(4 / 10) 3話 (4)

まあ話しもすぐ終わるだろう、と思っていた夏目は諦めたが、その考えが甘いと知るのはすぐの事である。


「あ、こういう服君に似合うんじゃないか?」

「そういうの好きじゃありません。」

「あ、小春ちゃんにはこれはどうだい?美少女の小春ちゃんならなんでも似合うんだろうけどね。どうだい?俺と同じ事務所に入ってみ…」

「小春ー、あっちにヌイグルミがあるぞー」

「…3万2千…夏目、君って結構えげつないね…」


名取は中々用件を言わず目に付いた洋服を指差し夏目に似合うと薦めだし、次に小春にフリルが着いている桃色のワンピースを薦め尚且つ芸能界へ勧誘しだす。
そんな名取に夏目は最後まで言わせず言葉を被らせ目に付いた高いテディ・ベアを小春に抱かせる。
小春の顔が見ないほど大きいテディ・ベアと小春のツーショットはとても可愛く癒される。
癒されるが…値段は全くもって癒されない。
遠慮のない夏目に名取はついつい乾いた笑みを浮かべてしまった。


「お腹すいてない?」

「いえ。」

「あそこに打ち上げの時に行ったお店があるんだけどさ、美味しかったんだよ。」

「別にすいてません。」

「あそこ結構量多いけど…まあ男の子だったらペロッと食べちゃうか。俺の時もそうだったもんなあ。」

「いや、だから…」

「お、ここじゃ小春ちゃんの車椅子が入れないか…入り口が入れても店の中結構狭いからなぁ…俺が抱っこして連れて行こう!」

「はあああ!?!ちょ、ま…勝手に小春を抱き上げるな!!!小春を巻き込むな!!変な噂になったらどうしてくれる!!!」

「はっはっは!その時は責任取ってあげるよ!」

「いらん!やめろおお!!」


週刊誌に書かれたらどうする!!と叫ぶ夏目を無視し、名取は店の外に車椅子を置き小春にどこに行くかを伝え小春を抱き上げ店に入っていく。
妹を人質にされてしまえば従うしかなく、夏目は肩で息をしながら渋々店に入っていく。
そこは焼肉店で店に入ると肉の焼けるいい匂いが漂っていた。
名取を探すと名取は勝手に小春を椅子に座らせ勝手に注文し、勝手に肉を焼いていた。
それに夏目は本日何回目かの溜息をつき渋々席につく。


「たんとお食べ。食べないからそんなひょろいんだぞ?」

「食べてますよ。大体ねぇ何であなたにそこまで言われなきゃならないんですか。」

「小春ちゃんもあーん」

「ちょっと止めてくださいよ!本気で止めてください!!!もし噂になったらその首絞めますよ!?」

「はっはっは!『小春ちゃん、君のお兄さんは怖いなぁ』」

「や・め・ろ・って言ってるでしょーが!!デタラメなこと小春に吹き込むなーー!!」


美少女だとは夏目も贔屓目を入れなくても十分分かっているから大袈裟にするが、これの何処が贔屓目じゃないんだ、と同級生である西村と北本がいたらそう心の中で突っ込み、その場に斑がいたら夏目の言葉に頷いていただろう。
君のお兄さんは怖いと小春の手の平に書く名取に夏目は慌てだし店内というのを忘れて声を上げた。
しかしそれでも名取は止めず夏目をからかっているのか、夏目とは違い素直でいい子な小春を純粋に可愛がっているのか…それは名取以外分からないことだがとりあえず小春にちょっかいは出しているのは確かである。


「――っは!だから用件は何なんですか!!」


焼肉も食べお腹一杯になり3人はその辺りを散歩していた。
暫くして他愛の会話を交わし3人のお腹が落ち着いてきた頃、ようやく夏目が名取の用件の事を思い出し、夏目が思い出し声を上げて名取も今まで忘れていたのか『あ、そうだった。』と呟いた。
名取も忘れていたようで夏目の苛立ち度は上がっていくがマイペースな名取のペースに巻き込まれ、近くにあった古風だがボロくはない綺麗な店に入る。


「すまなかったね、久々に楽しいひと時だったからすっかり忘れていたよ。」

「…いえ…」


ハハ、と笑いながら名取は注文したコーヒーを口にする。
夏目も遠慮なく注文した飲み物を口に含み、チラリと小春へ目を向けた。
小春は車椅子なためソファに座っている夏目と名取の横に車椅子を止めさせてもらい、夏目が頼んだ飲み物を美味しそうに飲んでいた。
その妹の美味しそうに飲む表情に苛立ちも治まっていき、ふと目を細めて笑う。
妹を微笑ましそうに見つめる夏目に名取は目を細め、本題に入る。


