(3 / 26) 15話 (3)

今日は西村達と帰るため、小春とは別々の帰宅をした夏目は、玄関の扉を開ける。
玄関の扉を開ければ目の前には朝以来会っていなかった妹の小春が靴を履いているのが見えた。


「あ、お兄ちゃん…お帰りなさい」

「ああ、ただいま……小春、どこかに出かけるのか?」

「うん、ニャンコ先生を迎えに」


先に帰りすでに私服に着替えていた小春は玄関に座って靴を履いていた。
そんな小春に夏目は首を傾げ声をかけると、どうやら小春は散歩に出かけたままの斑を迎えに行くよう塔子に言われたようである。
それを靴を履き終えた小春は上着を手に立ち上がり兄に伝える。


「じゃあ俺もいくから、ちょっと待ってろ」

「うん、分かった」


1人で行かせるのは心配だと、シスコンの血が騒いだのか夏目は慌てて出て行こうとする小春を引き止める。
待つように言われた小春は素直に頷き板の間に座り直し、座り直した妹を見て夏目は慌てて二階へと向かい服を着替え、塔子に一言声を掛けた後妹の元へと戻る。
その間、3分もかからなかったという。
夏目の慌てぶりに声を掛けられた塔子からは『ひゃあ!』を頂き、小春は思わず吹き出してしまった。
でも兄と一緒にいられるのは小春も嬉しいし、少し一人で行くのは寂しくもあったためか小春の顔は少し緩んでいた。


「お、お待たせ…じゃあ行くか…」

「ふふ、うん」


塔子を驚かせてしまった夏目は謝ったが、その2人の会話も玄関にいる小春にも聞こえそれを思い出し小春はまた笑ってしまう。
くすくすと笑っている小春に首を傾げていたが、靴を履き終えたらしい兄の腕を引き小春が『早くニャンコ先生のところいこ?』と小首を傾げ催促すれば夏目の疑問は吹き飛んでしまう。
手を握り2人は家を出た後、斑がいるであろう場所へと向かう。


「せんせー!ニャンコせんせー!」

「ニャンコ先生ー!どこー!」


家を出れば空は真っ赤に染まっていた。
もうすぐ夕飯だからと迎えに行ったものの、まるで子供のように夕方になっても帰ってこない斑に夏目は溜息をつく。


「まったく…いつまで散歩してる気だ?」

「ニャンコせんせー!もうすぐごはんだよー!」


斑はいつも一緒という訳ではなく、こうしてたまに自分勝手に散歩に出かけて呼びに来るまで帰ってこない事も多い。
だからたまにこうして2人が迎えに来ることも多かった。
大半は場所が決まっているが、ああ見えて行動範囲が意外に広いため探すのに結構労力がいるのだ。
2人が斑を呼んでいると、斑の声が2人の耳に届き夏目も小春も辺りを見渡す。
しかし草以外全く見えず、斑の姿はなく2人は首を傾げる。


「先生?」

「ニャンコせんせー?どこー?」

「ここだ!夏目!小春!」


首を傾げている間も斑の声が聞こえ、2人は何度も斑を呼ぶ。
すると草むらから斑が現れる。
どうやら覆い茂っているため猫の姿の斑が見えなかった。


「帰るぞ先生!晩御飯の時間だ!」

「そこで待ってろ!なあにそう時間はかからん!」

「はあ?ったく…」


斑は何かをしているのか中々草から顔を出すことはなかった。
カサカサと斑がいる所は動いており位置は把握できたが、まだ帰らないでいるつもりの斑に夏目は溜息をつき、溜息をつく兄に小春は苦笑いを浮かべる。
苦笑いを浮かべる小春に『仕方ない、待とうか』と呟き、小春が頷いたのを見れば夏目は草むらに横たわり目を瞑って斑を待つことにした。
仰向けで横になる兄の隣で座り平凡な風景を愛でながら小春は斑を待つ。


― 昨日の雨に流されたようだなぁ ―

― ああ、まったくだ ―

― おい、これはなんだ?変な物がある!何かの文字か? ―


斑を待っていると夏目と小春の耳に誰かの声が聞こえた。
座っていた小春は辺りを見渡し、横になっていた夏目は目を瞑ったままその声に耳を傾ける。


(この声…妖怪か?)


