(2 / 10) 3話 (2)

その夜、夏目は昔の夢を見た。
小さい頃は理解者もおらずずっと嘘つき、嘘つき、と言われ、大人たちでさえ夏目を好意的に思ってはいなかった。


なにも知らないくせに。


夏目はそんな大人と周りの人間達にそう心の中で呟いた。





「………、…」


昔の夢を見ていた夏目はふと目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。
昔の夢を見るたびに嫌な思いしか残らず夏目は脂汗を手で拭う。
耳を澄ませば隣の部屋から微かに小春の寝息が聞こえ、その寝息に夏目は1人ではないことに安堵させられる。


「あれ?先生?どこだ…?」


ふと周りを見渡しても斑の姿が無いのに気付き、小春の部屋か?と祖父である友樹似の小春に懐いている斑だからありえない話ではないと、夏目はまだこの事に関しては信用していないため慌てて立ち上がろうとしたが、布団の傍に一枚の紙が置いてあるのに気付き、それを手に取るとただ一言…『飲みに行ってくる』と書いてあっただけだった。


「…………」


またか…と少々呆れていた夏目だったが自分のお金で飲みに行っている訳もなく、お酒臭いのを除けば迷惑をかけていないのでまあいいか、とまた布団に潜ろうと思ったその時。

―――カサ…カサ…


それは紙の音に似ていた。


「…?」

気のせいかと思った夏目だが、その音は何度も夏目の耳に届く。
紙の音に夏目は斑が帰ってきたのかとそっと障子を開ける。
しかしそこにいたのは―――…


「―――ッ!!?」


障子を開けるとそこには天井に着くか着かないかくらい大きな人型の紙が廊下を歩いており、それを見た夏目は目を丸くさせた。
夏目がこちらを見たと気付いた紙は夏目に襲い掛かろうと腕を上げてひらりと夏目に向かってきたが、夏目は咄嗟に障子を閉める。
しかし紙はその微かな隙間から夏目の部屋に入ってきてしまい、夏目は窓から外へと逃げ出した。
もう得体の知れない紙から逃げ出すことで精一杯なせいで自分の部屋が2階だと言うことは頭から消えていた。
しかし、夏目は気づかなかった。


―――カサ…カサ…


もう一枚、紙が居たことに。





夏目を追った紙ではない紙がゆっくりと小春の部屋の前に立ち、静かに障子の隙間から器用に小春の部屋へと入っていく。
夏目と斑が居ないため、侵入に気付く者はおらず紙は暗闇に包まれている小春の部屋にぽつんと立っていた。
そしてゆっくりと小春へ手を伸ばしたその時。


――ダレダオマエ


小春に触れるか触れないかくらいの距離で紙の手はピタリと止まった。
引いても押しても動かない状態に紙はカサカサと音を立てながら動かそうと体を震わせるが、全く動く気配は無い。
暗闇の中から低い人間ではない不気味な声が響き月の光りで出来た影にうっすらと丸々とした目と裂けている口が現れる。


――ソノコニハテヲダスナ

-カサカカ…-

――チレ!


不気味なモノが声を上げた瞬間紙は燃え上がり一瞬にして灰となる。
灰はサラサラと畳みの上に落ちていったが、影がズルリと動き灰へと届いた。
すると影に入った灰は影に吸い込まれるように消え、跡形もなくなってしまった。


――ハイガノコッテシマッタカ……イソガネバ…イソガネバナラヌ……


灰を全て吸い込んだ不気味なモノはゆっくりと消えていき、気配も何もかも消えうせていく。


――イソガネバ…イソガネバ…


ただ、残響のように不気味なモノの声がいつまでも小春の部屋に響いていた。

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