「君達、本当に人だったんだね…」

「君"達"?」

「ああ、昨日会ったとき2人共気配が不思議だから実は妖かしなんじゃないかと思ったんだ…申し訳ないが昨日君に飛ばした式神を小春ちゃんにも飛ばさせてもらった。」

「な…!なんでそんなことを…!!小春は…!」

「まあ、落ち着いて。そのことに関してすまないと思っている。」


昨日、斑のダイエット散歩の時に会った時、名取は夏目と、夏目に連れられる小春を見て気配が普通の人間ではないことに気付く。
小春は接触してないので曖昧だったが思い返せば思い返すほどその気配は不思議な気配だった。
だから紙で出来た式神を夏目だけではなく小春にも飛ばした。
その事に妹を1番に思っている夏目は責めるように名取に声を上げるが名取は夏目に謝り落ち着かせる。
落ち着いた夏目は座りなおし、座りなおした夏目に名取は『だけど…』と呟く。


「だけど、小春ちゃんに送った式神は戻ってこなかった。」

「え…」

「それどころか気配が消えたんだ…テレビの画面を消すようにプツリとね。」

「………」

「こう言っては失礼だが彼女は本当に人間かい?」

「どういう…?」

彼女からは妖かしの気配しかしない。

「な…!?」


名取の言葉に言っている意味が分からなくて首をかしげていた夏目だったが次の言葉に目を見張り言葉を失う。
唖然とする夏目をよそに名取は尚も続けた。


「人間の気配は確かにする…不思議な気配なのは変らないが君と一緒の気配だ……だが、主に感じる気配は人間ではない妖かしの気配。」

「………」

「彼女は人間かい?」

「……人間です…小春は俺やあなたと一緒の…人間です…」

「…………」


名取の言葉に夏目は口を閉じたまま聞いていた。
再度人間かと聞かれ夏目は小春へ目配せした後、真っ直ぐな瞳で名取を見つめる。
名取は夏目の言葉に静かに目を細め『そうか…』と小さく呟きそれ以上小春の事には触れなかった。
そして再び中断していた本題へと入る。


「私、実はお祓い家業もやっていてね…丁度助手が欲しかったんだ……君にとってもいい勉強になると思うんだが…どうだい?」

「嫌です。」

「我が儘だなぁ…あ、金かい?金がほしいのかい?」

帰ります。

「あはは、冗談冗談!気が短いねぇ。小春ちゃんを見習ったらどうだい?」

「…………」


名取とのやり取りに夏目はイラッとさせ席を立つが宥められ渋々に、ほんっとうに渋々に座る。
妹を見習ったらどうだい?と言われ苛立ち度がいくつか上がったがすでに夏目はこの人はこういう人なのだとパロメーターを上げならも諦めていた。


(あれ…?あの入れ墨あんな形だったっけ…?)


捻くれたように顔を逸らそうとした夏目だったがふと名取の首筋にあるヤモリの入れ墨の頭が下に向いていたことに不思議に思い首をかしげる。
すると入れ墨は本当のヤモリのように動き出し頭が下に向いていたのが今では上へ向いており、それに夏目が目を丸くさせている間にも入れ墨は名取の顔へ上がっていく。
普通の入れ墨だと思っていた夏目は突然動き出す入れ墨に背筋を凍らせる。


「いっ…入れ墨が動いた…?」

「え?…ああ、すごいな…君にはこれが見えるのか…」


夏目はつい入れ墨が動いたと口にしてしまい、その呟きに名取は夏目が入れ墨に気付いたことに感心の声をあげる。
名取の口ぶりから普通の人から見えない入れ墨らしく、名取は左頬に上っているヤモリの入れ墨を指差した。