夏目は目を瞑りながらも話し方から妖だと気づき、小春は周りに人がいない事から妖だと気づく。
妖は小春と夏目の存在に気づかないまま会話を続けた。


「これに似たものを河原でも見たぞ!」

「何かの呪いか!?早くここから離れた方がいかもしれん!」

「そうだな!」


どうやら何かを見つけたようで、その何かに怯えている様子だった。
呪いという穏やかではない言葉を口にしながらその場を立ち去ろうとする妖達はふと前方に何かがあるのに気付いた。
その何かとは――横たわる夏目だった。


「変なものって…」

「「ぎゃーーっ!!人の子〜〜!!」」

「うわっ!ちっさ!」


妖は夏目を見て驚き、そして更には夏目の隣で座っていた小春にも驚きの声を上げる。
目を瞑っていた夏目は妖の意味ありげな声に瞑っていた目を開き何気なく妖の方を見る。
その妖は普通のサイズではなく、小動物とほぼ同じ大きさだった。


「ここを離れた方がいいって…何かあるのか?」


上半身を起こし見下ろせば更に小さいのが目立つ。
夏目は大きさから危害を加えないと思ったのか小春を庇わずただ気になった言葉を聞き出そうとした。
しかし妖は人間を怖がっているためか夏目に声を掛けられ震えていた身体を更にビクリとさせそそくさと逃げ出してしまう。


「お助け、だって」

「何も取って食うわけじゃないのにな?」

「ねぇ?」


お助け〜!、と叫びながら逃げていく小さな妖達に今まで黙っていた小春は逃げられ呆気に取られている兄にそう声を零す。
小春の言葉に夏目はバツが悪そうに頭を掻きながら小春へと振り返り、小春も同じことを思っていたのか小首を傾げながら賛同する。
そんな妹を可愛いと思いながらも『ここから離れた方がいい』という言葉がどうしても引っ掛かり、夏目はそのまま妖達が来た道をたどる。


「何だ、これ…」

「落書きかな?」

「ああ、でも…何かの陣のようだな…」


道を進んでいくと草むらから開けた場所へと移り、そこには何かが描かれていた。
それは陣のようなモノで、落書きとも見えるが落書きにしてはきちんと書かれていた。


「どうした?夏目、小春」


その陣は落書きにしては理解不能だが意味がありげの模様が描かれており、影鬼や三篠を陣で呼び出したのと少し似ていた。
だから落書きだと捨て置かず、気になったのかもしれない。
うんうんと悩む夏目とジッと陣を見つめる小春のもとに、斑が草むらから顔を出し、突然のブサネコ斑に夏目は驚いた声を上げた。


「うわっ!――ってニャンコ先生か!脅かすなよ…」

「そんな事より見ろ!夏目!小春!!雀を捕まえたぞー!」

「それ、どうするの?」

「あと二羽ほど捕まえて空中散歩するのだー!」


驚く夏目を余所に斑は小春と夏目に足に紐を付けて捕まえた雀を見せびらかす。
自慢げに見せびらかす斑に小春は首を傾げ斑に問うと、斑は雀で空中散歩を企てているようだった。
そんな斑に夏目が『…ダイエットが先だろ』とポツリと突っ込むが、幸い声が小さかったのと斑が別のモノに気を取られたため聞こえていなかった。
しかし隣にいた小春には聞こえていたようで、ポツリと呟かれた兄の斑への突っ込みに小春は苦笑いを浮かべる。


