(8 / 12) 14話 (8)

―――桜が舞っている。

ひらひらと花びらが散って地面へ落ちていくのが見えた。


― 巳弥 ―


聞き慣れない声が響いて聞こえる。

男の人の声。

男の人は光を背にしているせいで人影しか分からなかった。


― 巳弥…私はいつか自由になれたら気ままに旅をしてみたいんです…でも、一人ではきっと味気ない…その時は一緒に行きませんか? ―


ふと、周りの光がゆっくりと暗くなり暗転し周りは光こぼれる風景から満開の桜の木の風景へと変わっていった。


― やあ巳弥 ―


暗転し、一面桜並木になった一本の木の下で、男の人が本を読んでいた。

その声は暗転する前の響いていた声そっくりで、あの影はこの男の人だと分かった。

男の人は本から顔を上げ、下へ伸ばされている白く細い腕を見て嬉しそうに笑う。


― 今年も会いに来てくれたんですね…今日は何の話をしましょうか? ―


桜の枝で巳弥の姿は男の人には見えない。

でも男の人は巳弥との会話を楽しみしていた。

だから毎年毎年、春が待ち遠しかった。

彼女と話していると家の事も病気の事も忘れることができるのだから―――…


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