「体中を動き回るんだよ、この痣…」

「痣…?」

「ああ、幼い頃くるぶし辺りにヤモリの形の痣が出てきてね…次の日消えたと思ったら左腕に移動していたんだ…」

「………」

「気持ち悪くてね…どうも妖かしのようだし対処法をしろうと妖怪について色々調べるようになったらんだ…」


『まあ、独学だけどね』と笑う名取に夏目は体に影響がないかと聞くと名取は首を振って『ない』と答えた。
何でもないように笑う彼だが、その笑みはどこか諦めに似ていた。


「体に異常がないからかえって不気味でね、実は寿命を喰われてました、とかだったら困るんだよなぁ…」

「(!、この人はずっとそんな不安と1人で戦って…!)――笑いごとですか!!」

主様

「!」

「なんです?その生意気な餓鬼は。」


何故不気味に感じていながらも笑っていられるのか、と夏目が反論しようとしたその時、名取の少し後ろの天井から女性の声が響き、夏目は天井を見て目を見張った。
そこには黒い髪の女性がまるで天井から顔を覗かせているようで、逆さまになっておりそれに従って黒く長い髪が垂れ下がっていた。
その女性は名取の式神の1人で、瓜姫は夏目を見下すような目で見つめ、その垂れ下がっている髪を唖然としている夏目に向けて伸ばし夏目は伸びた髪に絡み取られてしまう。


「あ、あの…お客様?どうかなさいました?」

「貧血かな?すまないが水を頼むよ」

「は、はい…!」


ギリギリと首と両手首に髪を巻きつかれ苦しむ夏目に、髪と瓜姫が見えない店員は机に倒れ始め苦しみだす夏目に慌てて駆け寄ったが名取が慌て出す事もなく対応したためすぐに傍を離れた。
名取は苦しむ夏目をよそに持っていた眼鏡をかける。


「こらこら勝手をするな、私の大切な友人だ。失礼は許さないぞ?」

「しかし…」


冷静に焦ることなく式神に命ずる名取に式神は主に突っかかる夏目が気に入らない様子で渋る。
渋る式神にもう一度宥めようとしたその時、夏目を締め付けていた髪がゆっくりと消滅していく。


「―――!」

「な…!?」


まるで干上がる水のようにジリジリと消えていく瓜姫の髪に名取は目を丸くさせ、瓜姫は伸ばしていた髪がプツリと切れ元の長さになっていくのを唖然と見つめていた。


「小春…ちゃん…?」

「…………」


名取も唖然としていたがふと夏目の背中に目線を送ると細く白い華奢な手が伸ばされそれを辿っていくと車椅子に座っている全盲ろう者であるはずの小春だった。
目も見えず耳も聞こえない小春がどうして、と目を丸くしていると小春は静かに名取ではなくまるで見えているように自然に瓜姫へ顔を送り、更に名取は目を丸くさせる。


― だめ ―


小春は声にならない言葉を呟く。


― お兄ちゃんに意地悪しないで ―


口をパクパクさせても声が出ない小春に名取は分からず首を傾げるが、瓜姫は理解出来ているようで怯えた様子を見せながらも気丈に振る舞いフルフルと顔を震わせ怒ったような表情を見せた。


「う、うるさい!!黙れ!!!」

「!――止めろ!瓜姫!!」


「黙るのはお前だ。」


「!!」


瓜姫の髪が夏目ではなく小春に向けられた事に名取は慌て出すが瓜姫は怒りで名取の声が届いていないのか小春に髪を伸ばす。
小春が怯える様子を見せずただ瓜姫を見上げていたその時、第三者の声が全員の耳に届いた。
その声に瓜姫の髪は小春に触れる直前に止まり、小春以外の全員がその声がした机の方へ目を移す。


「やれやれ、中々散歩から帰ってこぬと思ったら…全く、本当にお前は妖かし関係に首を突っ込むのが好きだな、夏目。」

「せん、せ…?」


苦しさに机に項垂れていた夏目もやっと顔を上げれるようになり、目の前にいる斑に目を見張った。
声の主は斑で、斑はその愛らしいと思う人が見れば愛らしい不気味な笑みを浮かべ名取を見上げる。


「私の獲物に気安く声をかけるな、ガキが」

「―――!!」


そう斑が呟いた瞬間一瞬光り、小春に向けられた髪が散り瓜姫は小さく悲鳴を上げて姿を消した。


「そ、その珍妙な生き物は…?」

「あっ!お客様!猫ちゃんの連れ込みは困ります!!」

「―――はっ!す、すみません!!」


突然の光りに3人は目を瞑ったが、光りが収まった後でもまだ目に残る光の残像に眩しそうに目を細めながら名取は唖然と斑を見下ろす。
光りも瓜姫も見えない普通の人は猫が机で丸まっているのに慌てた様子で駆け寄り、その店員の声に我に返った夏目は慌てて斑を小春の膝の上に乗せ車椅子を押してそそくさと去っていく。



「明日…明日!また七辻公園で待ってる!!気が向いたらおいで!!」



夏目は慌てて店を出る途中、名取にそう声をかけられたが立ち止まる事はなかった。

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