次の日、小春は兄と共に多軌と作戦会議をするため集まっていた。
結局あれこれ模索するも手分けして探すという結論に収まり、三人は休み時間の間話していたこともあり廊下を歩いていた。
「あ」
「あ」
「え?」
「…………」
「ん?」
小春は一年のため夏目と多軌とは廊下で別れる。
『じゃあ放課後!』と別れようとした小春達だったが、階段の前で見覚えのある人物を夏目は目撃し、思わず声を零してしまった。
夏目声を零したのを見て、小春も釣られて夏目が見ている方を見た。
すると小春も夏目と同じく声を零す。
そんな2人についには多軌までも釣られて同じ方向を見た。
2人の見る方向を見れば、身長の高い男子生徒と話す絶世とも付け足しても可笑しくないほどの美少女がいた。
その美少女はとても美しく、知り合ったばかりで夏目の妹である小春も美少女だが、小春とはタイプの違う美しさを持っており、同性の多軌も見惚れるほどだった。
そんな美少女は男子生徒と頬を染め誰もが見惚れるほどの愛らしい笑みを浮かべながら談話していたのだが、2人に気づいた途端に表情を失くした。
しかしそれは一瞬の事で美少女はすぐにキョトンとした表情を浮かべる。
それは一瞬だが見てしまった多軌が気のせいかと思うほどの速さである。
少女がこちらを見たため、男子生徒もそれに気づき振り返る。
すると男子生徒は夏目兄妹を見て目を丸くした。
「あれ、夏目に小春ちゃん?」
「た、田沼………に、お、お…小野寺…、さん。」
「やだぁ!夏目先輩ったら小野寺さんなんて呼ばないでくださいよー!音羽でいいですよ!」
「お、お、おおお音羽、さん…ぐ、偶然、だな…こんなところで会うの…」
「え、そうか?ここ一年の階のすぐそばの階段だし…たまに会うだろ?」
「そ、そうだったな!そう!そうなんだよ!田沼!」
「で、でも最近そんなに会ってないよね!ね!お兄ちゃん!」
「あ、ああ!そうだな!!うん、そうなんだよ!田沼!」
「お、おう…そうだった…か?」
男子生徒…夏目の秘密を知るもう一人の友人である田沼は振り返り小春と夏目の姿に気づく。
夏目は田沼の出会いに挨拶をするも、ものすごく噛みまくりだった。
それはそのはずである。
夏目達に気づいた田沼の後ろで魔王こと音羽がこれでもかと睨んできているからである。
ゴゴゴゴ、と漫画のような効果音、そして漫画のように黒い空気を身にまとい背景には『おいてめえら何要とのラブラブな時間を邪魔してくれやがんだ挨拶はどうでもいいからさっさと消え失せろやもやし兄妹!』と書かれている文字を背負うその姿はまさに魔王。
というかもう魔王の前に『大』と付けても過言ではない。
というかもう呼びたいくらいである。
しかも音羽をどう呼んでいいのか全くもって浮かばない夏目は無難に名字プラスさん付けだったが、(社交辞令で)音羽から名前呼びを許可されてしまう。
正直名前呼びなどおこがましいんじゃもやし!という心の声が聞こえ遠慮願いたい。
だが丁度田沼が音羽に振り向いていたため田沼専用の満面の笑みを浮かべているし、魔王の本性を知らない田沼もいるしでお断りが出来なかった。
仕方なく夏目は噛みながらも頑張って名前を言った。
その時の夏目はとてつもなく体を恐怖に震わせており、怖がりながらもちゃんと会話をしようとする兄に小春は尊敬の視線を送る。
本来なら小春の尊敬の視線に夏目は復活するはずである。
しかしそれ以上に音羽の恐怖が上回っているのだ。
固すぎる夏目など天然(と片づけていいのか分からない鈍さである)のため気づかない田沼はそのまま話しを進める。
しかし最後には流石に首をひねった。
…が、まあいいかと思ったらしく軽く流してしまう。
正直もう気づけよ田沼!と夏目は叫びたい気持ちで一杯だった。
「えっと…夏目くん?」
「あ!ごめん、多軌……えっと、田沼におの……音羽だ。」
「あ…初めまして、多軌透です」
「ああ、初めまして、田沼要です」
「私は小野寺音羽っていいます!音羽って呼んでくださいね!」
「は、はいっ!」
多軌が名前を呼べば妖に狙われることになると知っていた。
