(6 / 12) 14話 (6)

ぐぬぬといつまでも怒り心頭している2人を小春と薫は何とか落ち着かせ、ほのぼの…とはいかないまでも平和にお昼休みを楽しんでいた。
それから音羽と同じクラスのリン以外の小春達は何事もなく残りの授業を受けていた。


「けほっ」


授業も終わり小春はカバンに教科書を入れていた。
その最中小春は咳き込み、その咳は小さなものだったが傍にいた奈々と薫に聞こえ奈々と薫は心配そうに小春を見つめる。


「小春、咳出てるけど…大丈夫?」

「うん…」

「風邪?」

「わかんない…」


奈々と薫の問いかけに小春は小さく笑って答える。


「小春」


するとタイミングよく兄のお迎えが現れた。
その瞬間残っていた女子たちから小さいながらも黄色い声が零れる。
ひょろいやらもやしやらと言われている夏目だが、小春同様顔は整っているため、その容姿はどうやら後輩達にも知れ渡っているようだった。
小春と一緒に帰るときはどちらかが先に終われば迎えに行くと言う暗黙の了解もあってか、小春のクラスの女子たちは日々夏目を見たさに教室に残っている人達も多い。
そしてそれは逆も然りである。
小春は兄の姿に傍にいた奈々と薫に一声かけた後手を振って三人は別れた。



****************



けほ、と小春はまた咳き込んだ。
学校を出た夏目と小春は迎えに来ていた斑と共に帰りながら他愛ない話しをしていた。
しかし小春の咳に夏目は妹の顔をのぞき込むように見つめ、先を歩いていた斑も小春の咳に立ち止まり振り返る。


「小春、風邪か?」

「多分…けほっ……なんか、授業終わってから、咳、止まらなくて…」

「妙な咳だな…」


けほけほ、と止まりそうで止まらない小春の咳に夏目は小春の額に己の手を当てた。
外に出していたから兄の手はとても冷たく、小春は思わずその冷たさから肩を縮ませる。


「あ、ごめん…冷たかったか?」

「ちょっと…でも平気」


肩を縮ませる小春に夏目は慌てて手を引っ込めた。
手を引っ込め謝る兄に小春は首を振って小さく笑う。
その笑みにホッと胸を撫で下ろした夏目は今度はそっと小春の額に手を当てた。


「熱は…ないな…でも一応帰ったら体温計で熱を測った方がいいかもな…」


手が冷たいのを除いても小春の体温はそんなに高くはなく感じる。
体温計の方が確実なため心配性な夏目はそう言って小春の手を取り家に帰ろうとした。
本当は走るか早歩きで家に帰って小春を安静にさせたいと思うが、もし本当に風邪なら無理をさせれずゆっくりと歩き出そうとした。
しかし…


― 拝見、拝見 ―


夏目が一歩足を踏み出そうとしたその時、背後から人では出せない低く腹に響く声がし夏目と小春は一瞬息が止まった。
恐る恐る振り返ればそこにはやはり人ではなく、とても大きな姿の妖だった。


「「うわあ!」」


夏目と小春はその大きさもだが突然背後に現れた妖に驚いた。
妖の姿に夏目と小春は数歩離れ、小春達の驚きの声で妖の姿に気づいた斑は『お?春地蔵ではないか』と小春達に歩み寄りながら呟く。


「春地蔵?」

「ああ…春先出回って修行の為に吉凶を占って回る妖だ」


人を襲う妖ばかり相手にしてたからか、人を襲う事のない妖だと知り夏目も小春も安堵する。
胸を撫で下ろしていると春地蔵が持つ錫杖がシャンと鳴り、小春と夏目はハッと我に返り春地蔵を見上げた。
春地蔵はもう一度錫杖を鳴らし、その錫杖を何故か小春へと向けた。
小春は錫杖で指名されビクリと肩を揺らし、夏目は小春を後ろへ隠す。


