それから音羽に友達ができたとテンションが高い祖父のお誘いで、夏目と多軌は夕食をごちそうになった。
塔子には余裕のない夏目の代わりに夏目の声に扮した青之丞が夕食はいらないのと小春が友人のところに泊まるという事を伝え、多軌は自分で家に連絡した。
やはりテンションの高い祖父に掛かっても夏目の表情を崩すことはできなかった。
多軌はフレンドリーすぎる祖父にたじたじだったが、すでに亡くなっていた自分の祖父を重ねていたのもあってか一番仲良く喋っていた。
「じゃあ…小春のこと頼む」
「ええ」
夜。
ギリギリまで夏目はいたが、流石に泊まれるはずもなく、小春を心配していたが渋々帰ることにした。
夜も遅いため青之丞に多軌を送らせる事にした。
無表情の癖に顔にはデカデカと小春が心配と書かれており、それが分かる音羽は内心溜息をつく。
「もやし以下」
『じゃあ』と名残惜しそうに音羽に背を向け玄関の格子扉を開けた夏目の背に音羽が声を掛ける。
既にもやしからもやし以下へと降格してしまっているが、今の夏目に突っ込む余裕はない。
とりあえず名前らしいものを呼ばれたため夏目は閉めようとしたのを止め、音羽に振り返る。
「あんた、暫く妹に会うのやめなさい」
玄関まで見送っていた音羽の言葉に夏目は一時思考が止まった。
全く頭が音羽の言葉を理解しなかったのだ。
音羽の言葉に先に外に出ていた多軌も驚いたように音羽を振り返り、夏目の足元にいた斑はただ音羽を見上げるだけ。
「…それは…どういう…」
「そのままの意味。」
暫くしてようやく音羽の言葉を理解した夏目は戸惑いが隠せず言葉を詰まらせる。
そんな夏目など興味もなさそうに音羽は短い言葉で切って捨てた。
「そのままの意味って…!だからどうして…っ」
「夏目、帰るぞ」
「先生!!」
「帰るぞ、夏目…このまま長引けば塔子と滋が心配する」
「―――、ッ」
妹を大切にし、今まで第一に考えてきた夏目に音羽は冷たく言い放つ。
今の小春を放っておくことはできないと夏目は食ってかかろうとしたが、それを何故か斑が止めた。
止められた夏目は斑に反論しようとするが、その言葉を斑に遮られ夏目は開きかけた口を閉じる。
それは塔子や滋の名が出たからではない。
確かに今の夏目でも塔子と滋の存在は大きい。
しかし唯一の肉親である小春と比べると引き止める素材としては少し足りないところがあった。
夏目は斑の目に口をとざした。
斑の強い眼差しに夏目は思わず何も言えず、斑の言う通り帰ることにしたのだ。
しかしまだ夏目の中では音羽の言葉は納得できず、明日、また来る気ではいた。
「世話になったな、小娘」
「別に。」
大人しくなった夏目の代わりに斑が音羽に声をかける。
冷たい言い方をする音羽に斑は目を細めるだけの反応を見せた。
「…小春を頼むぞ…」
「誰に物を言ってるのよ…はっ倒すわよ」
玄関を閉める前に斑はそう音羽に頼んだ。
何だかんだ言ってもやはり斑も小春の事が心配でならなかったらしい。
斑の頼みに音羽は目を細めいつもの口調で返し、斑は音羽の言葉にクツクツとした笑った。
斑の笑いに音羽は片眉を上げるだけの反応を示す。
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