぬって言うし!!何なのあいつ!!どう育てられたらあんな性格になるわけ!?」
リンは元々音羽を嫌っており、奈々の言葉に共感する。
奈々もリンと一緒に苛立ちを爆発させ、そんな2人を小春と薫はただ見守るだけしかできなかった…というよりは下手に口を出したらとばっちりを受ける事間違いなしなので何も言えなかった。
「小春ちゃん、いつあの子と知り合ったの?」
ムキー!と腹立ちを抑えきれない2人を余所に薫は小春に小声で気になった事を問う。
小声なのはリンと奈々に聞かれたら火に油を注ぐだろうと判断したからだろう。
小春は薫の問いに2人を気にしながら答える。
「えっと…前に小野寺さんの事聞いたことあったでしょ?」
「うん」
「その帰りにちょっと…」
知り合った時を思い出し小春は引きつり笑いを浮かべた。
薫は小春の答えに『へえ』とどうでもよさそうに返した。
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