その日、夏目と小春は女子生徒の事は頭の片隅に置きながら夕飯を食べ、お風呂に入り、2人と一匹でまったりとしてから布団に入った。
(すごい風だ…)
電気を消せば自然と辺りは静まり返り、次第に小春の寝息も聞こえてきた。
しかし目を瞑っていた夏目だったが風が強いのか窓の音が気になって中々な寝付けずにいた。
布団から起き上がりふと横を見ればこちらに背を向けて眠る小春が見え、夏目は深い眠りの中にいる小春を優しげな眼で見つめていた。
小春の布団の中には斑もおり、当初はそれすら腹立たしいものだったが慣れとは恐ろしいもので今では微笑ましい光景の一部にもなっている。
夏目は布団から出て窓へと向かい、カーテンを開けた。
カーテンを開ければ真っ暗な世界が広がっているはずなのだが――…
「―――っ!!」
目の前の真っ暗な窓に何かが浮かび上がった。
突然浮かびあがったそれに夏目は驚きのあまり声すら出ない。
それは大きな顔であり、口でもあった。
― 人間の癖に…私を見たな? ―
窓に映っているその口は人など簡単に呑み込めるほど大きく、夏目に話しかける。
夏目は息を呑み何も答えられなかった。
それでも大きな口の主は続ける。
― 生意気な。お前を食ってやる! ―
「…ッ」
― あと300と60日…それまで....................しかし、出来なければお前の負けだ ―
大きな口の主は夏目に向かって何かを言っていた。
自分を見たから食ってやると。
しかし風の音で一部聞き取れなかったところもあった。
ニタリと笑う大きな口の主が次第にぼやけはじめ―――…
「――――っ!!」
夏目は飛び上がるように目を覚ました。
どうやら夢だったようで、夏目は暫く呆然とする。
窓を見てもカーテンは閉まっておりその隙間からは朝日が零れていた。
窓を見た後隣の小春を見ても小春はまだ夢の中で、夢の中では背を向けていたが今はうつ伏せだがこちらに顔を向けて眠っていた。
妹の安らかな寝顔に夏目はつい緊張していた体を解しホッと安堵する。
「……とりあえず…顔を洗うか…」
今日は休日なためまだ眠っている小春と何故か小春と寝ていたのに布団の外に出ているうえに小春の布団の端っこで丸まっている斑を起こさないように部屋から出て階段をゆっくりと降りる。
「あら貴志君、おはよう」
「おはようございます、塔子さん」
下に降りれば丁度塔子がおり、塔子は夏目の姿ににっこりと笑った。
その笑みに釣られるかように夏目も笑みを浮かべ洗面台へと向かう。
洗面台に向かい電気をつけまずしたのが顔を洗う事だった。
その際少し髪まで濡れてしまったが、そこは男の子なのか気にもせずタオルで顔を拭う。
その後歯ブラシに手を伸ばし歯磨き粉を付けた後少し水に濡らし口に含んで歯を磨く。
(なんだろう…変な夢だった……ひょっとして、昨日の事と関係があるのか?―――ん?)
歯を磨きながらふと夏目は鏡を見た。
鏡に映っているのは自分。
そう、確かに夏目貴志である。
しかし肌蹴ている胸元を見ると何か黒い物が映る。
「あれ…何もない…」
鏡越しでチラリと見える黒いそれを夏目は確認しようと服を少しだけ捲り鏡ではなく直で胸元を視線を落とす。
だがそこには相変わらずの白い肌とひょろっとした胸板だけで、黒いものは全く見当たらなかった。
一瞬だが鏡で見たときは黒い文字のようなものが見えた気もしたのだ。
それが目を離した隙に消えた。
「あら〜貴志君、どうしたの?自分に見惚れちゃって!」
「!、と、塔子さん!違います…っ!!」
「いいのいいの、お年頃ねぇ〜」
「だから違うって言ってるんですけど…っ」
確かに胸元に黒い文字が浮かんでいたのが見えた。
だから見間違いという訳ではないような気もする。
段々と自信がなくなっていく夏目はジッと鏡を見ていたが、その姿を塔子に見られてしまう。
洗面台を通り過ぎようとした塔子は鏡をジッと見つめる夏目を発見し、思わず笑ってしまった。
笑いをこらえながらの塔子の言葉に夏目は必死に否定するも塔子は『大丈夫、分かっているわ』と相変わらずな聖母の微笑み(夏目視点)を零して誤解したまま去っていってしまう。
鏡に映った自分に見惚れたように見えるのは仕方ないとはいえ勘違いされた内容が内容なため恥ずかしいのか夏目は顔を真っ赤にする。
すると塔子とすれ違いに目を覚ました小春が斑を抱きながら現れた。
「どうしたの?塔子さん。」
「あー……まあ、ちょっとな…」
「?」
すれ違いだったためどうして塔子が笑いを抑えているのか分からず、小春は首を傾げて兄に問う。
小春の問いに夏目は目を逸らし誤魔化す方を選んだ。
可愛い妹に間抜けなところを見てほしくなかったからである。
しかし夏目は知らない…塔子の勘違いを知っても小春は言うだろう……『え?お兄ちゃん、鏡で見惚れるほどカッコいいよ?』と。
それも真顔で断言するのだからこの兄弟はどっこいどっこいである。
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