小春に乾かしてもらいブラッシングしてもらった斑は大きな欠伸をする。
その大きな欠伸に釣られて小春も欠伸を1つ零した。
そんな妹に夏目は微笑ましい笑みを浮かべ『もう寝るか』と言って布団を敷く。
2人で布団を並べ、小春と斑が布団に入ったのを見て最後に夏目が電気を消して布団に入る。
「ねえお兄ちゃん」
「ん?」
目を瞑り深い眠りに落ちるのを待っている夏目に、小春は声を掛ける。
小春の声掛けにうっすらと目を開けて隣へ顔をずらせば、小春は天井をジッと見つめていた。
「あの多軌さんっていう人って…1年くらい人と喋るのを我慢してきたのかな…誰かの名前を呼ばないように…」
「小春…?」
「あの人、おしゃべりが好きそうな人だったね…普通の女の人だったね…」
「そう、だな…」
小春はご機嫌ナナメだった時も、機嫌がなおった後からもずっと多軌の事を考えていた。
主に話していたのは兄の夏目だったが、小春から見た多軌は普通の女の人だった。
普通に可愛い物が好きで、普通に表情がコロコロ変わって、普通におしゃべりが好きそうな人。
本当なら今頃友達と色々な話をしたり、部活だってしてたかもしれない。
そう思うと小春はチクリと心が痛んだ。
夏目は小春の独り言のような言葉にすぐには返せなかったが頷く。
「勝たなきゃな、小春…」
「うん」
「もう、俺達の命は投げ出していい命じゃなくなったんだ…滋さんや塔子さんのためにも…絶対勝たなきゃな…」
夏目は心からそう思った。
生きるためには勝たなくてはならない。
以前の夏目ならなんの手立てもなく諦めたのかもしれない。
昔は自分達を受け入れてくれる人たちがいなかったから。
一人ぼっちだったから。
でも今は違う。
今は身寄りのない自分達を受け入れて変な行動を起こしても不思議には思っても他の人達のように冷たい目で見ない藤原夫妻がいる。
滋と塔子のために、夏目はきっと最後まで足掻くだろう。
それに今では小春もいるのだ。
死ぬつもりは毛頭なかった。
小春もそれには頷き、兄の手へと手を伸ばす。
「……うん…うん、そうだよね…絶対、勝たなきゃね」
そう頷く小春の手は冷たく震えていた。
やはりいくら妖と関わってきたとしても大切な兄を失うと言う恐怖はあるのだろう。
夏目は震える小春の手をギュッと少し強く握ってやり、小春は強まった兄の手に天井から夏目へと振り返る。
「大丈夫だよ、小春…大丈夫」
夏目はそう言って微笑んだ。
それは何の証拠も保証もないただの上辺だけの言葉。
だけど、小春にとっては一番安心できる言葉だった。
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