「何だこれは?見たことのない陣だなぁ」

「へえ…先生にも分からないのか?」

「!――まさか…!宇宙人と交信する系のサークルか!?」

「うわっ…専門外だな、それ…」

「…あはは」


斑にも分からない陣だったらしく、夏目の疑問は更に深まるばかりだった。
しかも斑からは『宇宙人と交信するためのサークル』とまで飛び交い、それに本気か冗談か分からない兄の呟きに小春は乾いた笑いしか出てこない。
こういう時の女性とは何とも冷たいモノである。
どういう意味で作られたか分からない陣を見ながら1人と1匹は本気で頭を悩ませる。
小春も2人の口論に参加していないものの、やはり妖とも関わりがあるからか気になっているようでジッと陣を見ろしていた。


「ん?」


『しかし宇宙人がいるかどうか』『いやいやお前あの時(巳弥)も言ったが、どの口が言い切れるんだ?』と斑と言いあっていた夏目だったが、不意に物音に気付く。
その音は地面に何か書いているような音で、顔を上げ振り返ればそこには一人の少女がいた。


「おい、何してるんだ?」

「…!」


立ち上がってその少女を見る。
少女は深く帽子を被り横顔は見えず、コートを羽織っているが、下に着ているのは学校の制服らしかった。
幸い制服だったため、スカートをはいて女性だと分かったが、もしズボンでも穿いていたら男と見えても分からないほどの恰好を少女はしていた。
夏目がその少女を見ていたためか、陣を見ていた小春と未だ宇宙人説を信じドキドキワクワクしている斑も少女に気づく。
夏目が少女に声を掛けると、少女は声を掛けられ初めて夏目達に気づいたように顔を上げた。


「夏目くん…」

「あ、君は…」

「!、しまった…私っ…今…あなたの名前を呼んだ!?」

「え?」


少女がこちらに振り向けば、横顔だけでは分からなかった少女の顔がはっきりと夏目の視界に映る。
その少女は今日、西村が片想いしていると教えてくれた…あの女子生徒だった。
夏目は女子生徒の名前を知らないが、女子生徒は夏目の名前を知っているようで女子生徒は夏目の名前をポツリと呟く。
それは思わず呟いたようだが、女子生徒は無意識に名を口にしたことに気づく慌てて口を手で押え慌てた様子を見せる。
夏目は名を読んだかと問われたため慌てた様子の女子生徒に首を傾げながらも頷くと、女子生徒は『そう…』と零す。


「どうしよう…困ったわ…」

「大丈夫か?」

「あっ…ご、ごめん!ごめんね!!」


女子生徒はぶつぶつと何かを呟いており、夏目は怪訝とさせながらも心配になり声をかけた。
しかし何故か女子生徒は夏目に謝りだし、夏目と小春は困惑を見せる。
夏目が小春とお互い顔を見合い首を傾げていると、女子生徒は夏目へ顔を上げた。
その表情は決意を固めたように真剣そのものだった。


「私必ず勝つわ…必ず勝たなくちゃ!」


帽子を取った女子生徒の真剣な眼差し、真剣な表情に夏目の反応は少し遅れた。
女子生徒は夏目の返答も聞かずすぐにその場から立ち去ってしまい、夏目は引き止めようとしても女子生徒の姿はあっという間に消えてしまった。


「何だったんだろう、あの人…」

「さあ…」


女子生徒が小春と斑に気づいていたかは分からないが、小春は女子生徒の後姿を見送りながら首を傾げ、小春の問いに夏目も当然首を傾げた。


(勝つって…一体何にだろう…)


夏目は曖昧にしか返事が返せないが、小春は気にしていないのか書き途中の陣を見ていた。
どうやらあの陣は宇宙人を呼び出すためのサークルではなく、あの女子生徒が描いた物だったらしい。
なんの目的かは分からないが、小春はどうしても落書きして楽しむ人には見えないとやはり考えても首を傾げるしかなかった。
ぼうっとしてても解決しないと夏目は小春の手を取り斑の回収も済んだからと家へと帰ろうと陣から背を向ける。


そんな2人の背を一人の少女が見つめていた。

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