次の日、夏目は昨日会った名取に会いに家を出ようとしていた。
マフラーも巻き完全防具で家を出ようとしたのだが、玄関前にて夏目は言葉を失う。
「……なに、やってんだ?」
「私達も連れて行け!夏目!」
「…………」
夏目を待ち構えたように玄関前にはレイコに化けた斑と車椅子に乗って夏目同様準備満タンの小春がニコニコと笑って立っていた。
『焼肉!焼肉!!』とまるで獲物に飢えた野獣のように目をキラキラして涎をたらす斑に夏目は呆れたように溜息を出す。
「…言っておくが話すだけで焼肉は行かんぞ?」
「なんと…!!」
焼肉が食べられないとは…!、と斑は嘆くように頭を抱える。
焼肉を食べるだけに人に化ける斑に夏目は突っ込みも出来ず斑から小春を奪い外に出る。
斑がしてくれたのだろう完全防具すぎる妹の姿に夏目は斑も小春に甘い事に苦笑いを浮かべた。
「まったく、私に肉を奢らん人間など逆に喰ってやろうか…」
「それやったら俺が死んでも友人帳はやらんぞ」
「……ちっ」
まだ肉が食べたいと文句を言う斑に夏目は即答で返す。
その言葉に斑は黙るしかなく、舌打ちをした後小春の膝の上に飛び乗り歩くのを拒否する。
不貞寝する斑に夏目は『全く…』と溜息をついたその時、ジャリジャリと足音がし夏目は前を向く。
そこにはこの前会った妖かしが居た。
「やあ」
「………」
つい挨拶を口にしてしまった夏目は口を閉ざしてももう遅く、妖かしは何も言うでもなく振り返り睨んだだけだった。
夏目は挨拶してしまったことに一瞬焦ったが、以前は見向きもしなかったのに今日は振り返った事に少しだけ嬉しそうに笑った。
「…………」
「…………」
「…………」
夏目は約束の七辻公園についた。
ついた…のはいいのだが目線の先の人物に言葉さえ出ず、2人は無言の上に関わりたくないと言っているように目を細める。
「…なんだ、あれは……新手の妖気のようなものを放っているぞ?」
「…会うと途端に面倒くさくなるな、あの人……」
「あ!夏目!小春ちゃん!!こっちこっち!」
「…………」
「…………」
公園でも当たり前だが人はいる。
若い奥様やら偶然通り過ぎてその人物…名取に気付いた女性やらが頬を染めヒソヒソと何かを話していた。
何を話しているかは誰でもわかることなので何も言わないが、名取が夏目達に気付き夏目達に向かって手を振って大声で夏目と小春の名前を言うものだからレギュラー達は黄色い声からざわめきへと変る。
それがまた夏目が名取を避けたい要因の1つでもあった。
名取は夏目に近づくと小春の膝の上にいる斑を見て噴出すように笑う。
「ぷっあははは!何度見ても面白いね!これ何だい?」
「え、えーと…うちの猫です…」
「猫?―――へぇ…猫ねぇ…ぷっぷぷ!駄目だ!笑える…!」
「………」
人の猫に対して笑うとは失礼とは思うが、笑うなと言うのは無茶振りで、よほど斑の仮の姿は名取のツボらしく名取は笑いすぎて涙を浮かべていた。
それを斑は無言でピキピキと青筋を立て静かに怒っている。
夏目は一度猫と言い、名取はそれに少し含ませた言い方だが納得したようだった。
そんな名取に夏目は目を伏せる。
「―――いえ…嘘です……ニャンコ先生は本当の猫じゃなくて…」
「ありがとう…――そっか…可愛い子分さんだね。」
「子分じゃなくて師匠だ青二才!!」
「ぶ…ッ!」
目を伏せながら言い難そうだが本当の事を話してくれた夏目に名取は優しげに目を細め、笑みを浮かべながら小春の膝の上にいる斑の頭を撫でる。
しかし斑は名取が何となく気に入らないのか、先ほど大笑いされた仕返しなのか、声を上げながら名取の商売道具である顔面に体当たりした。
「おのれ!主様に何をする!ブタ猫め!!!」
「何だと!?このチリチリパーマ!!」
「あ、こら。」
「わっ!!先生!!」
主である名取に危害を加えた斑に隠れていた瓜姫ではないもう一体の式神が出てきて斑に売られた喧嘩を買った。
シャー、と歯と爪を出し本物の猫のように威嚇する斑だったが、毛を逆立てている斑の頭を小さく細い指が優しく撫でる。
「む…」
「…………」
ゆっくり、優しく…斑を落ち着かせるよう小春は斑を撫で、その撫でてくれる手に斑は次第に落ち着きを取り戻し、気持ち良さそうに目を細める。
その姿に式神は戸惑いを見せ、名取は感心したように声をもらし、夏目はいつもの事なので安堵の息をついた。
「へぇ…小春ちゃんって妖かしを宥めることできるんだ…」
「え…そうですか?」
「だって直接ではないにしろ笹後も戦意を喪失しているからね。」
「…………」
夏目は名取の言葉に小春を見つめる。
きっと見えない人間には猫を撫でる美少女にしか見えないだろう。
しかし夏目と名取の目の前には妖かし2人の争いを一瞬にして、しかも手一つで止めた小春が映っていた。
優しく斑を撫でる小春に夏目はふと斑が言っていた事を思い出した。
― 小春は本当に友樹に似ている…だから小春も体が弱く…短命なのだろうな… ―
その言葉が夏目の脳裏に一瞬だけ浮かび、夏目は眩しそうに目を細めて小さく笑う。
「小春は"あいつら"に好かれますから…」
夏目の言葉に名取は"あいつら"という言葉が頭に引っかかり怪訝そうに夏目を見下ろす。
しかし夏目の表情を見て開けかけた口を閉ざし、自分も夏目同様小春を見つめる。
夏目は微笑ましそうに…しかし悲しげに笑っていた。
その目は少し濡れていたように名取は何も言わずにいてくれた。
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