(10 / 26) 15話 (10)

次の日、4人は学校が終わり再び捜索に取り掛かろうとしていた。


「急がないと…あとひと月しかないわ」

「大丈夫、必ず見つかるさ」


妖との勝負まで、あとひと月を切り、多軌は不安を積もらせる。
意識している間夏目以外の人間の名前は読んでいないが、無意識なところで呼んでいるかもしれない。
13人の人間が自分のせいで食われるかもしれないというプレッシャーと不安と罪悪感が多軌を襲っていた。
顔色もそんなによくない多軌の呟きに夏目は慰め、夏目の言葉に落ち込んだまま多軌は頷く。
そんな2人を音羽は冷めた目で見つめていた。
昨日は近場で聞き込みをしていが、今日は更に範囲を広げる。


「夏目…ッ!!」


途中までの行き先が同じ小春と夏目は多軌と音羽と別れ途中まで一緒に向かう事にした。
まだ凍えるような寒さが残るこの日は更に冷え込み、小春は兄のおかげでマフラー、手袋、帽子と防寒が完璧である。
そのうえ、天然カイロである斑も抱いているのだから完璧でなかったら何だと言うのだろうか。
途中まで歩いていると、ふと前方から声を掛けられ2人は立ち止まる。


「西村、北本…?」


前方から現れたのは夏目の友人である西村と北本だった。
声をかけたのは西村で、西村は何故か顔を青くして切羽詰まったようにこちらに走っており、北本はそんな西村の後ろを笑いながらゆっくりと追う。
2人の反応の違いに夏目と小春はお互い顔を見合わせた。


「見たぞ、夏目〜」

「は?」

「いつの間に彼女と親密になったんだぁーっ!」

「「親密?」」

「〜〜っっ惚けるなよ!俺の彼女だぞ!!」

「…え?お前のかよ!」


西村と北本はどうやら多軌と小春と音羽と夏目と集まっているところを見たのか、多軌に恋している西村はフィルターも掛かっているのもあり失恋決定の瞬間に涙した。
北本は青春にニヤニヤとからかうが、西村の彼女発言には思わず突っ込んでしまう。


「なんだ、多軌の事か…彼女は別にそんなんじゃ…」

「なにィイ!?もう呼び捨てにする仲なのか!?俺なんて名前もまだ知らなかったのにッ!!」

「負けたな。」


夏目はこれまで親戚中を転々としたせいでまともに恋したことがないからか、西村が言う彼女という人物が誰なのか気づくのが一歩遅かった。
小春もまた然りに夏目に言われて気づく。
名前すら知らなかった西村に対し、夏目は知り合ったうえに呼び捨てにするほどの仲…北本が出した結論はあまりにも早かった。


「いいんだ…いいんだ…どうせ俺なんて…!!」


そう言って西村は泣きながら夏目と小春の前から姿を消し、北本は夏目に『応援してるぞ!』と言い残し西村の後を追う。
正直後を追うのは誤解を解いてからにしてほしいと思う夏目だったが、声を掛けようにもすでに姿が小さくなっていくため伸ばしかけた手を降ろす。


「…まいったなぁ」

「西村さん、お兄ちゃんと多軌さんが付き合ってるって勘違いしてるのかな…」

「十中八九そうだろうな。こんなシスコンもやしを貰ってくれる輩がいるなら見てみたいわ」


小春は走り去っていく2人を見送りながら首を傾げる。
まだ恋愛は理解しきれないようで不思議そうにしていた。
そんな小春の呟きに斑が頷きポツリと呟くも…その呟きを聞いてしまった夏目に例のごとくクレーンゲームのように頭を捕まれ宙釣りの刑に処すされた。


「小春、一人にさせちゃうけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。お兄ちゃんも気を付けてね」


斑を宙釣りの刑を実行しながら夏目は分かれ道で立ち止まる。
『いだだだっ!おい夏目!もやし!シスコン!!おい!痛いって言ってるだろうが!!』という叫びを無視しながらの夏目の笑みに小春はちょっぴり引きつり笑いを浮かべるも彼らのやり取りも慣れたこともあってか頭を鷲掴みする兄から斑を受け取り、兄と別れた。


「全く!あいつの気の短さにはほとほと呆れるわ!!」

「でもニャンコ先生も悪いんだよ?いっつも一言多いんだから…」

「本当の事を言っただけの事だろうが!ったく!あいついい加減天罰食らえばいいものを!動物虐待は立派な犯罪だぞ!!」


小春が向かったのは池。
まだ寒く水気もあってその場所は更に冷え込んでいるような気がする。
完全防寒だがやはり寒さには勝てず…小春はフルリと体を震わせた。
相変わらず斑はプリプリ怒り夏目の愚痴をこぼすも小春はどっちもどっちだよと返すしかなかった。


「まあ!あとひと月であやつもいなくなり友人帳と小春は私の物になるのだから懐の大きな私は仕方なく許してやるとするか!!」

「……それ、お兄ちゃんの前で言わない方がいいよ、ニャンコ先生…」


プンスカと怒っていた斑だったが、妖怪との勝負もあとひと月となり、勝負に負ければ自動的に小春と友人帳が手に入ると機嫌を直していく。
自作の歌を歌うほど機嫌がよくなった斑に思わず笑みを零しそうだが、確実に兄の夏目の耳に入れば宙釣りの刑では済まされない事を呟く斑に小さな忠告を告げる。
まあ忠告をしていても斑の口は滑る時は滑るのだが。


「先生ー、そんなにはしゃぐと滑って落ちちゃうよー」

「そんなあんなもやしじゃあるまいし…ってうおあっ!!」


向かい側へと繋ぐ池石をぴょんぴょん渡りながら機嫌のいい斑に小春は心配そうに声をかけた。
猫の身体能力のよさは知っているが、やはり心配は心配である。
その心配が当たったのか斑はつるりと滑り池に落ちてしまい、小春は言った傍から斑が落ち驚いた後吹き出すように笑い声を上げた。


「もう!だから言ったのに〜!」


心配しているような呆れているような言葉だが、笑っているため台無しである。
小春は笑いすぎて出た涙を拭いながら斑を助けに行こうと池へ歩み寄ったその時―――


「――――っ!」


ゾッとするような寒さが小春を襲う。
それは寒さではない冷たさで、悪感とも似ていた。
小春は振り返ろうとしたその瞬間…

首筋に衝撃が走り、意識を失い―――


「む…小春?」


斑が池から出ればそこには誰もいなかった。



― ふふふっ ―

少女の笑い声が風によってかき消されてしまう。


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