でもだからと言って無視はできないし、してはいけないと夏目は思った。
事情はまだ田沼には説明できないが夏目は何故か自分達は同じような境遇なのだから仲良くなれる気がしたのだ。
田沼は多軌の自己紹介に続き、そのあとに音羽が続いた。
田沼の後ろにいたときのまお…いや、大魔王様を見ていたからか多軌は少しかしこまった返事をする。
しかしそれ以上の会話もなく、音羽以外の全員が気まずげにそれぞれ目を逸らす。
「えっと…じゃあ……もう授業もまるし…」
「あ、うん…そうだな…うん…じゃあ…」
「ま、また」
「あ、ああ…またな、多軌」
気まずいまま時間が過ぎ、最初に言葉を発したのは夏目だった。
夏目の言葉に田沼が続き、一年以外の三人だけが気まずいまま夏目と多軌、田沼と二手に別れた。
小春は夏目の『じゃあ、小春、帰りは迎えに行くから』という言葉に引きつりそうな顔を何とか笑顔にし手を振って兄と別れ、音羽は田沼にだけ『じゃあね、要』と可愛らしい笑顔を見せ田沼と別れる。
「……………」
「……………」
上級生達がそれぞれ別れるとそこには下級生の小春と音羽しか残らなかった。
小春は兄の背を見送りながらも背後から感じる刺すような視線につい顔を青ざめてしまう。
「で」
「え?」
「それで、今度はどんな厄介ごとに巻き込まれてるわけ?」
このピンチをどう切り抜けようかと小春は考え抜いたが、どう考えてもラスボスに勝てる手段が見つからない。
このままバッドエンドかぁ…と他人事のように思っていると意外や意外…音羽から話しかけてきた。
しかし小春は声をかけたその音羽の言葉に思わず目を丸くして振り返った。
驚いているその顔には『何で』と書かれているのを見て音羽は呆れたように大きな溜め息をついた。
「あんたさぁ…ほんと、馬鹿。あんたらほんと、隠す気あるわけ?あんたらのあの態度じゃ初対面の人間だって気づくわよ」
「は、はあ…すみません…」
「それに…」
「…?」
確かに自分達は嘘が苦手で分かりやすいとは自覚しているためやっぱり音羽に言い返す言葉がなかった。
しかしそれだけではないようで、音羽は小春の後ろをくいっと顎で指す。
顎で指された小春は首を傾げながら後ろへ振り返ればそこには―――空き地で枯れ木に顔を覗かせていた着物の少女と黒猫がいた。
小春はその少女と黒猫を見て驚いたような表情を浮かべる。
「あの子…」
「なに、知ってるの?」
「うん…多軌さんと会ったときに……あの子ついてきちゃったんだ…」
少女はこちらを見ておらずどこかの教室を覗いていた。
少女の姿を見て小春はまず学校まで着いて来た事に気まずげにする。
しかし、次に不審な点を見つけた。
「え、でも誰もあの子の事注意しないって…いう、ことは…」
「あの子供と猫、妖怪よ」
「――!」
不審な点、とはどう見たって外部者である少女と黒猫を誰も気にも留めていないところだった。
小柄だから気づいていないという答えは無理がある。
制服の男女の中に少女だけが着物を来ているのだ。
それに隠れているつもりではない少女は堂々と教室を覗き見している。
それを不審に思った小春に音羽が答え、小春は息を呑み思わず音羽を見た。
音羽は表情一つ崩すことなく少女を見つめていた。
「さっきからあんたの兄について回ってるからまた変なのに取り憑かれてると思ったんだけど……何、違うの?」
「うーん…ちょっと違うような…違わないような…」
「はあ?何それ意味が分からないんだけど」
音羽の言葉に小春は驚く。
それは少女がいたからではなく、その少女が兄に取り憑いているという言葉からだった。
小春は傍にいたのに少女がついて回っている事も、兄に憑いている事も分からなかったのだ。
だから音羽の言葉に驚いた。
しかし何かありましたよ的な態度らしい自分達の問題は少女と関わりはないと小春は思っており、しかし絶対とも言えず首を傾げてしまう。
そんな曖昧な小春の態度に音羽は怪訝な目を向ける。
そうこうしているうちに休み時間はあっという間に終わった。
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