― お前様に不吉な影が絡みついておりまする ―

「え…」


小春は夏目に庇われながらも春地蔵の言葉に目を丸くした。
それは小春だけではなく、小春を庇っている夏目や斑も春地蔵の占いに驚いていた。
静まり返るその中で春地蔵は驚く三人を気にもせず続けた。


― お前様の屍から木が生えているのが見えまする ―


『不吉』、という言葉だけでも十分嫌な気分になるというのに…春地蔵が続けた言葉に夏目は更に目を見張った。
しかし春地蔵はそれだけを言うや否や小春達に背を向け去っていこうとする。


「待て!!どういう意味だ!?屍って…」

「貴志くん?」

「―――!!」


妹に向かって『不吉』やら『屍』やら縁起でもない言葉を掛けられ夏目は去っていこうとする春地蔵に声を上げた。
しかし春地蔵はシャンシャンと錫杖を鳴らしながら姿を完全に消えてしまい、更には背後から聞き慣れた声に夏目は息を呑む。


「どうしたの?一人で大声出してた気がするけど…」

「と、塔子さん!!?」


振り返ればそこには自分達を拾ってくれた1人である塔子だった。
小春と夏目と斑の姿に声を掛けようとしたが、夏目が大声を出し驚いたようで首を傾げて夏目を見ていた。


(い、今の…見られた…!?妖と喋ってたのを…っ)


夏目は小首を傾げ不思議そうに見つめる塔子の問いに答えない。
否、答えられなかった。
夏目の頭の中はどう言い訳をするかではなく、塔子に妖と話しているのを見られた事への混乱だった。
もしも夏目の友人達であれば笑って誤魔化していただろうが、塔子や滋の2人には言い訳ができずにいた。
それは2人が居場所をくれた人たちだからであり、2人だけには妖が見える事を知られたくなかったからである。


「あっ…えっと…その、ちょっと、お兄ちゃんと喧嘩してて」


2人には普通の人と見てほしかった。
妖に襲われてボロボロになって帰ってきても『やんちゃね』と笑ってほしかった。
それがもしかしたら今バレるかもしれないと思うと何も考えられない。
言い訳しようにも頭が上手く働かない夏目の耳に小春の声が届く。


「え?喧嘩?貴志くんと小春ちゃんが?」

「は、はい…あっ!でも、もう仲直りしたんです!なので大丈夫ですっ!!」

「そ、そう…ならよかった」


小春の言葉に夏目は目を見張り小春を見る。
小春も夏目同様テンパってるのかあわあわとさせながら塔子にニッコリと笑って見せ、笑顔で切り抜こうとした。
小春の笑顔の効果かはたまた違うのか…不明だが塔子は納得し、仲直りしたという小春の言葉にホッと安堵し、小春の笑みに釣られるかのようにニコリと微笑んだ。
小春は誤魔化せたことにホッとし、ようやく心から笑みを浮かべることができ、夏目を見上げる。
夏目も小春の笑みに微笑みを返し、笑い合う兄妹2人に塔子は笑みを深める。


「でも小春ちゃんと貴志くんのように仲のいい兄妹でもやっぱり喧嘩するのね…驚いちゃったわ」

「あ、あはは…そうですね…あ、荷物持ちますよ」

「あらありがとう」


塔子から見ても、そして周りから見ても小春と夏目はとても仲のいい兄妹である。
それは小春が入院していた事を知らない人にとって仲良すぎではないかと思うほどで、2人とも喧嘩など一度もしていないのではないかとも思うほどだった。
だから斑と夏目が喧嘩していた時に会った井上にも同じことを言われた。
夏目は小春のお蔭で我に返り目で妹にお礼を伝えた後にこりと微笑んで買い物帰りらしい塔子の手にある荷物を持つ。

2人は喧嘩していたとは思えない仲良さげに歩き、その姿をチラリと見た塔子は嬉しそうに微笑んだ。

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